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【試し読み】特装版 絆鬼(つなぐおに)
【試し読み】子
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「俺と逃げよう」
色男がそう迫ったのは、部屋持ちの遊女である。遊女もまた、そこそこの美女である。
「俺は、元陰間だ。年季が明けて行く宛てもなく、恥ずかしながらも夜鷹で食っている。あんたの気持ちは、痛いほど分かるつもりだ。それに、妓の身となりゃ、まだまだ年季も先だろう」
迫られた遊女は、諦めたような苦い笑いを浮かべた。
「嘘は、およしよ。夜鷹が、こんなとこに来る金などある訳ないだろう。ましてや、あちきでも買えやしないだろうさ。それに、あんた程の器量じゃ、未亡人が放っておかないだろう」
男も、同じように苦笑した。
「流石、部屋持ちだ」
「花魁どころか、座敷すら持ててやしないんだ。流石なんて付けるんじゃないよ」
男が黙って俯いたので、妓は続けた。
「あんた、越中から売られてきた男だろ。……覚えていてくれたんだね」
男は、はっとした。
「一緒の人買だったものね。最後に食べた蕎麦も覚えてるよ。あんたは、あちきに殆ど食べさせてくれた。そんな男を忘れられやしないよ」
男の目から、涙が零れた。
「あの日を覚えているかい? 同じ越中で売られてきた日は、大雪の夜だった。あんた、俺になんて言ったかなんて、覚えてないだろうね。それでも俺はあんたに心底惚れちまって、ずっとあんたを探していたんだ」
遊女は、男の涙を袖で拭った。
「なんて言ったかねえ。あんたとは、沢山話したものねえ」
「どんなに汚れても、雪が白く思い出せる限り、必ずまた逢おうと」
「そうかい」
遊女は立ち上がると、箪笥の引き出しから、片手に収まる程度の小さな木箱を取り出した。更に、懐から小刀を出すと、横に並べて置いた。
「あんたに、覚悟はあるかい? あるなら、この箱の中に小指を落としな」
男は、最初からそのつもりだったのであろう。持っていた糸を袂から出すと、左手の小指をキツく縛った。遊女の小刀で、その小指の第一関節を切り落とす。思わず漏れた呻き声と共に、男の小指は鮮血と共に木箱に落ちた。
続いて遊女も同様に左手の小指をキツく縛ると、同じ小刀で、男にならって小指の第一関節から切り落とした。遊女の小指もまた、鮮血と共に箱へと落ちる。
「あんたは、あちきと死んでくれる訳だ」
「ああ。生きている限り、俺達には地獄しか無いだろうね」
遊女は、男に抱きついた。
「抱いてくれるかい?」
男は顔を苦痛に歪めながら、首を左右に振った。
「客に、移されちまったからな」
「ああ、だから夜鷹なんだね」
男は、遊女を強く抱き締めた。遊女は、囁いた。
「いいよ。どうせ、二人であの世に行くんだ」
二人は、激しく抱き合い、愛し合った。
そして、数日後の早朝。
妓楼近くの溝川で、男女の抱き合った遺体が上がった。けれど、その男女の左手には小指があったのである。
遊女が小指を失った事に、妓楼の者達が知らない筈はなかった。遊女達は心中の噂をしていたし、主人や男衆は遊女の足抜けに十分警戒していた。
そんな時、お海の噂が流れる。
どうやら、鬼と通ずる歩き巫女が居るようだと。
勿論、お海はどちらの味方でもない。こんな儲からなさそうな痴話に乗るつもりなどさらさら無かったのだが、どうにも気になって仕方の無い事がある。
(俺を呼び出して、何をさせる気なのだ)
時々、噂が捻れて広がり、伝説のようになって、ひとり歩きする事がある。今回も、その類かと思った。 そんな噂を聞いてみるのも、忍海にとっては一興なのである。
忍海は、珍しく。男の姿で、噂元の妓楼のある遊郭街を訪れた。
「お兄さん、とんでもない色男じゃないか。あちきを買っとくれよ」
「お兄さん、私で遊んでいかないかい」
忍海は、鼻で嗤いながら引手茶屋へ足を運んだ。
