冬迷宮

関谷俊博

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 そして僕は神獣に出会った。僕はいつものように街を散策していた。小川のそばに水車小屋があって、コトリコトリと音を立てていた。その水車小屋の裏手にまわったとき、それはいた。
 その蒼い眼をした獣は、他の獣たちと違い、輝くばかりの白い毛並をしていた。二本の角は高くそびえ立ち、体格も他の獣たちの倍はあった。
 蒼い眼をした獣は、理知的な眼差しで、僕を見つめた。思慮深げな蒼い瞳。完璧だ、と僕は思った。まさに神獣と呼ぶに相応しかった。どれだけの時間、僕と神獣は向かい合っていたことだろう。神獣は踵を返すと、ゆっくり僕から遠ざかっていった。

 その日、もう一つ不思議な出来事があった。神獣と遭遇した後、丸太小屋に戻る為、小川の土手沿いの小径を歩いていたときのことだ。秋の終りの空には、うろこ雲がきらきらと輝いていた。僕はぼんやりとそれを眺めていた。
 そのとき、空がひび割れたように、幾条もの雷光が放射状に走った。雷と違うのは何の音もしなかったことだ。次の瞬間、ひび割れた空から光の粒子が、噴出し始めた。光跡は枝垂れ柳のように拡散して、地面にも降り注いだ。
 そして、光の中心からとびだしてきたのは、瑠璃色の冬鳥だった。冬鳥は僕の周囲を飛びまわり、一瞬、僕の肩にとまり、また高みへと飛翔していった。カラーン、カラーンと、時計塔が鐘を鳴らし始めた。その哀し気な音色は街全体に響き渡った。
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