好きになってしまいました

藤雪たすく

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俺の話

新たな仲間を求めて

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「それでは同居人の方のご署名をこちらにお願い致します」

不動産屋さんのお姉さんに示された場所に名前を書く。

「婚姻届みたいでドキドキするね。楽しもうね、同棲生活」

「ぶほっ!!……失礼致します!!」

都居くんの言葉にお姉さんが吹き出して席を立った。

「……都居くんが変な事を言うから……」

「え~?だって二人の名前が並んでて、保証人の名前があって……婚姻届けみたいじゃない?」

「見たこと無いから知らない……あんまり外で変な事言わないでよ」

「家だったら良いの?」

ふにゃんと柔らか~く笑われて……これ以上何を言っても敵わないのでスルーする事にした。

書き終えるとお姉さんが戻ってきて、処理してもらい保険代を払って……これで名実共に同居が始まる。

「これでやっと親に火事の事、報告出来るよ。これからお世話になります。都居くん」

改めてよろしくと頭を下げた。

「ふぐっ!!……あっありがとうございます!!」

お姉さんが勢いよく立ち上がって、握手される。

………?
謎の握手の謎は解けないまま、都居くんに襟元を捕まれて不動産屋を後にした。

「変わったお姉さんだったね?都居くん?」
あれ?何か怒らせた?

全然こっちを見てくれない。

「あんな幸せそうな笑顔であんな台詞……ズルい」

「え~……だって親に火事の事話して無いの心苦しかったし……」

そんなに笑顔になっていたかな?
ほっと一安心ではあったけど。

「……うん。そうだね、分かってたよ……分かってたけど……山川は結構、無自覚に酷いよね」

う……酷いって正面から言われると……。

「自覚はちゃんとあるよ。でも住むとこ決まんないうちに言うと、絶対帰ってこいって言われるし……うわぁっ!!」

都居くんに髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。

「そういうとこも好きだけど、ちょっとムカついた」

「……ごめん。ちゃんとすぐ連絡するようにするよ。俺、服とか買い物していくからまた後で……」

手を振って……別れた筈なのに、何で都居くん付いてくるんだろう?

「都居くん……バイトは?」

「今日は休み。山川が余計な物買わないように見張っとかないと……」

「無駄遣いしないってば……子供じゃ無いんだから」

都居くんがじと目で見てくる。
信用無いなぁ……俺。

「どうせ気を使ってシャンプーとか洗剤とかティッシュとか、買うつもりでしょ」

う……買うつもりでした。

「やっぱり……気にしないでって言ってんのに……」

目を反らした俺の頬を両手で引っ張ってくる。

「だからっ!!気にせず使えるように交代で買い替えようって言っても都居くん、聞いてくれんやん!!自由にして良いって言うから勝手に買う!!」

「そんな方向に強くならなくて良いのに……」

溜め息混じりに苦笑いする都居くん。

「都居くんはまだ学生なんだから家賃親のお金でしょ?そこに俺が甘えるのおかしいやんか」

いくらお金持ちの息子だろうと、その親の金に俺が頼るのは間違いだ。

「俺のお金だよ」

「へ?」

学生でそんなにお金持ってんの?
カフェのバイトってそんなに儲かるの?

「俺の名義でマンション持ってるから家賃収入……まぁ、親から譲り受けた物ではあるけどね」

「え?あのマンション都居くんのなの?大家さん?」

俺の考える学生とはスケールが違った。

「違う場所だよ。あそこは借りてるだけ」

「何で?自分のマンションに住んだら家賃かからないんじゃないの?」

「さぁ?何ででしょう?」

学校が遠いとか……かな?

「親のお金じゃ無いってわかったから気兼ね無いでしょ?もう消耗品は買わなくて良いね!!服を買いに行こう!!」


「そう言う問題じゃ無いよ~」

にっこり笑う都居くんに腕を引っ張られて、前のめりに転けそうになりながら付いていった。

ーーーーーー

「これとか山川に似合いそう」

「…………」

やっぱり別行動していいかな……。

こんなシャツが1枚2万円するような服じゃ無くて安いのをいっぱい欲しいんだけど……。

おしゃれな店員さんと聞きなれない横文字で楽しそうに会話する都居くんから服を選ぶフリをしながら距離を取っていく。

都居くんが親しみを込めて優しくしてくれるから忘れていたけど、こうして見るとやっぱり違う世界の住人だ。

そっと店から出て店の前のベンチに座る。

平日のショッピングモールは人も疎らで、都居くんがお薦めしてくれる店は、入った瞬間に店員さんが寄ってきてわからない単語を並べてくる。
正直疲れた……。

安さが売りの店が見える。
あっちの店に行きたいなぁ……勝手に行ったら感じ悪いよね。こうして側から離れている時点で同じか。

でも俺が服を買いに来たのに好きにさせてくれない都居くんだって悪いと思う。

「山川!!」
都居くんが小走りで近づいてくる。

「ここに居たのか……急にいなくなるから誰かに連れて行かれたのかと思っちゃった」

連れて行かれるって、俺は何歳だよ……。

「ごめん。ちょっと疲れちゃって……都居くん店員さんと話してたから勝手に休んじゃってた」

「俺の方こそごめん。俺の趣味を押し付けて山川の事考えてなかった……山川は……あっちの店の方が良いかな?」

俺がさっき見ていた服屋を都居くんが指差す。

「……うん。良い物を着た方が良いのはわかるけど、収入も少ないし……今は枚数が欲しい」

「そうだよね……山川は他の子とは違うもんね……ごめんね。あっちに行こう」

手を差し出されて……戸惑いながら手を取ってベンチから立ち上がる。

「女の子と買い物してるとさ、俺が金だすの当たり前で……安い店に連れてくと文句言われてたから……」

「デートって訳じゃ無いんだから、俺に奢ろうとするなよな」

俺が都居くんにたかろうとしてると思われたのか?ちょっと苛ついて口調も荒くなってしまって……口にしてから反省する。

「そ……そうだね」

店に付いて、適当に上下と下着と靴下とを何枚かまとめて買う。いくら安くてもまとめて買うと結構な出費になった。

大きな袋を抱えて……あとは……。
和雑貨のお店の前で立ち止まった。

「都居くん、店内狭くて割れ物も多いから……ここで荷物見ててくれないかな?」

疲れたのか、元気の無くなってた都居くんをベンチで待たせて和雑貨の店に入った。

えっと……やっぱり有った!!

焼き物のタヌキがいくつか並んでいた。
都居くんが持ってなさそうなのは……。

あ!!これはあのコーナーに並んでるの見たこと無いかも。
少し上向き加減で目を閉じて唇を突きだすタヌキ。商品名はその名も『キス狸』だった。

都居くん、タヌキの置物にキスするぐらい好きみたいだから、これはちょうど良いね。

小振りなこれが4000円……結構するなぁ。
……でもお世話になるし、これぐらい。

簡単にラッピングをしてもらって都居くんのとこに戻った。

「お待たせ」

「おかえり。何を買ったの?」

「ん~内緒」

都居くん喜んでくれると良いなぁ。
誰かにプレゼント渡すのでわくわくするのなんて何年ぶりだろ。

こういうのもたまには楽しいな。
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