あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく

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記憶を呼び起こす味

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カウンターの中でキースさんとユーリカが並んで料理をしていて、ギルはムスッとした顔でカウンターからそれを眺めている。

メモを取るユーリカからは時折「マジか」「大丈夫かよ」と不安そうな声が上がっている。
しばらく炊くのに時間が空くからとユーリカとキースさんはカウンターの方へ向いた。

「あんたの料理は魔法みたいだな……」

「いろんな調理法で同じ食材でも別物になる……確かに魔法みたいですよね」

ユーリカの感嘆の声にキースさんはニコニコと笑っている。

「……あの溢れ出た魔力の量は異常だ……本当に魔法を使ってるんじゃねぇのか?」

ギルの疑いの眼差しにキースさんは眉を下げて申し訳なさそうに笑った。

「魔法は苦手なんですよ。加減が難しくて……やり過ぎて素材が回収できなくなってしまうので……素手の攻撃も加減が難しいのでショートソードぐらいの微妙な切れ味がちょうど良いんですよね」

武器は……攻撃力を高めるものかと思っていたけど、力を抑える為にも使われるんだぁ……いやいや、そんな使われ方聞いた事ないって。

そんな事を考えている間にキースさんは別の小袋を取り出した。

「ヌンパルの実です。乾燥させて粉末にすると良い味のアクセントになるんですよ。舐めてみますか?」

差し出された白い粉を少し指先につけてユーリカと一緒に舐めてみた。

「あ……これ……」

『塩』だ。
この世界に調味料は存在しないものだと思ってた。

「……辛いな」

ユーリカは少し眉間に皺を寄せていたけれど……俺はますますキースさんの出身国への憧れが湧いた。
きっとキースさんの故郷は食文化が日本と似ているに違いない。行きたい、行ってみたい……連れていってくれないかなぁ。

「そろそろ良い頃あいだと思います」

キースさんがコンロから移動させた鍋のふたを開けると……真っ白な米が炊きあがっていた。

「へぇ……こんな風になるんだな……」

「食えるのか……これ?」

ギルもユーリカも不思議そうに鍋の中を見つめる。

「このままでも良いんですが……食べやすい様に……」

キースさんは炊きたての白米をお皿に分けて……塩を手に取るとおにぎりにしてくれた。

俺の目の前に念願のおにぎりが艶やかに輝いている。

「い……いただきます」

ゴクリと喉が鳴る。

ギルとユーリカ……キースさんが見守るなか、興奮を抑えながら大きく口を開けて……おにぎりにかぶりついた。

塩味が舌を刺激して、柔らかな粒がホロホロと口の中で崩れて行く。
噛み締めると……懐かしい香りと甘み。

味の記憶と共に……ぶわっと風が吹き抜ける様に記憶の波が押し寄せた。

ぽろぽろ……ぽろぽろと涙が後から後から溢れ出す。

「おい、ヒビキ!?どうした!!……てめぇ!!何を食わせやがった!!」

「ギル……違う……懐かしくて……」

キースさんに掴み掛かったギルを静かに制する。

思い出の味に……。

「昔の記憶……思い出しちゃったから……」

蘇った記憶。

普通の家庭だと思っていた……それは嘘ではない。ギルに話した記憶は幸せだったと信じていた頃の記憶。

俺がこの世界にやって来る直前の記憶は……思い出さなければ良かったと思えるものだった。

「ギル……ギル……」

温もりを求めてギルの胸にしがみつく。

「ヒビキ……やはり思い出さない方が良かったような境遇にいたんだな……」

大きな手が落ち着けさせようと背中を摩ってくれる。その手にざわざわと体の奥から嫌悪感が沸き上がる。

いつもそうして貰っていたのに……必死に『この手』は『ギル』だと言い聞かせたけど体が言うことを聞かずに震え出す。

「触られるのが恐いのか……?」

大好きなギルに、そんなの悪いと思って答えられなかったけど、俺の変化に気付いたギルは手を離してくれた。

自分からしがみついているのに触られるのが嫌だなんて我が儘もギルは優しい目で受け入れてくれた。
俺に触れない様にしながらその胸の中でひとしきり泣かせてくれる。

ユーリカもキースさんも突然泣き出した俺を不審がる事無く、ただ泣き止むのを見守ってくれていた。

ーーーーーー

「今日はありがとうございました」
店が営業時間になったので食堂の裏口でキースさんを見送る。

「いいえ……喜んで頂けた……んでしょうかね?ユーリカさんに調理法はお教えしましたのでこれからはユーリカさんが作ってくれる筈ですよ」

冒険者さん達といっぱい出会って別れて覚えて感じる……既視感。

「……キースさん……もしかして、もう別の街へ?」

キースさんはクスッと微笑んだ。

「また旅先で美味しい物を見つけたら持って会いに来ます」

キースさんは俺の腕を取ると……いつかしてくれたみたいに手首を重ねた。

「ヒビキがこの先も皆に愛され続けます様に……」

キースさんの手……恐くない。
重なった腕から安心感だけが湧いてくる。
ギルでも駄目だったのに……。

この手は……いや……まさか……。

お互いの手首に御守りはもうないけれど……。

名前が違う。
見た目も全然違う。
何も結び付けるものなんてない……。

でも、この感じは……まさか……まさか。

「お兄……ちゃん?」

キースさんは驚いた様に目を見開くと……勢い良く体を引っ張られ体を抱き込まれた。

「全然違うのに、分かってくれたの?響……約束したのに側にいてあげられなかった。兄ちゃんを許してくれるか?」

この温もりはお兄ちゃん……お兄ちゃんだ……。
懐かしい感覚に、俺はゆっくり目を閉じてその温もりに身を預けた。
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