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狂気
しおりを挟む――近くで、サイレンの音が鳴っている。
最近、おかしな事件が起きている。いや、事件……といって良いのか分からないような怪事件だ。
『――何故、若者たちは……ツインを食べて亡くなっているのでしょう?』
『もしかすると……。夢の中の恋人と、一時も離れなくないという理由で自ら――』
『そんな、まさか! それで命を落としているのですよ!? あんな、口より大きな物体を丸飲みするなんて、自分じゃ出来ませんよ!』
『そうですね。まだ、詳しくは分かっていないとのことですが……。誰かに押し込まれた形跡がある、と言いますし……』
――連日、このようなニュースしかしていない。
「……お姉ちゃん」
「ん? 茜、どうしたの?」
茜は真っ青な顔をして、私をじっと見ている。
「お姉ちゃんのツイン……。今、どんな感じ?」
「え……? あぁ~。実は、あれから見てない」
すっかり忘れていた。
もう一週間は経っているが。最初の日から、ゆるタヌキは一度も夢に現れていない。
「そ、そうなんだ……」
「……なにかあった? ゆっくりで大丈夫だから、言ってみ?」
茜は、顔を歪め――ポロポロと涙を溢してしまった。
「おかしいの……。私のツインが、変になってて……。お、俺を食べてって言うの……! それで、最近。目を覚ました時に、ツインを口に咥えてて。起きてる時も、食べなきゃいけないって思い始めて……。まるで今、ニュースになってる事件みたいに……私も……私も……ぅうう……っ!」
茜は、顔を覆い。ヒック、ヒックとしゃくり上げる。
「……茜、ツイン貸して」
「え、ぁ……。こ、これ……」
しかし、私に差し出そうとした途端。渡せない……というように手を引っ込めた。
「茜?」
「あ、あ……っ! ち、違う。渡せない、の……! 分からない、分からない……」
(渡せない? なら……――実力行使しかないな)
「ぅおりゃっ!!」
「きゃぁっ!? お、お姉ちゃん……!?」
羽交い締めにし、抵抗出来ないようにして――ツインを奪い取った。
「あっ! やっ、やめてーー!! か、か、返せ! 返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!」
茜は、目を血走らせ。ギラギラとした視線で、私を見る。
「お~? こりゃ、あれだ……中毒症状ってやつみたいだな~」
バキンバキンバキンッ!! 茜のツインを、おもいっきり踏みつけ壊す。
バッギンと、凄い音が鳴ったのと。茜の身体が、雷に打たれたようにビクリと震えるのが同時に起こり――茜は、ふにゃりと力が抜けた。
「茜、どう?」
「あ、あれ……すっきりした。ずっと頭の中にあった……食べなきゃいけないって気持ちが、なくなってる」
(ふむ、やっぱり……。元凶は、このツインか――)
「よし。私のも、壊そう」
「お姉ちゃんの……。う~ん、どうなんだろ」
茜は、何故か煮え切らないことを言う。
「ちょい、ちょい、茜さん。君の命の恩人であるお姉ちゃんが、ツイン食べて昇天しても良いというのかね?」
「なに、そのキャラ……? いや、本当に。お姉ちゃん、ありがとう……感謝してます。……これは、そういうんじゃなくて。なんか、お姉ちゃんのツインって普通じゃないからさ。う~ん、なんて言えばいいんだろ……。鍵みたいな、重要なキーパーソンになり得るのかな? なんて思って。まぁ、漫画の見すぎかもだけど……」
(キーパーソン……? あんな、アホっぽい顔したタヌキが? ……ないだろ)
「はい、壊しまーす」
『やめて~! 僕、なにもしてないじゃん! 悟りの境地にいる僕を、これ以上いじめないでぇええ~~!!』
「え……? お、お姉ちゃん! これって、お姉ちゃんが言ってた……?」
へばりつくように泣きべそをかく、ゆるタヌキが――ツインの画面いっぱいに映っていた。
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