February × Noise

アール

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第二章 順化

第三話 理解と前進

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『…きよ…起きよ!』
 
 幼い少女のような遠くから聞こえる。
蓮は意識が朦朧としている。
 
『起きよ!』
 
バシッ!
 
 声の主らしき人物が蓮の顔を思いっきりぶった。
 
『いってー!何しやがる!』
(1日に2度もぶたれたぞ…)
 
 蓮は強烈な平手打ちに流石に目が覚める。
 
『お主がいつまで経っても起きぬからじゃ!
バイタルが安定しておるくせにいつまでも惚けおってからに!』
 
 蓮をぶった少女は蓮よりも一回り小さく、小学校の中学年くらいの印象で長いローブを着ておりきれいな髪飾りをつけている。キリッとしたつり目の緋色の瞳をしており、腰程の長さのツインテールが煌めいていた。
 
『…確か音村に倒されてその後目が眩んで…待て!音村は!』
 
 蓮は自分を庇って業火を浴びた音村を思い出した。
 
『安心せい、音村とやらは生きておる、妾の回復魔法で生かしてやったわ!お主の友人であろう?感謝するのじゃな!』
 
 少女はご機嫌そうに声高らかに答えた。
 
『友人かは知らんが、恩人ではある。こいつに死なれたら俺も後味が悪い…感謝するよ』
 
 蓮は謎の変わった話し方をする少女に感謝した。
 
『うむ!よろしい!』
 
 少女はご機嫌そうに返答した。
 
『あんた歳のわりに変わった話し方をするのな…あんたにいくつか質問がある』
 
『人を見た目で判断するでない!こう見えて蓮、お主よりずっと長く生きておるわ!』
 
『そっか…悪かった。ところで質問いいか?』
 
『よかろう!申してみよ!』
 
 蓮は少女の年齢に触れ怒られはしたが、どうにか質問はできた。
 
 蓮は当たりを見渡すと魔導書らしき本や、魔法実験に使いそうな材料があり、近くのベッドに音村が寝込んでいた。
 
『さっきまで、俺達は公園から出た道路に居たはずだ、ここは見た感じ魔術工房の様にも見える、クラウンとやらは別の世界からきて魔法を使っていた。
あんたも音村に回復魔法をかけたのだろう?
ここは俺たちにとっての異世界で差し詰めここはあんたの拠点か?』
 
『いかにも!ここは妾の魔術工房じゃ!』
 
『やはりそうか…とりあえずあんたの名前を聞いてもいいか?…いや待てよ、何で俺の名前知ってたんだ?』
 
 蓮の予想は的中したが更なる疑問が生まれた。
 
『順を追って説明しよう。妾の名はアリシア=ラナトラレサ。お主、クラウンと向こうの世界で会話できておったろう?
彼奴は向こうの人間の言葉を読み取りお主たちの言語を理解した。それの応用じゃ妾の世界の言葉をお主達の言語に聞こえるように認識の改変を行なっただけじゃ。それと同時にお主と音村の記憶を覗かせてもらったぞ。故にお主らの名は知っておる。
お主も音村も中々骨があるのぉ…妾もお主らのことが気に入ったのじゃ!』
 
 少女ことアリシアは丁寧に蓮の問いに答えた。
 
『…うぁ…まじかよ…勝手に頭の中覗かれて、認識改変まで施されたのかよ…』
 
 蓮はアリシアの行為を気味悪く感じる。
 
『何をいうか!妾はお主らの命の恩人で且つ、円滑に会話できるようにしてやったというのにぃ…!』
 
 アリシアは蓮の発言に怒った。
 
『悪かった、悪かった今の言葉は取り消すよ。まだ聞きたいことはある。俺たちはどういった経緯でアリシア、あんたの工房にいるんだ?』
 
 蓮は何故アリシアの工房に飛ばされたのかを問う。
 
『うむ…話すと長いが順を追って話そう。
 妾はクラウンの奴が近頃空間の歪みに干渉したことを察知し、そこから奴の居場所を特定して妾が魔力的干渉を行い、妾の意識の一部を奴の転移に組み込んだのじゃ。
 奴が転移した場所の近くにいた鳩とかいう鳥に妾の意識を憑依させ、奴が魔法を使う場所を前もって占いそこへ先回りし、魔法を使った奴の魔法陣に干渉して妾の工房の座標に合わせ転移魔法を使いお主達を転移させたのじゃ』
 
『そして、今回の件で三つの美味しい想定外があった。
 一つ目は近くに動ける生物がおりそれに憑依できたこと。
 二つ目は占いを実行し、クラウンが派手な魔法を扱う現場を特定できたこと。
 三つ目はそこに先回りしたことで、お主らの二人を転移させ、記憶を読み取りクラウンの目的を把握できたことじゃな』
 
 アリシアは長々と蓮達を転移させた経緯を話した。
 
『なるほど…大体理解した。だが一つ疑問がある。何故わざわざクラウンの奴が派手な魔法を扱う場所を占いそこに先回りしたんだ?』
 
 蓮はアリシアに占いと先回りの理由を尋ねた。
 
『先も言うだが、妾はクラウンが向こうで何をやっておるかを知る必要がある。故に奴が大事を起こすこととその場所を知っておく必要があった。そこに先回りすることで奴が何を行うのかを確かめようとしたのじゃ。
 今回はかなり妾にとってかなり都合が良かった。近くに動ける生物がおり、それに憑依し目的の場所に動くことができたし、奴の目的も把握できた』
 
 アリシアは蓮にありのまま理由を告げた。
 
『なるほどな…俺たちはクラウンの情報をあんたに提供した。だったらもう俺たちには用がないはずだ。元の世界に帰してはくれないか?』
 
 蓮は元の世界に戻すようアリシアに求める。
 
『悪いがそれはできんのじゃ』
 
『…何故だ?』
 
 蓮はアリシアの発言に疑問を抱く。
 
『クラウンの奴も言っておったように。奴は時空の歪みを通じて微かに漏れ出る負のエネルギーを頼りに向こうの世界に干渉したのじゃ。
 妾はこの工房の座標を奴の魔力を利用して一時的に接続したに過ぎん。故に妾には向こうの世界へ向かう入り口を作ることは出来ん。
 じゃが空間転移は入口を作った者が向かった場所の座標認識することができる』
 
 アリシアは蓮に空間転移について語った。
 
『つまりは…俺たちの世界との手がかりとなり得るものはクラウンだけだと言うことか?』
 
『そう言うことになる』
 
 アリシアと蓮は蓮達の世界に戻ることの手がかりとなるものはクラウンだけだと言うことを認識した。
 
『……何と言うことだ…
まぁ今は一旦この話は置いておくがアリシアとクラウンって割と似てないか?』
 
『そりゃ奴は妾の双子の妹だからのぉ…
故に魔力的性質が似ており、奴の時空の歪みへの干渉の察知や魔力的干渉を容易に行えたというわけじゃ』
 
『…え、マジで?』
 
『マジじゃ』
 
 蓮はクラウンがアリシアの双子の妹だと言う事実に驚く。
 
『奴の真名はアリエル=ラナトラレサ。恐らく妾との関連性を断つ為偽名を使っておる』
 
『ラナトラレサ…自然を由来する単語だな?』
 
 蓮はクラウンとアリシア性についてアリシアに尋ねる。
 
『そうじゃ、妾の一族は代々自然と共に生き自然を守り管理しておる。故に自然に由来した性を持っておる』
 
『何故、クラウンはアリシアとの関係性を断つんだ?』
 
 蓮はアリシアにクラウンが関係性を断つ理由を尋ねた。
 
『妾の一族は世界に数えるほどしか確認されてない有りとあらゆる自然のエネルギーを蓄積した球体、ゼーゲンスフィア(恵の球体)を代々守り、適合するものを求めておった
妾とアリエルはゼーゲンスフィアが適合するか確かめた。アリエルは適合せず妾が適合したのじゃ。
妾は適合したが故、適合した日から歳をとっておらんし、多くの魔法を習得、及び開発することができた。それが妬ましかったのであろう。奴は名を偽り闇に堕ちた』
 
 アリシアはクラウンが関係性を断つ理由を蓮に話した。
 
『…なるほどな…ちなみにアリシアの歳聞いてもいいか?』
 
 蓮は恐る恐るアリシアに年齢を問う。
 
『女に歳を聞くなぞなっとらん奴よのぉ…そうじゃなぁ…100と20を過ぎたあたりから数えておらん』
 
『ん?待てよ、そしたらクラウンも同じか?』
 
『そうじゃ奴も妾と同じ歳じゃ。先も言ったが奴は闇に堕ちておる。闇に堕ちたことによって生じた歪みの力により奴は負の性質を扱う魔法を習得したのじゃ。
 奴の魔法は負の感情を持つ者から生じる歪んだエネルギーを魔力に変換し、我が身に宿す。奴は囚人や途方に暮れた者などから負のエネルギーを搾取し若さを保っておるのじゃ』
 
 アリシアは自分の年齢とクラウンについて蓮に語った。
 
『…俺たちの世界に資源および養分の調達をしてきたってところか…』
 
『別の世界の者は強い歪みの力と魔力を持っておる。故に向こうの世界の者から搾取した方が効率が良いのじゃ』
 
 蓮はクラウンの目的と原点を詳しく知った。
 
『クラウンの所属するアバリシア帝国と妾の所属するフロアレ王国はいつ開戦してもおかしくない、緊縛状態にある』
 
『…欲…そして花を由来する国か…
今回、クラウンが俺たちの世界に来たのも軍事力増幅が主な理由か』
 
   蓮はクラウンとアリシアの国が緊縛状態であることを知る。

『そうじゃ、奴は更なる魔力的資源を求め、別の世界にも魔の手を伸ばしすでにお主達の世界の座標を押さえておる。これがどういうことを意味するかお主なら容易に理解できよう』
 
『俺たちの世界への侵攻だな…』
 
 蓮は自分たちの世界が安全でないことを理解する。
 
『そうじゃ!故に大侵攻の準備が整う前にクラウン及びアバリシア王国の野望を阻止する必要があるのじゃ!』
 
『…となると大部隊が通れるようにゲートの拡大及び転移魔力の低減が課題となるか…』

『準備と並行して、お主達の世界へ資源調達も行うはずじゃ。悠長に構えておる時間は妾達にはないということじゃ!
 そこで蓮と音村、お主達にはアバリシア帝国の野望を食い止める為に協力して欲しいのじゃ!』
 
 蓮は自分たちと自分たちの世界が置かれた状況を理解した。
 
『他人事じゃないことは理解した。まぁ俺たちの力はたかが知れてるが協力は前向きに検討しよう。…野望を打ち破ったところで帰れる保証はあるのか?』
 
『…絶対に帰れるとは言えん…クラウンは最優先に生捕にしてどうにかしようとは思うがそれが叶わなかった場合、できるかはわからんが妾がどうにかお主達の世界の因子を利用してゲートを繋げようぞ』
 
『それってどんくらいかかるの?』
 
『妾とて初めての試みじゃ、お主らの二人の因子を利用しても十年以上はかかるかもしれんのぉ…』
 
『……十年以上かぁ…だが協力するしか無さそうだな…あの世界にはまだ未練がある…』
 
 蓮は元の世界に帰れる保証がないことを理解し、アリシアに協力することを決めた。
 
『未練か…お主の過去に関係があるのじゃろう?』
 
『……誰にも言うなよ?言ったらあんたの協力はしない』
 
『音村にもか?』
 
『当たり前だ』
 
 蓮はアリシアに過去について他言しないよう釘を刺した後、音村が寝ているベッドへ近づく。
 
『…音村ごめんな。俺のせいで怪我させちまって…いや違うな、どうせお前は謝罪よりも感謝が欲しいだろ?ありがとな俺を庇ってくれて』
 
ニヤァ…
 
(いやぁ、まさかあの蓮があんなこと言うなんてよぉ…!狸寝入りの甲斐ありってもんだぜ!いやぁそれにしても驚いたなぁ…俺たち絶体絶命じゃんかよぉ…蓮の過去は気になるがいったん触れないでおこう…)
 
 音村は蓮が起きる前から意識があったが倦怠感から目を閉じ何もやる気にならなかった為寝たふりをしていたのだ。
 
『う、うぅ…』
 
音村がわざとらしくうめき声をあげる。
 
『音村!意識が戻ったか!?』
 
『お、そろそろとは思ったが案外早く意識が戻ったのぉ!流石、妾の回復魔法じゃ!』
 
蓮とアリシアは意識が戻りつつある音村に駆け寄った。
 
(ほんとは蓮より早く意識戻ってたなんて言えねぇよなぁ…アリシアさんあんたの回復魔法すげぇよ…)
 
