14 / 33
記憶を呼び起こす味
しおりを挟む
カウンターの中でキースさんとユーリカが並んで料理をしていて、ギルはムスッとした顔でカウンターからそれを眺めている。
メモを取るユーリカからは時折「マジか」「大丈夫かよ」と不安そうな声が上がっている。
しばらく炊くのに時間が空くからとユーリカとキースさんはカウンターの方へ向いた。
「あんたの料理は魔法みたいだな……」
「いろんな調理法で同じ食材でも別物になる……確かに魔法みたいですよね」
ユーリカの感嘆の声にキースさんはニコニコと笑っている。
「……あの溢れ出た魔力の量は異常だ……本当に魔法を使ってるんじゃねぇのか?」
ギルの疑いの眼差しにキースさんは眉を下げて申し訳なさそうに笑った。
「魔法は苦手なんですよ。加減が難しくて……やり過ぎて素材が回収できなくなってしまうので……素手の攻撃も加減が難しいのでショートソードぐらいの微妙な切れ味がちょうど良いんですよね」
武器は……攻撃力を高めるものかと思っていたけど、力を抑える為にも使われるんだぁ……いやいや、そんな使われ方聞いた事ないって。
そんな事を考えている間にキースさんは別の小袋を取り出した。
「ヌンパルの実です。乾燥させて粉末にすると良い味のアクセントになるんですよ。舐めてみますか?」
差し出された白い粉を少し指先につけてユーリカと一緒に舐めてみた。
「あ……これ……」
『塩』だ。
この世界に調味料は存在しないものだと思ってた。
「……辛いな」
ユーリカは少し眉間に皺を寄せていたけれど……俺はますますキースさんの出身国への憧れが湧いた。
きっとキースさんの故郷は食文化が日本と似ているに違いない。行きたい、行ってみたい……連れていってくれないかなぁ。
「そろそろ良い頃あいだと思います」
キースさんがコンロから移動させた鍋のふたを開けると……真っ白な米が炊きあがっていた。
「へぇ……こんな風になるんだな……」
「食えるのか……これ?」
ギルもユーリカも不思議そうに鍋の中を見つめる。
「このままでも良いんですが……食べやすい様に……」
キースさんは炊きたての白米をお皿に分けて……塩を手に取るとおにぎりにしてくれた。
俺の目の前に念願のおにぎりが艶やかに輝いている。
「い……いただきます」
ゴクリと喉が鳴る。
ギルとユーリカ……キースさんが見守るなか、興奮を抑えながら大きく口を開けて……おにぎりにかぶりついた。
塩味が舌を刺激して、柔らかな粒がホロホロと口の中で崩れて行く。
噛み締めると……懐かしい香りと甘み。
味の記憶と共に……ぶわっと風が吹き抜ける様に記憶の波が押し寄せた。
ぽろぽろ……ぽろぽろと涙が後から後から溢れ出す。
「おい、ヒビキ!?どうした!!……てめぇ!!何を食わせやがった!!」
「ギル……違う……懐かしくて……」
キースさんに掴み掛かったギルを静かに制する。
思い出の味に……。
「昔の記憶……思い出しちゃったから……」
蘇った記憶。
普通の家庭だと思っていた……それは嘘ではない。ギルに話した記憶は幸せだったと信じていた頃の記憶。
俺がこの世界にやって来る直前の記憶は……思い出さなければ良かったと思えるものだった。
「ギル……ギル……」
温もりを求めてギルの胸にしがみつく。
「ヒビキ……やはり思い出さない方が良かったような境遇にいたんだな……」
大きな手が落ち着けさせようと背中を摩ってくれる。その手にざわざわと体の奥から嫌悪感が沸き上がる。
いつもそうして貰っていたのに……必死に『この手』は『ギル』だと言い聞かせたけど体が言うことを聞かずに震え出す。
「触られるのが恐いのか……?」
大好きなギルに、そんなの悪いと思って答えられなかったけど、俺の変化に気付いたギルは手を離してくれた。
自分からしがみついているのに触られるのが嫌だなんて我が儘もギルは優しい目で受け入れてくれた。
俺に触れない様にしながらその胸の中でひとしきり泣かせてくれる。
ユーリカもキースさんも突然泣き出した俺を不審がる事無く、ただ泣き止むのを見守ってくれていた。
ーーーーーー
「今日はありがとうございました」
店が営業時間になったので食堂の裏口でキースさんを見送る。
「いいえ……喜んで頂けた……んでしょうかね?ユーリカさんに調理法はお教えしましたのでこれからはユーリカさんが作ってくれる筈ですよ」
冒険者さん達といっぱい出会って別れて覚えて感じる……既視感。
「……キースさん……もしかして、もう別の街へ?」
キースさんはクスッと微笑んだ。
「また旅先で美味しい物を見つけたら持って会いに来ます」
