処刑予定の悪役令嬢ですが、全世界のイケメンが味方です!

暦灯花(こよみとうか)

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第6話「貿易商アルベールと、買われた王都」

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王都セレフィア、商業街の中心にそびえる白亜の大楼閣。
そこに本部を構えるのは、王国最大の貿易商会――《ルクレール商会》。

その総帥、アルベール=ルクレールは今、黄金の執務室で一人、グラスを傾けていた。

「“クラリス処刑”ねぇ。実に愚かな台本だよ、王子殿下」

窓から見下ろす王都の街並みは、相変わらずの平穏を装っている。
だが、彼の机上に並ぶ書状と伝票が、それが虚構であることを示していた。

「“処刑日”に備えて、王都中の商人たちが物資の買い占めに走っている。
 民衆は“騒乱の兆し”を本能的に察しているのさ。……まったく、わかりやすい」

グラスを置き、机の奥から一枚の手紙を取り出す。

それは――クラリスの筆跡だった。
かつて彼女がまだ“侯爵令嬢”として誇り高く在った頃に、送ってきた一通の依頼状。

《庶民街の児童施設に、衛生品を優先供給してほしい》
《支払いは不要。貴商会の名で寄付と記せば、名誉はそちらのものになるでしょう》

内容も、配慮も、すべてが“完璧な交渉”だった。
あの頃から、クラリスは「社会の裏側」を見ていた。

「――面白い女性だよ、ほんとに。僕に“商人の誇り”を思い出させた、数少ない相手だ」

部屋の扉がノックされる。

「アルベール様。各国商会より連絡。例の“処刑情報”に反応あり。
 カルナリア連邦は“経済介入の準備”を開始、ディエル帝国は“外交使節団の派遣”を検討中とのことです」

「いいね。まったく、政治ってのは楽しい劇場だ。演出次第で王政さえ踊る」

そう言って、アルベールは微笑む。

「“処刑”という舞台に、観客は集まりすぎた。ならば僕は――この“劇場”ごと買い取らせてもらおうか」

 

彼の背後には、精鋭の商会メンバーが並ぶ。

貿易、情報、諜報、財務、交渉。
それぞれが王国の役人すら凌駕する実力を持ち、アルベールの号令一下で動く。

「君たち。“処刑予定の悪役令嬢”が、本当に悪かどうか――この目で確かめようじゃないか」

アルベールは立ち上がる。

「必要なら、財貨を投じよう。王家の予算を越える額でも構わない。
 この国を買い替えるくらいの投資価値が、彼女にはある」

 

その夜。
王宮の財務局に匿名の使者が現れた。

「“ルクレール商会”より通達。“処刑の中止”を条件とした資金供与の申し出。
 金額――“王国の年収入の十倍”」

使者が帰ったあと、財務官たちはただ、蒼白な顔で額を押さえた。

 

アルベールは、クラリスを“買う”のではない。
彼女の“運命を買い戻す”つもりだった。

それが、商人としての誇りであり――
一人の女への、静かな恋の形でもあった。
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