私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 ソフィアが考え込んでいるとエリーがポーションを持ってやってきた。

「ソフィア大丈夫?あなた一番の重症者を治療していたでしょう。はい、これ」

 そう言ってソフィアにポーションを手渡した。

「ありがとうございます。ビルさんはひとまず大丈夫だと思います」

「一気に魔力使ってふらついてない?」

「さすがエリーさん、ポーション助かります」

 エリーもソフィアと同じく数少ない師匠付きの治癒師だ。
 重症者にあたる事が多い分、状況を分かってもらえる人がいるのはありがたい。
 ソフィアはポーションを一気に飲みほした。

「怪我をした部隊、ランセル卿のいるところよね。まだ戻っていないみたいなんだけどソフィアは隊員から何か聞いてる?」

「いえ。グレイさん…さっき治療した方が言うには分からないみたいです。デモンズハーピーが出たみたいで…」

「デモンズハーピー?師匠から聞いた事があるわ。確か…厄災の前触れとして現れるっていう魔獣よね」

 昔の知識を思い出すようにエリーは言う。

「はい。私も師匠から教えてもらいました。北方騎士団で働くならば必要な事だからと」

 言いながらなんとなく落ち着かなくてポーションの瓶を手の中で回してしまう。
 嫌な予感が当たってしまいそうで。

「詳しい話は知らないのだけど、どんな魔獣なの?」

「…魔力のある人間に呪いをかけるんです」

「呪い?」

「はい。愛する人を忘れ子供を作る事が出来なくなるそうです」

「…!」

 衝撃を受けているであろうエリーを見て、なんとなく申し訳無くなってしまう。優しいエリーはアルフォンスがソフィアを忘れてしまう事にショックを受けたのだろう。
 そして同時に魔導騎士である夫も同じ危険に晒される事に気づいたはずだ。
 魔導騎士はもれなく高い魔力を持っているから。
 ソフィアはデモンズハーピーについて簡単に説明する。

「解呪は出来るんです。高位の術師に頼むので状況によっては時間はかかるかもしれませんが。ただ解呪が出来ても失った記憶は戻りません」

「そんな呪いを…」

「でも重要なのはそこではなくて…」

 ソフィアは喉元を押さえながら考える。
 どう話をすれば良いのか迷っている事に気づいたのだろう、エリーはソフィアを部屋の隅に連れて行き小声で話し出す。

「デモンズハーピーが恐ろしいのは魔力の高い人間には、呪いをかけた後に魔力を奪って魔力回路を壊すんです」

「…まさかランセル卿が!?」

 ソフィアはゆっくりと首を振る。

「分かりません。とりあえず今は無事に帰ってくる事を祈るだけですから」

「そんな事があるなんて、師匠は言ってなかったわ…酷い呪いだけれど、厄災の年に魔導騎士が減るのは国にとっても不味いわね…少なくともうちの騎士団にとってはかなりの痛手だわ」

「はい。最悪の状況は想定しないといけないかと」



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