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第4章 記憶の裏手にひそむ影
第5話 足音の呪
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足音は、館全体に響いていた。
廊下、壁、天井……どこから来るのか、誰も特定できない。
それなのに、その間隔は不自然なほど正確だった。
——一度目と、まったく同じ間合いで二度鳴る。まるで意図的に“型”を刻むように。
「……これ、やっぱり録音じゃない?」水沢が低く言う。
「録音なら、もっと機械っぽいはずだ」森が首を振る。
「でも、人間がこんなに同じリズムを二回も……」結衣の声が途中で震える。
翔は耳を澄ませた。
足音の間に、かすかな“呼吸”のような音が混じっている。
それは、あの靄に呑まれた男が最後に漏らした息遣いと、妙に似ていた。
「……これ、あの男だ」
誰も否定しなかった。
時計は止まったまま。窓の外の靄は濃く、出口らしきものはすべて霞んでいる。
完全に閉じ込められた——そう悟るのに、時間はかからなかった。
「どうする……?」結衣が声を潜める。
「動かない方がいい」森は即答した。
「……でも、このままだと……」水沢の言葉は、足音にかき消された。
不意に、天井から砂のような音が落ちてきた。
見上げると、古びた天井板の隙間から黒い筋が垂れている。
「……墨?」
翔が一歩近づくと、その黒はゆっくり広がり、床に達した瞬間、足音と同じリズムで“二度”跳ねた。
「なにこれ……」結衣が後ずさる。
森は低く息を吐いた。
「……足音の“型”だ。
一度目は、生きてる足音。二度目は……死んだ後の足音」
沈黙が落ちた。
「死んだ後……って、そんなの……」水沢が呟く。
だが、その言葉を裏付けるように、足音は廊下の奥から近づいてくる。
靄の奥に、ぼやけた人影が見えた。
その歩き方、肩の揺れ……あの男に間違いなかった。
「……あり得ない」結衣が息を呑む。
人影は足を止め、首だけを不自然にこちらへ向けた。
その顔は、表情が貼りついたように動かない。
二度目の足音が響くと同時に、口がゆっくり開いた——声は、出なかった。
「下がれ!」森が叫んだ。
全員が一歩退いた瞬間、影は靄に溶けるように消えた。
しかし、足音だけは残り、今度は館の別の方向から響き始めた。
「……動いてる。館の中を、回ってる」翔の言葉に、背筋が冷える。
まるで“型”を刻むために、館全体を歩き続けているかのように。
廊下、壁、天井……どこから来るのか、誰も特定できない。
それなのに、その間隔は不自然なほど正確だった。
——一度目と、まったく同じ間合いで二度鳴る。まるで意図的に“型”を刻むように。
「……これ、やっぱり録音じゃない?」水沢が低く言う。
「録音なら、もっと機械っぽいはずだ」森が首を振る。
「でも、人間がこんなに同じリズムを二回も……」結衣の声が途中で震える。
翔は耳を澄ませた。
足音の間に、かすかな“呼吸”のような音が混じっている。
それは、あの靄に呑まれた男が最後に漏らした息遣いと、妙に似ていた。
「……これ、あの男だ」
誰も否定しなかった。
時計は止まったまま。窓の外の靄は濃く、出口らしきものはすべて霞んでいる。
完全に閉じ込められた——そう悟るのに、時間はかからなかった。
「どうする……?」結衣が声を潜める。
「動かない方がいい」森は即答した。
「……でも、このままだと……」水沢の言葉は、足音にかき消された。
不意に、天井から砂のような音が落ちてきた。
見上げると、古びた天井板の隙間から黒い筋が垂れている。
「……墨?」
翔が一歩近づくと、その黒はゆっくり広がり、床に達した瞬間、足音と同じリズムで“二度”跳ねた。
「なにこれ……」結衣が後ずさる。
森は低く息を吐いた。
「……足音の“型”だ。
一度目は、生きてる足音。二度目は……死んだ後の足音」
沈黙が落ちた。
「死んだ後……って、そんなの……」水沢が呟く。
だが、その言葉を裏付けるように、足音は廊下の奥から近づいてくる。
靄の奥に、ぼやけた人影が見えた。
その歩き方、肩の揺れ……あの男に間違いなかった。
「……あり得ない」結衣が息を呑む。
人影は足を止め、首だけを不自然にこちらへ向けた。
その顔は、表情が貼りついたように動かない。
二度目の足音が響くと同時に、口がゆっくり開いた——声は、出なかった。
「下がれ!」森が叫んだ。
全員が一歩退いた瞬間、影は靄に溶けるように消えた。
しかし、足音だけは残り、今度は館の別の方向から響き始めた。
「……動いてる。館の中を、回ってる」翔の言葉に、背筋が冷える。
まるで“型”を刻むために、館全体を歩き続けているかのように。
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