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第3章
旅の準備
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邸はそのまま残すことにした。いつか戻って来れるようにしたのだ。高齢の執事夫妻と2人のメイドが残る。執事夫妻とはリエがニールヴァンス王国に居た頃からの付き合いだそうで旅には出られないが邸を見ていてくれるそうだ。落ち着いたら呼び寄せるつもりらしい。郊外の邸は手放し、他のメイドたちには紹介状の作成しなければならず、リエも大忙しだ。そして「リリス」も廃業することになった。5店舗から7店舗に増やしていたがすべて潰していく。今まで頑張っていた従業員たちにはそれなりの退職金を渡すことになっている。
「廃業するんでかい?リリ嬢のたまにヘンテコなレシピがおもしろかったのに…」
錬金術アカデミーの近くで、よく行っていた「リリス」のオギという料理人だ。「リリス」すべての料理長だ。リリスとは仲良くしてもらっていた。
「ヘンテコってなによ?たこ焼きのこと言ってんの?」
「ヘンテコでしょーよ」
「ごめんなさいね。まだ先の事だからこれからのことをゆっくり考えて、退職金はもちろん多めに出す予定だし、オギがお店を出したいのであれば協力するわ」
「そうですかい。寂しくなるな…旅に出るんですかい?」
「そう。それでどこかに落ち着きたくなったら邸の執事とかを呼んでもいいかなって」
子供とか出来るかもしれないしね、えへへ
「わしも連れてってもらえんだろうか?」
「え?」
「わしはだんな様と同じアストロキングス出身で、力もありますぜ。料理も出来る。荷物持ちでもなんでもしますぜ」
「そういえば、オギは独身よね。なんで独身なの?」
「リリス、失礼よ」
オギはたぶん、40代半ばアストロキングス出身とは思えないくらい大きくない普通だ。容姿も悪くない。赤い髪に少し白髪が目立ってちょっとピンクになっている。青い瞳が魅力的だ。言葉づかい以外は。
「リリ嬢は、相変わらずだな…アストロキングスの田舎で育ったもんで身体が小さくても成人はした。結婚も16歳でしたんだ。しかし妻のオヤジさんが昔気質の人で一向に強くならない俺を強くしようと稽古づけにした。そして、谷に落とされたんだ」
またもや、壮絶…
「身体は丈夫でね、なんとか生きていた。脚は1本なくしちまったが、なんとかニールヴァンス王国の野営している騎士団に助けられた。もう騎士はムリだったが、料理が好きだったから料理人を目指したんだ」
オギは義足だ。
「そうね、「リリス」の立ち上げの時からお世話になっているわ」
「そうだったんだ…」
「でも、一緒に連れて行くのは…どんな旅になるのかわからないし…」
「今さら、ひとりになるのは辛れえなぁ」
オギは項垂れる…
「んーオギもそんなに焦んないで落ち着いて考えて、ちょっと旅行に行くわけではないんだよ?目的もなんにもない旅よ。私たちも考えるから、ゆっくり考えて」
「俺の気持ちは変わんねぇ」
廃業するのは当分先だ、ゆっくり考えてもらおう。
「リリス、気をもたせるのは返って辛い事よ。はっきり連れて行けないと言わないと!」
「でも、ご飯はどうするの?お母さんって料理出来るの?いつも邸の料理人に作ってもらっているじゃない。私は肉しか焼けないよ?」
「あっ」
「毎日、レストランってわけには行かないし、野宿って事もあるかも…料理人がいた方がいいんじゃない?邸の料理人も他に移ってもらうわけだし、落ち着いた先でまた「リリス」をまた開けば?今度は違う名前にしてほしいけど」
「それもそうねぇ」
リリスは「ポポス」の事でポポスとククで話し合いをしている。継いでもらえると思っていたのに旅に出るわけだ。訳をすべて言えない。まさか、元国王と揉めたなんて言えるはずない。
