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「第1章・偽りの平穏」
第6話「闇に灯る誓い」
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夜の港は、まるで時間が止まったように静かだった。
風が冷たく、波の音だけが響いている。
九条レンは人気のない倉庫街を歩いていた。
頭の中で何度も“やめておけ”という声が響く。
——行けば、全部壊れるかもしれない。
——でも、行かなきゃ何も守れねぇ。
足音が反響する。
錆びたコンテナの影から、ゆっくりと男が姿を現した。
「……よぉ、紅蓮。」
龍崎だった。
髪は短くなり、無精髭を生やしている。
かつての“兄貴分”の面影は薄く、どこか狂気じみた笑みを浮かべていた。
「本当に来やがったか。お前らしいな。」
「話ってなんだ。俺はもうあの頃の俺じゃねぇ。」
「ハッ、そうやって“普通の高校生”ごっこか? 似合わねぇな。」
龍崎はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
オレンジ色の火が夜闇に揺れる。
「俺たちが何のために戦ってたか、覚えてるか?」
「仲間を守るためだろ。」
「そうだ。なのにお前は、仲間も誇りも捨てて逃げた。」
レンの拳が震える。
「俺は……もう誰も傷つけたくねぇんだよ。」
「傷つけたくねぇ? それは自分を守りたいだけだろ。」
龍崎の声が鋭く刺さる。
「お前が抜けたあと、残った連中がどうなったか知ってるか? “紅蓮の影”の名前は消えねぇんだよ。今もまだ、血を流してる奴がいる。」
レンの心臓が締めつけられる。
「だからって、俺が戻ってどうなる。」
「戻れとは言ってねぇ。——ただ、ケリをつけろ。」
龍崎の目が光る。
「今夜、俺を倒せ。紅蓮を終わらせたいなら、それで証明してみせろ。」
風が吹き荒れた。
倉庫の明かりが消え、二人を包むのは夜の闇。
レンはゆっくりと拳を握る。
「……もう、殴り合いなんてしたくねぇ。」
「なら逃げろ。二度と俺の前に顔出すな。」
「……っ。」
龍崎が一歩踏み出す。
その瞬間、レンの中で何かが切れた。
「逃げねぇよ。俺は俺の過去に、ケリをつけに来たんだ。」
拳がぶつかり合った。
鈍い衝撃が骨を伝う。
痛みと熱が、あの日の記憶を蘇らせる。
夜の街で笑っていた仲間たち、血まみれの手、倒れていた“弟分”の顔——。
——“守るために殴った”つもりだった。
でも、殴られた奴にも家族がいた。
復讐が復讐を呼び、ただ誰も救われなかった。
「龍崎ッ!!」
レンの叫びが響く。
拳が龍崎の頬をとらえ、男の体が後ろへ吹き飛ぶ。
コンテナにぶつかって、鈍い音がした。
だが、龍崎は笑っていた。
「やっぱり強ぇな……紅蓮。」
「違ぇよ。俺は——九条レンだ。」
息を荒げながら、レンは拳を下ろした。
「もう二度と、“紅蓮”なんて名前で呼ばれたくねぇ。俺は喧嘩で何も救えなかった。だから……これからは、守るだけに使う。」
龍崎が苦笑する。
「守る、ねぇ。女のためか?」
「……ああ。」
「へっ、言うようになったな。」
しばらく沈黙が流れた。
夜風が海の匂いを運ぶ。
龍崎は煙草を取り出そうとして、手を止めた。
「そういや……昔のお前、こんな顔してたっけな。」
「何の話だよ。」
「人を殴るときじゃなくて、誰かを守るときの顔だ。」
龍崎は立ち上がり、ふらつきながら笑う。
「……これで貸しはチャラだ。俺はもう、お前の邪魔はしねぇ。」
「龍崎——」
「行けよ。お前の“今”に戻れ。」
そう言い残して、彼は夜の闇に消えていった。
港を出た頃には、空がうっすらと明るくなっていた。
東の空が群青から橙色へと変わり、海面が朝日を映して光る。
レンはポケットからスマホを取り出し、震える指でメッセージを打った。
> 「もう逃げない。話したいことがある。」
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。
朝の通学路。
春川美緒が校門の前に立っていた。
目が合った瞬間、彼女は小さく笑った。
「心配したんだよ。昨日いなかったから。」
「悪かった。ちょっと……昔のケリをつけてきた。」
「……そっか。ちゃんと帰ってきてくれてよかった。」
美緒の言葉に、レンは小さくうなずく。
「俺、もう嘘つかねぇ。昔、紅蓮って呼ばれてた。でも、それはもう終わりだ。」
「知ってたよ。」
「え?」
「うすうす感じてた。隠してたけど、顔に全部出てたから。」
彼女は笑いながら、そっとレンの手を握った。
「それでも、私が見てたのは“九条レン”だから。」
朝日が二人を照らす。
冷たい風が止み、校庭に小鳥の声が響く。
レンはその光の中で、ようやく心から笑った。
