俺のスキルがエロゲー仕様で泣けてくる

藤雪たすく

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空いた従者枠

愛のための道化師

「あの……勝利君?」

話しかけても返事は返ってこない。
こんな事は初めてで……不安になる。
手を繋いだまま、無言で大通りを歩き続けるのは苦痛だった。

沈黙は辛い。
少し楽しみにしていた異世界……勝利君の作った街の散策。
だけど建ち並ぶ店も目には入ってこなかった。

「……勝利君……その……ごめんなさい。勝手に一人で走り出しちゃって……」

「…………」

俯いたまま断罪を待つように、勝利君からの返事を待ったけど相変わらず反応は無かった。
そこまで怒らせてしまったのかな……今までとそう変わらないやり取りだったと思うけど、何か勝利君の逆鱗に触れてしまったのかも……。
もう……俺とは接続解除するって言われたら……。

「勝利君!!本当に……ごめ……ん?」

顔を上げると、勝利君は向こうを向いていて……その肩は小刻みに揺れている。
「あの……俺……」

「……はははっ!」

怒り心頭し過ぎて壊れちゃったのかな?
いきなり大声で笑い出した勝利君に心配になってこちらを向かせようとするといきなり抱きしめられた。

「あはははははっ!!もぉミャオちゃん可愛すぎっ!!俺を悶え死にさせたいの?」

「???」

怒ってたわけじゃ無い……のか?

勝利君の行動に頭がついていけずに瞬きを繰り返す。

「勝利君……ごめん。状況がよくわからない」

「ん?ミャオちゃんが可愛くて可愛くて仕方なくて惚れ直してたとこだよ?」

わかんねぇよ!!

「その説明を省くのやめて……勝利君、怒ってたんじゃないの?」

「ん~まあちょっとね。離れないでって言ったのに俺から勝手に離れるし、あんなどこのどいつかも知らないモブに体を触れさせるし?」

勝利君が俺の両肩に手を乗せた。
触れさせたって……そんな大した触れ合いではないと思うけど。
でも勝手に離れたのは事実で……そこは俺も反省してる。
勝利君と離れた途端、あんなに囲まれて……あんなギラギラした目を向けられるとは思ってなかった。

「勝手に離れたのは謝る……ちょっと混乱しちゃって……それでその……勝利君はその……どちらへ?」

どちらへも何もギルドへ向かったっという情報は聞きている。
本当に聞きたいのは『ギルドへなんの為に向かったか』

「聞いた通りギルドだよ。ミャオちゃんと俺の情報を更新しに行ってたんだ。ミャオちゃんの従者は俺だってちゃんと登録してきたよ」

「そっか……更新か…………良かった」

新しいコントローラーを探しに……じゃなくて良かった。

ーーーーーー

「ミャオちゃん、はい!あ~ん、大きいお口だよ?」

にこにこと差し出された唐揚げを睨んだ。
口を開けるべきかどうか……悩む。

お腹空いたからご飯にしようと言った勝利君に手を引かれて入った食堂。

異世界料理を期待して目を通したメニューには『ハンバーグとチキングリル』『トロトロ卵のオムライス』『モッツァレラとフレッシュトマトのマルゲリータ』『ミックスフライ』『牛丼と小うどんセット』

……写真がついていなくても想像できる聴き馴染みのあるメニューばかりだった。
価格も単位は『円』で全く異世界感はゼロ。

異世界と言っても勝利君の作ったゲームの世界だもんね、そりゃそうだよね。
ちょっとがっかりしていた俺に勝利君が唐揚げを差し出してきたのだ。

「ほら、ミャオちゃん唐揚げ好きでしょ?毎日お弁当に入ってたもんね」
好きは好きだが……お弁当は料理の苦手な母親が楽だから冷凍の唐揚げを入れていただけであって大好物と言うわけではない。

正直、人前で『あ~ん』なんて恥ずかしくて冗談じゃないが……目の前でにこにこ笑う勝利君の目が笑ってないので迷っている。

「勝利君、やっぱり怒ってる?」

勝利君なら俺がこういうの苦手だってわかっているだろう。
いや、苦手だとわかっているからやってるんだろうな。

「怒ってない、怒ってない。これはただやりたいだけだよ」

これは食べないと終わらないやつだと覚悟を決めて、勝利君の差し出した唐揚げにかぶりついた。

「付き合いたての恋人同士みたいでドキドキするね」

何も見たくない、聞きたくないと目を閉じて無言で咀嚼して飲み込んだ。
可もなく不可もなく……ドノーマルな唐揚げは普通に美味しかった。

「でも……ギルドへ行くなら行くで言っておいてくれてればよかったのに」

もともと用があると知っていればあんなに不安になることはなかったんだ。

落ち着いて食事をして冷静になってくると、自分が勝手しただけじゃなく、勝利君だって勝手じゃないかと非難する気持ちが生まれた。
ずっと側にいて俺を守るって言ってたのに、いくら俺が1人で離れたと言っても探すこともなくギルドに直行してさ……勝利君なら俺が1人でいたらああやって他の従者志願の人に囲まれることぐらい予測していただろう。

俺が別の人とも従者契約を結ぶかもしれないって可能性だって予想できるはずだ。
それなのに……1人で放っておかれたという事は『そういう事』なのかな?

すぐに生まれてくる後ろ向きな思考に、マナーも忘れて自分の注文した『たらことヤリイカのパスタ』をひたすらフォークで巻き取り続けた。

「ミャオちゃん?」
名前を呼ばれて顔を上げると勝利君は頬杖をついてこちらを見ていた。

「ミャオちゃんこそ、俺がミャオちゃん置いて1人でギルドへ行った事怒ってる?」

にこやかに図星を刺され、誤魔化すようにフォークを口へ運んだ。
巻き取りすぎたパスタは多すぎて、口いっぱいのパスタにむせて咳き込む俺の背後から小さな何かが飛び出した。

机の上に着地したのは……小さな手のひらサイズのスライムだった。

何これ可愛いっ!!

机の上で小さくプルプル震えるスライムの可愛さは悶絶級だったけど、あれ?うちのスライム縮んじゃった?
かがみ込んで机の下を確認すると雪ウサギダイフクンとモフルキャットと……スライムもちゃんといる。

うん?じゃあさっきの子は?
体を戻して机の上に視線を戻すとちびスライムは勝利君の手の上で飛び跳ねていた。

「勝利君……その子は?」

「これ?スラの分身。何かあったらわかるように、走っていくミャオちゃんのフードにこっそり入れておいたんだ」

スライムは勝利君の手から飛び降りるとポ~ンと俺の肩に乗って『褒めて』というように頬に擦り寄ってきた。
指先で撫でてやると嬉しそうに体を揺らす。

「見守ってくれてたんだ……ありがとう」

それは半分スライムに、もう半分は勝利君へ向けて……。

ごめんね、勝利君のこと疑ってた。

勝利君はよく俺の事を見ていてくれて、俺が落ち込んでるとすぐに気づかってくれる。
気分が沈んでも勝利君の馬鹿な発言のせいで悩んでいたのを忘れてしまったり、こんな状況なのに勝利君に緊張感が無いから俺も深刻にならずに済んでいる。

勝利君のふざけた発言は俺を不安にさせない様にわざとやってくれてるのかも。

それなのに勢いとはいえ勝利君の事を嫌いなんて言って……1人にされて反省した勝利君に対する甘えも含め、これからは軽々しく勝利君のことを『嫌い』だなんて口に出さないように気をつけよう。
少しづつでも素直になっていきたい。

「その分身が見聞きした事はスラを通して俺の頭に送られてくるから、見守りっていうか盗聴器?」

……勝利君は俺の事を思って……。

「俺がいなくなってミャオちゃんは1人で心細かったんだよね?大丈夫!!切なそうに俺を呼ぶ声も、俺だと思って嬉しそうに俺を呼ぶ声も全部聞いてたよ!!ミャオちゃんに頼られすぎてて……俺ドキドキしちゃったよぉ~!!」

……わざとバカな姿を演じてくれていて……。

「はっ!!でもミニスライムの事を教えなければ切なく俺を呼びながら一人で自分を慰めるミャオちゃんの姿が拝めたかもっ!!大失敗だぁっ!!」

「黙れ!!バカ勝利ぃぃぃっ!!」

撫でていたミニスライムを勝利君の顔面に向けて投げつける。
俺の決意は脆くも一瞬で崩れ落ちた。

「ミャオちゃんに初めて呼び捨てされちゃった~!!マジ感動!!」

身悶える勝利君を無視して食事に専念した。

頭で俺の為にわざとやってくれているのかも……そう思ってもムカつくものはムカついた。
感想 3

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