「本当にごめんなさい。高級ポーションが有名な店にしたかったんだけど…」
「まあ仕方ないさ、リリスは若い。色んな経験を積んだらいい。実はこの間、次男から手紙が来てな。今は違う地域にいるんだが、その子供、孫だな、その孫がこっちで店を出したんだそうだ。力になってくれって言われてたんだが…まぁこんな路地裏の店では変わり者のリリスぐらいしか喜ばないだろうが、孫のために残しといてやるかな…」
作業はほぼリリスがしていたが店の権利はまだ、ポポスにあった。ポポスは権利をリリスに移そうとしている所だったのだ。
「ポストもやめるわね、迷惑かけてごめんなさい」
「やめるのかい?」
「え?」
「たまに、ポストにお金入れる人がいるんだよ。ボノとかいただろ、それに他の人たちも自分の為とかで…」
「そうなの、嬉しいけど経営者が変われば安く提供するのはムリよね…その時になればいくらか作り置きは出来るけど…」
「気にするな。まだそんなに浸透していない。それよりあの騎士団の人たちが1日何回か不定期に見回りをしてくれているだろう、そのおかげか変な奴らも少なくなったし、そっちの方が有難いと思っているよ」
「本当にそうね、騎士団の人たちがいるからって若い人が見に来たり、そこでお店でなにか買っていったりして、色々助かっているみたい」
経済効果ってやつか…
たまに、戻ってポーションを届けようかと思っていたリリスだが、やめた。やはり街はそこに住んでいる者が造るのだ。出ていった者がしゃしゃり出るのは違うだろう。
マジックボックスのレンタルは引き続き「ポポス」に任せる。レンタルの儲けはそのままポストに入れて、困っているケガ人や病人に使ってもらう事にした。マジックボックスの権利は以前は「ポポス」であったが、リリスにした。商人ギルドに相談して勝手に売り買い出来ないようにしてもらったのだ。そして儲けも「ポポス」に入っていない事も報告した。
ポポスは孫が勝手にポストのお金を使うかもしれないからと、毎日帳簿を付け、毎月商人ギルドに提出する事を決めた。そして手数料として月1000ベニーを自分とこの取り分にするよう決めたのだ。しっかりしている。
リリスは皆が忙しく引継ぎや事務作業をしている中、レンタル用や出荷用のマジックボックスを作っている。旅に出る前にたくさん作って行こうとしているのだ。
ちなみにマジックボックスの儲けはポストに直接入っているわけではなく、ポスト用のスズカを新たに導入し移行している。ポーションの経費はそのスズカからになる。リリスが個人で出来るのはここまでのようだ。あとは下町の人たちにお任せする。
余談だが、商人ギルドでポポスと何回か打ち合わせをしていると、面影が初恋のルーイによく似た人がいた。金髪で背が高く、風の精霊を連れている。その青年の風の精霊は遠くからリリスに手を振っている。やはりそうだ。ルーイなのだ。お別れをしたのは10歳の頃、あの頃も他の子供たちより大柄な子だったが、久しぶりに見たルーイは背が高くなり、あの頃のまま優しい眼差しをしている。こちらには気が付いていない。商人ギルドで働いているのだろうか。元気な姿を見れてよかった。安心して旅に出られる。
「なんだ、リリスは婚約者がいるのにあの見習いに興味があるのか?」
「やめてよ、ハズ。そんなんじゃないよ。昔の知り合いに似ていたなって」
「そうなんだ、呼んでこようか?」
「いいの、仕事中だもの。それに例え知り合いであっても、私は旅に出るしあっちはもう覚えてないかもしれないわ」
「そうかなぁ…、リリスを忘れるかな?」
「あの人はここで働いているの?」
「ルーイのことかい?あいつはオヤジが真面目で働き者だからと仕立て屋で下働きをしていた所からスカウトしたんだよ。来年には職員になるだろうな」
ハズは、錬金術師をしながら商人ギルドの手伝いをしている。やはり若いと錬金の仕事は少ないようだ。やはりルーイだった。ルーイは商人ギルドの見習いをしているらしい。こんな近くにいたとは。でも仕立て屋ってことはノアのおばさんの所だろう。幸せにしているのであらば邪魔はしないでおこう。またいつか戻ってきたら昔話に花を咲かせたいな。
「廃業するんでかい?リリ嬢のたまにヘンテコなレシピがおもしろかったのに…」
錬金術アカデミーの近くで、よく行っていた「リリス」のオギという料理人だ。「リリス」すべての料理長だ。リリスとは仲良くしてもらっていた。
「ヘンテコってなによ?たこ焼きのこと言ってんの?」
「ヘンテコでしょーよ」
「ごめんなさいね。まだ先の事だからこれからのことをゆっくり考えて、退職金はもちろん多めに出す予定だし、オギがお店を出したいのであれば協力するわ」
「そうですかい。寂しくなるな…旅に出るんですかい?」
「そう。それでどこかに落ち着きたくなったら邸の執事とかを呼んでもいいかなって」
子供とか出来るかもしれないしね、えへへ
「わしも連れてってもらえんだろうか?」
「え?」
「わしはだんな様と同じアストロキングス出身で、力もありますぜ。料理も出来る。荷物持ちでもなんでもしますぜ」
「そういえば、オギは独身よね。なんで独身なの?」
「リリス、失礼よ」
オギはたぶん、40代半ばアストロキングス出身とは思えないくらい大きくない普通だ。容姿も悪くない。赤い髪に少し白髪が目立ってちょっとピンクになっている。青い瞳が魅力的だ。言葉づかい以外は。
「リリ嬢は、相変わらずだな…アストロキングスの田舎で育ったもんで身体が小さくても成人はした。結婚も16歳でしたんだ。しかし妻のオヤジさんが昔気質の人で一向に強くならない俺を強くしようと稽古づけにした。そして、谷に落とされたんだ」
またもや、壮絶…
「身体は丈夫でね、なんとか生きていた。脚は1本なくしちまったが、なんとかニールヴァンス王国の野営している騎士団に助けられた。もう騎士はムリだったが、料理が好きだったから料理人を目指したんだ」
オギは義足だ。
「そうね、「リリス」の立ち上げの時からお世話になっているわ」
「そうだったんだ…」
「でも、一緒に連れて行くのは…どんな旅になるのかわからないし…」
「今さら、ひとりになるのは辛れえなぁ」
オギは項垂れる…
「んーオギもそんなに焦んないで落ち着いて考えて、ちょっと旅行に行くわけではないんだよ?目的もなんにもない旅よ。私たちも考えるから、ゆっくり考えて」
「俺の気持ちは変わんねぇ」
廃業するのは当分先だ、ゆっくり考えてもらおう。
「リリス、気をもたせるのは返って辛い事よ。はっきり連れて行けないと言わないと!」
「でも、ご飯はどうするの?お母さんって料理出来るの?いつも邸の料理人に作ってもらっているじゃない。私は肉しか焼けないよ?」
「あっ」
「毎日、レストランってわけには行かないし、野宿って事もあるかも…料理人がいた方がいいんじゃない?邸の料理人も他に移ってもらうわけだし、落ち着いた先でまた「リリス」をまた開けば?今度は違う名前にしてほしいけど」
「それもそうねぇ」
リリスは「ポポス」の事でポポスとククで話し合いをしている。継いでもらえると思っていたのに旅に出るわけだ。訳をすべて言えない。まさか、元国王と揉めたなんて言えるはずない。
「本当にごめんなさい。高級ポーションが有名な店にしたかったんだけど…」
「まあ仕方ないさ、リリスは若い。色んな経験を積んだらいい。実はこの間、次男から手紙が来てな。今は違う地域にいるんだが、その子供、孫だな、その孫がこっちで店を出したんだそうだ。力になってくれって言われてたんだが…まぁこんな路地裏の店では変わり者のリリスぐらいしか喜ばないだろうが、孫のために残しといてやるかな…」
