銀の城は心の奥に

惺り

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第一章 牢獄からの解放へ

8話

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 謎めいた笹人。
 マークの質問を無視し、セーレは就寝した。やがて彼女は、戦時下の夢の中へと誘われていく。
 
 えっぐ、えっぐ――少女の泣き声が、暗い部屋の中に響いていた。
 
「うるさい、セーレ! 寝られないだろうが、私たちは明日も早いんだよ、早く寝ろ」
 
 怒ったヘーゼルの苦言が飛ぶ。
 
「あなたには人の心はないの? 今日、倒した敵の顔が浮かび上がってくるのよ。寝られる訳ないじゃない。頭まで筋肉に侵されてしまったのね」
 
 白髪頭の少女は、戦争の惨さを知っていた。筋肉隆々なお婆さんも困った様子で、不満を漏らす。
 
「アーネスの奴、新しい仲間だって連れて来て、年長者って理由だけで、私に面倒ごとを押し付けやがって」
「ちょっと、話聞いてるの!!」
 
 少女は激しく抗議した。
 
「うるさいわ、小娘! あんたも同意してアーネスについて来たんだろう? なら覚悟も決まっているんだろう? 覚悟ができていないなら、今すぐ帰んな! それと、あんまりピーピー鳴いていると『泣き虫』セーレって呼ぶぞ」
 
 ヘーゼルは眼で訴えかける。
 
「覚悟ならできているわ」
「なら早く寝な!」
 
 夜の騒ぎはしばらく続き、数時間後には寝静まった。そうして朝を迎え、歩兵団体との戦闘が開始される。
 
「昨日も見たが恐ろしい力だね」
「素晴らしいよ、セーレ。まるで神の裁きだ。名付けるなら、見えざる断罪者だ! ……良い響きだ。君と巡り会えて良かった。さぁ、言論の自由のため、我等と共に進行しよう」
 
 ヘーゼルとアーネスが見つめる先には、敵の返り血を全身に浴びた少女が立っていた。血塗れのセーレは一人で立ち尽くし、涙を流していた。
 
「はぁ、戦時下の夢か。嫌なことを思い出した」
 
 セーレはそう呟き、起き上がった。
 
 下に敷かれていたゴザと枕代わりのものを掴み、とぼとぼと歩いてマークの鞄の中へ押し込む。代わりに、タオルと歯ブラシを取り出した。
 
◆◇◆◇
 
 歯を磨き、川の水でうがいをする。歯ブラシを石の上に置き、やや雑に衣服を脱ぎ捨てた。全裸になったセーレは、自身の体を丁寧に清めていく。
 その様子を、マークは茂みの影に身を潜めて覗き見していた。思わず、やはり良い体つきをしている、と感じてしまう。
 囚人だった頃は痩せていたが、最近は食事量も増えていた。栄養が適切に行き渡ったのか、体型は誰もが羨むほどだった。
 
 五分後、水から上がり、タオルで頭と全身をよく拭く。脱ぎ捨てた衣服を着直し、左手の蛇の刺青に触れて本を召喚した。
 祈りの時間だと察し、マークは気づかれないよう、ゆっくりと後退した。
 
 十分後、祈りを終えたセーレが戻ってくる。マークは慌てて寝たふりをした。
 
「あんた、覗きの趣味もあったのね」
 
 見下ろすような視線を感じる。
 
「それは、男だからな。つい出来心で……」
「ふふふ、私の裸、綺麗だったでしょう?」
 
 マークは反射的に口走ってしまった。
 
「素晴らしかったです! もう感謝しかありません!」
「もー、この覗き魔が!」
 
 セーレはマークを叩いた。その表情は、どこか寂しげにも見えた。
 
 旅立ちの時刻となり、二人は再び目的地へ向かう。
 
「さて、横槍は受けたけど、気を取り直してクライの研究所へ向かうよ。ほら、覗き魔! 先導しなさいよ」
「本当に申し訳御座いませんでした。許してください。セーレさん!」
 
 セーレは少し口元を緩め、罰の内容を考えながら妥協案を出した。
 
「どうしようかな。あそこの売店でアイスを買って来てくれるなら、許してあげるかもよ」
「アイスですね。すぐに買ってきます」
 
 マークは走り出した。
 ミルク味のアイスキャンディーを購入し、戻るとすぐにセーレへ渡す。彼女は棒を掴み、勢いよく完食した。
 
「あぁ、もっと味わって食べないのかよ」
「食べ方は私の勝手でしょう。それに、早く食べなきゃ溶けちゃうじゃない。ほら、食べ終わったから、さっさと先導!」
 
 マークを前に押しやり、歩き出す。道案内役は迷いなく指示を出し、道中では口論も絶えなかった。

◆◇◆◇
 
 半日ほど進むと、大きな構造物が見えてくる。
 
「随分大きな街ね」
「おぉ、こんな街、初めて見た」
 
 二人が崖の上から見下ろしたのは、機械と重機が稼働する要塞都市だった。巨大なドーム状の壁が街全体を覆っている。
 
「この街のどこかに、変人クライがいるのね。はぁー、もう帰りたいわ」
「ここまで来て、何言ってんだよ。早く行こう」
 
 嫌がるセーレの背を押し、正門へ向かう。
 圧倒的な威容だった。
 
「何これ、デカ過ぎるんだけど。はぁー、帰りましょう」
「もう諦めろよ」
 
 そのとき、羽ばたく音と共に何かが近づいてきた。動物ではなく、コウモリ型の機械だった。先端のカメラと内蔵スピーカーから声が流れる。
 
「ザー、ザー、聞こえるかね?」
「はい、聞こえています」
「あなた方が何者か調べる。その場で待機してくれ」
 
 黄色い光が二人の全身をスキャンした。
 監視モニター室では二人の担当者が分析を進めていた。奥には、退屈そうに椅子に座る女性の姿。
 
「何者でしょうか?」
「男は無害そうだが、女は……何だこのオーラ力は……!?」
「セーレ? ふふふ、いいよ。通してあげて。僕が許可する」
 
 奥の女性が即決した。
 
「大総統様、本気なのですか?」
「あぁ、それと彼女達を僕の研究室へ案内して。以上」
 
 女性はスキップするように出て行った。
 
「……通行を許可しよう」
 
 開錠ボタンが押され、門はゆっくりと開き始めた。
 
「ザー、ザー、通行は許可された。旅人よ、このままコウモリナビの後に続いてください」
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