好きになってしまいました

藤雪たすく

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王子様の話

ピンチヒッター

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朝、目覚めるとベッドの上、布団は隣に膨らみが……。

昨日は酔っていた。
山川君にあんな所を見られてやけ酒をした。

だからって……また女の子を連れ込んでしまった。山川君に出会ってからそんな気にもなれず断る様にしてたのに、後腐れの無い子だと良いんだけど……。

「おはよう……あの……」

布団を捲って固まった。


…………信楽焼のタヌキが横たわっていた。

何故?何処から持ってきた?
……酔って何処かの店から持ってきてしまったのだろうか?

じっとタヌキを見つめていると愛嬌のある顔でこちらを見てくる顔が山川君に見えてきた。

こんな目で見られたこと無いけど。

「山川君……」

俺の腕の中に収まる程の信楽焼のタヌキを抱き締めると、固いけど山川君を抱き締めているような幸せな気分になった。

ーーーーーー

学校へ行くと一緒に飲んでいた高田がにやにやしながら背中を叩いて来た。

「都居!!昨日は彼女と良い夜を過ごせたか?」

「……あの子どこの子?」

「飲んでた居酒屋のレジに置かれてたんだけど、お前『絶対連れて帰る』って頬ずりして離さないし、店長に買い取るって言ってきかないから……店長が折れて譲ってくれたんだよ」

そこまで酔ってたのか……。

「『大事にするね』とか『逃がさないから』って言いながら濃厚なディープキスまで披露して女の子達は嬉しそうにキャーキャー騒いでたけどな」

写真を見せられる。
うわぁ~………マジでキスしてる。

「………」

無理に消させなくても山川君の目につく事は無いだろう。

あぁ……山川君……。
固い信楽焼じゃ無くて君を抱きしめてキスしたいよ……。

その日からプレゼントされるものがタヌキだらけになった。
受け取り拒否をしたくてもタヌキを見ていると山川君を思い出して……拒否できなかった。

ーーーーーー

直接好物をちらつかせるにも彼と遭遇出来ないので、イラスト専攻の子を訪ねて彼を探そうかと思ったけれど、イラスト専攻は女の子が多くて男が少ない。

しかも取っ付き辛い人ばかりなので友人にいない。
女の子を訪ねていくと目立つし……また、チャラい奴と思われてしまう。もっと地味な見た目に産まれてくれば良かった。

将来父親の博物館でカフェを出店する為に、時間も金も余裕があるし、芸術センスを養おうと何となく美術の短大へ通ってる、ここを卒業後はカフェ経営の専門学校へ通う事が決まっている。

美術系ならどこでもいいやと適当に選んだが……なんでイラスト専攻にしなかったんだ!!

そうしたら彼と毎日会えたのに!!

何の進展も無いまま2年に上がり、春休みの間に目立つ存在の有効活用を思いついた。

「先生、専攻以外の作品も勉強の為に見てみたいんです」

父親譲りの営業スマイルを浮かべてイラスト専攻の先生に近づく。
専攻ごとに教師は持ち上がりなので彼の事にも詳しい筈だ。

パクリ……盗作の注意を受けて作品を見せてくれた。
特に興味は無いが独特なイラストの作品の束を捲っていく。

山川……山川……山川……あった!!

『山川 太一』

どこか懐かしい絵本の様な……彼のイメージそのままの柔らかい絵。
森の動物達で賑わう森の中のレストラン。

「先生……彼の絵を……もっと見せてもらっても良いですか?」

「んん?山川君か?気に入ったかい?」

先生が彼の作品をいくつか探し出してくれた。どれも柔らかくて暖かくて……彼自身の様だ。

「山川君は良い絵を描くんだが、引っ込み思案で自分の売り込みが出来ないんだよな。あの性格じゃあ就職には繋げらないかもな……気に入ったなら紹介してやろうか?都居なら話術を教えてやれるんじゃないか?……彼が会いたがるかは分からんが」

うん……俺が会いたいと言えば普通に断られそうだ。

そんな大ダメージを受けたら立ち上がれないかもしれない。
これでいて繊細なんだ。

絵の話を交えながら何となく山川君の生態を探った。

講義が始まるギリギリに来て、終わると共に帰っていく。

休み時間は常に教室にいて、昼も教室にいるとか……巣穴から出て来てくれないと、共通の知り合いもいないし出会うきっかけが無い!!

