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キースさんのお土産
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「いい加減、機嫌をなおせよ」
ユーリカは野菜を煮込む鍋から目を離さずに背中で笑っている。
「別に……怒ってないし……」
モップを動かす手を止めてカウンターの中のユーリカの背中を見た。
今日はギルド内はバタつくだろうからとギルドの手伝いはお休みしてユーリカの食堂の手伝いに来ている。
「ギルの溺愛にも困ったもんだが……お前だってそれに甘えてきたんだお互い様だろ」
ユーリカに窘められて……バツが悪く掃除を再開させた。
確かに『ギルの愛人』という居心地の良い立場に甘えていて、それを否定した事はなかった。
こうして誰かを好きになるとは思ってなかったから『ギルの愛人』って呼ばれても別にいいかなって思ってた。
最初から俺が否定してれば良かった話か……。
その時、カランカランと音を立てて扉が開いた。
「あ、すみません。まだ開店時間じゃ……あ……」
「すみません。ヒビキさんがこちらに来ていると聞いたので」
和やかな笑顔でキースさんが入口に立っていた。
「おう、あんたか。そんなとこに突っ立てねぇで中に入れよ」
「お邪魔します」
「あの……キースさん!!おはようございます」
背筋を伸ばして近づいてきたキースさんに頭を下げた。
「おはようございます。昨日はバタついていて渡せなかったので……例のお土産を持ってきました」
キースさんはそう言って大きな袋を持ち上げて笑ってくれた。
「キースさん……昨日はみっともないところをお見せしまして……」
「いいえ、三人とても仲が良さそうで安心しました」
キースさんはカウンターへ進んで袋をおろした。
「えっとユーリカさん?貴方がヒビキの食事の面倒をみていらっしゃるとの事でしたのでこちらにお持ちしました」
鍋を掻き混ぜる手を止めてユーリカもカウンターに近づいてきた。
キースさんが広げた袋の中には大量の茶色い豆が……。
「これは……パルチャナ豆か?煮ても固くて食えたもんじゃねぇぞ?どうするんだ?」
ユーリカは不思議そうにキースさんに視線を向ける。
「さすが、ご存知ですか。確かにパルチャナ豆は普通に茹でただけではとても食べられた物ではないのですが……途中で買ってきました……これを使うんです」
そう言ってキースさんが取り出したのは、薬屋の人が薬草をすりつぶすのに使っている石で出来た鉢だった。
「一度俺がやってみますね」
キースさんは鉢の中に豆を掴んで入れると石の棒で豆を叩きつぶし始めた。
そしてそれをすりつぶしていくと……徐々に粘り気が出て来て……。
「え……これ食うの?」
ユーリカの顔は引きつっているけれど、俺は身を乗り出して鉢の中に見入っていた。
見た目はアレだけど……これは……この香りはまるで……『味噌』だ。
「ここに小魚を乾燥させて粉にしたものを……」
小袋から取り出した粉もかつお節みたいで良い香り……。
「これぐらいでいいかな……ユーリカさん、煮込み中のあのスープ少し分けて頂いても宜しいですか?」
「あ?いいけど、まだ煮込み中だぞ」
野菜は柔らかく火が通ってるけどまだ煮溶けてない。俺はそれぐらいでいいのだけれどこの世界ではドロドロになるまで煮続ける。
「それぐらいがいいんですよ」
お皿の中にキースさんは味噌を取るとその上から作り途中の野菜スープをかけて味噌を溶いた。
「はい、どうぞ」
「はいどうぞって……本当に食えんのか?……ヒビキ?」
嫌悪感を露にするユーリカだけど……俺はふらふらと手を伸ばした。
これは……この香りは味噌汁だ……お皿を持ち上げて一口啜った。
鼻を抜ける香り……懐かしい香り……。
「おい……ヒビキ……」
ユーリカに肩を掴まれて我に返る。
頬を涙が伝っていた。
「ああ……ごめん。美味しすぎて……」
ユーリカも味噌汁を訝しみながら口へ運んだ。
「これは……俺たちの食事とはまるで違うな……これはあんたの出身地の食事か?」
「まあ……そうですね」
キースさんの出身地……そこに日本と似た食文化があるのか……。
……行きたい。
飲む事も忘れて味噌汁を見つめ続けた。
「……これがヒビキの味か……」
ユーリカは口をキュッと結ぶと食料庫へ消えた。
すぐに戻って来たユーリカの手には袋。
「あんたならこれをどう料理する?」
ユーリカが広げた中身は……。
「……カオカオの実?」
「違いますね。これはルジャの実。カオカオの実の仲間です」
「あんたのカオカオの実にヒビキが食いついていたからな……食べさせてやりたいと採りにいっていたんだが……調理法が違うのかスープに混ぜてもヒビキは反応しなかった」
ユーリカ……最初キースさんと別れた後、ギルの態度に怒って家に来ないんだと思ってたら……俺の為にこれを採りに行ってくれてたんだ……。
「ユーリカ……」
ギュッとユーリカの細い腰にしがみついた。
そんな俺たちの様子にキースさんは嬉しそうに口元を綻ばせた。
「香りならカオカオですが、ルジャも甘みが強くて美味しいですよ……是非調理法を覚えてヒビキに食べさせてあげて下さい」
ルジャの実を一掴みしたキースさんの指の隙間からパラパラとルジャの実が流れ落ちた。
ーーーーーー
「あ~腹へったぁ~!!」
バンッ!!と音を立ててズカズカとギルが入ってきた。
「うお!?お前……何でここに……」
「約束していたお土産をお渡ししようと思いまして……ユーリカさんに許可は頂きました」
ギルが勢い良くユーリカを睨むとユーリカは舌を出してそっぽ向く。
俺の居場所を聞いたって……ギルしか知らない筈なのにギルはキースさんがここに来てることを知らないみたい。誰に聞いたんだろう。
顔に出ていたのかキースさんは、騒ぐギルとギルの攻撃をさらりとかわしてイチャつくユーリカたちから隠れる様にコソッと教えてくれた。
「あの翼竜達は良く躾けられていて良い子達ですね。ヒビキがここにいる事も教えてくれました」
え!?翼竜達って喋れるの!?10年一緒にいて一度も聞いた事無い……俺に魔力が無いから?
魔法ってやっぱりすごいなぁ……。
ギルとユーリカの夫婦喧嘩を楽しそうに見つめるキースさんの横顔を尊敬の眼差しで見つめていた。
ユーリカは野菜を煮込む鍋から目を離さずに背中で笑っている。
「別に……怒ってないし……」
モップを動かす手を止めてカウンターの中のユーリカの背中を見た。
今日はギルド内はバタつくだろうからとギルドの手伝いはお休みしてユーリカの食堂の手伝いに来ている。
「ギルの溺愛にも困ったもんだが……お前だってそれに甘えてきたんだお互い様だろ」
ユーリカに窘められて……バツが悪く掃除を再開させた。
確かに『ギルの愛人』という居心地の良い立場に甘えていて、それを否定した事はなかった。
こうして誰かを好きになるとは思ってなかったから『ギルの愛人』って呼ばれても別にいいかなって思ってた。
最初から俺が否定してれば良かった話か……。
その時、カランカランと音を立てて扉が開いた。
「あ、すみません。まだ開店時間じゃ……あ……」
「すみません。ヒビキさんがこちらに来ていると聞いたので」
和やかな笑顔でキースさんが入口に立っていた。
「おう、あんたか。そんなとこに突っ立てねぇで中に入れよ」
「お邪魔します」
「あの……キースさん!!おはようございます」
背筋を伸ばして近づいてきたキースさんに頭を下げた。
「おはようございます。昨日はバタついていて渡せなかったので……例のお土産を持ってきました」
キースさんはそう言って大きな袋を持ち上げて笑ってくれた。
「キースさん……昨日はみっともないところをお見せしまして……」
「いいえ、三人とても仲が良さそうで安心しました」
キースさんはカウンターへ進んで袋をおろした。
「えっとユーリカさん?貴方がヒビキの食事の面倒をみていらっしゃるとの事でしたのでこちらにお持ちしました」
鍋を掻き混ぜる手を止めてユーリカもカウンターに近づいてきた。
キースさんが広げた袋の中には大量の茶色い豆が……。
「これは……パルチャナ豆か?煮ても固くて食えたもんじゃねぇぞ?どうするんだ?」
ユーリカは不思議そうにキースさんに視線を向ける。
「さすが、ご存知ですか。確かにパルチャナ豆は普通に茹でただけではとても食べられた物ではないのですが……途中で買ってきました……これを使うんです」
そう言ってキースさんが取り出したのは、薬屋の人が薬草をすりつぶすのに使っている石で出来た鉢だった。
「一度俺がやってみますね」
キースさんは鉢の中に豆を掴んで入れると石の棒で豆を叩きつぶし始めた。
そしてそれをすりつぶしていくと……徐々に粘り気が出て来て……。
「え……これ食うの?」
ユーリカの顔は引きつっているけれど、俺は身を乗り出して鉢の中に見入っていた。
見た目はアレだけど……これは……この香りはまるで……『味噌』だ。
「ここに小魚を乾燥させて粉にしたものを……」
小袋から取り出した粉もかつお節みたいで良い香り……。
「これぐらいでいいかな……ユーリカさん、煮込み中のあのスープ少し分けて頂いても宜しいですか?」
「あ?いいけど、まだ煮込み中だぞ」
野菜は柔らかく火が通ってるけどまだ煮溶けてない。俺はそれぐらいでいいのだけれどこの世界ではドロドロになるまで煮続ける。
「それぐらいがいいんですよ」
お皿の中にキースさんは味噌を取るとその上から作り途中の野菜スープをかけて味噌を溶いた。
「はい、どうぞ」
「はいどうぞって……本当に食えんのか?……ヒビキ?」
嫌悪感を露にするユーリカだけど……俺はふらふらと手を伸ばした。
これは……この香りは味噌汁だ……お皿を持ち上げて一口啜った。
鼻を抜ける香り……懐かしい香り……。
「おい……ヒビキ……」
ユーリカに肩を掴まれて我に返る。
頬を涙が伝っていた。
「ああ……ごめん。美味しすぎて……」
ユーリカも味噌汁を訝しみながら口へ運んだ。
「これは……俺たちの食事とはまるで違うな……これはあんたの出身地の食事か?」
「まあ……そうですね」
キースさんの出身地……そこに日本と似た食文化があるのか……。
……行きたい。
飲む事も忘れて味噌汁を見つめ続けた。
「……これがヒビキの味か……」
ユーリカは口をキュッと結ぶと食料庫へ消えた。
すぐに戻って来たユーリカの手には袋。
「あんたならこれをどう料理する?」
ユーリカが広げた中身は……。
「……カオカオの実?」
「違いますね。これはルジャの実。カオカオの実の仲間です」
「あんたのカオカオの実にヒビキが食いついていたからな……食べさせてやりたいと採りにいっていたんだが……調理法が違うのかスープに混ぜてもヒビキは反応しなかった」
ユーリカ……最初キースさんと別れた後、ギルの態度に怒って家に来ないんだと思ってたら……俺の為にこれを採りに行ってくれてたんだ……。
「ユーリカ……」
ギュッとユーリカの細い腰にしがみついた。
そんな俺たちの様子にキースさんは嬉しそうに口元を綻ばせた。
「香りならカオカオですが、ルジャも甘みが強くて美味しいですよ……是非調理法を覚えてヒビキに食べさせてあげて下さい」
ルジャの実を一掴みしたキースさんの指の隙間からパラパラとルジャの実が流れ落ちた。
ーーーーーー
「あ~腹へったぁ~!!」
バンッ!!と音を立ててズカズカとギルが入ってきた。
「うお!?お前……何でここに……」
「約束していたお土産をお渡ししようと思いまして……ユーリカさんに許可は頂きました」
ギルが勢い良くユーリカを睨むとユーリカは舌を出してそっぽ向く。
俺の居場所を聞いたって……ギルしか知らない筈なのにギルはキースさんがここに来てることを知らないみたい。誰に聞いたんだろう。
顔に出ていたのかキースさんは、騒ぐギルとギルの攻撃をさらりとかわしてイチャつくユーリカたちから隠れる様にコソッと教えてくれた。
「あの翼竜達は良く躾けられていて良い子達ですね。ヒビキがここにいる事も教えてくれました」
え!?翼竜達って喋れるの!?10年一緒にいて一度も聞いた事無い……俺に魔力が無いから?
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