20 / 29
森へ
告白
しおりを挟む
深呼吸をして拳を握りしめた。
ずっと誰にも言えずに自分の中に閉じ込め続けていた思い。
初めて口にする思いは喉を震わせた。
「ライさんの言った通り、俺は『雑賀 司』という人が好きでした。彼は俺がここにくる何ヶ月も前に、友人に『扉』という言葉を遺して……死にました。モルテさんの話を聞いて、もしかしたら俺と同じ様にボレアス国に雑賀君がいるんじゃないかと思いました」
顔を上げないままのライさんの肩が僅かに揺れる。
何も答えないライさんに俺は自分の言葉を続けた。
「でも会いたかったのはボレアス国の聖女になりたかったからでも、雑賀君と一緒にいたかったからでもありません。雑賀君と……雑賀君にお別れを言いたかったんです」
「お別れ?雑賀君の事を今でも想っているんじゃないのか?」
「元いた世界で、俺は彼の死に顔を見ていない。顔を見てお別れも出来ずに……あの箱の中に本当は雑賀君はいないんじゃないかって、彼の死を受け入れられずにいました。終わらせる事の出来なかった気持ちはずっと心に住み着いて……彼を忘れる事は彼を殺す事だと思って……忘れるのが怖かっただけなんです」
「御園君もういいよ。辛いことを無理に思い出さないで……」
抱きしめられ、顔に押し付けられたライさんの胸……服が濡れていく。
あれだけ泣いたのに……まだ雑賀君の事で俺は涙を流せるんだ。
「聞いて欲しいんです。もし聖女になった時……他の人達の様に記憶と感情を扉に食べられるかもしれない。そうなった時にライさんだけでも『ティール』じゃなくて『俺』という人間を覚えていて欲しい」
俺の中にいた雑賀君も、雑賀君を好きだった御園 環も、そして今の俺の気持ちも……ライさんの中で生き続ける事が出来る。
俺を抱くライさんの腕に力が籠もった。
「フュラ・ユイヴィールも聖女も通常は『記憶』と『感情』を失っているんですよね?ボレアス国にいるのが本当に雑賀君だったとしても、きっとそれは別人で……でもただの自己満足だとしても、忘れるんじゃなくきちんとお別れをして気持ちの整理が出来たら……ライさん、貴方の聖女になれるんじゃないかと思ったんです。聖女になれたら俺のこの気持ちが本物なんだと自信が持てる気がして……」
「御園君の気持ち……」
見下ろしてくる赤い瞳を見上げ……勇気を飲み込むようにゴクリと唾を飲み込んだ。
雑賀君を好きだと思いながら、出会って間もないのに優しくされたからってだけで……甘えていたいから好きだと言っていようと汚い打算の気持ちじゃないだろうか?と思った。
だから聖女になれないのではないだろうかと自分の気持ちが信じられなかった。
それでもこの人は常に真っ直ぐに気持ちを向けてくれていた。
いま危険をおかして雑賀君と会うことよりも、ライさんが傷付くことのほうが嫌だと思っている。
俺の心の中で雑賀君の存在を消しても良いと思えるほど、この人の笑顔を守りたいと思っている。
それは、もう温もりを与えてくれない人といま温もりを与え続けてくれる人という二者択一でいやらしく計算した上での事かもしれないけれど……純粋な恋心ではないかもしれないけれど……。
「ライさんが好きです」
ずっと側でライさんの笑顔を見ていたい……その気持ちだけは本物。
ライさんの瞳から涙が溢れ、頬に一筋の跡を残した。
「本当に……?」
「……多分」
「ちょっ!!待って!!多分って何!?俺、今凄く感動してたんだけど!?この場面、この流れでそんなオチいらないよね!?」
真っ赤な顔で泣きながら慌てるライさん……いつも落ち着いているから新鮮。
「いえ……思っている事を全てを吐き出してライさんが好きだと伝えたのに聖女に変わらないなぁ……と、思って。やっぱり俺の気持ちは純愛じゃ無くて打算なのかもと自信が無くなりました」
物語ならあの瞬間にパッと聖女の力に目覚める場面では無かろうか。
ライさんとエッチをしても駄目。想いを告げても駄目。
それはやっぱり俺の想いが偽物だからじゃないだろうか。
「そんな事で落ち込まないで!?ね?俺は打算でも好きだと言ってもらえて嬉しいよ!!雑賀君の次でも嬉しい!!ね?ね?ほら、顔あげて?」
頬を大きな手に包まれて持ち上げられる。
顔を上げた先にはライさんの優しい笑顔。
……やっぱりこの人の笑顔は心を締め付けられる。
「聖女になれない俺でも良いんですか?」
「それは、聖女の力に目覚めてくれたほうが君の危険が減って安心だけど、俺は聖女とか関係なく御園君が好きだと伝えてきたつもりだよ?」
優しく抱きしめてくれた胸からライさんの心音が聞こえてくる。
温かい腕の中、その音をもっとよく聞きたくて顔を擦り寄せた。
「薬で……あの後、寝てる時『早く俺の聖女に』って言ってたし……やっぱりライさんも求めてるのは『聖女』なんだろうなって思いました」
「は!?何それ!!言ってないし!!『俺の事だけ見てほしい』って思っただけで!!」
もっと心地良い音を聞いていたかったのに勢いよく体を引き離され、ライさんは真っ赤な顔で口を固く結んで見下ろしてくる。
僅かな沈黙の後、ライさんは大きく溜め息を吐いた。
「ごめん……雑賀君の次でも良いと言いながら、御園君が望むならボレアス国のフュラ・ユイヴィールの側へ行かせてあげようなんて強がっていたけど……やっぱり無理だ。君を誰にも渡したくない」
見上げていた後頭部を支えられ……ゆっくりと近づいてきた瞳。
隙間なく唇が重ねられた。
ずっと誰にも言えずに自分の中に閉じ込め続けていた思い。
初めて口にする思いは喉を震わせた。
「ライさんの言った通り、俺は『雑賀 司』という人が好きでした。彼は俺がここにくる何ヶ月も前に、友人に『扉』という言葉を遺して……死にました。モルテさんの話を聞いて、もしかしたら俺と同じ様にボレアス国に雑賀君がいるんじゃないかと思いました」
顔を上げないままのライさんの肩が僅かに揺れる。
何も答えないライさんに俺は自分の言葉を続けた。
「でも会いたかったのはボレアス国の聖女になりたかったからでも、雑賀君と一緒にいたかったからでもありません。雑賀君と……雑賀君にお別れを言いたかったんです」
「お別れ?雑賀君の事を今でも想っているんじゃないのか?」
「元いた世界で、俺は彼の死に顔を見ていない。顔を見てお別れも出来ずに……あの箱の中に本当は雑賀君はいないんじゃないかって、彼の死を受け入れられずにいました。終わらせる事の出来なかった気持ちはずっと心に住み着いて……彼を忘れる事は彼を殺す事だと思って……忘れるのが怖かっただけなんです」
「御園君もういいよ。辛いことを無理に思い出さないで……」
抱きしめられ、顔に押し付けられたライさんの胸……服が濡れていく。
あれだけ泣いたのに……まだ雑賀君の事で俺は涙を流せるんだ。
「聞いて欲しいんです。もし聖女になった時……他の人達の様に記憶と感情を扉に食べられるかもしれない。そうなった時にライさんだけでも『ティール』じゃなくて『俺』という人間を覚えていて欲しい」
俺の中にいた雑賀君も、雑賀君を好きだった御園 環も、そして今の俺の気持ちも……ライさんの中で生き続ける事が出来る。
俺を抱くライさんの腕に力が籠もった。
「フュラ・ユイヴィールも聖女も通常は『記憶』と『感情』を失っているんですよね?ボレアス国にいるのが本当に雑賀君だったとしても、きっとそれは別人で……でもただの自己満足だとしても、忘れるんじゃなくきちんとお別れをして気持ちの整理が出来たら……ライさん、貴方の聖女になれるんじゃないかと思ったんです。聖女になれたら俺のこの気持ちが本物なんだと自信が持てる気がして……」
