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Overnight dream..*I(上)
しおりを挟む「……ふぅ」
昼休み。
会社の食堂でお弁当を食べ、お茶を飲み、一息つく。
(谷ちゃん休みだし、お弁当も早く食べ終わっちゃったな……)
私は空になったお弁当箱を片付けながら、そんな事を思った。
いつも一緒にお昼を食べる同僚女性が休みを取っていて、いつもならお喋りをしながらゆっくり食べるお弁当を今日は1人黙々と食べた為、かなり昼休憩の時間が残ってしまった。
(彼氏と温泉かぁ……。いいなぁ……)
金曜日の今日から有休をとって日曜日まで温泉旅行に行くのだと、嬉しそうに話す同僚の様子を思い出し、小さくタメ息をつく。
「……ボッチは暇だ……」
思わずそう呟いてしまい、時間を持て余している自分を自覚して。
(たまにはスマホゲームでもしてみようかな……?)
そう思ってアプリの検索画面を開くと、1つのゲーム紹介画像が目に留まった。
何気なくタップしてそのゲームのトップ画面を開くと、夜空の画像を背景に中央に白文字で『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』と書かれていて、その文字を囲むようにピンクや黄色のキラキラとしたエフェクトがかかっていて。
それを見て一瞬何のゲームだろうかと頭にハテナを浮かべたが、すぐに理解した。
(……ああ。俗に言う乙女ゲームってやつ?)
元々があまりゲームをしない身なので、そう言うゲームがあるということは知っていたが、やった経験はなかった。
(恋愛シミュレーションゲームか……。これもある意味経験になる……かな……?)
そう思って更に画面をタップしようとした時、「小鳥遊」と私の名前を呼ぶ声がした。
声のしたほうを見ると、1人の背の高い男性が近づいて来るのが見える。
「佐々木さん?」
「おう。……って、どうした? 髪下ろしてんの珍しいじゃん」
「あー、さっきまで結んでたんですけど、ゴムで痛くなっちゃったんで、下ろしたんです。また後で結びますよ」
「へぇ? 結んじゃうんだ? ……下ろしてんのも可愛いのに」
「え? あ、ありがとうございます」
「……つか、今日は小鳥遊1人? 谷口さんは?」
「谷ちゃんは今日から有休とって彼氏さんと温泉旅行です」
「ああ、前言ってたやつ、今日からだったんだ?」
「はい。だから今日は私、ボッチで」
「ははっ。なるほどな。……じゃあ、そんな可哀想な小鳥遊ちゃんには俺がプリンあげちゃおうかな」
佐々木さんはそう言うと、可愛らしい紙袋を一つ机に置いた。
「え?! ……わ! シュクレのプリンだ! どうしたんですか?」
「午前中、営業で近くまで行ったんだよ。んで、前に小鳥遊が言ってた店ってここかって思って。買ってきた」
「さすが営業課期待のエース! 記憶力すごいですね! ふふふっ、嬉しい! ここのプリン好きなんですけど、ウチから離れてて中々買いに行き出せないんですよ! 本当に嬉しいです、ありがとうございます! あ、そうだ、お金は?!」
「はは、気にすんなって。そんだけ喜んでもらえば十分。……と、やべ、電話だ。……じゃあ俺行くわ。またな」
そう言ってから電話をしだした佐々木さんに、笑顔で頭を下げ手を振れば、佐々木さんも笑顔で手を振り返してくれて。
そのまま後ろ姿を見送った後、私は目の前のプリンに視線を移した。
(ふふふ! シュクレのプリン! 久しぶりだ!)
そう思った瞬間、昼休み終了10分前にセットしていたスマホのアラームが鳴った。
(……残念! ま、いっか。3時のおやつで食べよーっと!)
ニヤニヤする口元を手で隠しつつ、私はお弁当の袋とプリンが入った紙袋を持ち、午後の準備をするために食堂を後にした。
*
「プリン美味しかったな……」
仕事を終えて自分のアパートへと帰り、夕食やお風呂などを済ませ、ベッドに入って。
なんとなく、そう独りごちた。
(っていうか、佐々木さん本当にカッコイイんだけど……)
佐々木さんとは同期で入社して3年になる。
私は短大卒で、佐々木さんは4大卒の2才年上だったからか、妹に構うみたいによく話しかけられる関係だ。
そしてたまに、今日みたいに餌付けのごとくお菓子やデザートをくれて。
その度に嬉しく思ってドキドキしてしまうのだが、片や営業課期待のエースと呼ばれているイケメンと、片や事務課の地味子では起きるものも起きないだろうと期待はしないようにしていた。
「……はぁ。今日はもうプリンの事書いて寝よ」
前の彼氏に振られてから色々あって、ベッドの中でメモ程度の簡単なものだが日記をつけるようになった。
とりあえずその日あった嬉しかった事を書き綴って、出来るだけ幸せな気分で眠りにつくようにしているのだ。
明日は休みでもう少し起きていてもいいのだが、家の掃除やら、作り置きを作ったり、ショッピングに行ったりしたいと思っているし、それなら早く起きたい。
今日は佐々木さんとプリンの事を書いて早めに寝ようと思いスマホの画面を開くと、そこには、夜空を背景にしたキラキラとした画像が映し出された。
「あれ? 昼間の……」
ゲームのトップ画面だ。
あれから他のアプリを開いたりしてこの画面は閉じた筈だが、知らず知らずに指が触れてしまったのかもしれない。
(……オーバーナイト・ドリームねぇ……)
そう思いつつ、何気なく画面をタップする。
『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』
『I.初心者さんにオススメ! 女心に寄り添うトロけるような手ほどきH』
『II.真面目な王子と煽り合う激しめラブH』
『Ⅲ.オレ様騎士と月夜のケダモノH』
すると、ゲームタイトルと、キラキラしたイケメン男性キャラのサムネイル、そしてそれぞれにサブタイトルのようなものが書かれたキャラ一覧表のような画面へと移った。
たしかこういうゲームは分岐点で選択肢が出て、それによってストーリーが進む筈だが……。
(んん~? スマホゲームでHって、どうすんの……?)
セクシーボイスとかだろうか? と思いつつ、とりあえず「初心者さんにオススメ!」と書かれた男性キャラをタップすれば。
『シリル・ヴェルマンドワ 26才 デザイナー兼ショップオーナー』
『~「……嫌なら嫌と言いなさい」~』
そこには、いかにもゲームキャラっぽいワインレッドのウェーブがかった長髪に、垂れ目がちな薄紫の瞳と泣き黒子が印象的なキャラクターイラストと、そのキャラのセリフと思しき一文が画面に大きく映し出され、その下に『彼に決める』と書かれたピンク色のボタンが映し出されていた。
(うーん……、ちょっと、やってみる?)
どうやってゲームでHの手ほどきをしてくれるのかは分からないが。
何故か無性に気になるのも確かだし、まぁ、所詮ゲームなんだから、課金画面や怪しい画面になったらやめてしまえばいい。
(それもまた経験だよね)
そう思って。
私は、ほんとぉ~に軽い気持ちで、ピンクのボタンをタップした。
そう。決定してしまったのだ。
そしてその瞬間。
「……ん”ん”っ?!」
私は強い眠気と目眩に襲われ、そのままベッドの中で突っ伏しそのまま意識を失った。
*
「…………え?」
そこは暗い夜道だった。
次に気付いた時には、ベッドの中にいた時と同じ、裸足に、パジャマ替わりに着ていたカーキ色のフード付き膝下スウェットワンピースという姿のまま、私は外にいた。
「…………どこ? ここ?」
人気のない、月明かりのみが照らす石畳みの細い道。
路地裏と思われるその場所から周りを見渡せば、見覚えのない、そもそも日本ですらなさそうな雰囲気の建物が並んでいるのが見えた。
(……えっと? 私、さっきまでベッドにいたよね? それで日記書こうとして? スマホ開いたらゲーム画面で? ……何となく気になってシリルってキャラで決定ボタン押したあと……? ……え?)
必死に思い出そうとしても、ベッドで眠気と目眩に襲われてからここに立つまでの記憶がない。
(え、え、ちょっとまって! え、どゆこと?)
思わずヘナヘナと蹲り、頭を抱えてパニックに陥っていると、近くの建物からドアが開く音がした。
(…?! 人が、来る……?!)
人が近づいてくる気配に咄嗟に逃げようとしたが、足に力が入らず余計にパニックになる。
(えっと! えっと?! あ! フード!)
パニクった脳内で、それを被ったところでどうにもならないと思いつつ、ワンピースのフードを被って下を向いていると、……足音が側まで来た。
「……えっ?! 何? 人? だ、大丈夫!!?」
相手の、驚きつつも私を心配する声に恐る恐る顔を上げると、その人物の姿が見えて。
相手の顔を見た瞬間、私は息を飲んだ。
「……シ、リル?」
「へ? え? 女の子? なんでワタシの名前……?」
暗くて色はよく分からないが、ウェーブがかった長髪を1つにまとめてサイドに流し、中性的な雰囲気がある整った顔立ちに、少し垂れ目な瞳と泣き黒子。
そこには、スマホの中で見たあのキャラにそっくりな男性が立っていたのだ。
「あの、本当に、あなた大丈夫??」
「……えっ。……あ」
座り込んだ私に目線を合わせるためだろう。
その男性はそう言うと、私の目の前にしゃがみ込んだ。
「うーん? 襲われたとかって感じはしないわね。……立てそう?」
「は、い。……たぶん」
手を差し出され、その手に触れた瞬間、普通に感じる体温に何故かドキリとした。
「……ッ! 痛っ!」
「どうかした?!」
「あ、足が……」
膝の内側にピリッとした痛みを感じた上に、力が入りきらず再びヘタリ込む。
「あら? あなた、裸足じゃない。擦りむいたのかしら? ……えっと、すぐそこにワタシの店があるのよ。こんな暗いとこに1人で置いとけないし、明るい所で手当てをしましょ? ……ね?」
「ひゃ!」
「……わお。あなた、軽いわねぇ」
ね? と言う言葉とともにフワリと横抱きに抱えられ、驚いて慌ててしがみ付くと、甘すぎないフローラル系の香りが鼻を掠めた。
*
「じゃあ、レナ、ちょっとここに座って待っててちょうだい」
シリルさんに抱えられたまま、建物に入りソファに降ろされる。
抱えられて運ばれる途中軽く自己紹介をしたのだが、やはりこの男性は『シリル』だと名乗り、そして建物内の照明が点けられると目にも鮮やかなワインレッドの髪が目の前に広がった。
(ここは……? ワタシの店って言ってたけど……。あ、そう言えばデザイナー兼ショップオーナーって書いてあったっけ?)
辺りを見渡せば、いくつものトルソーや布、大きな机に、ハサミやメジャーなどといった、服を作るための空間が広がっていて、おそらく、ブティックなどの奥にある製作用の部屋なのだろうなと思われた。
そんな事を考えていると、シリルさんが戻ってきて。
その手にはタオルと、救急セットらしき箱が持たれていた。
「手当てするから。……ちょっと触るわよ」
シリルさんが私の前に跪いてそう言うと、私の足を持ってワンピースの裾を少し捲った。
「……膝の内側を少し擦りむいてるだけね。舐めときゃ治るわ」
「……え?」
「ふふふ。冗談よぅ」
シリルさんはそんな事を言いながら、濡れたタオルで傷口を優しく拭いてくれて、足の裏もついでだからと拭いてくれた。
(……キレイな手だな……)
色々な事が一度に起こりすぎてパニックになっていた脳内は、今はすっかり落ち着いていた。いや、思考力が低下しているのを感じるので、ショートしかかっていると言うほうが正しいのかもしれない。
そんな脳内で、シリルさんの手を見ながら私はそう思った。
男性らしい筋張った長い指なのに、どこか女性っぽさも感じる滑らかな肌と整えられた爪、そしてその繊細な手の動きに絶妙に色っぽさを感じて、その上、知らない美形男性に足を触られているという状況が拍車をかけて変にドキドキしてしまう。
「……少し染みるかも。ちょっと我慢してね」
これは治療だと自分に言い聞かせてなすがままにされていると、そう言ったシリルさんに薬を塗られ、ガーゼを当てられ、あれよあれよと言う間に包帯まで巻かれた。
怪我の具合に対して、包帯なんてちょっとオーバー過ぎではないかと思ったが、手当てを受けた側として文句は言えなかった。
「……よし。こんなもんかしらね」
シリルさんは一息ついてからそう言うと、顔を上げて私に目線を合わせ、少し微笑んだ。
その時になってよく見る事ができたその瞳の色はとても美しい薄紫で、一瞬見惚れてしまった。
「……ありがとうございます」
「他には? 怪我してるところはない?」
「……大丈夫だと思います」
「そう。それならいいけど。……あ、ちょっと待ってね。温かい飲み物を用意するわ」
シリルさんはそう言うと、救急箱とタオルを持って1度部屋から出て行き、再び戻ってきた時には、ほんのり湯気が立ち昇るティーカップが乗ったトレイを手に持っていた。
「隣、座るわね。……えっと、それで? あなたは何故あんなとこで座り込んでいたの?」
シリルさんが隣に座り、私に温かい紅茶を渡すとそう聞いてきた。
「……分かりません」
熱すぎない、程よい温かさの紅茶を一口飲み、私はそう答えた。
「分からない?」
「……はい。信じてもらえないかもしれませんが、気付いたらあそこにいて。……パニックになっちゃって……」
「……記憶喪失? いえ、名前とかは分かっているのよね。……えっと、じゃあ、何処から来たかとかは分かる?」
なんと説明したらいいのか分からず、無言で首を横に振る。
この時には既に、私は、ここはゲームの世界なのだと思い込むことにしていた。
VRも今や進化して、スマホの画面をタップするだけでこんなにリアルな体験ができるのだと。
「んな訳あるか!」という脳内ツッコミは無視をして、ただひたすらに出るのかどうかすら不明なログアウト表示がどこかに出ることを祈っていた。
「……遠いトコです。たぶん。でも、どうやって来たのかとかは全然……」
「……そう、なの。……ねぇ、そのフードって外せる? もうちょっと顔をよく見せてもらっていいかしら?」
シリルさんにそう言われ、そういえば被ったままだったなと思いつつ、私はティーカップをソファ脇の小さなテーブルに置き、フードに手を掛ける。
髪を纏めていたヘアクリップが引っかかったので、それも一緒に外し、手で髪を解してからシリルさんに再び視線を移すと、そこには驚いたように目を見開いたシリルさんの顔があった。
「……? シリ…「眩惑の魔女?」
「え……?」
「……漆黒の髪色に、異国の肌……。まさか、本当に?」
「あの? シリルさん?」
シリルさんの手が、何かを確かめるように私の髪に触れ、頬に触れた。
「……魅惑的な女性と聞いていたけど……」
「シリルさん? あの、なんですか? その、……眩惑の、魔女って?」
「……?? あなた知らないの?」
「……はい」
「うーんと、眩惑の魔女っていうのはね、―――― 」
そう言ってシリルさんが話す事によると。
『眩惑の魔女』
それは、セックスに対して不安や不満を抱え悶々とした日々を過ごす男性の前に現れ、共に甘い一夜を過ごしてくれる、つまりはセックスをさせてくれる女性の事をいうらしい。
まぁ、そういうと、夜の蝶のことのように聞こえるかもしれないが、彼女らとはまた違っていて。
眩惑の魔女と呼ばれるその存在は、どこから来るのか分からないが『突然現れ』、夜を共にした男性の心を絡めとり骨抜きにして、その男性がどう繋ぎ止めようとしても『突然消えてしまう』らしい。
しかも現れること自体が稀で、まるで選ぶかのように3人の男性の前に現れ、その特徴は、異国の肌と、この世界に存在しない漆黒の髪、そして、1度現れた男の前には2度と現れない事……。
その、嘘か本当かも分からない存在の噂は決して絶えることなく、まことしやかに囁かれているのだとか。
「……甘い一夜、ですか……」
シリルさんの話を聞いて『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』という、ゲームのタイトル画面が頭に浮かんだ。
「……でも、たぶんですが、私は違うと思いますよ」
「え?」
「たしかに、黒髪ですけど、甘い一夜を提供して骨抜きにできるほどのテクは……残念ながら持っていないです……」
おそらく眩惑の魔女とは、このゲームのプレイヤーのことだろう。
突然現れては突然消えるということから、どうやら帰ることは出来そうなのだなと安堵すると同時に、私はそんな噂をされる程の時間は提供できないと、内心焦る。
「……テク……?」
「……はい。あの、私、経験があんまりなくて。……前に付き合ってた彼氏からも、Hがつまんないって振られちゃってますし……。もしかしたら、セックスに対して不安や不満を持っているのは私のほう……かも?」
日本ではない周囲の雰囲気。
シリルさんの現実離れした髪色、瞳、そしてその美貌に、乙女ゲームにありがちなオネエのデザイナーというキャラ。
その全てが合わさり、ストンと自分の中に落ちたと同時に、ゲームのキャラ相手ならいいかな……。という気持ちが湧き、今まで人に言えなかった自身のセクシャルな悩みが口から零れ出た。
「……ふぅん? あなた、セックスするの嫌いなの?」
「……分かりません。キスをしたり、抱き締めあったり、肌を合わせるのは好きだと思うけど。……あとは痛いし、苦しいから……嫌いっていうか、辛いかな」
「痛くて苦しい? ……ヴァージンじゃないんでしょう?」
「……ちがい、ます」
「…………」
「不感症なのかな? って。……胸とかは気持ちいいんだけど、中の気持ち良さが分からなくて。今から辛い時間が始まるかと思うと、……入れられる瞬間もちょっと怖い」
「……その、つまんないって言った男は、初めての人?」
「……はい」
「その人以外との経験は?」
「……ないです。付き合ったのもその人とだけで。他の人と経験してみれば何かが違うのかもしれないとは思うんですけど。そもそもモテないっていうのと、セックスの事を考えると……やっぱり、どうしても不安っていうか、億劫になるというか……」
「…………うーん。……じゃあ、……ワタシとシてみる?」
「え?」
「たぶんだけど、その男、下手だったんじゃない? 前戯も短かったでしょう?」
「……比べる対象がいないので、何とも……」
「ああ。それもそうね。……うん。やっぱりシよ? 大丈夫。これでも経験はあるほうだと思うし。保護しようと思って連れてきたワタシが襲っちゃうっていうのも変な話だけど、下手くそな男だけしか知らないでセックスが嫌いになったとか残念じゃない」
「……あの? ……シリル、さん?」
シリルさんの纏う空気が少し変わった気がして、恐る恐る声をかけると、ゆっくりと、シリルさんの手が伸びてきて私の頬に触れ、その親指が唇を撫ぜた。
「今ならまだ間に合うから選ばせてあげるわ。レナ、……嫌なら嫌と言いなさい」
(え。待って。もしかしてこれ……分岐点? YesかNoを選ぶ場面? ていうか、Hする前提っぽいゲームでNoとか選んでいいの? Noを選んだらログアウトするのかな??)
シリルさんと見つめ合いながら、自身の瞳が困惑に揺れるのが分かる。
(それに、そもそも私、……嫌? なのかな?)
たしかに、あのヒト以外との経験もしてみたいという願望はあったが、だからと言って知らない男とセックスなんてしていいものなのだろうか。
(でも、これ、ゲームでしょ?)
そう、これは一夜だけキャラクターとHができるゲームの筈で。
目の前にいるのは、そのゲームの中のただのキャラクターの筈で。
でも、それなのに。
ゲームのキャラクターの筈なのに、その触れる手に体温を感じて、触れられている頬から熱がじわじわと広がり脳が溶けだす。
仮想と現実が溶け混ざってしまって、その薄紫の瞳の美しさに惑わされる。
正直もう、なにがなんだか分からなくなって。
(シリルさんとのセックスは気持ちいいのかな……)
瞳を見つめたまま、つい、そう思ってしまったその瞬間。
「……んっ」
シリルさんがフッと微笑んだのが見えたかと思えばキスをされてしまって。
「比べる対象にオレがなってあげる……」
と、妖しく言われてしまったのだった。
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