『こ、ここは…』
 
『……何から話せばいいのやら…』
 
蓮は覚醒した音村を前に何から話せば良いかわからずにいた。
 
『うーむ!面倒じゃ!妾が蓮と話した記憶をお主に共有する!情報の重複読み取りや過剰供給された際に吐き気を催すかもしれぬが受け入れよ!』
 
『え、ちょっ、まっ…』
 
 アリシアは音村の頭を掴み、記憶の共有を行った。
 
『お゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛…』
 
音村は盛大に吐き散らかした。
 
『この程度で吐き散らかしおって!軟弱者めが!』
 
『うぁ…汚ねぇな…』
 
 蓮とアリシアは音村に辛辣な言葉を投げかけた。
 
『おい、嘔吐村これで状況は把握できただろう?』
 
『嘔吐村ってなんだよぉ…情報が多すぎて口から溢れるくらい状況を呑み込めたよ』
(狸寝入りはもうこりごりだ…)
 
『吐しゃ物は呑み込めなかったがのぉ…』
 
アリシアと蓮は音村を雑に扱う。
 
『まぁ簡単に言うとクラウンが元の世界に帰るカギでクラウンの国とアリシアさんの国は戦争中で俺と蓮がアリシアさんたちに協力して俺たちの世界への大侵攻の阻止とクラウンの生け捕りで元の世界帰ってみんなハッピーってことでしょ?』
 
『大雑把に言うとそうじゃな』
 
 音村は大まかな状況と目的を語った。
 
『そうと決まれば、協力するしかないっしょ!アリシアさん!俺らは何したらいい?』
 
音村はやる気満々でアリシアに質問した。
 
『まず、お前はベッドの横に散らばったくっさい汚物をどうにかしろ』
 
蓮は音村に自分が出したものの処理を命じた。
 
『そこの阿呆の汚物は妾が処分した方が早い』
 
アリシアは音村の汚物のみを宙に浮かせ固まった土でできた容器を作り出しそこに音村の汚物を入れ容器ごと消滅させた。
 
『この阿呆の汚物程度なら妾の魔法と一緒に消滅させるくらい容易いものよ。あとはこの魔法の消臭液でにおいを消したら終わりじゃ』
 
『面目ない…確かに吐いたの俺だけど扱い酷すぎない?』
 
『ともあれ、お主らにはまず魔法を習得してもらう!』
 
『魔法キター!待ってました!THE FANTASY!』
 
『ほーう、魔法か…』
 
先まで落ち込んでいた音村だが魔法という言葉を聞いて一気に元気になった。
 
『この世界にはメインマジックとエクストラマジックの2種類が存在する。メインマジックは火、水、風、地の四元属性のいずれか一つが発現することがほとんどじゃ。
 じゃが極稀にメインマジックでも四元属性以外が発現することが確認されておる。確認例としては闇、光、雷じゃな他にもあるかもしれぬが妾が知っておるのはこれくらいじゃ。
 次はエクストラマジックじゃがエクストラマジックは所持者の人間性や歪みの発現によって大きく変化する。これは属性関係なく概念的なものも含まれておる。基本的にメインマジックで発現するもの以外の魔法と思っておればよい。
 エクストラマジックは妾たちの世界で特異な性質を持つ異界人であればその分歪みの力が強く作用し高確率で習得することができよう。ちなみにエクストラマジックはメインマジックの四元属性以外のものより希少じゃ』
 
アリシアは魔法について詳しく説明した。
 
『なるほど…2種類の魔法か…待てよアリシアは憑依に意識分裂、記憶共有に認識改変その他もろもろ…いったい何種類待っているんだ?』
 
 蓮は多種多様な魔法を扱うアリシアに疑問を抱いた。
 
『先にも言ったが妾にはゼーゲンスフィアが宿っておる。故に多くの魔法の開発及び習得が可能となった。
 1つの魔法のみを扱うものをシングルマジシャン。
 2つの魔法を扱うものをデュアルマジシャン。
 3つ以上の魔法を扱うものをマルチマジシャンと世間では言われておる。
 妾は当然ながらマルチマジシャンじゃ基本的にはゼーゲンスフィアを宿しておらぬ者はデュアルマジシャンが関の山じゃな』
 
『ってことは、マルチマジシャンはこの世界における選ばれし超人ということだな…』
 
『……??』
 
 蓮はアリシアの説明を大方理解したが音村は前回同様ついていけてない。
 
『ゼーゲンスフィアを宿しておる者のことを世間では現人神やらデミゴッドだの玉持ちだのいう輩もおるくらいじゃ』
 
『最後のやつは言いやすいが一気に格落ちしたな…』
 
『魔法を行使するものによって魔法の習得傾向は千差万別じゃ。メインマジックを覚えずエクストラマジックのみを覚える奴もおればその逆もまたしかり。
 複数魔法を扱う者とて例外ではない、もちろんそれぞれ覚える者もおる。中には2つの魔法を融合させたり同時に扱う者もおる』
 
『……これはずいぶんと奥が深いな…』
 
『とりあえずよぉ~診断とかたぶん出来るんしょ?百聞は一見に如かず!だよなぁ!?』
 
 アリシアの説明を理解することがしんどくなったのか音村は診断を催促した。
 
『まぁそう焦るでない、これがメインマジックを診断するための水晶じゃ。
 この水晶に魔力を込めると込めた者の魔法の属性によって変化が見られよう』
 
『…創作物とかでもよく見る展開だな…』
 
『なぁ!蓮!俺先にやっていいか!』
 
『やれやれ、まるで子供だな。いいよ先にやっても』
(俺が先にやりたがったが、子供っぽい音村は滑稽だそのまま見届けさせてもらおう)
 
『サンキュー!蓮!』
 
『うおぉぉおぉ…!』
 
音村は水晶に力を込めた。
 
ブワァ…!
 
 音村が力を込めた水晶から風が舞い上がった。
 
『うおぉぉおぉ…!すっげー!』
 
『音村、お主のメインマジックは風属性のようじゃな』
 
『なんだ、四元属性か…』
 
『なんだとはなによ!俺スッゲー嬉しいのに!』
 
『じゃあ、蓮!お前が四元属性以外を出してくれよな!』
 
 音村は自身のメインマジックの属性が分かり蓮に水晶を渡した。
 
『まぁほとんど四元属性が出るんだろ。あまり期待はしないでくれよ』
 
『はぁあぁあ…!』
 
ビキ、ビキ、ビキッ!
 
 蓮が力を込めた水晶は凍り付き、冷気を放っている。
 
『うおぉぉおぉ!すっげー!ねぇ!アリシアさん!これってもしかしてレアな奴!?』
 
『水属性の中の氷に分類されるものじゃ。四元属性の分類ではあるがかなり希少じゃ』
 
『なんだ、四元属性か…』
 
『そのままそっくり返されたな、同じ四元属性ではあるが少なくともお前よりはレアだぞ』
 
『不毛な争いはよさぬか。魔法は希少性よりも使い手の力量が圧倒的に重要じゃ!』
 
 蓮と音村が不毛な言い争いをしているとアリシアから魔法は使い手の力量が重要であることを伝えられた。
 
『次にお主らがエクストラマジックを所持しておるのかを確認する!今度は中の濁りが不気味に動くこの水晶に魔力を込めるのじゃ!』
 
『さっきの透明な水晶と比べるとやけに禍々しいな』
 
『これも、歪みの力を検出するためじゃ。この水晶自体も歪みの力を持っておるが故に禍々しい見た目をしておる』
 
『音村、先にやってもいいぞ』
(あの怪しい球には音村から触れてもらおう…)
 
『まじで!サンキュー!蓮!』
 
『うおぉぉおぉ…!』
 
音村は濁った水晶に力を込めた。
 
ボッカーン!ピキーン!
 
濁った水晶から大きな音が発せられた。
 
『うわぁ!うるせー!急に大きな音出すんじゃねぇ!』
 
『嘔吐の次は騒音か?このならず者めが!』
 
 蓮とアリシアは急に発せられた大きな音に驚く。
 
『ごめんて!俺もわざとじゃないんよ!許して!』

『まぁよい。音村、お主のエクストラマジックは音に関するものである可能性が高いようじゃな』
 
『音村だけに音系の魔法!いいねぇ!とりまデュアルマジシャン確定ってことでいいしょ!』
 
『次は蓮、お主の番じゃ』
 
『蓮のエクストラマジック気なるねぇ!』
 
『しょうがない、やるしかないか』
 
 蓮は濁った水晶に力を込めた。
 
『はぁあぁあ…!』
 
シーン…
 
『何も起こんないね』
 
『何も起こらんのぉ…』
 
 アリシアと音村は口をそろえた。
 
『音村がデュアルマジシャンで俺がシングルマジシャンなんて認めないぞ…』
 
『そう落ち込むでない、世の中魔法すら使えん奴の方が多い』
 
(今の蓮には何も言わずそっとしておいた方がいいよなぁ…)
 
『はぁ…アリシアこれ返すよ』
 
ポイッ
 
蓮はやけを起こしたのかアリシアに水晶を投げ渡した。
 
『いくらやけを起こしたからといって物を雑に扱うでない!この水晶な貴重なのだぞ!
……なんじゃこれはっ!』
 
 蓮が投げた水晶が通常の物理法則ではあり得ない程遅くアリシアの方に向かって行った。アリシアと蓮の距離の半分を切った辺りから水晶は猛烈に加速しアリシアの方に勢いよく飛んだ。
 
『三重結界!』
 
アリシアは反射的に発動が間に合う中で最も防御力が高い魔法を展開した。
 
 パリン!パリン!ピシッ!…ボテッ…コロコロ…
 
三重結界の中の二つの結界が破損し、三つ目にヒビが入り水晶は地面に落ちた。
 
『ハァ…ハァ…なんじゃ今のは…妾の三重結界を突破しかけおったぞ…』
 
『スゲー!これが蓮のエクストラマジックか!』
 
『妾にもこの魔法の原理が全くもって分からん!』
 
『ハァ…ハァ…俺自身もこの現象のことは一切わからないが、俺の精神力あるいは魔力が結構持っていかれた気がする。』
 
『お主時間差で疲労しておるのか!?妾の予想が正しければこれはとんでもない魔法やもしれん!』
 
『俺はただ単に力を込めたつもりだがまさか魔力を発し魔法が使えるとは正直思わなかったよ』
 
『まぁなんにせよ今日はここまでじゃ。妾の目に狂いはなかったそなたたちのこれからが楽しみじゃ。
 魔力は精神力と密接に関わっておるが故に魔力を込めようとする強い精神力に呼応して魔力が反応し魔法が発動したのじゃ。魔法を使用したら魔力と共に精神力も消費されるから日々双方共に鍛える必要がある。
 今日でお主らは自分たちの魔力の大まかな形を理解したはずじゃ。あとはより深く己の魔法を理解しイメージを固めることじゃな。
 異界人は元々魔力の無い環境で育ったためか魔力の吸収力が強い。例えるのなら握りしめたスポンジに水を吸わせるようなものじゃ。お主たちは転移の際、時空の歪みの高密度な魔力をその身に受けておる。現時点でもこの世界の上位65%には位置する程度の魔力量を持っておる。あとはお主たちの今後次第じゃ風呂と寝床は後に呼ぶ妾の助手が案内するであろう。妾は今日は疲れた、故に寝る』

『後のことは頼んだぞ。イズナ』

『あいよ~』

 アリシアが長々と魔力について語り、扉の方向を向き助手を呼んびそれに呼応して助手らしき人物が返事をし、アリシアの工房に入ってきた。その後アリシアは工房の奥の自室へ向かった。

 『話は聞こえとったで、なんせ狐は耳がええからなぁ、ウチが君ら二人の案内をすることになったイズナちゅうもんや。よろしゅうな~』

 黄色のふさふさした毛並みの良い耳と尻尾を生やし、肩甲骨あたりまで伸ばした金髪が特徴的で、黒をベースとした和装に身を包んだ見た感じ十代後半くらいと思しき少女が蓮達に関西弁で挨拶をした。

『うっお!異世界って獣人いるのか!スゲーな!よろしくな!イズナちゃん!』

『よろしゅうなぁ~』

 音村は初めて見る獣人に興奮している。

『不可解な点があるな俺たちの世界由来の和服や関西弁を利用しているのは何故だ?』

 蓮はイズナを見て不可解な点を述べた。

『中々えぇとこついてくるなぁ~。なんでかっちゅうとウチはあんたらと同じ所から来たからや』

『ん?なぁ蓮俺たちの世界で狐のケモミミっ子って見たことあるか?』

『あるわけないだろ、恐らく元々人間で訳ありなんだろう』

『蓮くん鋭くて楽やわ~。せやでウチは元々人間でこっちの世界でキツネとのキメラにさせられったって訳や』

 蓮達はイズナが獣人である理由と何故蓮達の世界由来のものを利用しているのかを知った。

『たまーに災害とかで生じた時空の歪みとかで向こうの世界の人たちが来るんよ。神隠しちゅうんかな?そん人達が持ってた文化や技術やったりとかがこっちに浸透しとったりするんやで。ウチも十年ちょい前くらいの災害の津波で死んだ思うたら、こっちに流されたんよ』

 イズナは自分がこっちの世界に流された経緯を話した。

『ウチの妹も一緒に流されてな、右も左も分からんウチらはやばいマッドサイエンティストの男に捕まって改造させられたんや。そっから姉妹でなんとか逃げ出してアリシア様に保護された訳やで』

 イズナはアリシアの元に来るまでの経緯を話した。

『ってことは獣人はイズナ達、姉妹だけなのか妹のことやその男も気になる所だな』

『せやな獣人は確認されている限りではウチらだけや男は行方知れずやな。今日、妹は部隊で訓練やったからまた今度紹介したるわ。ウチらのこと話すと長いし、今日はこのくらいにしてお風呂案内するで~』

 イズナは話を終わらせ、風呂の案内をする。

『風呂は工房を出てまっすぐ行った後、左の通路に入ったすぐの左の扉や、そっから更に女湯と男湯で分かれとるから注意してなぁ~。そしてあんたらの部屋は工房から出た通路の手前から二番目の右の部屋や。そこの部屋はなぁ昔ウチら姉妹が使っとった部屋で二段ベットになっとるから仲良う使ってなぁ~』

 イズナは風呂と蓮達の部屋の案内をした。

『音村、風呂は俺が先に入らせてもらう』

『まぁ、いいけどよぉ…理由聞いて良き?』

『ゲロ野郎の後に風呂なんて入りたくないからな、後に入るくらいなら入らない方がマシレベルだ』

『えぇ…まだそれ言いますぅ…?』

『風呂はいいとして、よりによって騒がしい奴と同室とはな、ほかに空いている部屋はなかったのか?』

 蓮は風呂の順番を決めた後、空き部屋の確認をする。

 『ん~アリシア様の実験道具の倉庫利用で結構部屋埋まってもうてるからなぁ~他の人の利用する分もあるから二人同部屋でもギリギリや』

『……そうか…』

『え、そんな残念がることあります?俺は一人より二人の方が盛り上がるし楽しいから全然オッケーなんだけどな!』

『こればっかりは価値観の相違だな』

『とりあえず、俺は先に風呂に入る、代わりと言ってはなんだが上のベットか下のベット好きな方を選んでていいぞ』

『え!まじで!じゃあ上もらうわ!』

『へいへい』
(まるで子供だな、扱いやすいところに関しては救いだ)

