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ここから運命は動き出す
第4話 開幕のベルが鳴る
しおりを挟む教室で懐かしいメンツと話していると、担任の先生が入ってきた。
「ほら先生来たからアリスは自分のクラスに戻れ」
「むっ! 仕方ありませんね……。もっと話していたかったのですが……」
アリスは不服そうな表情で教室から出ていった。
「ほら、夏葉達も自分の席に戻れ」
『は~い』
そう言って夏葉達も自分の席に戻っていく。
「はい、皆おはよう」
『おはようございまーす』
入ってきたのは、一年の時も担任だった守沢先生。
通称もっさんだった。
ちなみに本人はこの呼び名は気に入っていない。
「今年ももっさんなんだな!」
「おい南雲! そのもっさんってのは止めろって去年からずっと言ってるだろう!」
「でも皆ももっさんって呼んでるじゃん!」
「俺は何度も止めろって言ってるんだ!」
もっさんが恥ずかしそうに巽に言う。
「まぁまぁもっさん、もう諦めなって!」
「くっ……! って、もう始業式か」
そう言うともっさんは諦め、始業式のために皆を廊下に誘導する。
俺達はもっさんのあとを追い、講堂に向かった。
講堂では、校長の有り難いお言葉が長々と語られ、周りの皆は夢の世界へ旅立っていた。
そんな始業式が五十分程続き、ようやく終りを迎える。そうして俺達は、自分達の教室へ戻って席につく。
「じゃあ今日はこれで終わるから、また明日な~」
『お疲れさまでした~』
こうして始業式は終わり、俺達は家に帰ろうと準備を始める。
すると、夏葉や愛衣が俺の元へやってきた。
「真くん! 一緒に帰ろう?」
「真! 帰ろ!」
どうやら一緒に帰るために呼びに来たようだ。
「あぁ、良いけど……巽は何処行った?」
「あぁ、南雲君ならクラスの人と帰るからって言って出ていったよ」
夏葉が巽の座っていた席を見て言う。
「そうか……なら帰ろう――」
「兄さ~ん! 一緒に帰りましょ~!」
夏葉達と帰ろうと言おうとした瞬間、義妹の甘奈が教室に入ってきた。
「おぉ、甘奈か」
「はい! 愛しの妹の甘奈ですよ❤」
そう言って甘奈は、俺の左腕をぎゅっと抱きしめてきた。
『なぁっ!?』
その様子を見て、夏葉と愛衣が驚きの声を上げる。
「お、おい甘奈こんな人前でそう言う事をするのは止めろ」
「え~! せっかく同じ学校になれたんですし、良いじゃないですか~!」
「いや、でも人前だし……」
「なんですか? 兄さんは、私の事が嫌いなんですか?」
甘奈が目を潤ませて俺を見つめる。
「いや……嫌いじゃないけど……」
「じゃあオッケーですね! さぁ、帰りましょう!」
「あぁ、じゃあ帰るか……。ほら、夏葉達も帰るぞ」
俺は未だに固まっている夏葉達の方を見て声を掛ける。
「え? あ、あぁうん……」
「わ、分かった……」
彼女達は戸惑いながらも俺と甘奈と共に廊下へ向かう。
俺達が廊下へ出ると、右腕にむにょんと柔らかい感触が襲いかかる。
「真~! 私と一緒に帰りましょう?」
「おぉ、アリスか……びっくりしたぁ……」
「あ、アリスさん……!」
甘奈が俺の腕に抱きつくアリスを見て、むむっと顔をしかませる。
「あぁ、甘奈さん……。そう言えばうちに進学したんでしたっけ?」
「そうですよ! 一番近い学校がここだったので! ていうか、知ってましたよね!?」
「まぁ甘奈さんがうちに進学しにきたのは知ってましたよ?
