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空いた従者枠
ずぶずぶな設定
「……勝利君……ギブ……吐く……」
勝利君の嫌がらせではないかと思うぐらい右に左に上に下にと揺らされて……三半規管が悲鳴をあげた。
ベッドに寝かせられて、ベルトや服を寛がせてもらった。
顔から血の気が引いているのが自分でもわかった。
「ミャオちゃんごめんね?体力や魔力を回復する魔法はあるけど……流石に乗り物酔いは考えて無かった……」
お構いなく……。
頭にひんやりと冷たい物が乗せられた。
スライムが額を冷やしてくれている。
気分の悪さにスライムの体にすり寄って楽な体制を自分で探して、こめかみと首元を冷やしてもらうと、幾分頭痛が落ち着いてきた。
いつの間にか眠っていたらしく気付くとみんなに囲まれて眠っていた。
真横には勝利君の寝顔がある。
いつも俺が先に寝て、後から起きるから勝利君の寝顔はレアものだ。
広角が上がりっぱなしの口元は生真面目そうに真一文字に結ばれていて……雰囲気の違う勝利君にドキッと胸が高鳴った。
まつげ長いなぁ……もっとよく見たい……。
起こさないように細心の注意を払いながら体を勝利君の方へ向けた時、うっすらと瞳が開いた。
「あ……ミャオちゃん……もう大丈夫?」
僅かな動きを察知して目を覚ました勝利君に頬を撫でられた。
「うん、顔色も良さそうだね。よかった」
吐くもの吐いてゆっくり休ませてもらったから大分調子が戻ってきた。
勝利君の声を聞いたからか従魔達も起き上がって伸びを始めた。
「俺のせいで予定からだいぶん遅れちゃったよね。頑張って取り戻さなきゃ……「あ、ミャオちゃん!!」
勝利君が止めに入る前に俺は天蓋のカーテンを引いた。
天蓋を開けた目の前では……ぐちゃり、ぐちゃりと音を立てて肉食の魔物がお食事中だった。
すーぅと抜けるような感覚に体は重力に引かれたようにベッドの上に倒れ込んだ。
「ベアタイガが一角兎を捕食中だから開けない方が良いよ?」
もっと早く言って欲しかったです。
こんなほのぼのとしたお昼寝タイムの横でそんな殺伐とした事が行われていたとは……モロに見ちゃった。
うぅ……せっかく治まっていた吐き気がブリ返してきそうだよ。
耳を澄まして意識すると……まだ咀嚼音が聞こえてくる。
どっか行ってくれるまで休憩だな。
「ミャオちゃん、無理しなくても今日はここでこのまま野営でも良いんだよ?街から離れたかっただけだし」
「平気、歩いてなら行ける。少しでも進みたい」
歩いているわけでも戦っているわけでもない俺が足を引っ張り続けていることに罪悪感を感じて意地になって天蓋の外を睨んだ。
食事が終わって去っていった後も残骸を残して行かれると嫌だなぁ。
先ほど一瞬だけ嗅いだ血の生臭い匂いがまだ鼻の奥に残ってる気がしてきた。
「あれ?そういえば、何で血のでる戦いと血のでない戦いがあるの?」
勝利君がいつも戦っている時、全く血は流れずにドロップアイテムだけが残る。
でもさっきの食べられていた魔物は血を流してたし、勝利君も最初ドラゴンに襲われた時には血を流してた。
「正式な戦闘とその他の戦闘の違いかなぁ?」
その語尾は自信がなさそう勝利君にもはっきり分からないのかな?
「正式な戦闘?」
「コントローラーがいる戦闘は元々俺が作った戦闘のシステムだけど、コントローラーがいないと戦えないって設定は作ったけど、それがどういう戦いになるのか正直詳しくないんだよね。モブやストーリー上関係ないことまで細かく設定するほど暇じゃなかったし」
「こんなゲーム作るぐらい暇な人だと思ってた……でもそっか、普通のゲームも周りの街の人がどんな生活をして敵とどうやって戦ってるかまで細かく掘り下げないか」
勝利君じゃないなら、その細かい設定は誰が決めたんだ?
勝利君以外の地球人……俺?
俺が設定してないことは自分で一番わかってるだろ!!と頭の中でノリツッコミをしてみた。
「この世界に住む街の奴らだって俺が作ったキャラじゃないから……基礎を元に独自に進化、退化でもしたんじゃないかな」
これ以上悩んでも答えが出る問題じゃなさそうだ。
ベアタイガの気配が消えたと勝利君が言うので、そろそろ出発しようと天蓋のカーテンを引きかけて……念のため勝利君側のカーテンを開けることにした。
少しだけ開けて隙間から周囲を確認して、何もいない事を確認してカーテンを開けた。
『グオォォォォッ!!』
目の前の茂みからまた別の大きな魔物が顔を出した。
「ヒッ!!」
まだベッドから降り切っていなかったので、あちらに俺たちのことは見えてないようで戦闘は始まらない。
初めびっくりしたけど『大丈夫』という勝利君の言葉通り魔物はこちらには向かってこない。
その場で……苦しむようにひと暴れすると煙になって消えた。
「な……何が起こったの?近くにコントローラーの人たちがいるって事?」
煙になって消えたというのは勝利君のいうところ『正式な戦闘』だと思う。
「あれはトラップ系の魔法だね」
「トラップ系の魔法?」
先にベッドを降りた勝利君の後を追いかけて茂みの向こうを見てみると、いかにも『魔法陣』ですという模様が書かれた上に毛皮と肉と宝石が落ちていた。
「この魔法陣を魔物が踏むと、猛毒の大針が飛び出して魔獣が勝手に死ぬ。これは俺が考えた魔法だからドロップ品に変わるみたいだね」
「え!?猛毒……」
思わず足元を確認してしまった。
「大丈夫だよ。人が踏んでも作動しないし……」
ベッドから形を変えた鞄の周りで大人しくしている従魔の側へ戻ると、勝利君はモフルキャットと雪ウサギダイフクンを抱き上げた。
「要は踏まなければ良いだけの話だから、抱いといてやれば従魔達も安心」
罠の対象は従魔もなのか。
それは困る。
「スライム、おいで」
抱っこしてやろうと手を広げて呼ぶと、嬉しそうに跳ねたスライムは俺を飛び越えて……。
「ゔぐっ!?」
急に首が締まった。
後ろを確認するとスライムが嬉しそうにローブの中で震えている。
重くはないけど苦しい。
「ズ……ズライム……あんま……暴れないで……」
フードが下がり首を締めていた襟口が急に軽くなって、見上げると勝利君がスライムを持ち上げていた。
「こら、スラ!!ミャオちゃんが苦しんでるだろ?お前だけ歩かせるぞ?」
表情はないけど、しゅ~んと落ち込んで見えるスライムはどろりと形状を変えると俺の首にぶら下がった。
マフラー……というより長くてひんやりしたスライムの体は……蛇。
蛇触ったことないけど、テレビで見る蛇を首に巻いてる人みたいだと思った。
甘えてるだけ……甘えてるだけ……首締めないでね、スライムちゃん。
「スラの奴、この前分身してミャオちゃんのフードに入ったのが気に入ったみたいでさ」
「そっか……気に入ってもらえて光栄ですね……」
「スライムが羽衣に見えるよ……ミャオちゃん天女みたいできれいだよ!!」
「勝利君は1度眼科へ行ったほうが良いね……」
うちのスライムは良い子、うちのスライムは良い子と自分に言い聞かせながら、ルート案内に従いながら森の奥へと進んだ。
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