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第9話
しおりを挟む車のエンジンが止まった違和感で意識が浮上する。
何度か瞬きをすると段々と周囲の景色が鮮明になる。
「起きたか」
隣からの声に驚きつつ視線を向けると菅谷さんが隣にいた。
そっか、さっきまで一緒にいたんだ。
寝起き特有のぼやっとした頭で状況を整理する。
「エンジンが止まった音でよく起きれたな」
「…昔からベッド以外で寝ると眠りが浅くなるタイプなので」
シートベルトを外しながら外を見ると、そこは見慣れない駐車場だった。
「あの、ここどこですか?」
「俺の住んでるマンション」
「え」
「嫌だったか?ホテルよりはいいと思ったのだが」
不安そうに眉を下げる彼に慌てて首を振る。
まさか家に連れて来られるとは思っていなかっただけだ。
道理でナビを設定しなかったわけだ。
「それなら良かった」
彼が車を降りたのに倣って私も降りる。
マンションを見上げると驚くほど高い。
どうせ上の方に住んでるんだろうなぁ。
「こっちだ」
オートロックをさも当然のように通り過ぎ、エレベーターに乗る。
っていうか、ロビーのシャンデリアは何ですか。
あんなの漫画の世界でしか見ませんよ。
そんなことを考えていればあっという間にエレベーターは目的の階に到着する。
先に降りた彼の後をついていくと1番奥の扉の前で立ち止まった。
「どうぞ」
「お邪魔します」
扉を開けてもらい、中に足を踏み入れる。
広い玄関と廊下の先にはリビングに続くであろう扉が見えた。
「広いですね」
「そうか?暮らしているとそうでもないぞ。こっちがリビングだ」
その言葉と共に扉を開けてもらう。
うわぁ、広すぎる。
リビングだけでも私の家の倍くらいはあるかもしれない。
……広すぎて逆に落ち着かないんですけど。
そんな心の叫びを露知らず、彼は荷物を机に置くとジャケットを脱ぐ。
「何か飲むか?」
「じゃあお水をお願いします」
「分かった。ソファーに座って待っていてくれ」
彼はリビングから繋がっているキッチンへと消えていった。
とりあえずソファーの隅に座ろうとそちらへ足を向ける。
ふかふかで気持ちいい。
ただ大きすぎて何となく落ち着かない。
「ははっ、そんなに隅で縮こまらなくていいのに」
「何となく落ち着かなくて。お水ありがとうございます」
お礼を伝えてからコップを受け取る。
彼はお酒を飲むようで隣に座って缶ビールを開けた。
「缶ビールとか飲むんですね」
「意外か?」
素直に頷くと愉快そうに笑われる。
「家では結構な頻度で飲む。外で飲む方が少ないぞ」
「ならこの前は珍しかったんですね」
「出先からの帰りに寄ったというのもあるけどな」
チビチビと水を飲んでいればさり気なく腰を抱かれる。
急な行動に驚いてコップを握る力が強くなってしまった。
「ちょ」
「…ずっと気になっていたこと聞いてもいいか?」
「はい、答えられることなら」
変に改まった言い方に首を傾げていると、彼はソファーの端に座っている私をさらに追い込んだ。
「え、何ですか?」
「……俺の名前言えるか?」
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