キースさんは俺の腕を取ると……いつかしてくれたみたいに手首を重ねた。
「ヒビキがこの先も皆に愛され続けます様に……」
キースさんの手……恐くない。
重なった腕から安心感だけが湧いてくる。
ギルでも駄目だったのに……。
この手は……いや……まさか……。
お互いの手首に御守りはもうないけれど……。
名前が違う。
見た目も全然違う。
何も結び付けるものなんてない……。
でも、この感じは……まさか……まさか。
「お兄……ちゃん?」
キースさんは驚いた様に目を見開くと……勢い良く体を引っ張られ体を抱き込まれた。
「全然違うのに、分かってくれたの?響……約束したのに側にいてあげられなかった。兄ちゃんを許してくれるか?」
この温もりはお兄ちゃん……お兄ちゃんだ……。
懐かしい感覚に、俺はゆっくり目を閉じてその温もりに身を預けた。
メモを取るユーリカからは時折「マジか」「大丈夫かよ」と不安そうな声が上がっている。
しばらく炊くのに時間が空くからとユーリカとキースさんはカウンターの方へ向いた。
「あんたの料理は魔法みたいだな……」
「いろんな調理法で同じ食材でも別物になる……確かに魔法みたいですよね」
ユーリカの感嘆の声にキースさんはニコニコと笑っている。
「……あの溢れ出た魔力の量は異常だ……本当に魔法を使ってるんじゃねぇのか?」
ギルの疑いの眼差しにキースさんは眉を下げて申し訳なさそうに笑った。
「魔法は苦手なんですよ。加減が難しくて……やり過ぎて素材が回収できなくなってしまうので……素手の攻撃も加減が難しいのでショートソードぐらいの微妙な切れ味がちょうど良いんですよね」
武器は……攻撃力を高めるものかと思っていたけど、力を抑える為にも使われるんだぁ……いやいや、そんな使われ方聞いた事ないって。
そんな事を考えている間にキースさんは別の小袋を取り出した。
「ヌンパルの実です。乾燥させて粉末にすると良い味のアクセントになるんですよ。舐めてみますか?」
差し出された白い粉を少し指先につけてユーリカと一緒に舐めてみた。
「あ……これ……」
『塩』だ。
この世界に調味料は存在しないものだと思ってた。
「……辛いな」
ユーリカは少し眉間に皺を寄せていたけれど……俺はますますキースさんの出身国への憧れが湧いた。
きっとキースさんの故郷は食文化が日本と似ているに違いない。行きたい、行ってみたい……連れていってくれないかなぁ。
「そろそろ良い頃あいだと思います」
キースさんがコンロから移動させた鍋のふたを開けると……真っ白な米が炊きあがっていた。
「へぇ……こんな風になるんだな……」
「食えるのか……これ?」
ギルもユーリカも不思議そうに鍋の中を見つめる。
「このままでも良いんですが……食べやすい様に……」
キースさんは炊きたての白米をお皿に分けて……塩を手に取るとおにぎりにしてくれた。
俺の目の前に念願のおにぎりが艶やかに輝いている。
「い……いただきます」
ゴクリと喉が鳴る。
ギルとユーリカ……キースさんが見守るなか、興奮を抑えながら大きく口を開けて……おにぎりにかぶりついた。
塩味が舌を刺激して、柔らかな粒がホロホロと口の中で崩れて行く。
噛み締めると……懐かしい香りと甘み。
味の記憶と共に……ぶわっと風が吹き抜ける様に記憶の波が押し寄せた。
ぽろぽろ……ぽろぽろと涙が後から後から溢れ出す。
「おい、ヒビキ!?どうした!!……てめぇ!!何を食わせやがった!!」
「ギル……違う……懐かしくて……」
キースさんに掴み掛かったギルを静かに制する。
思い出の味に……。
「昔の記憶……思い出しちゃったから……」
蘇った記憶。
普通の家庭だと思っていた……それは嘘ではない。ギルに話した記憶は幸せだったと信じていた頃の記憶。
俺がこの世界にやって来る直前の記憶は……思い出さなければ良かったと思えるものだった。
「ギル……ギル……」
温もりを求めてギルの胸にしがみつく。
「ヒビキ……やはり思い出さない方が良かったような境遇にいたんだな……」
大きな手が落ち着けさせようと背中を摩ってくれる。その手にざわざわと体の奥から嫌悪感が沸き上がる。
いつもそうして貰っていたのに……必死に『この手』は『ギル』だと言い聞かせたけど体が言うことを聞かずに震え出す。
「触られるのが恐いのか……?」
大好きなギルに、そんなの悪いと思って答えられなかったけど、俺の変化に気付いたギルは手を離してくれた。
自分からしがみついているのに触られるのが嫌だなんて我が儘もギルは優しい目で受け入れてくれた。
