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まほろ よろず祓い屋
香炉の中に
「これは……」
足を止め目を瞬かせる。
空がうっすら白んできた頃、目の前に現れたのは大きな池であった。
手元の紙に視線を落とす。
大きく歪な楕円の中に、小さな円と黒い点。
その傍らには太めの横線が描き添えられており、その端には『香炉』の文字。
紙と池とを見比べ、佑は唸り声を上げた。
こんもり木々に覆われた中洲の向こう側には、横長の大きな邸が黒い塊のように見える。
おそらくこの横線は、あの邸の事であろう。
とすると、だ。
「香炉…」
もっとこう…どうにかならなかったものだろうか。
佑から見た真保呂は、なんでも卒なくこなす器用な男である。
けれど地図を描く才能はなかったようだ。
ここで香炉を開けろという事なのだろうか。
悩んだ末に、佑は腰に括り付けていた香炉の紐を解いていった。
両手ですっぽり包み込めるほどの黒い香炉は、丸みを帯びた蓋と土台の重なった部分に棒が通され、簡単には開かぬ仕組みになっている。
片側の留め具を外し棒を引き抜く。
蓋を開けるとすぐさま煙が吹き上がった。
「へ…?」
何故と思わず目を閉じ煙を避ける。
火なぞつけてはいない。
おかしな事だ。
煙さの代わりに控えめな甘い香りが鼻腔をくすぐった。
薄眼を開けると、まるで霧が風に払われるようにゆるりと視界が開けていく。
後には、先程までと変わらぬ池と中洲と邸が現れた。
ただ一つ違うのは、跪き頭を垂れた男の姿が目の前にあった事だ。
「佑殿でございますな」
男は佑が言葉を見失っている間に、そう言って顔を上げた。
生真面目そうな青年である。
どこから現れたのかは知れないけれど…
迷った挙句無言でこくりと頷くと、こちらの困惑を察したのか、青年は少し表情を和らげ小さく頭を下げた。
「驚かせてしまいましたな。ご容赦を。たつ…いえ、真保呂様より、同行をせよと申しつかっております」
「真保呂が…?」
「はい。やむなくとはいえ、やはりご心配だったのかと…」
一旦言葉を区切ると青年は立ち上がった。
「不思議に思われている事でしょう。まずは私が何者か告げねばなりませんね。ひとまず私の事は…」
逡巡し、片手を対岸の邸に向ける。
「佑殿にだけ見える桜の精とでもお思い下され。あちらに向かいながら、どういう事かお話し致します」
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