February × Noise

アール

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第二章 順化

第四話 新世界の夜明け

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チュン、チュン

『ん、朝か…さてとイズナが起きているなら色々と案内してもらいたいところだが、レオンはそろそろ風呂に入って寝るところか』

 蓮は小鳥の囀りと共に起きた。

『ともあれ、用を足したい…とりあえず部屋を出て誰かに案内してもらおう』

 蓮は用を足したいと言う理由含め、この施設のことを全然把握していない為案内人を探すと言う名目で部屋から出た。蓮が部屋を出るとちょうどレオンと出くわした。

『あ、蓮君おはよう。結構起きるの早いね。僕は君たちにとっての朝食、僕にとっての夕食の準備を済ませ、食べた後にお風呂に入って寝る予定だよ』

『レオンおはよう。こんな早朝までお疲れさん。すまないがトイレを案内してくれないか?用を足した後に俺も朝食の準備を手伝うよ』

『助かるよ蓮君、トイレは風呂場の向かいの扉だよ左が女子用で右が男子用だよトイレが終わったらリビングと厨房の部屋を案内するよ』

『ありがとうレオン、俺のことは蓮でいいよそっちの方が呼びやすいと思うしな』

『わかったよ蓮、イズナさんも一緒に準備すると思うからその時はよろしくね』

『あぁ分かったまた後でな』

 蓮は用を足し終え、トイレから出た。

『ふぅ~スッキリした』

『はぁ~、まだちと眠いわぁ~』

 蓮がトイレから出たら目の前にイズナがいた。

 『イズナさん、おはよう今から蓮を厨房とリビングの部屋に案内するところだよ。そして朝食の準備を手伝ってもらうから一緒に来てもらっていいかな?』

『レオンくんおはようなぁ~。君らいつの間に仲良うなってんなぁ~…ええでほな行こか』

『リビングと厨房の部屋は風呂場の通路を真っ直ぐ行った正面の扉や』

 イズナは蓮を案内した。リビングには十人程度は食を囲めそうな大きな机があり、右横の少し離れたところにキッチンがあった。机の左側は大きなソファー四つに囲まれて大きめなローテーブルが設置されており左端はベランダに出られるようになっていてカーテンがかけられていた。

『結構広いな…』

『せやろ?ここの住人は君ら含めて8人で男女比4対4や。10人が最大やからちょびっとだけ余裕あるなぁ~』

『だが部屋はギリギリなんだろう?』

『そこはなぁ~空き部屋はアリシア様が倉庫に利用し出したからなぁ~』

『それは仕方ないじゃろう!施設増築しようにも色々難しいのじゃ!』

 イズナが空き部屋の話題に触れた途端、リビングの入り口からアリシアが飛び出て物申した。

『一階のエリアを増築しようにも庭や農園を削るわけにはいかない…かと言って地下は修練場として利用しておるし、二階のエリアは魔力炉と魔力収集装置に枠を割いておるし…』

『上も下も横も使えないってことだね』

 アリシアが施設拡張が難しい理由を述べ、レオンが反応した。

『三階は作れないのか?』

『無理じゃ、二階の魔力収集装置は太陽光や星々や月の光をも含めた自然エネルギーを魔力の糧としておる。故にその上に施設を増築することはできんのじゃ』

『だったら二階と一階の間にもう一階作って今の二階を三階にしてみたらどうだ?』

『蓮君、ぶっ飛んだこと言うなぁ~』

『魔法の力でどうにかできたりしないのか?』

『不可能ではない…が多くの労力とコストを要するであろう、それに改装工事の間魔力炉と魔力収集装置の稼働ができぬし、魔導実験も一旦中止する必要がある』

『どうせ、これからどんどん実験道具や材料は増えていくはずだろう。だったら早いうちに増築して、建築のノウハウも培った方がいいんじゃないか?』

『そうじゃなぁ…一考の余地有りじゃな。とはいえこの施設の魔力を止めるにはちと早いお主らの修行もあるし、お主たちがある程度育ったら施設の増築を手伝って貰おうかの』

『マジか、まぁいいけどさ』

『大分話が盛り上がっちゃったね。そろそろ朝食の準備を始めようか。今日はカレーの日だったね』

『ほう、カレーか!良いではないか!妾は今後のことを考えつつ今日の修行で利用する修練場の準備をしてくる出来上がったら内線で伝えてくれ』

 アリシアはそう言って部屋を出た。

『あいよ~』

『ん?内線?カレー?やけに俺たちの世界の文化が浸透しているな』

『こっちの世界の食材や向こうの世界から渡ってきた食材を利用して向こうの世界の食材を再現してるんだよ。技術だってそうさ、向こうの世界で使われているものを把握してこっちの世界なりに魔力などを利用して再現しているんだ。ここまでこの施設や国が便利になったのもイズナさん達異世界人の情報共有のおかげだよ』

