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お別れ回避策の話

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「ヤマトちゃんが一度死ねば良いの」

はい……?
何でも無いことの様にさらりと、お姉様は言った。

「ふざけんなっ!!カラスマ、耳を貸すなよ」

ヒュウガは毛を逆立てて怒りながら、俺を抱き締めてくれる。
けど……。

「ごめん……ヒュウガ。アスの側に居られる方法があるなら……俺、ちゃんと聞きたい」


「死ぬことになってもか……」

「……ごめん」

ヒュウガは黙って俺を見下ろしている。
その視線が居心地悪くて顔を背けるが……視線が痛い。

…………。

「わかった……好きにしろ」

逡巡の後に、ヒュウガはぶっきらぼうに言い捨てた。


「何よ偉そうね」
「本当、2号なんだから2号の心得に従いなさいよね
「本来ならあんたみたいな人狼風情がアストラウス様と並ぶ事なんて許されないんだからね」
「血の契りなんて身の程知らずにも程があるわよ。狼なら狼らしく順位に従いなさい」

お姉様達の攻撃にヒュウガの心にグサグサと矢が刺さって行くのが見える気がする。
止めてあげて……ヒュウガのHPは0に近い。



「このダンジョンで死んだ魔物はアストラウス様の尊いお力で甦る事ができるのは知っているでしょう?」

「それは、聞いた事ある……俺は人間だけど……」

「そうだ、そうだ!!感情のないゾンビになるのがオチだ!!」

お姉様の精神攻撃にやられ、俺の膝に顔を埋めていたヒュウガが噛み付く。

「おだまり人狼。私たちだってそれぐらいわかってるわよ」

「魔物や亜人……精霊なら悪魔族の魔力にも耐性はあるの」

「ヤマトちゃんがここに来たのが偶々だと思ってる?」

え……?違うの?

「私達の願いはアストラウス様を愛し……救ってくれる者……」

「アストラウス様を救えるのは、アストラウス様が愛した貴方しかいないでしょう?」

「そう……名も無き闇の精霊さん」

お姉様達の真剣な眼差し……冗談とかでは無さそうだ。

「俺が……闇の精霊?」

「カラスマ、闇の精霊って何の事だよ?」

いや、俺に聞かれても。
俺が闇の精霊?……アスの愛した、アスを壊した存在?

「自覚は無いでしょうけど、そうに決まってる!!きっと生まれ変わりよ」
「アストラウス様をあそこまで元気にしてくれたんだもの!!証拠は無いけど、絶対そうよ!!私の勘がそう言っているわ!!」
「だから、復活出来るわ!闇の精霊として!!」


「確証無しかよ!!そんな勘でカラスマの命を奪うんじゃねぇよ!!……これだからダンジョン産の魔物は、何度でも蘇生しやがるから命の重さを知りやしねぇ」

「失礼ね。私たちだって命は大切にしてるわよ?復活してもレベル1からスタートになるんだから。死なないように必死よ」

ヒュウガは自分の事の様に怒ってくれるけど……。
お姉様達の勘でも良い……すがれるならすがりたい。

例え失敗しても……構わない。

「大丈夫……ヤマトちゃんはアストラウス様と繋がっているから……」

お姉様が俺の耳に……ピアスに触れた。

「この石が導いてくれる……」

俺はアスの為なら何でもすると誓った……。
大丈夫、何も怖くない……アスと繋がっているから。


「……ヒュウガ、今さらで悪いんだけど実家に帰ってくれる?」

「カラスマ……?何だよ急に……」

鋭い瞳に睨み付けられる。

「お願い……帰って。失敗してゾンビになった姿なんて見られたくない」

成功しても、闇の精霊ってあの黒い光の粒。
あれの見分けがついて愛してると言えるのはアスぐらいなもんだと思う。

どっちにしろヒュウガと今まで通りの関係を続けてはいけない。

「ここで、さよならしよう?バイバイ、今までありがとうヒュウガ」

なるべく何でも無い事の様に装う。
ごめん……ヒュウガ。

「何なんだよそれ……そりゃアスの事が一番なのは知ってるが、いきなり帰れとか身勝手過ぎるだろ」

ヒュウガの目に怒りの色が宿っていく。

「俺にはアスだけなんだ……アスしかいらない……」

「…………」

ヒュウガの毛が逆立っていく……。
殺されるかな……?

「バイバイ……ヒュウガ……それなりに楽しかったよ……」
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