君と二人で愛の異世界開拓ごっこ 婚約者に裏切られた悔しさを晴らす為に二人で『人間の始まり』になりましょうって正気ですか?

藤雪たすく

文字の大きさ
9 / 34

探索ごっこ

しおりを挟む
うん、獣に食べられて死ぬ事に比べたら宇宙人に掘られる方が幾分もマシだろう。
ナディユさんイケメンだし、無茶はしそうにないし、気にする世間の目も無いから、低いがそこそこあるプライドも傷つけられる事もないだろう。

開き直ると妙にスッキリして、美味しく肉挟みパンを頂いた。

ーーーーーー

「アイテムボックスの中に食材も残っていますが、食べられる物を探しに行きませんか?この星の生物や植物のデータも集めていきたいですから」

一枚の壁が異世界の中世ヨーロッパ風宿屋に不釣り合いなモニターに変わり、この世界で俺が一番最初に出会った獣と先程胃に収めたばかりの獣の写真が映し出され、その獣についての詳細が書かれていた。

「こんな情報をとっていたんですか」

言語を全て日本語に書き換えてくれたと言っていたが、本当だったんだ。
ただ読めても情報は少ない。名前さえ表示されてはおらず、ただ食用かどうかとか、目に見えてわかる特徴なんかが書かれていた。

「詳細はこれから何度も遭遇して確認していけば増えていきますよ。この世界の言葉がわからないので獣の名前もわかりませんね……どうですか?わかりにくいので二人で名前を決めていきませんか?情報は後から書き換え可能ですので」

「確かにあれもこれも獣ではわかりにくいですよね」

「克真さんならこの獣にどんな名をつけますか?」

突然名付けを託された。
難しい名前をつけても覚えられそうにないし見た目の印象だけで簡単に……。

「猪?」

「そうですね。私も猪に似ているなと思っていました」

安直な名付けに同意してくれながら、ナディユさんは獣の詳細ページに『猪』と光のキーボードで楽しそうに打ち込んだ。自分で言ったけれどそんなので良いのだろうか。もう一頭にはカバと名付けた。

ーーーーーー

現地調査に誘われて、ナディユさんと森の中を探索中である。
とはいえ雰囲気は遠足気分。
それは偏にナディユさんがおおはしゃぎだからだ。

「克真さん!!克真さん!!見てください、お茶に似た香りのする木がありますよ」

そう言って楽しそうに何かを見つけては、あの例の体温計を突き刺している。
どうやらあの体温計で情報を読み取って、それを宇宙船へ送っているらしいのだが、よかったよ。
出会い頭にいきなりあれで刺されてたら流石に俺も警戒するな。

俺もやってみるかと誘われて、同じ物を渡されている。生き物に刺すのは厳しいが植物にならと側にあった木に差してみたら……反撃された。

体温計を刺した瞬間、細い枝が飛んで来て頬を裂いた。

獣だけと思っていたら木の化け物もいるのか……俺の唯一の武器、スマホを取り出して木に向けると……既に木の化け物は激しく枝を振り乱しながら火に包まれていた。

「克真さん!!大丈夫ですか!?こんな怪我をさせてしまうなんて……」

「ちょっと掠っただけなので大丈夫ですよ。まさか動く木がいるなんて思っていなかったので油断してました」

木に刺した体温計にはあの木の詳細が表示されていた。

『木に擬態した虫』

「うわ……あれ虫かよ」

あのデカさで虫かと思うと急に気持ちが悪くなった。

「虫は苦手ですか?」

体温計をさらりと奪われる。
もう余計な事をするなと言う事かな。

「元々好きでは無いですが、あのデカさを見ると苦手になりました」

そっと頬にバーコードリーダーの様な物をあてられる。何をスキャンする気かと思ってジッとしているとピリピリしていた頬の痛みが消えた。

「怪我を治す魔機ですか?」

「はい。失ったものを新たに作り出す事は出来ませんが切断面を繋げる位の能力はあります」

小さいのに凄い道具だ。

「安心して怪我出来ますね」

「怪我をしない様に気をつけましょう。そして何をされているのか分からないなら、使う前に聞いて下さい。信用してくれるのは嬉しいですが……心配になります」

「ナディユさんも使う前に説明してください」

う……とナディユさんが言葉に詰まったのを見て1本取った様な気がして……楽しい。

「私達には普通の事なのでつい忘れてしまうんです」

「じゃあ、お互い様ですね。あの虫どうします?食べるのは俺はちょっと……」

一応体温計では食べても無害って出てたんだよな。美味しそう!!とは全く思わないが……だって虫だろ?小さい頃はそこそこ田舎に住んでいたが昆虫食には到達していない。

「そんなに嫌そうな顔をなさらなくても、昨日の猪の肉もありますし、足りない栄養は補助ゼリーで補えるので無理して食べる必要はありませんよ」

花の蜜を吸って間違って蟻を口にした事位はあるけど……痛いぐらい辛いんだよな……嫌な記憶を思い出して苦虫を噛み潰した様な顔になってしまった様だ。

虫食べなくて済んだ。朝のゼリーみたいなのは栄養補助食品だったのか。肉だけだと成人病になりそうだもんな。無味無臭で美味しくも不味くも無かったが、虫は食べたくないから残さない様にしよう。

「私も無益な殺生は好みませんが、この虫は克真さんの頬を傷付けるという大罪を犯したので当然の報いです。気にせず探索を続けましょう」

「はい」

殺めた命は美味しく戴く精神で言った訳では無いけれど……まあ、良いか。
そんな大罪は犯して無いと思うけど、これが生存競争だ……でもちょっと可哀想だし、この虫を殺す事によって変わるかもしれない生態系がわからないし、次からは不用意に近付くのは止めておこう。

この虫は『木みたいな虫』と登録して、森の奥へと進んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件

表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。 病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。 この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。 しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。 ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。 強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。 これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。 甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。 本編完結しました。 続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...