俺に触れない様にしながらその胸の中でひとしきり泣かせてくれる。
ユーリカもキースさんも突然泣き出した俺を不審がる事無く、ただ泣き止むのを見守ってくれていた。
ーーーーーー
「今日はありがとうございました」
店が営業時間になったので食堂の裏口でキースさんを見送る。
「いいえ……喜んで頂けた……んでしょうかね?ユーリカさんに調理法はお教えしましたのでこれからはユーリカさんが作ってくれる筈ですよ」
冒険者さん達といっぱい出会って別れて覚えて感じる……既視感。
「……キースさん……もしかして、もう別の街へ?」
キースさんはクスッと微笑んだ。
「また旅先で美味しい物を見つけたら持って会いに来ます」
キースさんは俺の腕を取ると……いつかしてくれたみたいに手首を重ねた。
「ヒビキがこの先も皆に愛され続けます様に……」
キースさんの手……恐くない。
重なった腕から安心感だけが湧いてくる。
ギルでも駄目だったのに……。
この手は……いや……まさか……。
お互いの手首に御守りはもうないけれど……。
名前が違う。
見た目も全然違う。
何も結び付けるものなんてない……。
でも、この感じは……まさか……まさか。
「お兄……ちゃん?」
キースさんは驚いた様に目を見開くと……勢い良く体を引っ張られ体を抱き込まれた。
「全然違うのに、分かってくれたの?響……約束したのに側にいてあげられなかった。兄ちゃんを許してくれるか?」
この温もりはお兄ちゃん……お兄ちゃんだ……。
懐かしい感覚に、俺はゆっくり目を閉じてその温もりに身を預けた。
294
あなたにおすすめの小説
異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。
みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。
事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。
婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。
いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに?
速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす!
てんやわんやな未来や、いかに!?
明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪
※同タイトルを「小説家になろう」様でも掲載しています。
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。
春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。
新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。
___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。
ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。
しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。
常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___
「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」
ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。
寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。
髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?
婚約破棄させた愛し合う2人にザマァされた俺。とその後
結人
BL
王太子妃になるために頑張ってた公爵家の三男アランが愛する2人の愛でザマァされ…溺愛される話。
※男しかいない世界で男同士でも結婚できます。子供はなんかしたら作ることができます。きっと…。
全5話完結。予約更新します。
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる