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爽やか?な朝

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昨日ほぼ寝ていた(気絶していた)為、早いのか遅いのかこちらの世界の日常はわからないけど、まだ辺りが薄暗い時間に目が覚めた。

部屋の隅では腕を組んでソファーに座ったままの副隊長は眠っているのか目を閉じたまま動かない。

俺をベッドに寝かせ、仕事があるからとソファーに座って書類やらに目を通していたが、そのまま寝たようだ。
このベッドで副隊長と一緒に寝る気はないが、部屋の主を差し置いてベッドで悠々と寝るのは気が引ける。ソファーの上を片付けてくれたら俺がソファーで寝るんだけど。

せめてと、起き上がり毛布をかけてやろうと近づくと……ひゅっと空気が動くのを感じ、俺の目の前には剣が突きつけられていた。
「……ああ、シーナか……悪い、寝ている時に近づかれると反射で……」

「ふよういにちかづいてごめんなさい」

ダラダラ冷や汗を流して立ち竦んでいたが、急に手を引かれソファーに座る副隊長の上に倒れ込んだ。

「ごめん、そんな怯えた目を向けないでくれ」
「副隊長に怯えるなんて……驚きはしましたけど……」

嘘です、超ビビってます。
当然そんな事はバレていて、震える手を副隊長の手が包み込んだ。

「シーナ、俺の事はルノで……」

「ルノ……さん?離してください」
間近で囁かれ不覚にもドキドキと心臓が騒ぎ出す。

「大丈夫……まだ早い……」
俺を胸に乗せたまま副隊長はすぅ……と寝息を立てた。

大丈夫って? まだって? 早いって何が!?
あれだよね、まだ時間が早いからもう少し寝ていても大丈夫って事だよな?

抜け出そうともがいてもガッチリ抱き込まれていて抜け出せない。
毛布を掛けようとしただけで起きたくせに何でこれで起きないんだよ。
諦めてじっとしていると、ルノさんの規則正しい心音だけが耳に響いてくる。

暖かい温もりと心地よい音……。

ーーーーーー

はっと気がつくと、もう世界は明るかった。
暇すぎてルノさんの上であのまま寝てしまっていたらしい。
ギシギシと寝固まった体を起こすと俺を見下ろしていたルノさんと目があった。

「おはようございます、ルノさん」
「あ、ああ……おはよう」

緩んだルノさんの腕から抜け出すと立ち上がって大きく伸びをした。
僅かな時間で体がギシギシする。ルノさんは全く横になっていないんだからもっと凝り固まってしまったんじゃないだろうか。俺は特にやるべき事はないが、ルノさんはこの街の警備隊。休める時には休んでもらわないと。

「ルノさん、昨日も話した通り家事仕事には自信があって……お願いがあります」

「働きに行きたいというお願い以外なら何でもどうぞ?」
やっぱり寝苦しかったのか、ルノさんも立ち上がって伸びをした。俺が縮んだのもあるんだろうが、やっぱりでかいな。

「この部屋を片付けさせてもらえませんか?見てはいけないものとか片付けてはいけないものは教えてくれたら、それは動かしませんから」

窓から差し込む光に埃がキラキラ輝いていた。ずっとこんな中で生活していたら病気になってしまいそうだ。
ルノさんの部屋を片付けて、それからトイレとかお風呂とか片付けていきたい。やる気に燃える目の前でルノさんはガクッと肩を落とした。

「やっぱり……汚いよね。うん、シーナからは良い香りがしてたから生活基準が違うなとは思ったんだけど、男所帯で隊長はあんなで、俺なりに片付けてはいるんだが俺も家事は苦手だからさ、どんどん汚れていって……」

深いため息がルノさんの悩みの深さを物語っていた。

「治安の悪い街の警備で忙しいんだから仕方ないですよ……魔法、綺麗にする魔法とかは?」

「清浄魔法?回復魔法の使い手も雇えないのにそんな贅沢はできない。幸い隊員達はみんな丈夫で病人は出た事ないが、シーナは……」
弱そうだってか……俺が弱いんじゃなくて、この環境で病気にならない方が異常なんだからな。

「ルノさんは仕事でしょう?何もすることが無いと暇すぎて外に抜け出してしまうかも……お願いします」

「俺を脅すとはシーナはなかなか強かだね。そこまで言ってくれるならお願いしようかな?ただ、まだ慣れていないだろう?1人では2階から降りないと約束してくれるか?」

「はい!!」

これで俺が使えるってわかってもらえたら、外に働きに出る許可も貰えるかも。

外は危ないって言うけど家事ができれば冒険者とかに守られながら冒険する選択肢だってあるし、安全な食堂とかを紹介してもらって行き帰りは警備隊の誰かに送ってもらうとかも可能かもしれない。

さすがにせっかくの異世界を軟禁のまま終わらせるのは勿体ない。

ーーーーーー

掃除の前に朝食だと言ってルノさんは出かけていった……男所帯とは言っていたが毎食外で買ってきて食べているんだろうか? この世界の常識は分からないけど、結構な出費なんじゃ? 余裕がないって言っていたのはこういうところなんじゃないかな。

街の様子が見えるかと、窓の外を見てみたけれど隣の建物の壁が見えるだけで景色は見えない。身を乗り出したいが、鉄格子があるし窓を開けると街の外から異臭がするのですぐに窓を閉めた。

「おかえりなさい」
紙袋を抱えて帰ってきたルノさんに声を掛けると、驚いたような顔でルノさんは固まってしまった。何か悪い事をしたかな? 窓を開けたのが悪かったのか。

「ルノさん?」

「ああ……何でもない、ただいま。シーナは嫌いな物はあるかい?」

机の上に次々と並べられていく食べ物。
嫌いな物と言われても料理名が分からないから答えようが……こんな時こそ鑑定か。

並べられた食べ物を鑑定してみると思った通り説明が表示された。

『ポルポルボルのチェッドパン』
『カタナリアスープ』
『キャルムのピネルスク漬け』
…………

料理名を見ても分からないし、説明を読んでも『ポルポルボルの肉を焼いてチェッドと共にパンに挟んだ物』ポルポルボルとは何か……『カーリヤ地方に多く生息する大型の鳥』さっぱりだ。調べていってもきりがないし、ルノさんが買ってきてくれたのだから味に期待は出来なくてもちゃんと食べられる物のはず。

椅子に座ると覚悟を決めて手を合わせた。

「いただきます」

「いただきます?」

「あ~……食べ物への感謝と言うか……お祈りみたいなものです」

「お祈りか……では俺も、いただきます」

俺の真似をしてルノさんも手を合わせた。

1番近くにあったポルポルボルのチェッドパンなる物を手に取った。

見た目は肉と野菜のサンドイッチだし、鑑定も鳥だと言っていたから大丈夫だろう。口を大きく開けて噛み付いた。

……うん。薄味でちょっと硬いけど鳥だ。鶏よりも鴨っぽいけど鳥肉だ。パンも昨日のパン程は硬くなく、ハード系のパンだと思えば全然あり。
カタナリアスープも僅かな甘味のあるスープで昨日の物と比べると別物だった。

昨日の料理が基準かと思ったけど違うらしい。昨日のがルノさんの手料理となると、外食で済まそうとなるのは納得だ。

「美味しいですね……でも朝からこんなに食べるんですか?」

簡易のテーブルの上には沢山の料理が積み上がっている。俺はこのサンドとスープだけでも満足なんだけど毎食こんなに食べていては食費は如何ほどのものなのか……。

「シーナが好きな物が分からなくて片っ端から買ってきた」
ルノさんも3、4品食べて手が止まっているから、俺の為に買い込んで来てくれたんだ。まだまだ机の上には沢山ある。

「これ……どうしましょう?」
冷蔵庫とか……あるわけ無いよな。テレビとかそういった電化製品は見当たらない。

「収納箱に入れておくよ……多少長持ちするから2、3日は平気だ」
そう言ってルノさんが空中に浮き上がった魔法陣みたいなマークの中に残った物を乗せると食べ物達は消えていった。

アイテムボックスまで普通にあるんだ。

「……て、収納出来るならこの部屋の荷物入れておけばいいじゃ無いですか!!」

アイテムボックスなんてそんな便利な物がありながら何でこの部屋は物に溢れているんだよ?

「あまり物を詰め込み過ぎると管理が大変だろ?もしもの時に武器を出せないとかヒール薬を取り出せないなんて事態は避けたいから戦闘に関係ない物はあまり入れない様にしてあるんだ」

無限では無く有限で、取り出す時も思った物がすぐに取り出せる訳ではないなら、入れるべきものは命に関わる物を優先するか……やっぱり気兼ねない快適な眠りの為にはこの部屋を地道に片付けるしかないのか。
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