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第1話
しおりを挟む……コンコン。コンコン。
いつもの朝だ。
私は扉を叩く音で目を覚ました。
きっとメイドのアンナだろう。
「お嬢様、お目覚めのお時間にございます」
一瞬の間の後、扉の向こうから聞き慣れた声が響く。薄暗い寝室の中、それをベッドの上で聞いた私は、上体を起こすと返事をした。
「アンナね。入ってちょうだい」
すると、アンナが扉を開け、一礼して入ってきた。
アンナは私付きのメイドである。
赤毛の髪をピッチリと結えたスレンダーな女性で、歳は28。厳しいところもあるが、基本優しく、長女として生まれてきた自分にとって姉のような存在だ。
「おはよう、アンナ」
「おはようございます、マリアンヌお嬢様」
私が笑顔で挨拶をすれば、アンナもまた笑顔で挨拶を返してくれる。これも、いつものやり取りだった。
「お嬢様、今日は待ちに待ったお嬢様の社交界デビューの日でございますね」
「ふふっ。ええ、そうね」
「今日の王都は快晴でございますよ。絶好の舞踏会日和になりそうでようございました」
挨拶の後、アンナがそう言いながらカーテンを開けていく。
少しずつ明るくなる寝室。視線を窓のほうへと移せば、アンナの言葉どおり、開かれたカーテンの向こうに美しい青空が見えたのだった。
*
皆さま、ご機嫌よう。
私、マリアンヌと申します。シュヴァリエ侯爵家の一人娘で、ピッチピチの18才でございますわ。
そう、18才!!
昨年、無事に誕生日を迎えまして、私、成人となったばかりですの! そして今夜、王宮で行われる舞踏会にて、ようやく、……ようやく! ようやく!! ようやくっ!! 社交界デビューを果たすことになっているのですわ!!!
嗚呼、この日のためにと磨きに磨きをかけてきたアレコレを、とうとう発揮する日が来たのです!
殿方を楽しませるウィットに富んだ会話をすべく、ジャンルを問わずあらゆる本を読み漁り。お相手の名前が分からないなんて言語道断ですからね。分厚ぅぅーい貴族年鑑を、おやすみ前の絵本よろしく毎晩毎晩読み込んで。ダンスで毎日体を動かし、食事はお野菜中心、ハラハチブンメ!!
日課はバストアップと脚痩せのマッサージ。それに追加して、アンナのスペシャル・エステで毎日ピカピカに磨いてもらってきたので、お肌はプルプルもっちり、髪は艶々サラサラなんでございます。
後は、ワタシという戦うボディをタイトなコルセットにねじ込めば、立派な侯爵家令嬢の出来上がり!!
自分で言うのも何ですが、マナーも完璧でしてよ? ニッコリ。
――物心ついた5才頃から、私の座右の銘は『親孝行』。
シュヴァリエ家は優秀な弟であるユーゴが継ぎ、きっとその将来、ますます盛り立てていってくれるでしょう。
となると、女である私が、家のため、両親のために考え得る最大限の親孝行といえば、それはもう、より良い条件の殿方と結婚することでございましょう……!! ああ、そのために約十三年もの間、全力を尽くし突っ走ってきたのです!
さあ皆様、是非見ていてくださいまし!!
私ことマリアンヌは、今夜社交界デビューを無事果たし、近いうちに必ずや、でっっかい魚を釣り上げてみせますわッッ!!!!
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