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約束
しおりを挟む「李里! どこ……!」
真っ青になりながら、森の中を走り回る。
キョロキョロと辺りを見渡すと――少し離れた木から、薄茶色のふわふわとしたものが見えた。
「李里!! 心配したじゃない! なんで隠れてるの!?」
「えへへ~! 見付かっちゃったぁ~!」
悪戯が成功した! というような可愛らしい顔をされて、怒るに怒れなくなった。
「はぁ……。もう、心臓止まるかと思ったじゃない……」
『李里、そうだよ~。あまり驚かせると、鈴鹿が死んじゃうよ?』
「えっ……! マ、ママ……死んじゃうの!? ごめんなさい! ママ、死なないでっ!」
李里は、私に抱き付き。びゃーびゃーと泣き出してしまった。ふわふわとした、まるでお人形さんのような綺麗な髪の毛を撫でる。
「エスエ……」
『えへへ~!』
「お前は、可愛くない」
『ガーン!!』
――あの日から、6年が経っていた。
凄く心配だった出産は、エスエの力を借りた。
それは……同調しながらの出産だ。
身体能力が格段に上がるため。身体への強い負荷をものともせず、安産だった。
むしろ、その後が大変で……。赤ちゃんを抱えながらの、逃亡生活。
やはり、李里の泣き声を聞きつけ。ツイーグルが、何度も襲撃してきた。
けど、一年が経つ頃。エスエとの同調率が、更に高まったのか。下半身を、鹿から馬に変化させることと。カマキリのような腕は、クワガタのように固いものに変化させることが可能となった。
それのお陰で。逃げたりするのは、今のところ問題なくなっていたのだ。
『――鈴鹿。約束、覚えてるよね?』
「……ええ」
李里が、物事が分かるくらいになったら――海へ向かうと、エスエと約束した。
李里はもう、ある程度の物事は理解出来ている。
そう、だから。ツイーグルに追いかけられ、隠れている時『静かにしてね』と言えば、ちゃんと我慢も出来るようになっているのだ。
「長い時間、後回しにしちゃってたからね」
『うん、まずは……確かめることからだけど――』
逃亡中でも、なるべくは海に近づくように道を選んでいた。
本当は、街中に行き。どこかの、お店に寄りたいが……。李里を抱えては、行けない。
それが、何故かは――ツイーグルは、人間社会を乗っ取り。人間のように生活をしている。もし、街中なんかに行ったならば、格好の餌食だろう。
私だけならまだしも、誰かを守りながらの戦闘なんて出来ないのだ――。
♢◆♢
「ああ、疲れた……」
『うん、あいつ……なかなか離れなかったね』
ハイエナのような姿をしたツイーグルが、ずっと追いかけて来ていた。
けど、海に近付くにつれて。たたらを踏むような、挙動を見せ。先程、やっと逃げるようにして引き返した。
「やっぱり、ツインは……海に耐性ないのかな? エスエ、どう?」
『……う~ん。僕には、さっぱり分からないけど……。でも、あの様子だと。何かしらの、海に行けない理由はあるよね』
「ぅう……ん。むにゃむにゃ……」
私の腕で、ふにゃりとした表情で眠る李里。頬っぺたが、ぷにっとしているのが可愛らしくて。ふふふ、と笑ってしまう。
物心がついた時から、逃亡生活をしているからか。李里は、こんな状況でも、当たり前のようにぐっすりと眠っている。
それを、いつも申し訳なく思う。こんな日常が、普通ではないのに……と。
「じゃあ、とりあえず海辺に――」
『……す、鈴鹿っ!!』
――ガンッと頭を殴られる。
急のことだから、対応が出来ずに膝を付いてしまった。頭がグラグラするが、腕の中にいる李里はしっかりと抱き止める。
「鈴鹿。やっと、来たな……」
「……ぇ、あ……?」
振り返る瞬間。頭を再度殴られ、意識がぐるりと暗転した。
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