「あそこの妓楼が良いな。金はそこそこ用意したが、花魁は面倒だ。直ぐに遊べる部屋持ち程度で良いから、紹介してくれよ」
忍海が財布と懐刀を茶屋に預けると、預かった茶屋の世話役の男は納得したように引っ込んだ。忍海の財布には、小判が十両程入っている。
忍海が、出された酒と肴を楽しみながら暫く待っていると、同じ世話役が戻ってきた。
「お客さん、どうでしょう。部屋持ちと言わずに、せめて昼三など」
忍海は物臭そうに答えた。
「面倒な妓に興味は無いから言っているのだ。切見世でも構わぬが、干渉されたくないので、面倒のない部屋持ちでと言っているのだ」
再び、世話役は引っ込んだ。
(興醒めしてきたな)
妓女の匂いに、客引きの声、煌びやかな色の景色。忍海にすれば、吐き気がするような状況である。忌々しい昔を思い出して仕方が無い。鬼の噂をと思って来たものの、後悔した。
(帰るか)
忍海は、適当な世話役を呼んだ。先程とは別の男だったが、淡々と告げる。
「気分が醒めた。帰る」
忍海が持ち物を返して貰い、引手茶屋を出たところで、最初の同じ世話役が慌てて駆け寄ってきた。
「お客さん、お待ちください。花魁が、会ってみたいと」
忍海は、鼻で嗤った。
「三度も通う気は無いのだが」
「いえ、初回から遊んでもいいと」
「ほう」
ふと妓楼の方に目をやれば、二階の窓の隙間から、熱い視線を感じる。
「なるほどな。その花魁に、是非ともお目にかからろうかね。ただ、あっちの態度によっては、俺は帰るからな」
忍海は世話役に案内され、更に妓楼に着くと、下男に部屋へと案内された。
(嫌な匂いだ)
昔、過ごした場所に、よく似ている。鼻を突く妓の匂いで思い出した。別の分家の従兄弟と、知り合ったのも妓楼であった。向こうも忍海と同じ嫡男で、年齢も同じだった。従兄弟は毒の訓練で目が殆ど見えなかったが、それすら忘れさせるくらい、普通であった。忍海が一族を飛び出す決心が付いたのも、従兄弟が一族を出たと聞いた為である。
忍海が太夫なら、従兄弟は天神。その差は、恐らく目の所為だろと忍海は思っている。
「霧雨花魁、連れてまいりました」
「入りなんし」
下男は襖を開けると、一礼してその場を去った。忍海の目の前には、煌びやかに着飾った花魁がしゃんと座っている。
忍海は、遠慮なく目の前にどかっと座った。
「霧雨と言ったかい。見た所、あんたは附廻くらいか」
花魁は、袖元で顔を伏せながら笑った。
「そう思われても仕方無いかね。一応、これでも太夫だよ」
「ほう。初回に、どんな風の吹き回しかい?」
「あちきだって、たまには自分好みの色男と遊びたいのさ」
忍海は、隠していた小判を一枚取り出すと、霧雨の前に投げた。
「まさか、太夫だとは思わなかったんでな。今は一枚しか持っていない」
花魁が忍海を睨んだ。
「なんの真似だい?」
「俺の出身は、美人だけ掻き集めた里だ。お陰で、美人にはすっかり飽きちまっていてね。話を聞かせて貰いたいだけさ」
霧雨は、忍海の投げた小判を拾った。
「情報料ってことかい?」
「そうさ」
忍海は、にやりと笑って見せた。そして、わざと霧雨に近寄ると、自分の匂いが届く位置まで近付いた。すると瞬時に、媚薬の焚き込められた忍海の着物の香りが、霧雨の鼻腔を満たす。霧雨の胸が熱く高鳴り、頭がくらりとした。
「香かい? 良い匂いだね」
霧雨には、忍海の色気が眩しく感じた。
「俺なりの身嗜みさ。話すだけなら、あんたも楽だろ」
霧雨にとっては何故か分からないが、忍海に抱いて欲しくて堪らなくなっていた。股が、じんわりむずむず熱くなっているのが分かる。
「いけずな男だね。言わせてごらんよ」
「ほう。俺に鳴かせて欲しいと? 太夫が、安すぎやしないか?」
媚薬のせいだと露程も知らない霧雨は、忍海が欲しくて欲しくて堪らない。身体が熱いし、全身がむずむずと抑えきれず、思わず抱き付いた。
「あんたの色気は、まるで鬼だよ。こんな風に、感じた事なんて今までなかったよ」
この状況こそ、忍海の狙い通りである。まさか太夫が乗ってくるとは思ってもいなかったが、それこそ願ったり叶ったりとでも言おうか。遊女を一匹手駒にして、暫く都合良く使おうと思っていたところであったのだから。
色男がそう迫ったのは、部屋持ちの遊女である。遊女もまた、そこそこの美女である。
「俺は、元陰間だ。年季が明けて行く宛てもなく、恥ずかしながらも夜鷹で食っている。あんたの気持ちは、痛いほど分かるつもりだ。それに、妓の身となりゃ、まだまだ年季も先だろう」
迫られた遊女は、諦めたような苦い笑いを浮かべた。
「嘘は、およしよ。夜鷹が、こんなとこに来る金などある訳ないだろう。ましてや、あちきでも買えやしないだろうさ。それに、あんた程の器量じゃ、未亡人が放っておかないだろう」
男も、同じように苦笑した。
「流石、部屋持ちだ」
「花魁どころか、座敷すら持ててやしないんだ。流石なんて付けるんじゃないよ」
男が黙って俯いたので、妓は続けた。
「あんた、越中から売られてきた男だろ。……覚えていてくれたんだね」
男は、はっとした。
「一緒の人買だったものね。最後に食べた蕎麦も覚えてるよ。あんたは、あちきに殆ど食べさせてくれた。そんな男を忘れられやしないよ」
男の目から、涙が零れた。
「あの日を覚えているかい? 同じ越中で売られてきた日は、大雪の夜だった。あんた、俺になんて言ったかなんて、覚えてないだろうね。それでも俺はあんたに心底惚れちまって、ずっとあんたを探していたんだ」
遊女は、男の涙を袖で拭った。
「なんて言ったかねえ。あんたとは、沢山話したものねえ」
「どんなに汚れても、雪が白く思い出せる限り、必ずまた逢おうと」
「そうかい」
遊女は立ち上がると、箪笥の引き出しから、片手に収まる程度の小さな木箱を取り出した。更に、懐から小刀を出すと、横に並べて置いた。
「あんたに、覚悟はあるかい? あるなら、この箱の中に小指を落としな」
男は、最初からそのつもりだったのであろう。持っていた糸を袂から出すと、左手の小指をキツく縛った。遊女の小刀で、その小指の第一関節を切り落とす。思わず漏れた呻き声と共に、男の小指は鮮血と共に木箱に落ちた。
続いて遊女も同様に左手の小指をキツく縛ると、同じ小刀で、男にならって小指の第一関節から切り落とした。遊女の小指もまた、鮮血と共に箱へと落ちる。
「あんたは、あちきと死んでくれる訳だ」
「ああ。生きている限り、俺達には地獄しか無いだろうね」
遊女は、男に抱きついた。
「抱いてくれるかい?」
男は顔を苦痛に歪めながら、首を左右に振った。
「客に、移されちまったからな」
「ああ、だから夜鷹なんだね」
男は、遊女を強く抱き締めた。遊女は、囁いた。
「いいよ。どうせ、二人であの世に行くんだ」
二人は、激しく抱き合い、愛し合った。
そして、数日後の早朝。
妓楼近くの溝川で、男女の抱き合った遺体が上がった。けれど、その男女の左手には小指があったのである。
遊女が小指を失った事に、妓楼の者達が知らない筈はなかった。遊女達は心中の噂をしていたし、主人や男衆は遊女の足抜けに十分警戒していた。
そんな時、お海の噂が流れる。
どうやら、鬼と通ずる歩き巫女が居るようだと。
勿論、お海はどちらの味方でもない。こんな儲からなさそうな痴話に乗るつもりなどさらさら無かったのだが、どうにも気になって仕方の無い事がある。
(俺を呼び出して、何をさせる気なのだ)
時々、噂が捻れて広がり、伝説のようになって、ひとり歩きする事がある。今回も、その類かと思った。 そんな噂を聞いてみるのも、忍海にとっては一興なのである。
忍海は、珍しく。男の姿で、噂元の妓楼のある遊郭街を訪れた。
「お兄さん、とんでもない色男じゃないか。あちきを買っとくれよ」
「お兄さん、私で遊んでいかないかい」
忍海は、鼻で嗤いながら引手茶屋へ足を運んだ。
「あそこの妓楼が良いな。金はそこそこ用意したが、花魁は面倒だ。直ぐに遊べる部屋持ち程度で良いから、紹介してくれよ」
忍海が財布と懐刀を茶屋に預けると、預かった茶屋の世話役の男は納得したように引っ込んだ。忍海の財布には、小判が十両程入っている。
忍海が、出された酒と肴を楽しみながら暫く待っていると、同じ世話役が戻ってきた。
「お客さん、どうでしょう。部屋持ちと言わずに、せめて昼三など」
忍海は物臭そうに答えた。
「面倒な妓に興味は無いから言っているのだ。切見世でも構わぬが、干渉されたくないので、面倒のない部屋持ちでと言っているのだ」
再び、世話役は引っ込んだ。
(興醒めしてきたな)
妓女の匂いに、客引きの声、煌びやかな色の景色。忍海にすれば、吐き気がするような状況である。忌々しい昔を思い出して仕方が無い。鬼の噂をと思って来たものの、後悔した。
(帰るか)
忍海は、適当な世話役を呼んだ。先程とは別の男だったが、淡々と告げる。
「気分が醒めた。帰る」
忍海が持ち物を返して貰い、引手茶屋を出たところで、最初の同じ世話役が慌てて駆け寄ってきた。
「お客さん、お待ちください。花魁が、会ってみたいと」
忍海は、鼻で嗤った。
「三度も通う気は無いのだが」
「いえ、初回から遊んでもいいと」
「ほう」
ふと妓楼の方に目をやれば、二階の窓の隙間から、熱い視線を感じる。
「なるほどな。その花魁に、是非ともお目にかからろうかね。ただ、あっちの態度によっては、俺は帰るからな」
忍海は世話役に案内され、更に妓楼に着くと、下男に部屋へと案内された。
(嫌な匂いだ)
昔、過ごした場所に、よく似ている。鼻を突く妓の匂いで思い出した。別の分家の従兄弟と、知り合ったのも妓楼であった。向こうも忍海と同じ嫡男で、年齢も同じだった。従兄弟は毒の訓練で目が殆ど見えなかったが、それすら忘れさせるくらい、普通であった。忍海が一族を飛び出す決心が付いたのも、従兄弟が一族を出たと聞いた為である。
忍海が太夫なら、従兄弟は天神。その差は、恐らく目の所為だろと忍海は思っている。
「霧雨花魁、連れてまいりました」
「入りなんし」
下男は襖を開けると、一礼してその場を去った。忍海の目の前には、煌びやかに着飾った花魁がしゃんと座っている。
忍海は、遠慮なく目の前にどかっと座った。
「霧雨と言ったかい。見た所、あんたは附廻くらいか」
花魁は、袖元で顔を伏せながら笑った。
「そう思われても仕方無いかね。一応、これでも太夫だよ」
「ほう。初回に、どんな風の吹き回しかい?」
「あちきだって、たまには自分好みの色男と遊びたいのさ」
忍海は、隠していた小判を一枚取り出すと、霧雨の前に投げた。
「まさか、太夫だとは思わなかったんでな。今は一枚しか持っていない」
花魁が忍海を睨んだ。
「なんの真似だい?」
「俺の出身は、美人だけ掻き集めた里だ。お陰で、美人にはすっかり飽きちまっていてね。話を聞かせて貰いたいだけさ」
霧雨は、忍海の投げた小判を拾った。
「情報料ってことかい?」
「そうさ」
忍海は、にやりと笑って見せた。そして、わざと霧雨に近寄ると、自分の匂いが届く位置まで近付いた。すると瞬時に、媚薬の焚き込められた忍海の着物の香りが、霧雨の鼻腔を満たす。霧雨の胸が熱く高鳴り、頭がくらりとした。
「香かい? 良い匂いだね」
霧雨には、忍海の色気が眩しく感じた。
「俺なりの身嗜みさ。話すだけなら、あんたも楽だろ」
霧雨にとっては何故か分からないが、忍海に抱いて欲しくて堪らなくなっていた。股が、じんわりむずむず熱くなっているのが分かる。
「いけずな男だね。言わせてごらんよ」
「ほう。俺に鳴かせて欲しいと? 太夫が、安すぎやしないか?」
媚薬のせいだと露程も知らない霧雨は、忍海が欲しくて欲しくて堪らない。身体が熱いし、全身がむずむずと抑えきれず、思わず抱き付いた。
「あんたの色気は、まるで鬼だよ。こんな風に、感じた事なんて今までなかったよ」
この状況こそ、忍海の狙い通りである。まさか太夫が乗ってくるとは思ってもいなかったが、それこそ願ったり叶ったりとでも言おうか。遊女を一匹手駒にして、暫く都合良く使おうと思っていたところであったのだから。
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