押すとすれば……彼の絵に共通して描かれていること『食べ物』。
俺の得意分野じゃん!!

しかし腕前を披露する場が無い事に気がついた。

部屋にはタヌキグッズばかりが増えていった。

ーーーーーー

何も手出しが出来ないまま季節が流れ、秋になり、製作展が行われた。

いそいそとイラスト専攻の絵を見に行った。

ホールを借りてということもあり、流石に騒ぐ人は無いだろうが、眼鏡を掛けて帽子をかぶり変装してみたので静かに見ていられる。

彼の絵の前を何度も通る。

夢のある暖かい絵。

止まって絵を見ていた俺の横に誰かが立った。小さな抑えた声。

「あんまり見らんでよ……恥ずかしいっちゃ」

「せっかくあんたの絵を見る為に来たんやけん、しんけん見らんでどうするんな」

方言交じりの会話。
背の低い親子を横目で見ると……山川君。

照れたように……文句を言いながらも嬉しそうな顔。
初めて聞いた山川君の声。
想像通りのゆっくりとした話し方。

二人の姿が消えて行った方向を何時までも見ていた。

ーーーーーー

「新しい展示を作りたいんだよな……何か良い案ないか?」

「『あかでんちゅう』」

祖父の絵本のミュージアムで館長をしている父に相談を受け即答した。

「『ようかいのおともだち』か……確かに今まで取り上げた事なかったな……」

親父が乗って来たので妄想……希望を伝えた。

『あかでんちゅう』をおんぶしたい。
「おんぶ、おんぶ」と甘えられたい。
嬉しそうな笑顔で肩を叩かれたい。

頭の中で『あかでんちゅう』は山川君にすり替わっていた。

ーーーーーー

俺の要望が通って、新たに『ようかいのおともだち』コーナー出来た。

俺的目玉は当然『あかでんちゅう』だ。

人形の前を通るとセンサーで「おんぶして」と呼びかけて来る。
手を前に出している人形の手を肩に乗せる様にすると嬉しそうな笑い声を聞かせてくれる。
普段は口を出さないが造形、声にまで口を出して好みの『あかでんちゅう』が仕上がった。

その日から閉館後にミュージアムに通う様になった。

「山川君……今日も可愛いね」

「おんぶして~」

つぶらな瞳が俺を見上げてくる。

「君なんて他人行儀だって?名前で呼んでいいの?」

「おんぶして~」

「た……たい……いや!!名前はまだ早いよ……山川……」

おんぶでは無く、向き合って抱き締める。

「きゃはははは」

「もお!!山川は可愛すぎ!!」


「ちぃさん……うちの息子は大丈夫かな?」

「坊ちゃん、何か嫌な事でもあったんですかね」

親父と古くからいるスタッフのちぃさんが生温い目で見てくるが、俺は幸せだった。

ーーーーーー

俺の中で山川は顔見知りから友達になった。

もう少し関係を続けていけば恋人になって『太一』と呼ばせてもらえる日も近い。

……妄想の中では。

現実では……何も無い。

相変わらず俺は山川に話しかけられないし、山川は姿を見せない。
卒業すれば山川とは全く関係が切れてしまう。二人を繋ぐ物は無くなる。

卒業式……。
俺はやっと決意した。

山川に告白する!!

卒業後なら他の奴らにバレても山川に迷惑はかからない筈。
いきなり好きだと伝えようか?それとも友達になって下さい?
電話番号の交換だけでも良いからお願いできないだろうか。

卒業式までの数週間。
なんと伝えようかドキドキしながら考えていた。

運命の日……卒業式に山川の姿は無かった。

先生に聞くとインフルエンザという簡単な答え。

これだけの時間がありながら、どうして俺は先延ばしにしてしまったのだろう……。

俺と山川の運命の線は交わる事無く途切れた。
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