作業はほぼリリスがしていたが店の権利はまだ、ポポスにあった。ポポスは権利をリリスに移そうとしている所だったのだ。
「ポストもやめるわね、迷惑かけてごめんなさい」
「やめるのかい?」
「え?」
「たまに、ポストにお金入れる人がいるんだよ。ボノとかいただろ、それに他の人たちも自分の為とかで…」
「そうなの、嬉しいけど経営者が変われば安く提供するのはムリよね…その時になればいくらか作り置きは出来るけど…」
「気にするな。まだそんなに浸透していない。それよりあの騎士団の人たちが1日何回か不定期に見回りをしてくれているだろう、そのおかげか変な奴らも少なくなったし、そっちの方が有難いと思っているよ」
「本当にそうね、騎士団の人たちがいるからって若い人が見に来たり、そこでお店でなにか買っていったりして、色々助かっているみたい」
経済効果ってやつか…
たまに、戻ってポーションを届けようかと思っていたリリスだが、やめた。やはり街はそこに住んでいる者が造るのだ。出ていった者がしゃしゃり出るのは違うだろう。
マジックボックスのレンタルは引き続き「ポポス」に任せる。レンタルの儲けはそのままポストに入れて、困っているケガ人や病人に使ってもらう事にした。マジックボックスの権利は以前は「ポポス」であったが、リリスにした。商人ギルドに相談して勝手に売り買い出来ないようにしてもらったのだ。そして儲けも「ポポス」に入っていない事も報告した。
ポポスは孫が勝手にポストのお金を使うかもしれないからと、毎日帳簿を付け、毎月商人ギルドに提出する事を決めた。そして手数料として月1000ベニーを自分とこの取り分にするよう決めたのだ。しっかりしている。
リリスは皆が忙しく引継ぎや事務作業をしている中、レンタル用や出荷用のマジックボックスを作っている。旅に出る前にたくさん作って行こうとしているのだ。
ちなみにマジックボックスの儲けはポストに直接入っているわけではなく、ポスト用のスズカを新たに導入し移行している。ポーションの経費はそのスズカからになる。リリスが個人で出来るのはここまでのようだ。あとは下町の人たちにお任せする。
余談だが、商人ギルドでポポスと何回か打ち合わせをしていると、面影が初恋のルーイによく似た人がいた。金髪で背が高く、風の精霊を連れている。その青年の風の精霊は遠くからリリスに手を振っている。やはりそうだ。ルーイなのだ。お別れをしたのは10歳の頃、あの頃も他の子供たちより大柄な子だったが、久しぶりに見たルーイは背が高くなり、あの頃のまま優しい眼差しをしている。こちらには気が付いていない。商人ギルドで働いているのだろうか。元気な姿を見れてよかった。安心して旅に出られる。
「なんだ、リリスは婚約者がいるのにあの見習いに興味があるのか?」
「やめてよ、ハズ。そんなんじゃないよ。昔の知り合いに似ていたなって」
「そうなんだ、呼んでこようか?」
「いいの、仕事中だもの。それに例え知り合いであっても、私は旅に出るしあっちはもう覚えてないかもしれないわ」
「そうかなぁ…、リリスを忘れるかな?」
「あの人はここで働いているの?」
「ルーイのことかい?あいつはオヤジが真面目で働き者だからと仕立て屋で下働きをしていた所からスカウトしたんだよ。来年には職員になるだろうな」
ハズは、錬金術師をしながら商人ギルドの手伝いをしている。やはり若いと錬金の仕事は少ないようだ。やはりルーイだった。ルーイは商人ギルドの見習いをしているらしい。こんな近くにいたとは。でも仕立て屋ってことはノアのおばさんの所だろう。幸せにしているのであらば邪魔はしないでおこう。またいつか戻ってきたら昔話に花を咲かせたいな。
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