それにしても……一番近かったからですか……」
「な、なんですか! その疑うような目は!」
アリスの疑うような目を見て、甘奈が少し焦ったような口調で彼女に言う。
「いえ? 本当に近いっていうのが理由なのかなぁと思いまして」
「ななななななな! 何を言ってるんですか!? 理由はそれに決まってるじゃないですか!?」
「声、震えてますよ?」
「なっ!?」
二人が訳の分からない話をしている間で、俺は呆然と眺めている。
「あの……二人共何の話してるんだ?」
「兄さんは気にしなくていいです!」
「真は気にしなくて大丈夫です❤」
「あ、はい」
二人の圧に気圧され、俺はだんまりを決め込むことにした。
「ねぇ愛衣ちゃん、これまずくない?」
「うん、まずいよね……」
何やら夏葉と愛衣までもがこそこそと話し始める。
「あのさ、話合うなら俺一人で帰っていい?」
『ダメ!』
「あ、はい……」
多数決には敵わない俺だった……。
廊下でのいざこざも何とか収まり、俺達は自分の家に向かって歩を進める。
ちなみに、まだ俺の両腕は甘奈とアリスによって自由を封じられている。
そんな俺や甘奈の後ろを、夏葉と愛衣が少し遅れて着いてきていた。
「なぁ、そろそろ離してくれない?」
「甘奈さんが離せば私も離しますよ?」
「私もアリスさんが離せば離します」
『むきーっ!』
何でこの二人はこんなに争ってるんだろうか……。
「ねぇ愛衣ちゃん……」
「言いたい事は分かってるよ夏葉」
「あたし達もアピールしていかないとダメなんじゃ……」
「でもどうやって……?」
「それなんだよね……」
俺達の後ろでも何やら夏葉と愛衣が何かを話しているようだ。
そんなやり取りをしている間に、俺達は愛衣と別れる。
「じゃあね、真! 皆も!」
「おう! また明日な!」
「愛衣ちゃん、また明日ね!」
俺と夏葉は俺達と離れる彼女に別れの挨拶を送る。
「真、また部活見に来てよね?」
「あぁ、分かってるよ! じゃあな!」
そう言って愛衣は一人走り去っていった。
愛衣と別れた俺達は、自分達の家に向かって再び歩き出す。
夏葉とアリスは幼馴染なので、家が隣と正面にある。
なので、俺達は最後まで一緒なのだ。
そうしている内に、俺達はそれぞれの家に到着した。
「じゃあ真、私はここで。それではまた明日❤」
「真くん! 明日も一緒に行こうね!」
「おう! じゃあまた明日な! ほら、甘奈も二人にお別れしろよ」
俺は、二人を無視して家に入ろうとする甘奈に声を掛ける。
「仕方ないですね……。じゃあ、夏葉さん、アリスさんまた会う機会があれば……」
「いや、明日の朝会うだろ」
俺はふざけた事を言う甘奈にすかさずツッコむ。
しかしそんな言葉も聞かず、甘奈は家に入っていってしまった。
「甘奈ちゃん! また明日ね?」
「甘奈さん? 先輩は敬うものですよ?」
家に入ろうとする甘奈に向けて、二人の幼馴染は笑顔で言う。
うん、俺の幼馴染はきっちりしてるなぁ……。
しかし、甘奈って二人とこんなに仲悪かったか?
そんな事を思いながら、俺は申し訳なく思い、二人に向けて謝罪する。
「何かごめんな? 甘奈の態度が悪くてさ……」
「ううん! 大丈夫! 気にしてないから!」
「私も気にしてませんよ。それに……甘奈さんの気持ちも分からなくはないですから」
「……? 何かいまいちよく分からないけど、ありがとうな」
俺は二人の優しさに感謝しつつ、家に入る。
「おーい! 甘奈?」
俺は家に入り、二階に上がる。
そして俺の部屋の隣にある甘奈の部屋に向けて声を掛ける。
「何ですか? 兄さん」
「今日はどうしたんだ? 前まで夏葉達とあんなそっけない態度じゃなかっただろ?」
「ちょっと慣れない環境で緊張してしまっただけです。明日からは大丈夫なので、心配はいりません」
「そ、そうか? なら、良いんだけど……」
甘奈の言葉に、安心した俺はホッと息を吐く。
「今日はお母さんの帰りが遅いので、晩御飯は私が作ります。
だから今から買い出しに行ってきますね」
「ん? あぁ、分かった。急がなくても良いからな?」
「兄さんは何か食べたい物でもありますか?」
「唐揚げとか?」
俺はパッと思いついた物を口に出す。
「分かりました。じゃあ今日は唐揚げにしますね」
「おぉ、ありがとな」
「いえ、当然の事ですので」
そう言って甘奈は、リビングへ降りていき、買い出しのために家から出ていった。
「さてと……取り敢えず着替えるか……」
俺は自分の部屋に入り、部屋着に着替えようと手を掛ける。
その瞬間、俺の家のインターホンが鳴らされた。
「ん? 誰だ?」
俺はリビングへ降り、鳴らした相手を確認する。
「え? 夏葉?」
そこに写っていたのは、先程別れた幼馴染の一人の夏葉だった……。
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