【本編・改稿版】来世でも一緒に

霜月

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第11話【Side アレクサンドル①】

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 物心ついた頃から、……いや、恐らく、この世に生を受けたその瞬間からずっと、私は"誰か"を探していた――。



 *



 私の名はアレクサンドル。
 ここオルレアン王国の第二王子として生まれ、現在ではガルシア大公の爵位をたまわっている者だ。

 これはある日の事。私が団長を務める第一騎士団についての報告をしに、私の兄であり、この国の現国王であるマティス陛下の執務室を訪れた時の話だ。

「今度王宮で開かれる舞踏会だが、お前も出席しなさい」

 陛下が報告書に目を通しながら、急にそう告げられたのである。

「……突然ですね」

「いや、団長になってからずっと社交界に顔を出していないだろう? お前ももう23だ。23といえば、私がイネスと結婚した歳ではないか。そろそろお前もカノジョを作らないと、男として枯れてしまう」

「お言葉ですが、陛下。私は『まだ』23ですよ。それに、今は騎士団の仕事が忙しいんです。夜会に出ている暇などありません」

「何を言う。団長になってからもう三年ではないか。それにたった一晩だぞ? それくらいなら任せられる者もいるだろう? オスカーだっているではないか」

「……そうですが」

 オスカーは第一騎士団の副長だ。
 私と同じ23才で、近衛騎士団団長を父にもつ、仕事に真面目な男である。私と同じ15の時に騎士団に入り、互いによきライバルかつ理解者として一緒に切磋琢磨してきた相手だ。あいつになら何の問題もなく任せられることも確かであった。

「では、決まりだな。ビシッとキめて来いよ」

「ハァ……。わかりました」

 渋々了解を示すと、よろしいと言わんばかりに確認済のサインが書かれた書類を渡される。

「話は以上だ。下がってよい」

 そう言って満足げに笑う兄。その笑顔には、反論を許さない圧力が感じられた。

(まったく、この人はいつもいつも……っ)

 突然つ強引なのだと、内心で悪態をつきつつ、私はただタメ息を吐くしかない。昔から兄に口で勝てたことはないのだ。この笑顔の兄は特に駄目だというのは、自分が一番よく知っている。

「……では、失礼します」

 私は諦めて一礼すると、すごすごと退室するしかないのであった。



 *



「ハァァ……」

 騎士団の隊舎にある団長用の執務室。
 私はそこに戻ると、持っていた書類を机の上に放って椅子に座り、そのまま背もたれに体重を預けた。

 思わず、大きなタメ息が出る。
 考えるのは、先ほどの兄とのやり取りであった。

「……舞踏会か……」

 私の小さな独り言が、くうただよう。

 兄の言葉どおり、私は舞踏会や晩餐会といった、いわゆる社交の場にはここ数年まともに出ていなかった。というのも、生来の人見知りな性格からか、人、特に若い異性との会話が苦手なのである。

 騎士団という男社会で生活していれば、それで困るような場面にはそうそう出会うこともないのだが。

 そもそも女性が喜ぶような会話のネタを持っていないし、ワッとくし立てるように話しかけられると、どう返していいのか分からなくなってしまうのだ。酷い時には、何も言えないままフリーズすらしてしまう。

(兄上も私の性格を分かっているだろうに。何故、放っておいてくれないのか? ……はあぁあ、嫌だ。考えれば考えるほど行きたくない)