『ほな、ウチは自室に行って寝るで~また明日よろしゅうな~』

 蓮は入浴を済まし、音村と交代した。

『ふぅ~サッパリしたー!中々の大浴槽だったじゃん!一人で使うのちょっと罪悪感あった』

 音村は入浴が終わると部屋に戻り笑い気味に感想を語った。

『そうか、まぁ俺は大小関係なく風呂は一人でゆっくり入りたいがな』

『へぇ~けど二人だと背中洗いっこできていいと思うけどな~』

『他人に背中委ねるの怖ぇ…』

『マジか!?そんなことある!?』

 音村は蓮の解答に驚いた。

『まぁいいや、にしても今日は色々あったな~』

『色々ありすぎだよ全く…』

『俺さ、今スッゲーワクワクしてんだよね!魔法とかさ!獣人とか!元々俺らがいた世界とは常識から仕組みとか何から何まで全然違う!多分毎日が新しい発見の連続だぜ!』

『ワクワクするのは勝手だが、俺たちには元の世界を守り、そして帰る必要がある。その過程で戦争に参加し、戦いに身を投じることになるだろう…』

『ん~ぶっちゃけ帰れるかも分かんないからワンチャンこっちで暮らすのもありかな~なんて!こっちの世界面白いし!』

『そうか、まぁ何にせよ俺たちはこの世界を知らなすぎるまずはこの世界を知ることからだな』

『そうだよな!多分明日も面白いことの連続だぜ!楽しみだな!蓮!』

『楽しみか…俺はどっちかというと不安の方が大きいかもな。明日から恐らく魔法の修行が本格的に始まるだろう…明日に支障が出ないようそろそろ寝るぞ』

『おう!俺もそろそろ寝るわ!どんな困難が押し寄せてきてもお前と一緒なら大丈夫だと俺は思ってるぜ!』

『ふっ、相変わらずの減らず口だな。そんなお前が明日修行でどうなっているか楽しみだよ』

『明日のことは明日の俺がどうにかするさ!って事でまた明日な蓮!おやすみ!』

『あぁ、おやすみ』

 蓮と音村は4月1日という嘘みたいな1日を過ごし、様々な体験と変革を経て、疲れ、眠りについた…のだが…

ドン!バタン!ゴロン!

『グーカー!グーカー!グヘヘへへ、こんなに食えねぇよぉ~、ヘヘヘへ』

(こいつ寝てる時もこんなに煩いのか!寝相悪りぃし!寝返りの音ヤベェし!何よりイビキと寝言が煩すぎる!これじゃ寝れねぇ…)

 蓮は上のベットで寝ている音村の煩さが原因で眠れないでいた。

(確か工房のベットが空いていたはずだ。流石にこいつと一緒には寝られない…俺が移動するのは癪だが背に腹は変えられない…)

 蓮は自室から出て、工房へ向かった。蓮は工房の中に入ると魔法の実験らしきことを行なっている人物を確認した。

『君は確か蓮君だったね、師匠から話は聞いているよ。何しにきたの?君達はもうとっくに寝ていると思ったんだけど。もしかして実験の盗み見か実験材料の盗みかい?』

 実験を行なっていた人物は見た目的に蓮よりも少し下くらいの年齢の少年で小学生高学年か中学一年生くらいに見える。少年は髪の毛が眉と耳にかかるくらいのショートヘアで赤い髪と青い眼が特徴的で白の長袖に黒の外套とショートパンツを履き黒い髪飾りをした西洋貴族風な格好をしていた。

『別にやましい事をしにきたんじゃない、工房の寝床を借りたいだけだ。俺のことが怪しいんだったら俺の部屋に案内してやるきっと俺に同情するぞ』

『そこまで言うんだったら少し見てくる』

 少年は蓮の部屋を確認し、蓮の部屋の惨状を理解したのち工房に戻ってきた。

『……心底同情するよ…疑ってすまなかった…そういやまだ名乗ってなかったね。僕の名前はレオン= クラークよろしくね』

『俺の名前は如月蓮。話は誰かは知らんが師匠とやらに聞いているはずだ。クラーク…君は学者の家系か?』
(クラークは確か学者を意味する単語だったはず…)

『ご名答すごいね君。ちなみに師匠はアリシア様のことだよ。師匠が寝る前に君らのことは軽く教えてもらってるよ。僕は師匠が眠りについた後の続きの実験を任されてるんだ』

『なるほど夜にシフトが入ってる系か』

『と言うこともあって僕は昼夜逆転生活を送っているわけさ。僕が夜に実験している間僕の部屋のベットが空いてるから君はそのベットを使うといいさ、この工房は灯りもついてるし、実験の音だって気になるだろ。とは言っても君の部屋よりはマシかも知れないけどね』

 レオンは苦笑しながら蓮に自分の部屋のベットの使用許可を出した。

『ありがとうレオン恩に着るよ』

『僕の部屋へ案内するよ。恩義の代わりと言っては何だが…僕、君たちの世界のことすごく興味あるんだ今度詳しく聞かせてくれないか?』

『それぐらいなら全然構わないよ。何から何まで至れり尽くせりだな』

 レオンは蓮に自室を案内し、蓮と別れた。

『レオンは俺にとって大恩人だな…全く音村の奴め…』

 蓮と音村は眠りについた。そして夜が明ける。
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