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第7話「魔法の記録と、揺らぐ聖女伝説」
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王立学園の西棟、立ち入りが制限された魔導資料室。
そこに並ぶのは、過去百年分の魔力量測定記録と、歴代聖女候補に関する古文書だった。
その重厚な扉の前で、静かに手を伸ばす少女がいた。
セレナ=グリシェル。
首席の学術生であり、冷徹な論理を愛する“眼鏡の叛逆者”。
「記録に残っている限り、嘘はつけない。ならば、真実を視るまでよ」
扉を開け、蝋燭を灯すと、石造りの空間には重苦しい沈黙が降りた。
だが彼女の目は確かに、ひとつの記録を捉える。
《魔力測定結果:クラリス=ヴァルモン 光属性・精神属性 適性A+》
「やはりね……“あの方”が聖女の適格者だった」
そして、同時期に測定されたもう一人の記録を開く。
《リリィ=マーベル 光属性:適性C 精神属性:測定不能》
「“測定不能”……? これは、魔力量が少なすぎるか、もしくは“制御不能”を意味する」
つまり、制御されていない奇跡――
それは“本人の意志によらない何か”によって発生している可能性を示唆していた。
「……作られた奇跡。偽りの聖女」
同時刻。
教会大聖堂、その最奥にある“封印室”にて。
神官長代理の男は、一枚の古びた聖典をめくっていた。
そこには、歴代の“失敗した聖女”たちの名前と、その末路が書かれている。
病死、自死、失踪、狂乱、暴走。
「……“神の奇跡”を使った者は、皆、壊れていった。
それを知った上で、今の教会は……また、“器”を探していたのか」
男は小さくため息をつく。
「このままでは……今の“聖女”も、いずれ同じ運命に」
そこに、黒衣の影がひとつ忍び込む。
「……あまり声を漏らさない方がいい。あなたの言葉、真に受ける者が現れれば――次は処刑されますよ」
現れたのは、シリウス=ノクターン。
静かに、神官長に一枚の文書を差し出した。
「これは、学園に保管されていた正式な測定記録。“クラリス=ヴァルモンが真の聖女候補”である証拠です」
神官長はそれを受け取ると、しばし沈黙の後、呟いた。
「……私たちは、“正しさ”を見失っていたのかもしれませんな」
その日の夜。
地下回廊の一角で、セレナとシリウスは接触する。
「あなたが……噂の影の男ね。私はセレナ=グリシェル。
クラリス様を陥れた“真実”を解明するために、協力させてもらうわ」
「歓迎します。貴女の知識と理論は、必ず力になる」
二人の手が、記録と記憶とを繋ぎ、
“作られた聖女伝説”の崩壊は、いよいよ始まろうとしていた。
クラリスの名は、闇に葬られようとしていた。
だが、その名の輝きは――
真実という魔法によって、いま再び光を取り戻そうとしていた。
そこに並ぶのは、過去百年分の魔力量測定記録と、歴代聖女候補に関する古文書だった。
その重厚な扉の前で、静かに手を伸ばす少女がいた。
セレナ=グリシェル。
首席の学術生であり、冷徹な論理を愛する“眼鏡の叛逆者”。
「記録に残っている限り、嘘はつけない。ならば、真実を視るまでよ」
扉を開け、蝋燭を灯すと、石造りの空間には重苦しい沈黙が降りた。
だが彼女の目は確かに、ひとつの記録を捉える。
《魔力測定結果:クラリス=ヴァルモン 光属性・精神属性 適性A+》
「やはりね……“あの方”が聖女の適格者だった」
そして、同時期に測定されたもう一人の記録を開く。
《リリィ=マーベル 光属性:適性C 精神属性:測定不能》
「“測定不能”……? これは、魔力量が少なすぎるか、もしくは“制御不能”を意味する」
つまり、制御されていない奇跡――
それは“本人の意志によらない何か”によって発生している可能性を示唆していた。
「……作られた奇跡。偽りの聖女」
同時刻。
教会大聖堂、その最奥にある“封印室”にて。
神官長代理の男は、一枚の古びた聖典をめくっていた。
そこには、歴代の“失敗した聖女”たちの名前と、その末路が書かれている。
病死、自死、失踪、狂乱、暴走。
「……“神の奇跡”を使った者は、皆、壊れていった。
それを知った上で、今の教会は……また、“器”を探していたのか」
男は小さくため息をつく。
「このままでは……今の“聖女”も、いずれ同じ運命に」
そこに、黒衣の影がひとつ忍び込む。
「……あまり声を漏らさない方がいい。あなたの言葉、真に受ける者が現れれば――次は処刑されますよ」
現れたのは、シリウス=ノクターン。
静かに、神官長に一枚の文書を差し出した。
「これは、学園に保管されていた正式な測定記録。“クラリス=ヴァルモンが真の聖女候補”である証拠です」
神官長はそれを受け取ると、しばし沈黙の後、呟いた。
「……私たちは、“正しさ”を見失っていたのかもしれませんな」
その日の夜。
地下回廊の一角で、セレナとシリウスは接触する。
「あなたが……噂の影の男ね。私はセレナ=グリシェル。
クラリス様を陥れた“真実”を解明するために、協力させてもらうわ」
「歓迎します。貴女の知識と理論は、必ず力になる」
二人の手が、記録と記憶とを繋ぎ、
“作られた聖女伝説”の崩壊は、いよいよ始まろうとしていた。
クラリスの名は、闇に葬られようとしていた。
だが、その名の輝きは――
真実という魔法によって、いま再び光を取り戻そうとしていた。
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