幼馴染に聖女として異世界に呼び出し喰らいました

藤雪たすく

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第4話「始まりの街を決めよう」

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王様の住むお城の食料庫から全て持ち出したと言っていた悠也に朝食として手渡されたのは丸っこいパン一個だった。
朝食はいつも抜いてたし、食に関心の強いやつではなかったけれど、ここまでとは……。スープとは言わないが、せめて水分が欲しい。
食料を持ってこれたなら、食器は?調理器具は?
本当に食料だけを持ってきたんだな。召喚した奴らは怒っていたと言ってたし、もしかしたらそこまで頭が回らなくなる状況だったのかもしれない。

ありがたくパンを齧りながら悠也を見ると、しっかりとした意識を持ってパンを食べている。

早めに家を出て、寝ぼけたコイツの準備を手伝ってから学校へ向かう日常を思い出して、この数日でここまで成長するなんてと、ちょっと感動してしまった。

「ゆうちゃんはこの後どこか行きたいとこある?」

放課後どこかに寄ってく?みたいな感覚で聞かれても行きたいところなんてあるわけがない。城や街はおろか、この世界の人間にすら俺はまだ会ってないんだ。どんな世界かもわからないのに希望なんてない。

「俺たちを召喚した奴らの城?からは離れた方がいいのかなとは思うけど……追手とかあったら怖い」

『聖女』としてしっかりスキルを持って転生しちゃってる事がバレたら面倒な事に巻き込まれる予感しかしない。
その『聖女』の力も王家の為じゃなく、もうコイツの為に固定されちゃってるし……。
チラリと悠也の横顔を盗み見る……パンを咀嚼する口元に目がいって思わず思い出した事に顔が熱くなり、慌てて目を逸らした。

「追手は当分大丈夫だと思うよ?俺だってもう関わりたくないし、大陸を移動したから大丈夫でしょ」

「そっか」

モグモグモグモグ……んん? 
悠也は寝てる俺を担いで走って逃げたと言ってたよな。大陸移動?そんな長い間俺は寝ていたのか?大陸と言ってもすごく小さいとか、お城が海に面していた国だったとかか?

……ここは異世界。何があってもで片付けよう。

俺は現実逃避して、腹を膨らませる事にのみ集中する事にした。

======

「ここから西へ進むとエルフたちが住む森。南へ進めばここの大陸を治めてる国の王宮がある街。東へ向かうと農村地区だね。北へ向かうと海……へ戻る」

目の前にあるのは大きな世界地図。
これは悠也のスキル、『地図制作』で作り出されたものだ。。行った事のない悠也がなぜ詳細を知っているか?それは、気になるところを指で触れると説明文が浮かび上がるからだ。

「じゃあ北は駄目だな。エルフは見てみたいけど……『人間嫌い』ってのがテンプレだし怖いな……大きな街か田舎の村か……」

農村でまったりというのは魅力的ではあるが、こういう田舎は余所者には入り込めない繋がりが強そうだ。だとしたら消去法でこの国の王都へ向かう事になるかな?

悠也の考えを聞こうと隣に座る悠也の顔を見ると「ん?」と首を傾げられた。こいつはいつも自分の意見とか無かったからな。いつも何を聞いても「悠生の行きたいところで」「悠生のやりたいことで」といつもいつも……俺のことばっか……本当に昔から俺のことを……。

「うわぁっ!!」

考え事に気を取られていると突然、頬にキスをされて飛び跳ねて距離をとる。

「ななななな……なに!?」

「ゆうちゃんがすごく可愛い顔してたから」

悪びれのない笑顔。こいつはこんな奴だったろうか?いつもボーとしていて「うん」とか「うーん」しか言わなかったやつがこんな歯の浮くようなセリフをサラリと……。

「バカ言ってないで、これからどうするかを真面目に考えろよ……これからは自分達の力で知らない世界を生きていかなきゃいけないんだぞ」

ドキドキと煩く騒ぐ心臓の音が悠也に聞こえるはずもないのに、聞かれられないようにと立ち上がった。

「そうだね。どこに向かうのか、目的地はしっかり決めようね」

手を引っ張られ……なぜか悠也の膝の上。後ろから包み込むように伸ばされた手は地図を広げている。

コイツと体格差ってこんなにあっただろうかと思うほどすっぽりと収まっている俺。自分の腕を見ると見知った腕よりも若干細い気もするのだが……もしかして『聖女』という肩書きに合わせて、身体にも多少の修正がかかっているのだろうか?

くそ……集中、地図に集中だ。

無駄に離せという会話をするより、さっさと目的地を決めてしまうのが吉と地図だけに集中した。

「このマラトレーゼっていう街がアステルラ国の王都だよ。この国は『聖女』の文化もないし何より平和、種族間の差別もない…………同性婚も」

「ん?なに?」

最後の方は声が小さくて聞き返し振り返るが「なんでもないよ」と笑って誤魔化された。

「悠也、詳しいな……って、説明が出るんだったっけ?」

村を示すアイコンの一つに触れてみると村の情報が浮かぶ。
『リジャの村』
農耕が盛んな村。
人口…64人
特産品…小麦・じゃが芋

『バサルの村』
牧畜が盛んな村。
人口…43人
特産品…干し肉・チーズ

食べ物の名前は地球と同じなんだ。わかりやすくていいな。
しかしやはり人口は100人以下……どうあっても目立つだろう。

『王都マラトレーゼ』
アステルラ国の王都。多くの行商人と冒険者で賑わう。
人口…4500人
特産品…緑の魔石

王都でも以外に人口が少ないもんだと思ったが、行商人や冒険者が多いなら定住者のみを人口と捉えるならそんなものなのかもしれない。それより……冒険者かぁ。

さまざまな漫画や小説が思い浮かぶ。

そして特産品の『緑の魔石』だ。魔石って言葉にワクワクするよね。特産品って言われると、畑に実る魔石を想像してちょっと笑いそうになる。

「冒険者……楽しそうだなぁ」

「ゆうちゃん、異世界系の漫画をよく読んでたもんね。よし、二人で最強の冒険者を目指そう」

俺の一言でこの世界での二人の人生が決まってしまった。
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