33 / 37
第33話
しおりを挟む「お待たせしました」
タオルで髪を乾かしながらダレス様の所に戻ると嫌そうに顔を歪めた彼が振り返った。
そして僕の格好を見るなりさらに不機嫌そうな顔になる。
「何ですか」
「…敬語」
「言いましたよね。シャワーで線引きすると」
「勝手にバレッサが言っただけだろ!」
「バレッサ?はて、誰の事ですかね。僕はサイラスですよ、ダレス様」
壁を明確にして言い放てば彼は悔しそうに唇を噛んだ。
とりあえずダレス様をシャワー室に押し込んで片付けに取り掛かる。
部屋に籠った臭いを出すために窓とカーテンを開けてからシーツを取り変える。
「…これどうしようかな」
そのまま出すと察しのいいメイドにバレてしまうに違いない。
軽く水に浸けてから水を零したとでも言って渡すのがいいだろう。
床に落ちている服も片付け、カリン先生から貰ったらしい瓶やら何やらは紙に包んで処分する。
とりあえず出来る限り元通りにした部屋を見回して不備がないか確認する。
「こんなものかな」
いつの間にか日は沈んでおり、開け放った窓の先にはいつもと変わらない街の景色が見えた。
何も変わっていない街の様子にほっと息を吐くと扉が開く音が聞こえた。
「……」
「良かった、その服着れたんですね。貰い物だったのですが大きくて処分に困っていたので助かりました」
「…部屋が元に戻ってる」
「掃除した方がいいかと思いまして。一応部下には入らないように指示を出しましたが緊急時は呼ばれますから」
不貞腐れた顔をしたダレス様はソファーに雑に座ると夜風を浴びている僕に向けて手招きをする。
嫌な予感がして固まっていると「早く来い」と急かされてしまったので渋々ダレス様の横に座る。
「……何でしょう」
「敬語」
「今の僕はサイラスですので勘弁してください。先ほどの行為で満足なさらなかったのですか?」
「それとこれとは話が別だ」
僕の肩に腕を回して抱き寄せてくる。
このまま彼のペースに持ち込まれては困ると慌てて机の上に置いたままだった本で仕切りを作る。
「なんだこれは」
「そろそろ止めないと今日一緒に寝ませんよ」
そう言った途端、彼は捨てられた子犬のような表情で僕の肩から手を離した。
しょんぼりしたまま見つめてくるため良心が痛まないわけではないがここで甘くすると後で厄介なことになるため心を鬼にする。
「あ、そうだ。結局ラズワルド様のお屋敷に潜入する許可はいただけたということでよろしいですか?」
イゴール陛下に「3日以内にダレスから潜入許可を貰え」と言われていたことを思い出して話を切り出す。
すると彼は不思議そうに首を傾げた。
「え、駄目だが?」
「はい??」
まさかの回答に素っ頓狂な声が出る。
私の反応に彼は表情を険しくする。
「逆に何故許可が下りると思った?」
「だって危険な時はダレス様が助けてくれるって…」
「だからこそ危険な所に行かせられるわけないだろ」
「でも私が嫌がるような止め方しないって…」
「ラズワルドに抱かれるのは嫌だろ?だったらそもそも行かせない、という止め方をするさ」
……もうこの人に許可を貰うのは諦めよう。
ここまで来たら後で怒られるのを覚悟して勝手に行動した方が間違いなく早いし確実だ。
「…このままでは埒が明かないので一旦引きます。僕は食堂で夕食食べてくるのでダレス様はご自由にお過ごしください」
「俺も行きたい!」
「食堂は騎士団や使用人専用ですので大人しく自室に戻ってください。お客様が使用人用の食堂を使うなんて聞いたことありませんし、使用人たちが休まりませんのでご理解ください」
「……」
「ではまた夜に」
失礼します、と告げて足早に部屋を出る。
自室なのに長居できないなんてどういうことだよ。
独特な倦怠感を帯びた体を引きずりながら僕はゆっくり食堂に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する
紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!!
完結済み。
毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる