Overnight dream..*

霜月

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Overnight dream..*Ⅱ

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「……ねぇ、玲奈、佐々木さんと何かあった?」


 金曜日の昼休み。
 いつものように、同僚女性の谷ちゃんこと、谷口さんと一緒に会社の食堂でお弁当を食べていると、ふいにそう尋ねられた。

「……へ? 佐々木さん? なんで?」

 急に営業課期待のエースの名前を出されてキョトリとする。

「髪も下ろすようになったし、……雰囲気も変わった気がする」

「あー……、髪型はちょっとイメチェンしようと思っただけだよ。佐々木さんとも特に何かあった訳じゃないけどな。……え、もしかして何か変? かな?」

「いやいや、そんな事ないよ。髪下ろしてるの似合ってるし、ただ、なんか急に可愛くなったなって思って。……うーん? ……あ。元彼の事が吹っ切れた、とか?」

 私には、短大時代に付き合っていた男性がいた。
 その男性との思い出があまり良いものではなく、もちろんそれだけのせいとは言わないが、正直、恋愛に前向きになれないのだと、以前に谷ちゃんに話をしてあった。

「あ。それはあるかも。ちょっとこの前の週末に色々あって……引きずってんのが馬鹿らしくなっちゃった」

「何があったの?」

「うーん……内緒。っていうか、説明が難しいや」

「ふぅん? ……ま、いっか。とりあえず良い事だったんでしょ?」

「……うんっ」

 (……まぁ、ゲームのキャラとセックスしたなんて言っても絶対信じてもらえないしね……)


『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 それは、先週末の夜に何気なくしてみようかと思った乙女ゲーム。

 何となく気になって開いたそのゲームのキャラクター選択画面で、軽い気持ちで決定ボタンをタップしたその瞬間、気付けば私はゲームの世界へと入り込んでいた。

 その世界ではプレイヤーの事が『眩惑の魔女』と呼ばれ、甘い一夜を過ごしてくれる存在として知られていて。
 あれよあれよと言う間に、私はその世界で出会ったキャラクターと、その、……致してしまったのだ。

 シリルと名乗るオネエデザイナーキャラと過ごしたその夜は、夢とも現実ともつかなくて。
 その彼としたセックスは、理性も常識も溶けてなくなるほど甘いもので。

 その経験は、元彼との過去からセックスや恋愛に後ろ向きになっていた私の心を優しく解し、こちらの世界で目覚めた時には色々なものが吹っ切れていて、少しだが自分に自信がついたような気がした。

 ちなみに。
 自身のベッドで目が覚めて起き出した直後、ソコが濡れている事に気が付き慌ててシャワーを浴びたのだが、やはりというか何というか、中に出された筈の白濁が出てくることはなく、負っていた筈の足の怪我も跡形なく消え去っていた。
 ただ、シャワー後に鏡を見た瞬間、胸元に紅い痕が1つ残っていることに気付き少しパニックになって。
 それでも、彼が何故か怒ったように強く吸い付いていた事を思い出せば、ちょっと苦笑して、ちょっとその痕を愛しく思った。


「……良い事があったっていうか、良い出会いがあったのかな……? こりゃ佐々木さんピンチかも?」

 あの夜を少し思い出してボーッとしていると、谷ちゃんが何かを言った気がしてハッとした。

「……え?」

「んーん。何でもない。あ、玲奈、そろそろ昼休み終わりだ。歯磨き行こっ」

「わ、本当だ。行こ行こ」

 谷ちゃんが何と言ったのか少し気になったが、昼休みが終わりそうになっていたため、追求することなく私達は午後の仕事にむけて動き出した。



 *



「ふふふっ! おニューの下着!」

 夜になって、お風呂上がり。
 私は新しい下着をつけて鏡を見ていた。

 いつも行くランジェリー・ショップの店員さんに勧められたエメラルドグリーンの総レース下着は、ちょっと透け感があって、ちょっとだけ谷間が盛れて、大人可愛い感じである。

(明日の休みは、これに、先週買った服を着て出かけよっと!)

