8 / 24
同調
しおりを挟む「あ、終わった? 話し終わるまで待ってやった俺、優しくね? んで……――エスエ、どうなんだ? 今なら、さっき聞いたことを無かったことしてやるが……?」
話された内容のものに、頭を抱えていた時……――茜の姿をした何かが、私達の近くにやってくる。
『……スイ、僕は――』
エスエが答える前に。ガシャーン!! と、けたたましい音が台所の方で聞こえた。
「あらら、もう嗅ぎ付けちまったらしいな……」
茜の姿をした――エスエからはスイと呼ばれた者は、やれやれといったように肩を竦める。
台所から、姿を現したのは――。
「……っ、化け物……」
ハリネズミのような鋭い針を、全身に纏った巨体な人間――以前聞いた通りならば、これがツイーグルというものか。
そのツイーグルは、血のように赤い目がギラギラと光り、こちらを睨み付けている。
「おい、おい、おい……。スイ、何してる? 変異体は、それを促した人間ごと殺処分しろと言っただろ。なに、もたもたしてる?」
「あ~、ほら。エスエも、俺達の仲間だっただろ?」
「以前はな、今は俺達の脅威でしかない」
エスエは、こいつらにとって消すべき存在――脅威だという。
なら、エスエであれば……人間を救える存在になり得るとも取れる。
――ツインの侵略については、3日前に聞いて知っていたけれど……。こんな急速に、全世界がツインに支配されるなんて思っていなかった。
今、世界にどれだけ無事な人間がいるかは分からない。
けど、少なくとも――両親はツインを持っておらず、使用したことがない。ならば、ツインに寄生はされていないということだ。
茜だって、人間の医科学者が残っていれば……元に戻せる可能性だってあるかもしれない。諦めるのは、まだ早い――。
「――ねぇ、エスエ。どうしたら良いの?」
『……』
エスエは諦めたかのように、何も言わない。
――ふざけるな、と……怒りが込み上げる。
「あんた達は、人間に寄生出来て万々歳かもしれないけど。こっちは、ふざけんじゃねーって気持ちなんだよ! 返せよ、全部!! 生き残りたいなら、自分自身の力で頑張れよ! 後が続かないような生き方ばっかりしやがって……!」
この2日の間に、エスエに聞いたこと――ツインを繁殖するにも、まずは己が寄生した生物の子供を産み(または、産ませて)。その子供をある程度の体力がつくくらいまでに成長させてから、自分の中にあるツイン細胞を、他のツイン細胞と混ぜ合わせ、子供の体内にそれを埋め込む――。
すると、ツインの稚児が大量繁殖するのだ。
その子供はそれに耐えきれず、命を落とすが。続けて、二番目の子を産み落としていれば、繁殖した稚児ツインの一人は寄生させられるから問題はない。要は、一番目の子は……高確率でツインを繁殖するための存在だということだ。
それに、一度の繁殖で、何千というツインが生まれる。殆どが、寄生対象がおらずに死んでしまうが……。
もし、相性の良いツイン同士であれば。一個体、一度きりの繁殖で十分であった。
相性の良いツイン同士だと、個体値が強くなるため。繁殖後、長い間そのままの状態でも存在出来るのだ。
むしろ、それにより。寄生している生物の身体を使い生涯かけて子をなしても、全員の稚児ツインを寄生することは不可能だった。
だから、何人かの子を産んでからは基本的に放置するため。結局、誕生したツインの大半は、寄生する対象がいなくて死んでしまうようだ。
それは――稚児のツインは、ちゃんと成長するまで。寄生する生物は、自分の細胞と似たものからでないと、拒否反応を抑え込めない。
つまりは、己の細胞と近い……親ツインが【寄生している生物から、誕生させた子供】であれば、その拒否反応があってないようなものである為、問題なく寄生が出来るということだ。
これからも分かるように。だからこそ、稚児ツインを繁殖させるのも、拒否反応を起こさない……――親ツインが産んだ、生物学上の子供でないと。ツインの繁殖自体が出来ないのだ。
――それで、ツイン達は地球に来てから、様々なことを踏まえ。相性の良いツイン同士でないと、繁殖してはいけないルールを作ったようだ。
(ツイン同士だけでなく、寄生した生物同士としての良い相性もあるようだが……。そこまで制限してしまうと、ツインの繁殖は無理難題なものになってしまうからと、ツイン同士の相性に留めているらしい――)
相性の良いツイン同士だと、個体値が高いのに加え、非常に優秀なツインが生まれ。
逆に、相性が微妙だと。個体として弱いせいで、すぐに寄生させないと全てのツインが消滅してしまったり。何とか寄生出来ても、知能が低いツインになり、問題を起こすことが多々あるという。
そのように、以前の星で色々と失敗したことから――次の移住先である、地球上では上手くやろうということだろう。
それを知り。私は――『あまりに、虚しい生き物だな』といった気持ちしか感じなかった。
結局、寄生する生物がいないなら、自分達は死ぬしかない。しかも、ツインを繁殖するためには……己の生物学上の子供を殺し。ツインの子供達も大半が亡くなってしまう。
何より、自分達で築いた歴史でもないのに、我が物顔で己のものだという考えが浅はかで――虚しい存在だ……としか言えない。
『……そうだよね。ツインは、滅びた方がいい』
エスエは、そう言葉を発し。エスエの映る、ツインの画面がピカッと光る――。
すぐに光が収まったが、自分の身体に違和感を感じる。身体を見下ろすように確認して、引きつった声が出てしまった。
私の脚が、鹿のような形となり。腕には、カマキリのようなギザギザとしたトゲが生えている。
(状況的に、さっきの光によって。私が、このように変身をしたということ……?)
なんで、鹿にカマキリ? と理解不能だけど。強そうだから……まぁ、良いかと思い直す。
「エスエ、やっぱり裏切るか……」
スイは、残念だといったような顔をする。
「チッ! だから、早く処分しろと言ったのによ……!」
ハリネズミの姿をしたツイーグルは、こちらを更に鋭く睨み付け。構えの体勢をとる。
『鈴鹿、とりあえず……逃げよう!』
「え? よく分からないけど。これで、戦うんじゃないの?」
カマキリのような腕を振るう。
『いま戦ったら、ソッコー殺られるから! 良かったよ。下半身は、逃げに有利な型で! 早く、早くっ!!』
ここまで鬼気迫る顔で言うエスエに、背中を押されるように走る――驚く程の、瞬足。
チラリと横目で、エスエの仲間だった2人の方を見ると。ツイーグルが、今まで私がいた所にたくさんの針を飛ばしたようで……床が凄いことになっている。
あと少しでも遅かったら、身体が針だらけになっていたということだ。
ゾクリと、寒気を感じ。私は急いで、ツイーグルが割った窓から逃げた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる