【試し読み】44口径より愛を込めて

鞍馬 榊音(くらま しおん)

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プロローグ

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 ざぁん……。ざぁん……。

 墨汁色の海面が、不規則に揺れていた。そこに浮かぶ銀色の月も、同じように揺れている。

 ざぁん……。ざぁん……。

 静寂に包まれた闇の中、穏やかな波の音だけが、ただ響いていた。
 ふと思い浮かんだ顔は、息子の様に可愛がってきた部下。初めての出会いは…そぅ、彼が小学生の時だったと記憶する。懐かしくなり、ふと笑みがこぼれた。ハーモニカーの上手い坊主だったが、もう二十年以上聴いていない。彼はまだ、吹けるのだろうか。
 とても疲れてしまったので、少し休もうとその場に座り込んだ。頭上に浮かぶ月からの光がとても穏やかで、心地良く感じた。
 ゆっくり思考は停止し始めていた。このまま眠るのも悪くない、そう思ったのと同時に、残した仕事が気掛かりになった。

 そうだ、自分は仕事中だったのだ。

 昔を思い出した。小学校も中学校も、高校も大学も、全て皆勤賞だった。仕事ですら、休んだことが無かった。そんな糞が付くほど真面目一筋の自分が、海面に浮かぶ月を見つめながら、仕事中に眠ろうとしている。だが、不思議と罪悪感はなく、穏やかな心地に包まれていた。不良にでもなった気分だ。いい年のオヤジがと、ふっとした笑いが溢れた。

 ざぁん……。ざぁん……。

 波の音が心地良い。
 母の胎内も、こんな感じだったのだろうか。

 ざぁん…。ざぁん…。

 仕事の事は、忘れよう。
 いざとなれば、部下が自分の意志を引き継いでくれるだろう。

 そして、波の音を聞きながら、ゆっくりと目を閉じた。
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