——“紅蓮”の時代は終わった。
——でも、九条レンの物語は、ここから始まる。
風が冷たく、波の音だけが響いている。
九条レンは人気のない倉庫街を歩いていた。
頭の中で何度も“やめておけ”という声が響く。
——行けば、全部壊れるかもしれない。
——でも、行かなきゃ何も守れねぇ。
足音が反響する。
錆びたコンテナの影から、ゆっくりと男が姿を現した。
「……よぉ、紅蓮。」
龍崎だった。
髪は短くなり、無精髭を生やしている。
かつての“兄貴分”の面影は薄く、どこか狂気じみた笑みを浮かべていた。
「本当に来やがったか。お前らしいな。」
「話ってなんだ。俺はもうあの頃の俺じゃねぇ。」
「ハッ、そうやって“普通の高校生”ごっこか? 似合わねぇな。」
龍崎はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
オレンジ色の火が夜闇に揺れる。
「俺たちが何のために戦ってたか、覚えてるか?」
「仲間を守るためだろ。」
「そうだ。なのにお前は、仲間も誇りも捨てて逃げた。」
レンの拳が震える。
「俺は……もう誰も傷つけたくねぇんだよ。」
「傷つけたくねぇ? それは自分を守りたいだけだろ。」
龍崎の声が鋭く刺さる。
「お前が抜けたあと、残った連中がどうなったか知ってるか? “紅蓮の影”の名前は消えねぇんだよ。今もまだ、血を流してる奴がいる。」
レンの心臓が締めつけられる。
「だからって、俺が戻ってどうなる。」
「戻れとは言ってねぇ。——ただ、ケリをつけろ。」
龍崎の目が光る。
「今夜、俺を倒せ。紅蓮を終わらせたいなら、それで証明してみせろ。」
風が吹き荒れた。
倉庫の明かりが消え、二人を包むのは夜の闇。
レンはゆっくりと拳を握る。
「……もう、殴り合いなんてしたくねぇ。」
「なら逃げろ。二度と俺の前に顔出すな。」
「……っ。」
龍崎が一歩踏み出す。
その瞬間、レンの中で何かが切れた。
「逃げねぇよ。俺は俺の過去に、ケリをつけに来たんだ。」
拳がぶつかり合った。
鈍い衝撃が骨を伝う。
痛みと熱が、あの日の記憶を蘇らせる。
夜の街で笑っていた仲間たち、血まみれの手、倒れていた“弟分”の顔——。
——“守るために殴った”つもりだった。
でも、殴られた奴にも家族がいた。
復讐が復讐を呼び、ただ誰も救われなかった。
「龍崎ッ!!」
レンの叫びが響く。
拳が龍崎の頬をとらえ、男の体が後ろへ吹き飛ぶ。
コンテナにぶつかって、鈍い音がした。
だが、龍崎は笑っていた。
「やっぱり強ぇな……紅蓮。」
「違ぇよ。俺は——九条レンだ。」
息を荒げながら、レンは拳を下ろした。
「もう二度と、“紅蓮”なんて名前で呼ばれたくねぇ。俺は喧嘩で何も救えなかった。だから……これからは、守るだけに使う。」
龍崎が苦笑する。
「守る、ねぇ。女のためか?」
「……ああ。」
「へっ、言うようになったな。」
しばらく沈黙が流れた。
夜風が海の匂いを運ぶ。
龍崎は煙草を取り出そうとして、手を止めた。
「そういや……昔のお前、こんな顔してたっけな。」
「何の話だよ。」
「人を殴るときじゃなくて、誰かを守るときの顔だ。」
龍崎は立ち上がり、ふらつきながら笑う。
「……これで貸しはチャラだ。俺はもう、お前の邪魔はしねぇ。」
「龍崎——」
「行けよ。お前の“今”に戻れ。」
そう言い残して、彼は夜の闇に消えていった。
港を出た頃には、空がうっすらと明るくなっていた。
東の空が群青から橙色へと変わり、海面が朝日を映して光る。
レンはポケットからスマホを取り出し、震える指でメッセージを打った。
> 「もう逃げない。話したいことがある。」
送信ボタンを押した瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。
朝の通学路。
春川美緒が校門の前に立っていた。
目が合った瞬間、彼女は小さく笑った。
「心配したんだよ。昨日いなかったから。」
「悪かった。ちょっと……昔のケリをつけてきた。」
「……そっか。ちゃんと帰ってきてくれてよかった。」
美緒の言葉に、レンは小さくうなずく。
「俺、もう嘘つかねぇ。昔、紅蓮って呼ばれてた。でも、それはもう終わりだ。」
「知ってたよ。」
「え?」
「うすうす感じてた。隠してたけど、顔に全部出てたから。」
彼女は笑いながら、そっとレンの手を握った。
「それでも、私が見てたのは“九条レン”だから。」
朝日が二人を照らす。
冷たい風が止み、校庭に小鳥の声が響く。
レンはその光の中で、ようやく心から笑った。
——“紅蓮”の時代は終わった。
——でも、九条レンの物語は、ここから始まる。
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