『なるほどな、俺たちの世界の干渉をかなりこの世界は受けているのか…』

『そうだね。故につい昨日まで向こうの世界いた君たちはその分進んだ向こうの世界の文化を持っているからその情報にはかなりの価値があるってことさ』

『昨日言ってた向こうの世界に興味があるって言うのはこう言うことだったのか』

『まぁそれもあるけど、ほとんど興味本位かな』

『朝食の準備始めるで~ナンは少し余ってんなぁ~』

『ナンは欲しい人が利用したらいいと思うから机の真ん中に置いておこうかな、後はご飯炊いて、カレーを作ろうか』

『まさか、異世界に来て一発目の朝にカレー作りとは人生分からんものだな』

『僕はご飯を炊く工程をやるから、蓮とイズナさんはその間具材の調理を任せてもいいかな?』

『了解や』

『あぁ分かった…にしても炊飯器に冷蔵庫に水道…殆ど俺たち世界と遜色ないな…』

『まぁ一般家庭にはまだあんまり普及してないんよ。ここは魔力の利用効率が良くて魔道具の開発が進んでるから結構特別なんやでぇ~』

『そうなのか…魔道具ってことはこの辺の家電は魔力を動力としているのか…』

『せやで、蓮君は確か氷結系の水属性やったろ?これで冷蔵庫に込める質の良い魔力を確保できたわけや』

 蓮の問いにイズナが答える。

『ってことはこの家の住人がそれぞれの魔力の属性を魔力炉に流し、対応した魔道具に供給していると言うわけか』

『そうだね。氷の魔力は魔導実験含め多くのことに利用できるから蓮にはいち早く魔力を込めて欲しいところだけど、魔力に触れたのがつい昨日のことだからもうちょっと修行を積んで魔力のコントロールが上達してからになりそうだね』

『そうか…やはりこの世界は魔力やら魔法やらが中心となって回っているようだな。この家のように個々の同意のもとで無理なく魔力運営できたら良いな。故にクラウンの所業は目に余るな』

『このフロアレ王国において、手段を選ばないアバリシア帝国のやり方に賛成している人間なんてほとんどいないさ、だからこそ力を合わせて対抗しなくちゃね。それがきっと蓮達の世界の平和にも繋がることを信じて』

『またお話にお熱になってもうたなぁ~。うちは人参と玉ねぎ切り終えたで、蓮君そっちの豚肉とじゃがいも頼んだでぇ~』

『あぁすまない、すぐ終わらせるよ』
(これ豚肉だったのか…何から何まで俺たちの世界の影響を受けているなぁ…突っ込むのはやめよう話が長くなるだけだ)

 また蓮が話に夢中になっているとイズナから声がかかり蓮は調理に戻る。

『後は野菜とお肉茹でて、カレーペースト入れたらルーは完成やウチらがいた世界とまんま同じやな』

『そうだな』

『少し、余裕ができたね。僕は蓮と同じ水属性で主に液体の操作を得意としているよ、イズナさんは青い炎を利用する火属性とエクストラマジックで念力を扱うことができるデュアルマジシャンなんだ』

『なるほど、二人とも水と火で重要な魔力を担当しているわけか』

『ウチはそれだけじゃなくて念力の方の魔力で魔道具の動力そのものに動きを加えたりしとるで』

『それはすごいな』

『蓮君も早く魔力の扱いを上達させて魔力補給に貢献してもらいたいとこやな。蓮君は希少かつ多くの場面で使える氷の魔力を持っとるし、エクストラマジックもなんかやばそうって聞いとるしなぁ。後、君付けるの面倒なったわ。呼び捨てでええか?』

