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第4章 記憶の裏手にひそむ影
第4話 足音の型
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靄に包まれた回廊を、じっと見つめる時間が続いた。
外に出る道はあるはずなのに、誰も動かない。
——この館では、一歩でも間違えれば“戻れない”という感覚が、全員の背中を押さえつけていた。
「……あれ」
水沢が小さく指さす。靄の奥、黒い影がふたたび現れた。
今回は、はっきり人の形をしている。
「また足音、聞こえない……」結衣が呟く。
「でも歩き方は……人間だ」森が低く答える。
影はゆっくり近づき、靄から輪郭が浮かび上がる。
「……おい」翔が息をのんだ。
見えた顔には、見覚えがあった。
昨夜、ロビーをうろついていた男——宿泊者ではない。
目が血走り、口元はにやつき、右手には折りたたみナイフが握られている。
「お前……何者だ」森の声が鋭くなる。
男は答えず、結衣をじっと見据えた。
「……やっと会えた」
その声に、結衣の顔が引きつる。
「知らない……こんな人……!」
男はにやけたまま、一歩ずつ近づく。
「君の写真も、下駄箱の鍵も、ずっと持ってたんだ……やっと渡せる」
「警察呼ぶわよ!」水沢が叫ぶが、男は意に介さない。
その瞬間、床下から低い音が響いた。
回廊の石畳が、まるで呼吸するように波打っている。
男の足元で影が濃くなり、靄が絡みつくように膝から這い上がった。
「……何だ、これ……?」
ナイフを握った手が震える。足が後ずさるが、靄は離さない。
「やめろ……やめろ! 近寄るなっ!」
叫び声は徐々に上ずり、息は荒くなる。
「……逃げ場、ないぞ」森の呟きは誰に向けたのか分からなかった。
男は振り返り、回廊の奥へと駆け出す。
しかし、数歩進んだ瞬間、足音が不自然に“途切れた”。
靄の中に、男の体がずるりと沈み込んでいく——頭からではなく、腰から、膝から、もがきながら。
「助け……っ、た……」
最後の声は途切れ、靄がゆっくり閉じた。
静寂。
回廊にはもう、誰もいない。
だが次の瞬間——廊下の奥から、規則正しい“二度目の足音”が響き出した。
男の声はもうなく、足音だけが、館の壁を伝ってしつこく響き続けていた。
外に出る道はあるはずなのに、誰も動かない。
——この館では、一歩でも間違えれば“戻れない”という感覚が、全員の背中を押さえつけていた。
「……あれ」
水沢が小さく指さす。靄の奥、黒い影がふたたび現れた。
今回は、はっきり人の形をしている。
「また足音、聞こえない……」結衣が呟く。
「でも歩き方は……人間だ」森が低く答える。
影はゆっくり近づき、靄から輪郭が浮かび上がる。
「……おい」翔が息をのんだ。
見えた顔には、見覚えがあった。
昨夜、ロビーをうろついていた男——宿泊者ではない。
目が血走り、口元はにやつき、右手には折りたたみナイフが握られている。
「お前……何者だ」森の声が鋭くなる。
男は答えず、結衣をじっと見据えた。
「……やっと会えた」
その声に、結衣の顔が引きつる。
「知らない……こんな人……!」
男はにやけたまま、一歩ずつ近づく。
「君の写真も、下駄箱の鍵も、ずっと持ってたんだ……やっと渡せる」
「警察呼ぶわよ!」水沢が叫ぶが、男は意に介さない。
その瞬間、床下から低い音が響いた。
回廊の石畳が、まるで呼吸するように波打っている。
男の足元で影が濃くなり、靄が絡みつくように膝から這い上がった。
「……何だ、これ……?」
ナイフを握った手が震える。足が後ずさるが、靄は離さない。
「やめろ……やめろ! 近寄るなっ!」
叫び声は徐々に上ずり、息は荒くなる。
「……逃げ場、ないぞ」森の呟きは誰に向けたのか分からなかった。
男は振り返り、回廊の奥へと駆け出す。
しかし、数歩進んだ瞬間、足音が不自然に“途切れた”。
靄の中に、男の体がずるりと沈み込んでいく——頭からではなく、腰から、膝から、もがきながら。
「助け……っ、た……」
最後の声は途切れ、靄がゆっくり閉じた。
静寂。
回廊にはもう、誰もいない。
だが次の瞬間——廊下の奥から、規則正しい“二度目の足音”が響き出した。
男の声はもうなく、足音だけが、館の壁を伝ってしつこく響き続けていた。
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