 鏡を見ながらそう思いつつ、無意識に、今ではすっかり消えてしまったあの痕があった場所を触る。

 目覚めた後一度だけ見て消えたゲームのトップ画面は、あれ以来気になって探しても、辿り着くことはできなかった。

(シリルさんは、眩惑の魔女は3人の男性の前に現れるって言っていたけど……)

 たしかに、選べるゲームのキャラクターも3人いた筈だ。

(1人はシリルさんだとして。あとは……2人目が優しい王子様で、3人目がオレ様騎士だったっけ?)

 思い出しながらそう思ったが、ゲーム自体を見つけられないのではどうすることもできない。

(一時期に3人のプレイヤーが選ばれるって事だったのかな……?)

 そう考えて頭をすこし傾げた時、ベッドの上に投げていたスマホがピコンと鳴った。

 鏡から離れ、スマホのロックを外し、画面を覗いたその瞬間。

 私は息を飲んだ。

『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 スマホに広がっていたのは、そのゲームタイトルが上に表示された見たことのあるゲームのキャラクター選択画面。

 そこには、いかにも王子様です!と言わんばかりの、サラサラのプラチナブロンドに美しいエメラルドグリーンの瞳をしたイケメンキャラが微笑んでいて。

『ライアン・リシャール 20才 第一王子』
『~「……君を抱かせてくれないか」~』

 という人物紹介やセリフとともに『彼に決める』と書かれたボタンが表示されていた。

(やっぱり私がプレイしないといけないの?! っていうか、次はこのライアン王子って決まってるのかな?!)

 まるで急かすようにチカチカ点滅しだした決定ボタンを見て慌てていると、またもや強烈な眠気と目眩に襲われて。

(このままじゃ絶対風邪引く!!!)

 そう思って急いでベッドに潜り込んだのと同時に、私の意識は途切れたのだった。



 *



(…………ん?)

 体に感じるフカフカの感触と肌触りの良い布の感触、そして頭を誰かに優しく撫でられる感触に、意識が浮上した。

 ボヤリとした意識のままゆっくりと目を開ければ、薄暗い部屋の中、すこし困った風に微笑みながら私を見つめる瞳と目が合った。

 その瞳の色は、暗くてもよく分かるほどの美しいエメラルドグリーンで。

「ライアン……王子……?」

 私は思わず、その名を口にしていた。

「……ああ。そうだよ。……君は、眩惑の魔女だね?」

「……はい」

「やはりこの黒髪は本物なのか。……驚いたよ。湯浴みを終えて寝ようかと思えば、私のベッドに君が寝ているんだから」

「え……?」

 目の前の人物のその言葉に、上体をすこし起こして見渡せば、そこは天蓋付きの大きなベッドの上である事が分かって。
 そしてベッド脇の照明のみが灯ったその薄暗い部屋は、暗くとも一目で分かるほど豪華で、さすが王子様の部屋だなと思った。

「……しかも、そんな魅惑的な格好しているものだから、理性と戦うのが大変だった」

 続けられたその言葉に、自身の体に目を移せば、いつの間にか掛けられていたガウンが落ちグリーンカラーの下着が見えている。

「あ、の、これはっ」

「……これは、私の瞳と同じ色? ……私を誘ってる?」

「ちが、あの、これはたまたまで!」

「……そうなの? ……それは残念だ」

 1日の終わりのベッドの上。
 気怠げなライアン王子は、ガウン姿でベッドに横になったまま、すこし笑ってそう言った。

「……少しお疲れのご様子ですけど、……その、……誘って良かったんですか?」

 明らかに不審者な私を追い出そうともせずに、笑って残念だというその様子が気になり、そう聞いてしまった。

「うーん、確かに疲れてはいるけど。……でも、魔女には誘って欲しかったかな」

「何故、ですか? ……王子なら私でなくてもお相手は沢山いらっしゃるのでは?」

 触れなくても分かるほどサラサラの綺麗な金髪に、長いまつ毛に縁取られた美しいエメラルドの瞳。
 そして、ガウンから覗くその肌は滑らかで、均整がとれているのだろうなと思われる体。
 人目を引く華やかさを持ったこの美形男性に、甘さを含めて微笑まれれば、ドキリとしない女性などいないだろうに。

 ここがどんな世界でどんな国なのかはよく知らないが、一国の王子で、且つ、これだけの容姿をしていれば夜の相手には困らなそうだなと思うのだが……。

「魔女、それはちょっと違うよ。まぁ、たしかにこの立場故、相手にと望んでくれる女性は多いのだが、……逆にその立場故、それなりに私も相手を選ばないといけなくてね」

(ああ、なるほど……)

 王子ともなれば後継の事も問題になるのだろうし、下手に女性に手を出して、スキャンダルを起こしてもいけない訳だ。

 それでも夜の店とか色々やりようはありそうだが……。

(……きっと、真面目なのね)

「私も20でそろそろ妃を決めねばならないとは分かっているのだが、政務が忙しくて、膨大な量の釣書をじっくり見る暇もない。……というか、あの釣書の山を見ると正直ゲンナリする」

 そう言って、口元には笑顔を浮かべつつも、しんどそうに片手で顔を覆った王子を見て、この若く美しい王子にいったいどれだけのお見合い話が来ているのだろうかと苦笑した。

「……ねぇ、眩惑の魔女」

 王子が一つタメ息をついて私を呼んだかと思えば、彼の手が伸びてきて私の髪に触れる。

「はい」

「…………君を抱かせてくれないか」

「……っ……」

「男というのは疲れる程に生存本能が働くらしくてね。……もちろん、抱かせてくれるなら精一杯優しくすると誓うし、知らない男に抱かれるのが嫌なら拒否してくれてもいい」

「……えーっと、王子こそ、どこの誰かも分からない私を抱くのは平気なのですか?」

「……分からない。が、もう正直、君のその姿を見ているだけで理性が焼き切れそうだ」

 その困ったように、どこかに救いを求めるように話をする王子の様子を見ながら考える。

(……疲れた王子様……か)

 きっとこの人は、私よりも歳下なのに、平凡な私とは比べ物にならない程のものを抱え日々を過ごしているのだろう。
 余暇を楽しむ余裕もなく心身ともに疲れ、女性に一時の癒しを求めようにもその女性すら悩みの種の一つで、どうしようもない日々。
 もし彼がそんな日々を過ごしており、そんな中で目の前に突然、ただ一夜だけ相手をしてくれると噂の存在が現れたなら、それはどれほど甘い誘いとなるだろうか。

(私にこの人が癒せるかな……?)

 恐らくだが、ここが分岐点だ。
 YesかNoかを一応は選ばせてもらえるようだが……。

(……ここでNoを選んだ後の私自身の後悔が凄そう)

 ゲームの世界だか異世界だか知らないが、これ程まで美しい人、しかも一国の王子様からこの体を求められる経験など、この機を逃したら一生、絶対、確実に、ないだろう。

(……っていうか、Yesしか選ばせない強制力みたいなのを感じるんだけど……)

 それならば、正直に心中を吐露して抱かせてほしいと言うこの人に、全てを忘れ何も考えずに抱ける相手としてこの身を差し出してもいいのかもしれない。

「では、…………私で、よければ」

 そう言って手を伸ばし、頬に触れれば滑らかで、髪に触れればやはりサラサラとしていて。
 その感触が気持ちよく、クスリと笑ってしまったその瞬間。

 私は手を引かれ、キスをされて。
 辺りにせっけんの香りがフワリと漂った。

「……ん、んん、ん……っ。王、子っ」

「ライアンと呼んでくれ。……ただの1人の男として君を抱きたい」

「……ライアン、様。んっ、ふ……ッ」

「眩惑の魔女、……君の名前は?」

「……レナです」

「レナ。……いい名前だ」

「んんんっ」

 キスをしながら仰向けにされ、目を開ければ、微笑みながらもすこし申し訳なさそうに私を見下ろすライアン様の美しい瞳と目が合った。

「すまない、レナ。私なりに精一杯優しくするとは誓うが……正直なところあまりというか……ほとんど経験がなくてね。その、なんだ、……下手だったら、すまない」

 恥ずかしいのか目元を赤くして、その眉をハの字にして紡がれた言葉にキョトリとする。

 そしてそのままじっと目を見つめていれば、耐えられないという風に視線をフイと逸らされてしまって。
 彼から香るせっけんの香りとその様子が相まって、今この人は『王子』ではなく『ただの女性経験の浅い男の子』なのだと思えて、なんだか可愛らしく感じた。