『あぁ構わないよ俺も呼び捨てだしな。おっとそろそろカレーもご飯もいい頃合いだな配膳するか』

『食器はここの棚にあるで~』

 蓮はイズナとレオンの魔力の性質を知った後、カレーの配膳を行った。

『おっ!良い匂い!良い目覚め!』

 カレーの匂いに誘われて音村がやってきた。

『俺たちが作ったカレーだ音村お前はみんなが食べ終わった後の皿洗いくらいは担当しろよ』

『へいへい了解。蓮、イズナちゃんおはよう!えぇと君は初めて会うな。俺は音村騒よろしくな!』

『僕はレオン=クラークよろしくね。君のことは音村って呼んで良いかな?蓮もそう呼んでるしね』

『音村おはようなぁ~ウチも君付けやめるわ』

『おう!全然良いぞ!よろしくな!レオン君!俺も配膳手伝うぞ!』

『じゃ僕は師匠にご飯ができたことを伝えるね』

 音村は朝の挨拶をし、配膳を手伝った。

『イズナちゃんカレー何食分用意したら良いの?』

 音村はイズナに尋ねる。

『せやなぁ、この家には8人住人がおってなぁそのうち一人は出かけとるから7食やな』

『了解!まだ会ってない人いるのか!会うのが楽しみだな!』

『やれやれ、朝から騒がしいな』

ガチャ

 音村達が会話していると扉が開き誰かが入ってきた。

『良い香りに誘われてきちゃいました~朝から賑やかですねぇ~貴方達お二方はだぁれ?』

『メルシーは聞いてないの?私は夜にレオンから聞いてたけど…』

『そういやお主らには此奴ら二人のことは詳しく説明していなかったの、記憶共有を行いたいところじゃが生憎食前じゃ、飯を食いながらお主らには説明しよう』

 二人の女性がリビングに入ってきた後すぐにアリシアが戻ってた。その後食を囲みアリシアは蓮と音村のことを皆に詳しく話した。

『妾の此奴らの説明はこれで終わりじゃ。まぁ…自己紹介でもするがよい、まずはシエルからじゃ』

 アリシアはシエルと言う年齢的にはレオンの少し下くらいに見える少女に自己紹介を促した。彼女は淡い水色の肩まで伸ばした髪に綺麗な紫色の半開きの瞳が特徴的で白と青をベースとしたロリータ風のワンピースを着ており頭にはヘッドドレス、胸には大きなリボンを付けていた。


『私の名前はシエル=リストレイント…使用魔法はメインが雷で別枠が糸…よろしく…』
 
『あぁ、よろしくシエル、別枠っていうのはエクストラマジックのことか?』
(シエルは空、リストレイントは拘束の意味を持つ…空色の髪の色と糸の魔法に由来してそうだな…)
 
『そう、これは略称…皆長いの嫌だから割と略す…』
 
『そうか、ありがとう』
 
 蓮はシエルに尋ねシエルは答えた。
 
『次はメルシーの番じゃ』
 
『私の名前は~メルシー=グナーデよろしくね~メインが水と土の二属性よ~この能力で主に農園の管理をしているのよ~シエルちゃんは私のお手伝いやお使いから素材収集をやってくれてるわ~』
 
 メルシーと名乗った女性は20歳前後くらいの見た目をしており背中まで伸ばした茶髪に白い菊の髪飾りをつけており、黄色の瞳が特徴的で白がベースの半袖に足首辺りまでの丈の緑色のロングスカートのワンピースを着ていて胸には緑色の大きなリボンが付けられていておっとりとした性格をしていた。
 
『メルシーさんよろしく!水と土は農業に最適だな!』
 
『恵に感謝か…いい名前ですね』
(メルシーは感謝、グナーデは恵の意味を持っていたな…)
 
『蓮くんありがとう~蓮くんと音村くんよろしくね~元気な男の子が二人も来てくれるなんてお姉さん嬉しいわ~』
 
『おい!蓮!妾には敬語を使わずにメルシーには使うのか!何故じゃ!』
 
『ん~メルシーさんには大人の気品が伝わってくるけどアリシアは伝わってこないからかなぁ~』
 
『ハハハハハ!』
 
『フフフッ…』
 
 蓮の発言に一同が一斉に笑った。
 
『お主ら~!バカにしおって!…まぁよい、このカレーに免じて許してやるわ。妾の寛大さに感謝するのじゃな!』
 
モグモグ…
 
『美味じゃ!』
 
 アリシアは怒ったと思われたが目の前のカレーが最優先のようだ。
 
『かわええなぁ…』
 
『可愛い…』
 
『そういうところだぞ…』
 
 イズナとシエルと蓮がカレーに夢中のアリシアに反応した。
 
『そこ!何か申したか?』
 
『いや、何も…』
 
 アリシアが蓮たちの言葉に反応し、蓮が返答した。
 
『カレーはもう食うたし、妾から軽く話をしよう。ここの住人は8人でもう一人リベル=カプリスという20半ばの男がおるが其奴は今、素材収集やら集金やらで出かけておる。其奴のことは後々紹介するとして、一つ引っかかっておった蓮の別枠の魔法じゃが妾の見立てだとあれは時間操作であると推測する』

『じ、時間操作!?』

 一同が一斉に声を上げて驚く、シエルは声を上げなかったがビックリして目を見開いている。

『え、それってやばない?時間操作ちゅうたら時間止めたり、加速したり、遅くしたり、過去や未来に行き来したり、時間を巻き戻したり早めたりできるってことなんか!?』

『蓮…とんでもないエクストラマジックを得てしまったね…これは対アバリシアの大きな希望になり得るし、いやそれ以上に世界の根幹を揺るがしかねない魔法だよ…』

『蓮!スッゲー!!そんなの神様じゃん!ゴッド蓮!!万歳!!』

『わぁ~すごいですねぇ~植物の成長早めてくれたら生産性の向上に繋がりますねぇ~』

『…メルシーそれはスケールが小さい。それにしてもすごい魔法…』

 各々がアリシアの発表に驚き大いに盛り上がった。

『投げられた水晶の速度低下からの超加速、それに時間差で一気に疲労した蓮を見て妾は推測した。この魔法が時間にどれほど干渉するかは分からんが蓮がこの魔法を上手くコントロールできたとしたらそれは間違いなく重要な戦力になるであろう』

『そうか、案外良い魔法を習得したのかもしれないな。魔法で一つ疑問に思ったのだがクラウンもマルチマジシャンなのか?彼奴は浮遊、負の力、ナイフの射出、火、空間転移の魔法を扱っていたぞ』

『その通りじゃ奴は数十年に渡って多くの人間の負の力…つまりは歪みを搾取してきた。それ故に奴自身の魔力的性質がその歪みによって変異を繰り返し、様々なエクストラマジックを習得していったのじゃ奴の確認されている魔法はメインマジックの火属性それに加えエクストラマジックの鉄生成、浮遊、負の力の操作、空間転移じゃな。奴が異世界人を捕らえ力の搾取を繰り返すと奴もどんどん強くなる…故に早急な対応をとらねばならぬ』

 アリシアは蓮の問いに答え事態の緊急性を説いた。

『悠長にしてられないってことだな…』

『そうじゃ、食後の10分間の休憩を挟んだのちお主ら二人の魔法の実技訓練を行う!その後昼食の前に記憶共有にて魔法の知識やこの世界の概要を一気にお主らに叩き込む!昼食の前なら吐く量は少なかろう!』

『俺は多分吐かないと思うけど嘔吐村は心配だな…』

『ん~これはずっとネタにされてイジられそうだねぇ~よし!決めた!貸し一個使う!嘔吐村っていうのをやめろ!』

『うん分かった良いよ。あぁ~これで借り一個消費できるのは楽だなぁ~』

『何や?君ら貸し借りしとるんか?』

『そうそう!蓮の奴がな~…』

『おい!それ以上喋るな!ゲロ村!』

 蓮が音村の言葉を遮る。

『おーい、嘔吐村禁止にしたらゲロ村で代用するのやめろ~』

『貸し使ってゲロ村を禁止にするか?』

『いや良いよイタチごっこだし』

『俺も大人気なかったな、借りは使わないよ音村』

『君らホンマに仲ええなぁ~見とって微笑ましいわ』

『うん、僕も良いコンビだと思うよ』

『喧嘩するほど何とやらって言いますしねぇ~』

『…喧嘩するほど仲が良いでしょ?…』

『そう、それですぅ~』

 蓮達のやりとりを見て他の住人が二人の仲が良好であると発言した。

『仲良くない!』

 それに対し、蓮は否定した。

『俺は仲良いって思ってたんだけどなぁ~ゴッド蓮様はそう感じておられましたか…』

『なんだよ…ゴッド蓮様って…嘔吐村の仕返しのつもりか?まぁなんにせよ神と言われ様まで付けられてるし悪い気はしないな。別に今後もゴッド蓮様って呼んでも良いぞ優越感に浸れるしな』

『ん~蓮って変な所で素直というか、発言に対して応えないんだよぁ~そこが面白い所でもあるけど』

『お主らがくだらんやりとりをしておる間にとっくに10分経ったわ!地下修練場の準備はとっくにできておる着いてくるのじゃ!』

『うぃ~了解』

『へいへい』

 蓮と音村はアリシアに催促され付いていった。
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