 そんなことをうだうだ考えていると、執務室の扉が開きオスカーが入ってきた。

「あれ? アレク、戻ってたのか」

「……ああ。さっきな」

「……? どうした? 浮かない顔をして。書類に不備でもあったか?」

 オスカーが怪訝けげんな顔をして聞いてくる。

「いや。書類は大丈夫だった。ただ、兄上にな」

「陛下? 陛下に何か言われたのか?」

「今度王宮である舞踏会にお前も出ろ、と、言われた」

「へぇ! 舞踏会!」

「そろそろカノジョでも作らないと男として枯れるぞとも言われたよ」

「ハハハ!」

「笑うな。お前だってまだ決まった相手はいないじゃないか」

 オスカーは、濃いブルーの瞳を持つ精悍せいかんな顔立ちをした男だ。赤みの強い金髪を短く切り揃え、そういう家系なのか、父親に似たガッシリとした体躯たいくを持つ。戦い方もその体を活かしたパワータイプだ。
 一見怖そうな容貌をしているが、性格は基本穏やかでよく笑う。その私と真逆の性質タチから、足して割れば丁度いいのにとよく隊員たちから言われていた。

「フハッ! っと、ああ、すまんすまん。だが、第一騎士団団長で、自らガルシア大公の名を賜わるお前と、ただの近衛騎士団団長の次男坊とを一緒にするなよ。貴族の23才となれば、そろそろ婚約話の一つや二つ、出ていてもおかしくないというのも確かだろ? ……まぁ、でも、それにしても意外なのは確かだがな。陛下もそんなことを言うのか」

「私も驚いたよ。……ああ……行きたくない……」

「お前、人見知りだもんなぁ。無口で、どんな令嬢の前でもニコリともしない。知ってるか? 美形の無表情って威圧感ハンパないの。無駄に顔が整ってる上にそんな状態じゃ、怖がられるのも当然ってもんさ。お前、ちまたじゃ女嫌いって噂されてるんだぞ?」

「無駄って言うな。……噂は知ってるよ。だが、仕方ないだろ? 何を話したらいいのか分からないんだから」

「他の事は器用にそつなくこなすのに、対令嬢スキルだけが壊滅的って。……隊員たちにはモテモテなのにな」

「変な言い方をするなよ!」

「ハハハ! あー……、でも、まぁ、出席はしろよ? たしかお前、人を探してるんだろ? それこそ成人したての頃は、その人を探すって言って社交界にも顔を出してたじゃないか。まだ見つけてないんだろ?」

「ああ、まぁ、そうなんだがな……」


 ――そう。オスカーの言うとおり、私はずっと人を探している。


 何気ない日常の、ふとした瞬間に襲われる焦燥感。

 脳裏に一瞬だけ浮かぶ、"誰か"。

 その"誰か"を、心がずっと求めている。

 私は"何を"忘れているのだろうか。
 私は"誰を"忘れているのだろうか。

 頭の中で思い出そうとする度、壮絶な無力感に襲われ心が叫ぶ。

 ――護ると決めたのに! ずっと側にいて、必ず護ると!

 だから、私は騎士団に入ったのだ。

 出逢えた時に、護れる自分になっていたかったから。
 見つけた時に、今度こそ護ると言いたかったから。

 苦手な人付き合いを我慢して社交界にも出ていたのも、もちろんその人を探す為。

 会場に入れば、私の身分からか、探しに行かなくとも沢山の貴族やその令嬢たちが目の前に現れて、触れてみればと思いつつ、ダンスを踊ったりもした。しかし、ピンとくるような人物とは一人として出会えなかったのである。

 日に日につのる、焦燥感と己に対する無力感。
 だが、それを埋めてくれる存在に出会えることはなく。本当に出会えるのかどうかすらも分からない状況は、ただただ私の心を摩耗まもうさせるだけ。

 鍛錬と仕事に没頭する事で気を紛らわせるうち、気が付けば、私は社交界から遠のいていた。


「もしかしたら、その王宮の舞踏会でようやく出会えるかもしれないぞ? ……陛下にも言われたんだろ? 仕事は俺に任せて行ってこいよ」

「……わかった。当日は頼む」

「いいっていいって。あ、そう言えば、その舞踏会にシュヴァリエ侯も出席されるハズだから、挨拶しとけよ? ……あの人怖いからな」

「……それもわかってる」

 私はそう言うと、モヤモヤとした気持ちを振り払う為、仕事用へと頭を切り替えたのだった。
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