「御園君の気持ち……」
見下ろしてくる赤い瞳を見上げ……勇気を飲み込むようにゴクリと唾を飲み込んだ。
雑賀君を好きだと思いながら、出会って間もないのに優しくされたからってだけで……甘えていたいから好きだと言っていようと汚い打算の気持ちじゃないだろうか?と思った。
だから聖女になれないのではないだろうかと自分の気持ちが信じられなかった。
それでもこの人は常に真っ直ぐに気持ちを向けてくれていた。
いま危険をおかして雑賀君と会うことよりも、ライさんが傷付くことのほうが嫌だと思っている。
俺の心の中で雑賀君の存在を消しても良いと思えるほど、この人の笑顔を守りたいと思っている。
それは、もう温もりを与えてくれない人といま温もりを与え続けてくれる人という二者択一でいやらしく計算した上での事かもしれないけれど……純粋な恋心ではないかもしれないけれど……。
「ライさんが好きです」
ずっと側でライさんの笑顔を見ていたい……その気持ちだけは本物。
ライさんの瞳から涙が溢れ、頬に一筋の跡を残した。
「本当に……?」
「……多分」
「ちょっ!!待って!!多分って何!?俺、今凄く感動してたんだけど!?この場面、この流れでそんなオチいらないよね!?」
真っ赤な顔で泣きながら慌てるライさん……いつも落ち着いているから新鮮。
「いえ……思っている事を全てを吐き出してライさんが好きだと伝えたのに聖女に変わらないなぁ……と、思って。やっぱり俺の気持ちは純愛じゃ無くて打算なのかもと自信が無くなりました」
物語ならあの瞬間にパッと聖女の力に目覚める場面では無かろうか。
ライさんとエッチをしても駄目。想いを告げても駄目。
それはやっぱり俺の想いが偽物だからじゃないだろうか。
「そんな事で落ち込まないで!?ね?俺は打算でも好きだと言ってもらえて嬉しいよ!!雑賀君の次でも嬉しい!!ね?ね?ほら、顔あげて?」
頬を大きな手に包まれて持ち上げられる。
顔を上げた先にはライさんの優しい笑顔。
……やっぱりこの人の笑顔は心を締め付けられる。
「聖女になれない俺でも良いんですか?」
「それは、聖女の力に目覚めてくれたほうが君の危険が減って安心だけど、俺は聖女とか関係なく御園君が好きだと伝えてきたつもりだよ?」
優しく抱きしめてくれた胸からライさんの心音が聞こえてくる。
温かい腕の中、その音をもっとよく聞きたくて顔を擦り寄せた。
「薬で……あの後、寝てる時『早く俺の聖女に』って言ってたし……やっぱりライさんも求めてるのは『聖女』なんだろうなって思いました」
「は!?何それ!!言ってないし!!『俺の事だけ見てほしい』って思っただけで!!」
もっと心地良い音を聞いていたかったのに勢いよく体を引き離され、ライさんは真っ赤な顔で口を固く結んで見下ろしてくる。
僅かな沈黙の後、ライさんは大きく溜め息を吐いた。
「ごめん……雑賀君の次でも良いと言いながら、御園君が望むならボレアス国のフュラ・ユイヴィールの側へ行かせてあげようなんて強がっていたけど……やっぱり無理だ。君を誰にも渡したくない」
見上げていた後頭部を支えられ……ゆっくりと近づいてきた瞳。
隙間なく唇が重ねられた。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
僕、天使に転生したようです!
神代天音
BL
トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。
天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる