男装騎士の元カレは隣国の王太子でした

宮野 智羽

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第33話

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「お待たせしました」

タオルで髪を乾かしながらダレス様の所に戻ると嫌そうに顔を歪めた彼が振り返った。
そして僕の格好を見るなりさらに不機嫌そうな顔になる。

「何ですか」
「…敬語」
「言いましたよね。シャワーで線引きすると」
「勝手にバレッサが言っただけだろ!」
「バレッサ?はて、誰の事ですかね。僕はサイラスですよ、ダレス様」

壁を明確にして言い放てば彼は悔しそうに唇を噛んだ。
とりあえずダレス様をシャワー室に押し込んで片付けに取り掛かる。
部屋に籠った臭いを出すために窓とカーテンを開けてからシーツを取り変える。

「…これどうしようかな」

そのまま出すと察しのいいメイドにバレてしまうに違いない。
軽く水に浸けてから水を零したとでも言って渡すのがいいだろう。
床に落ちている服も片付け、カリン先生から貰ったらしい瓶やら何やらは紙に包んで処分する。
とりあえず出来る限り元通りにした部屋を見回して不備がないか確認する。

「こんなものかな」

いつの間にか日は沈んでおり、開け放った窓の先にはいつもと変わらない街の景色が見えた。
何も変わっていない街の様子にほっと息を吐くと扉が開く音が聞こえた。

「……」
「良かった、その服着れたんですね。貰い物だったのですが大きくて処分に困っていたので助かりました」
「…部屋が元に戻ってる」
「掃除した方がいいかと思いまして。一応部下には入らないように指示を出しましたが緊急時は呼ばれますから」

不貞腐れた顔をしたダレス様はソファーに雑に座ると夜風を浴びている僕に向けて手招きをする。
嫌な予感がして固まっていると「早く来い」と急かされてしまったので渋々ダレス様の横に座る。

「……何でしょう」
「敬語」
「今の僕はサイラスですので勘弁してください。先ほどの行為で満足なさらなかったのですか?」
「それとこれとは話が別だ」

僕の肩に腕を回して抱き寄せてくる。
このまま彼のペースに持ち込まれては困ると慌てて机の上に置いたままだった本で仕切りを作る。

「なんだこれは」
「そろそろ止めないと今日一緒に寝ませんよ」

そう言った途端、彼は捨てられた子犬のような表情で僕の肩から手を離した。
しょんぼりしたまま見つめてくるため良心が痛まないわけではないがここで甘くすると後で厄介なことになるため心を鬼にする。

「あ、そうだ。結局ラズワルド様のお屋敷に潜入する許可はいただけたということでよろしいですか?」

イゴール陛下に「3日以内にダレスから潜入許可を貰え」と言われていたことを思い出して話を切り出す。
すると彼は不思議そうに首を傾げた。

「え、駄目だが?」
「はい??」

まさかの回答に素っ頓狂な声が出る。
私の反応に彼は表情を険しくする。

「逆に何故許可が下りると思った?」
「だって危険な時はダレス様が助けてくれるって…」
「だからこそ危険な所に行かせられるわけないだろ」
「でも私が嫌がるような止め方しないって…」
「ラズワルドに抱かれるのは嫌だろ?だったらそもそも行かせない、という止め方をするさ」

……もうこの人に許可を貰うのは諦めよう。
ここまで来たら後で怒られるのを覚悟して勝手に行動した方が間違いなく早いし確実だ。

「…このままでは埒が明かないので一旦引きます。僕は食堂で夕食食べてくるのでダレス様はご自由にお過ごしください」
「俺も行きたい!」
「食堂は騎士団や使用人専用ですので大人しく自室に戻ってください。お客様が使用人用の食堂を使うなんて聞いたことありませんし、使用人たちが休まりませんのでご理解ください」
「……」
「ではまた夜に」

失礼します、と告げて足早に部屋を出る。
自室なのに長居できないなんてどういうことだよ。
独特な倦怠感を帯びた体を引きずりながら僕はゆっくり食堂に向かった。
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