「ライアン様」

 名前を呼べば、彼が再び私に視線を合わせた。

「……私もそんなに経験があるほうではないんです。だから、……なんと言うか。お互い気負わずにしませんか? 私も教えますから、ライアン様も……その、どうすれば良いのか教えて下さい」

 彼の頬に手を添えてそう伝えれば、こんどは彼がキョトリとした顔をして、その後ふわりと嬉しそうに微笑んだ。

「レナは優しいね。……そう言ってくれてありがとう」

「ライア、んんっ」

「じゃあ、レナ、……もっと君の事を教えて?」

 名前を呼ぶ途中でキスをされ、片手を取られて指にキスをされた。
 そのまま指を絡めて手を繋がれベッドに縫い止められる。

「……君を知りたい」

 その言葉と共に彼の唇が降ってきて。
 それは精一杯優しくするという彼の言葉通りに優しいものだった。

 唇、額、瞼、頬。

 緊張からか少し冷たい彼の唇が触れる度、自分の中にじわりと甘い熱が灯るのを感じる。

「ん……、ぁあっ」

 そして耳にキスをされ、耳の輪郭から流れるように首筋を舐められた時、思わず吐息に混じり声が零れた。

「んぁ、あ、ああっ、ふ……ッんっ、んんっ」

 吸われ、舐められ、また吸われて。

 声を漏らし続ければ、唇を塞がれ舌が入ってきて。

 少し戸惑いがちに私の舌を舐めるそれに、応えるように絡ませれば彼の体がピクリと震えた。

 互いが互いを確かめるようにゆっくりと、互いの舌を舐め合い、絡め合い、互いの口内を探り合う。
 彼の上顎を擽るように舌先で舐めた時、彼の体が再びピクリと震えたので更にそこを擽り続ければ、慌てた風に彼の唇が離れていった。

「ちょ、待って。は、何っ。……ッ、なんか理性が飛びそうなんだが……っ」

 息を乱れさせ耳まで赤くして、戸惑ったようにそう言う彼が、なんだかすごく可愛く思えてキュンとして、もっと慌てさせたくなってしまった。

(嗜虐心って、こういう気持ちのことをいうんだろうな……)

「レ、ナっ……ッ?! んっ! ん、……んんんっ!」

 そう思いつつ、彼のガウンの首元を掴んでキスをして、私から舌を入れて彼の舌を舐め絡めながら、彼のガウンの中へと手を入れる。

 熱が灯ったのであろう、彼の体は熱く、滑らかで、程よい張りが筋肉質さを感じさせて。
 キスをしながら触っているだけでもゾクゾクした。

「はぁっ、は、レナ、私にも、触らせて?」

 唇を離し上体を起こしたライアン様が荒く息を吐いてそう言うので、彼に胸を突き出すように背中を浮かせ自分でブラを外せば、性急な様子で頂に吸い付かれた。

「ああっ。ふ、ん、あ。……あ、ぁあ……っ」

 舌先で擽られ、ベロリと舐められ、吸われ、歯を立てられる。
 片方をやわやわと揉まれながら、もう片方を彼の温かな口内で貪られれば声が出て。

「魔女は可愛い声で鳴くんだね。……脳が痺れそうだ」

「んやぁっ、あ、ふ、んんっ、ん、んあ、んんんっ」

 頂を抓り捏ねられながらすこし意地悪く微笑みながらそう言われて、慌てて口を閉じれば唇で塞がれて舌で割られた。

 しばらく肌を寄せ合い、キスをする。

 すると、我慢できないと言わんばかりに、彼が肌けたガウンの隙間から、既に熱く硬くなっている彼のモノをショーツ越しに秘裂に押し当ててきた。

(……私も欲しいけど……)

 もう少しだけ、この若く美しい男性が乱れる様が見たい。
 もう少しだけ、乱れてもなお高貴なオーラを纏うこの人の、より乱れた姿が見たい。

 ……私のこの手で乱れさせたい。

 一度そう思えば我慢ができなくなって、その衝動のまま私は彼の体を押し返し、組み敷いた。

「ライアン様、……私の番です」

「……レナっ? ……ッ!!!」

 耳元でそう囁いてからそのまま彼の耳にキスをして、先ほど彼からされたのと同じように私も彼の首筋を吸い舐める。

 そのままリップ音を響かせながら胸元まで下り、その小さくもプクリと膨れた頂を、唇で喰み、舌先で擽り、チュッと音を立てながら吸い上げた。

 指先で押せばフニフニと、でもコリコリともしていて。
 なんだかその感触が愉しくなって、片方を舐め転がしながらもう片方を指で捏ねれば、彼がくぐもった声を漏らしたので、少し上体を起こして目線を上げれば、顔を真っ赤にして手で口を押さえるライアン様の顔が見えた。
 
(……可愛い……)

 その様子に少し満足して思わず笑みが浮かんだが、欲とは無限に湧くもののようで、もう少しだけと思ってしまった。

 彼の体に視線を戻せば、ガウンはすっかり肌けているのにその紐だけがまだしっかり巻かれていて、とりあえずとその紐をシュルリと解く。

「レナ! ちょ、ダメだ! 待っ、ぐっ! ……ッ!!!」

 そして、私はそのまま、彼の制止の声を無視して彼のモノに手を添わせた。

 灼熱を孕むそれは私の指が動く度にビクリと跳ね、その先を指先で撫でれば、彼が荒い息を繰り返す。
 既にそこは透明な液を零していて、ツルツルとしたソコに指で液を塗り広げれば、更に液を溢れさせた。

(コレが今から私に入る……)

 そう思えばドキドキともゾクゾクともして、私自身の蜜が溢れるのを感じて。

「……私こそ下手だったらごめんなさい」

 気付いたらそう言って、彼のモノを口に含んでいた。

 先を舐めチュッと吸えば独特の香りが鼻腔を掠め、少し塩気を帯びたお世辞にも美味しいとは言えない味が口に広がったのだが、それが何故だか無性に興奮した。

「ぅあっ、レナ、っ、レナ! ほんと、ダメっ!」

 上体を起こした彼の手が頭に触れ制止の声がかかるが、本気の抵抗ではない事ぐらいは私にも分かる。

 口を離して、舌先でツツ……と舐め、先を擽り、再び口に含んで緩急をつけて吸い上げれば、彼の声がより切羽詰まったものへと変わって。

「あぁっ! くそ、ッ! ……はっ、く、っ……ーーー!!」

 手で扱きながら口内で舌に包み込むようにして吸い上げた時、舌奥へと熱いものがブワリと放たれて、私はそのまま口に含みつつ、彼のモノに纏わり付く自身の唾液や放たれた白濁を舐め取り嚥下した。

「……んっ、はっ、はぁっ、く、……ッ、は、レーナーっ!」

「は、はいっ」

 乱れた息を吐きながら少し怒った風に名前を呼ばれて、やりすぎてしまったかと思い、少し焦りながら彼の前に座る。

「……口、開けて」

「…………?」

「ハァ……、飲んだの?」

「え。……はい。……ごめんなさい?」

 元彼からは飲まされていたから、普通に飲んでしまったがいけなかったのだろうか。

「……ッ。謝らなくていい。しかし、……不味いんじゃないのか?」

「んー……? いいえ?」

 美味しかった! と言うつもりはないが、それほど不味くはなかった。
 いや、不味かったは不味かったが、なんと言うか、嫌な感じは全くしなかったのでそう答えると、再び顔を赤くして口を手で覆い「そうか……」と呟かれた。

(……それにしても)

 この世界の男性は性欲旺盛なのだろうか。
 シリルさんもそうだったが、ライアン様のソレは熱を放った直後だというのに未だ硬さと熱を保っていて、その存在を主張しているのが目の端に映る。

「レナ」

 口端を指で拭いながらそんな事を考えていると、名前を呼ばれたのでライアン様と視線を合わせる。

「もう一回、口開けて」

 そう言われて素直に口を開ければ、舌を入れられて舌を入念に舐められた。

「……不味いじゃないか……」

「……そう? ですかね? ……じゃ、キス、止めときますか?」

 私の舌に残るそれの味がしたのだろう、眉間に皺を寄せて言われたのでそう答えたら、「それはダメだ」と言われて再びキスをされた。

 そのまま肩を押されてベッドへと押し倒され、ショーツに手を掛けられて。
 彼を手伝うように腰を上げ、足を上げれば彼が足からショーツを抜き取った。

「ああ……、んっ」

「まったく。初心そうな顔をしてやってくれる……」

 彼が私を見下ろしながら秘裂に指を這わせ、まだ少し眉間に皺を寄せながらそう呟いた。

「優しくしたいと言っているのに、理性を壊そうとしないでくれないか」

 蜜を纏わせるように彼の指が秘裂をなぞって。

「……君にそんなつもりはなかったのかもしれないが、私の瞳と同じ色の下着をつけて煽ったり、理性が飛びそうなキスを仕掛けてきたり。……極め付けは私のモノを口に含みアレを飲むだと?」

「んあぁっ!」

「……ああ……君の中は熱くて、蜜がよく絡む。……入れたらさぞ気持ちがいいんだろうね」

「んんっ、あっ、ああっ! あっ、あっ、あっ! やぁあっ!」

「レナ。……私は確かに女性経験はないがね。閨事については王族としてある程度の知識は叩き込まれているんだよ。…………君の良いところはここかい?」

「んんんっ! ひ、や、ああっ! あああっ!」

「レナ、教えてくれるんだろ?……ここを刺激し続けたらどうなる? ……刺激しながら、ここを舐めたら?」

「や、ライアン、様! やっ、やっ、んんっ! は、ああっ!!」

 彼が中で指を曲げ緩急をつけて押し撫でながら、花芯を舌先で舐め突き、ちゅるりと吸い上げる。

「ああ! ライアン様っ、ダメ! んんっ!」

 その強すぎる刺激に慌てて制止の声を上げれば、彼の舌が花芯から離れた。

 その代わり片手で膝裏を持たれ、股を大きく割り開かれて。
 ライアン様はその指で私の熱が引かないようにゆっくりと中を刺激したまま、少し首を傾げて私を見下ろした。

「……ダメ? ……レナ。止めていいのか?」

「んんんっ、……ッ、は、ぁ、んんっ!」

 くちゅくちゅといやらしい水音が耳に届く度に中がキュッと締まるのが自分でも分かる。

「レナ、答えろ。……教えてくれたらイかせてあげるよ?」

 ダメだと言ったのは自分のくせに、もう少しでイけたのにと爆発しそうな自分もいて。
 強すぎる刺激に対する恐怖と、その先にある快感を求める気持ちが鬩ぎ合い渦巻いて、自分ではもうどうしようもなくなった脳内で、イかせてあげると言う彼の甘い言葉が私の思考を後押しした。

(イきたいっ)

 涙が溢れてボヤけた世界で、願うのはもう、ただそれだけ。

「止め、ないでっ! お願いライアン様、気持ちがいいのっ。だから止めっ、んんんっ!!!」

「……はっ! 泣き顔が1番そそるとか参ったな」

「ひああっ! あっ、んんっ、ん! ひぅ、くっーーー~~~ッッ!!!」

「ああもう、……ほんと、理性が試される」

「んんんっ!! ……ッ、ぁああっ!!!」

「ーーー! ぐ、……ッ、く、……そっ!!」

 何がなんだか分からない。
 指を小刻みに動かされてイかされて。
 一度だけ大きく息を吸うことができた瞬間、ライアン様が何かを言って、激流の中に熱杭を一気に打ち込まれた。

 そのまま律動が始まるかと思い緊張したが、ただ打ち込まれた状態で彼の体が降りてきて、キュッとホールドをされた。

「……はっ、ふ、あっ、はぁ……、っ、は、はぁ……っ。んんっ」

「…………少しは落ち着いたかな」

 今のうちにと目を閉じて息を整える事に集中していると、耳を喰まれ舐められて、耳元でそう囁かれた。

「…………んっ、…………んんっ、ぁ……ああっ、ん…………っ」

「……っ、レナ」

「……は、い、っ。んっ、んんっ」

 ゆっくりとした抽送が始まり、名前を呼ばれたので目を開ければ、私の顔の横に両肘をついて私を見下ろすライアン様の顔が見えた。
 少し切なげに眉を寄せながらも微笑んで、キスをするその彼の額には汗が滲んでいるのが見える。

「レナ、……やはり君の中は、っ、気持ちが、いいな」

「……私も、ぁあっ、気持ち、いいっ。……んぁ、そこっ」

「ああ。……ここ、だね」

「んんっ! ……んっ! ……ッ、やぁっ!」

 中の弱いところをグイと強く押しながら、ひどくゆっくり動く彼の熱。

 快感はたしかに感じるのに、それ以上に感じるのはもどかしさと焦ったさで。
 思わず彼の瞳を見つめ、もっととねだりそうになった時、その瞳と口元に愉悦が浮かんでいる事に気が付いた。

(この人、ワザと……?!)

「ライアン様、の、意地悪っ」

 思わずすこし睨んでしまう。

「意地悪? ……何が?」

「わかってる、くせ、……にぃっ!」

「ははっ。……ごめんごめん。……っ、レナの泣き顔を見てたら、はっ、虐めたく、なってしまって」

「……焦らすなんてひどい。優しくしてくれるんじゃ、んんっ、なかったのっ?!」

「……レナ。悪かったって。……でも、あんな風に翻弄されて、黙ってられるほど、私もデキてないよ?」

「……ぅ……」

 少し律動を止め、宥めるように瞼にキスをされてから優しくライアン様にそう言われて、私自身に煽った自覚があることもあり返す言葉に詰まる。

「……レナ、優しく抱かせて?」

「……はい。……でも、ちゃんとライアン様も気持ちよくなって下さいね?」

 額をくっ付けながら優しく頬を撫でられ、優しくそう言われて。
 私からはキスを返してそう言えば、「まったく、君は……」と何故か苦笑された。

「ん、……んん、……ぁあ。あ、ん……んんっ」

 先ほどより少し早めのリズムで抽送が始まり、熱いモノが優しくソコを押し撫で、奥を突く。

「それにしても、中、良すぎだな……っ。出してなかったら……は、ッ、マズかったかも。……それに君は、声も、甘すぎる」

「……えっ? んん、ッ、ああっ」

「ずっと鳴かせて、聞いていたくなるよ」

「あ、ん……、あっ、ああっ、あっ! やっあっああっ!」

 熱杭を打つ力とスピードが次第に早くなる。

「んんんっ!! 激しっ! ああっ!」

 その力強さと勢いに思わずそう零せば、慌てたようにスピードがすこし緩みかけた。

「ッ! ……悪いっ!! んんっ!」

「んっ! ふ、お願いっ、もう、いいのっ。気持ちいいから、……もっとしてっ?」

 たしかに優しくされるのもいい。

 でも、その立場故に誰よりも己を律する事を求められているこの美しい男に、我を忘れるほど求められたなら。

(……どれほど女として満たされるだろう)

「レ、ナ……ッ?!」

 彼の背中に手を回しキスを仕掛けて、彼の脚に自分の脚を絡ませて。

「……もう、何も考えないで、……好きにして?」

 彼の理性を溶かすように甘く微笑み、その言葉を彼の体に流し込めば。

「はっ、ッ、ああもう、…………私の負けだ」

 彼は眉間にすこし皺を寄せ苦笑するように微笑みそう言った後、上体を起こして私の腰を掴み、その苦笑を、仄暗さすら感じる妖しい笑みへと変えた。

 その体勢で一度ガツリと奥を穿たれて。

 それは、これから始まる激しい熱の合図となった。

「ああっ! あ、やっ! あっあっあっ!! んんっ、あっ!」

 穿つという表現がピタリとくるほど深く、更に奥深くまでがむしゃらに打ち込まれて息が詰まる。

(息! できないっ!!)

 ハクハクと口を動かすが、その圧迫感に喉がひくつき上手く息が吸えなくて。
 吸い込むはずの空気は、熱杭が打ち込まれる衝撃で抜けていく。

 肺に残った空気も声と共に押し出され、酸素を求め彼に差し出すように喉を晒せば、舌を這わされ歯を立てられた。

 息をしたいのに唇を塞がれて。
 助けを求めるようにシーツを掴めば、指を絡めて縫い止められて。

(おかしく、なるっ!)

 そう思ったその瞬間、自然と中が締まり彼のモノをより感じて。

「ちょっ! レナ、そんな締めるなっ! ……ぐ、くっ! ……ッ、ぅああっ!!」

「んっ、ぁあっ! ひ、ッッーーー~~~………っっ!!!」

 白濁が奥で弾けるそのゾクゾクとした感覚に追い立てられるように、私の世界も白く弾けた。


「はっ、はぁっ、……ふ、んんっ、はっ。……っ」

 目を閉じて息が整うのを待っていると、崩れるように横に寝そべったライアン様に腕を引かれ、キュッと抱き締められた。

「……なんか、最後まで全部持っていかれた……」

 ぼやけた意識の外。耳元で彼の呟く声が聞こえる。

「……ライアン……様?」

 無意識に名前を呼べば、彼が顔を上げて視線が合って。

 そこに見えたのはまたもや苦笑だった。

「……まったく。一人の女性にここまで翻弄されるとは。……私もまだまだだな」

「本当は、……なんと言うか、癒したかったんですけど。……すみません、調子に乗ってしまいました」

「ほんとに。……あそこまで煽られるとは思わなかったよ」

「だって。……ライアン様が可愛いのがいけないんですよ」

 思わずそう言えば、心底ビックリしたような顔をされ、その後心底楽しそうに笑われた。

「今の私にそんな事を言うのはレナくらいだな。……ああもう本当に。…………私の完全な負けだ」

 彼がそう言った後、その顔が少し切なさを含んだ微笑みへと変わり、それと同時に頬を優しく撫でられた。

「眩惑の魔女は、1度会ったらその後2度と会えない……か」

「……はい」

「……酷い話だな。こんなに君を欲しくさせておいて」

「えーっと、……そこまで言ってもらえて、光栄? です? ……ひゃっ!」

 何と答えていいのか分からず、とりあえずそう言えば鼻頭を齧られた。

「……いたい」

「はははっ。私を弄んだ罰だな。…………はぁあ。……さてと。明日からまた頑張らなければね。……頑張って、もっと立派になって、君が悔しがるくらいイイ男にならなければ」

「……ふふっ。今でも十分イイ男だと思いますけどね」

「私に可愛いと言った口でよく言う」

「あはは」

 不意に、ライアン様の腕が更にキュッと締まって。

「……レナ。ありがとう。すごく良い時間が過ごせた」

「私も。気持ち良くて、愉しくて、嬉しかったです」

 温かい腕に囲まれてそう言えば、急激な眠気に襲われた。

(ああ、……そろそろか)

「……私の事を考えて優しく抱こうとしてくれて、ありがとうございました。……貴方に選ばれる女性はきっと幸せね」

 薄らぎゆく意識の中で、最後にとそう言った後、私の意識は完全に落ちていった。



 *



(んーーー……?)

 カーテン越しに外の明るさを感じ、意識が浮上する。

(……あ。……戻ってきてる)

 目を開ければ、そこに広がるのは見慣れた自分の部屋で。
 肌に感じる感覚から、やはり昨日の下着姿のままベッドの中にいるのだと分かる。

(もしかして……あちゃー……)

 自分で秘裂を探れば、ショーツ越しでも分かるほど濡れていて、ノロノロとベッドから起き上がる。

 ゴトリ。

 すると、ベッドからスマホが滑り落ち、床に落ちて音を立てたので見てみると。

『Overnight dream..~甘い一夜を貴女に~』

 ご利用ありがとうございました。と言わんばかりにそのタイトル画面が出ていて、前回同様、触れようとした瞬間に黒くなった。

 一応と思いロックを外してみるが、やはりというか何というか、あのゲームはどこにも見当たらなくて苦笑して。

(うーん。……ま、いっか。ゲーム世界に入らなきゃ、あんなキラキライケメン王子とセックスなんて出来ないしね)

 彼の瞳と似た色をした、自分の下着を見ながらそう思う。

「……とりあえず、シャワー浴びなきゃ」

 汚してしまって今日はもう身につける事はできなくなったが、偶然とはいえ、彼が喜んでくれたから良しとしよう。

 そう思いつつ、私はシャワーを浴びる為に浴室へと向かったのだった。
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