26 / 37
第26話
しおりを挟む医務室に入った時から相当時間は経っていたようで今では廊下に使用人や兵士が結構見られる。
行きは手を繋がれて焦っていたが、今はこちらが手を引いている始末だ。
挨拶されるが今はそれどころではない。
一刻も早くこの王太子をどうにかしたいのだ。
僕の部屋に近づくにつれ、部下が部屋の前に立っていることに気づいた。
彼はダレス様に向けて敬礼してから僕に向き直って腕に抱えている書類を差し出してきた、
「サイラス様、報告書の受理をお願いします」
枚数的にも各隊の隊長から報告書を集めてから持ってきてくれたのだろう。
「ありがとう。そうだ、これから5日ほど諸事情で書類対応ができないから緊急性がある書類に関しては直接イゴール陛下に渡してもらえるか?」
「分かりました。各隊に伝えておきます。そちらの書類はどうしましょうか」
「これは受け取るよ。じゃあ伝言頼んだ。…あと追加でお願いすると僕の部屋には極力人を近づけさせないでほしいかな。何かあったらカリン先生も頼っていいから」
「はい、ではこれで失礼致します」
彼は深く頭を下げると持ち場に戻って行った。
僕は彼を見送ってからダレス様を連れて部屋の中に入る。
扉を閉めた途端にダレス様が口を開いた。
「説教は後だ」
「え?」
僕が聞き返すより早くダレス様は僕の手を引っ張りベッドへ押し倒した。
「まっ、待ってください!せめて書類は置かせてください!!」
私が目の前に書類を突き付けるとダレス様はそれを奪い取り、僕の執務机に放り投げた。
バサッという音をかき消すようにカーテンを引かれる。
「書類ならこれでいいだろ」
「雑…」
「置いてもらえただけ感謝しろ」
そう言うとダレス様は再び私に覆いかぶさってきた。
昼間のはずなのに薄暗くなった室内にベッドが軋み音がやけに大きく聞こえる。
「いいか、こうやって不意を突かれて押し倒されればいくら騎士団の団長様と言えど抵抗できないだろ」
「……何が言いたいんですか」
「お前がラズワルドの相手をしている隙に誰かもまた侵入して契約書を奪うと仮定する。…その時お前は、」
「ラズワルド様に組み敷かれてそのまま抱かれるでしょうね」
彼が言い淀んだ先の言葉を続ければダレス様は僕を抱きしめてきた。
「俺はお前が傷つく姿を見たくない」
「……」
「だから誰にも触れさせないでくれ、頼むから」
掻き抱くように抱きしめられながら言われた言葉に心が締め付けられる。
自分は大丈夫だと伝えたいのに上手く言葉が出てこない。
「何年も探し続けてやっと見つけたのに…今もずっと欲しているというのに……何であんなクソ野郎にはそんな簡単に体を許そうとするんだよ!!」
叫ぶように吐かれた言葉と共にダレス様の顔は苦しそうに歪められた。
今にも泣きそうな彼の頬に思わず手を添える。
「ダレス様がいてくださるからですよ」
「は?」
何を言っているのか分からない様子のダレス様に微笑んでから言葉を続ける。
「ダレス様が私を待っていてくださると信じているから私は強く在れるのです」
「……意味分かんねえよ」
私の言葉にダレス様は表情を歪ませたまま唸り声をあげて僕の首元に顔を埋めてきた。
髪の毛が首に当たって少しくすぐったいがそれ以上にダレス様の体温と重さが心地良い。
「私は他人の為ならすぐに自分を差し出します。だからダレス様が私を引き留めてください」
「……俺はどんな手段を使ってでも引き止めるぞ」
「私が本気で嫌がりそうなことはしないでくださいね」
「善処はする」
ダレス様が私の首筋に顔を埋めたまま話すものだから声が近くで聞こえてしまい思わず身じろぐ。
それに気づいたのか、彼は体を起こすとじっと見下ろしてきた。
「何ですか」
「…脅すためだったのに結局怯えなかったな」
「私だって生半可な気持ちであの案を提案したわけではありませんから。それなりの覚悟はしています」
そう言って笑うとダレス様は軽く額を小突いてきた。
「そんなこと言ってると本当に襲うぞ」
「どうぞ」
「……だから、」
「さっきの言葉でダレス様の本気度は理解しました。以前のように傷1つ無い体ではありませんがそれでもよろしければどうぞ」
彼はギラギラとした熱の籠った瞳で私を見下ろしている。
その視線を受け止めるように見つめ返し、彼が動くのを待った。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!
藤原ライラ
恋愛
ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。
ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。
解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。
「君は、おれに、一体何をくれる?」
呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?
強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。
※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる