地獄の番長、陰キャデビュー!? 〜正体バレたら即退学の学園生活

Haruto

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「第1章・偽りの平穏」

第4話「屋上の咆哮」

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昼休みのチャイムが鳴った瞬間、九条レンは立ち上がった。
 教室の空気はいつもよりも重たく、誰もがスマホを見ながらヒソヒソと囁いている。
 「見た?」「これマジ?」「あの転校生……」
 レンは無意識に歯を食いしばる。
 机の上に、何枚かの印刷された写真が放り出されていた。
 そこには、夜の街で笑う“紅蓮の九条”の姿。
 金髪、鋭い目つき、拳を振り上げた瞬間の一枚——完全に、過去の自分だった。
 「誰が……」
 低く呟いた声が震える。
 後ろの席から、春川美緒が不安げに立ち上がる。
 「九条くん、それ……どういうこと?」
 答えられない。
 説明したところで、信じてもらえるはずがなかった。
 そしてそのとき、スマホの画面が震える。
 > 屋上。今すぐ来い。話はそれからだ。
 レンは静かに教室を出た。
 背後で「やっぱりアイツ……」という囁きが聞こえる。
 でも、もうどうでもよかった。
 ——逃げるより、確かめなきゃならねぇ。
 屋上の扉を開けると、風が吹き抜けた。
 金網越しに見える街は、いつもより遠く感じた。
 そこに立っていたのは——鷹村。
 「よぉ、紅蓮の九条」
 口元に浮かんだ笑みは、勝ち誇ったものだった。
 「ずいぶん有名人なんだな。ネットに貼ったら、あっという間に噂になったぜ」
 レンは一歩前に出る。
 「お前が……やったのか」
 「当たり前だろ。俺を病院送りにしてタダで済むと思うな。ウチの学校での俺の面子が丸つぶれだ」
 鷹村の背後には、スマホを構える数人の生徒。
 動画を撮っている。
 「おい九条、“紅蓮”って本当にお前か? マジで喧嘩無敗だったって?」
 煽る声。笑い声。
 胸の奥が焼けるように熱くなった。
 「もうやめろ。そんなの、ただの過去だ」
 「ハッ、綺麗ごと抜かすなよ。結局、テメェの本性は暴力だろ?」
 鷹村がレンの胸を押す。
 その瞬間、レンの脳裏にまた“あの夜”がよぎった。
 ——仲間が殴られ、血まみれで倒れていた。
 ——自分は、ただ守りたかっただけなのに。
 拳が震える。
 「……やめろ、もう、やめろって言ってんだろ!」
 叫び声が屋上に響く。
 しかし、鷹村は笑いながらさらに近づいた。
 「なら、殴れよ。お前の“正体”見せてみろよ、紅蓮!」
 レンの目が見開かれる。
 その瞳の奥に、炎のような光が揺れた。
 ドンッ——。
 鷹村の拳が飛ぶ。
 レンは咄嗟に受け止め、体をひねる。
 拳が空を切り、鷹村の体勢が崩れた。
 だが、その瞬間に足をかけてしまう。
 鷹村が地面に叩きつけられた。
 ざわつく生徒たち。
 スマホのシャッター音が響く。
 「やっぱ暴力だ!」「紅蓮復活だ!」
 「違うッ!」
 レンは叫んだ。
 「俺は、もうあの頃の俺じゃねぇ! 誰も殴るつもりなんて——」
 そのとき。
 扉が開き、息を切らせた美緒が駆け込んできた。
 「九条くん!!」
 彼女の叫び声が、喧騒を切り裂く。
 レンの腕を掴み、必死の目で見つめる。
 「ダメ……もうやめて。これ以上やったら、本当に戻れなくなる」
 鷹村がゆっくりと立ち上がる。
 唇から血を流しながら、笑った。
 「チッ……マジで化け物だな。やっぱ、紅蓮は紅蓮だ」
 その言葉が、まるで刃のようにレンの胸を刺す。
 だが、美緒が一歩前に出た。
 「違う! 彼はそんな人じゃない!」
 美緒の声が震えながらも、まっすぐだった。
 「たしかに、昔は喧嘩してたかもしれない。でも今は違う。自分を抑えて、変わろうとしてる」
 周囲の生徒たちが戸惑うように視線を交わす。
 「紅蓮」でも「転校生」でもない。
 “九条レン”という一人の人間を、彼女だけが見ていた。
 だが、鷹村は止まらない。
 「ハッ、庇ってんのか? お前も同類なんだろ、美緒」
 その瞬間、彼女の表情が凍る。
 鷹村がスマホを取り出し、別の写真を掲げた。
 そこには、金髪で制服を乱した中学生時代の美緒の姿。
 仲間とバイクにまたがり、笑っている。
 「お前の“優等生ごっこ”も終わりだな」
 「……どこで、それを」
 「簡単なことだよ。お前の名前で調べりゃ、いくらでも出てくる」
 美緒の拳が震えた。
 レンは無言で鷹村の前に立つ。
 「もうやめろ。これ以上、誰かを傷つけるな」
 「は? 俺が悪いみたいに言うなよ。テメェらみたいな偽善者が一番ムカつくんだよ!」
 鷹村が突き飛ばす。
 しかし今度は、レンは反撃しなかった。
 ただ、踏みとどまって美緒をかばう。
 「俺は変わる。もう誰も殴らねぇ。
 それが、俺が“紅蓮”を終わらせる唯一の方法なんだ」
 その言葉に、鷹村が一瞬言葉を失う。
 笑い飛ばそうとしたが、声が震えていた。
 「……チッ、勝手にしろよ」
 鷹村はスマホを投げ捨て、屋上を去っていった。
 残された風だけが、二人の間を通り抜けた。
 美緒は静かに息を吐いた。
 「……ありがとう」
 「俺のせいで、こんなことにして悪い」
 「違う。私、あの写真が出て……ホッとしたんだ」
 「え?」
 「ずっと隠してた。優等生のフリして、嘘ついて、苦しかった。でも、九条くんがいてくれたから、もう怖くない」
 彼女の瞳は涙で揺れていた。
 レンは何も言えず、ただその肩を抱いた。
 風が強く吹き、夕陽が二人を包み込む。
 「人ってさ……本当に変われるのかな」
 美緒の声は小さく、風に消えそうだった。
 「変われるさ。
 変わるってのは、“誰かに見てもらうこと”なんだろうな」
 美緒が微笑む。
 その笑顔に、レンの胸が熱くなる。
 ——この笑顔だけは、もう絶対に失いたくない。
 翌日。
 噂はまだ残っていたが、誰もレンを責めなかった。
 むしろ、鷹村が転校の話を出しているという噂が広がっていた。
 美緒はいつも通りノートを開き、レンに小さく囁く。
 「ねぇ、今日の放課後、また河川敷行かない?」
 「……ああ」
 レンは頷き、少しだけ笑った。
 過去は消えない。
 でも、もう逃げるつもりもない。
 “紅蓮の九条”としてではなく、“九条レン”として——。
 窓の外で風が吹いた。
 その風は、どこか懐かしく、少しだけ温かかった。
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