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ちょろインです

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ヒロインって言ったし、俺ではなく、いずれ出会うかもしれないここの異世界人の誰かに向けてかもな~。

なんて考えに至るわけがない。
どう考えてもナディユさん、確実に俺をヒロイン認定してるよね?

「食事の途中だったので、お腹空いてますよね?」

俺が寝た後に焼いたのであろう肉の串をアイテムボックスから取り出し、木でできたお皿に乗せたり、いそいそと食事の準備を始めるナディユさんの腕を掴んで止める。

「ナディユさん、食事の前に大事な話があります」

真剣な眼差しでナディユさんを見上げたのだが……お腹が鳴った。
睡眠欲が解消されて食欲が前面に出てきたな。

「食事を取りながらお話しませんか?もしくは終わってから……時間は十分ありますので」

ナディユさんの備蓄なのか、テーブルの上には串焼き肉だけではなく、パンとゼリーっぽいものと玄米茶もどきが並べられている。異世界漫画かぶれした宇宙人は丁寧に手を合わせて『いただきます』と言った。

「異世界が漫画とても気に入られたんですね」

「とても面白かったです。星にいる時は冒険とかそういう事とは無縁の生活をしていましたから」

口調は翻訳機が間に介入しているせいなのかもしれないけど、丁寧で穏やか。姿勢もいいし、食べる姿も優雅。
貴族というものが存在するのかわからないけど、婚約者とかもいたって言うし、良家の出身なのかもしれないな。

チート能力でヒロインを格好良く守る異世界転生者……は、まあ良くある話で、『ヒロイン=守られる者』その認識もあながち間違ってはいないと思う、全てでもないが。ナディユさんがチート能力者かというと、便利な道具を持っているし、すぐに地球の物も解析して作りかえる能力があるので、チートと言えなくはない。一番重大な間違いが何かというと、俺をヒロインと認識したその一点だ。

「ヒロインというのは漫画の中で女性キャラに対する呼び名であって、男に対して使う言葉ではないですからね」

勘違いだったら恥ずかしいが、勘違いでないと思う。
もしかしたら『ヒロイン』に当てはまる良い言葉がないのかも。翻訳機がお互いの世界で一番近い物に言葉を置き換えてくれるって言ってたから、その辺で訳が狂っちゃってるのかもな。

「転生者が恋する相手の事がヒロインと呼ばれるのではないのですか?」

「まあたいていの場合、恋愛対象者がヒロインと呼ばれますけど……主要な女性キャラもヒロインですよ」

……んんん?
無言でパンに肉を挟んでかぶりついた。

ナディユさんの言葉を思い出しながら復習してみようか。

転生者=チート。
俺はチートはナディユさんの方だと言ったな。つまり……転生者=チート=ナディユさん。
ナディユさんの認識では、転生者が恋する相手=ヒロイン。
チート能力はヒロインを守るためにり、ナディユさんは俺が快適に暮らせるように尽くしてくれる。

何か勘違いしてるのかもなと期待していたけど……俺、ナディユさんに恋愛対象として見られてる?

いやいや……いくら脱出が薄い星に二人きりと言っても男同士。そう簡単にそうはならない……でも引っかかっていた婚約者に対して言った『彼』という形容。

翻訳機のせいかと思っていたけど……もしも……もしもナディユさんの星の人が元々同性愛がごく当たり前の世界だったら?婚約者に裏切られた傷心の同性愛主義宇宙人と未開の地で二人きり……。

俺……狙われてますか?

ごくりと飲み込んで喉につっかえた簡易サンドイッチを、玄米茶もどきで流し込んだ。
玄米茶は熱すぎず、緩すぎず適温。細やかな気遣い……困ったな……。
ナディユさんが良い人でさえなければ逃げ出すところだが、如何せんナディユさんは良い人すぎる。

此処から抜け出して獣に殺されるぐらいなら……ナディユさんとなら良いかな……なんて血迷った気持ちもなきにしも……。

頭の中で獣とナディユさんが天秤に掛けられる。

俺は……こんな事がなければ気づかなかったがちょろインだったようだ。
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