まほろ よろず祓い屋

春きゃべつ

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まほろ よろず祓い屋

悠馬の頼み



あれはいつのことであっただろうか…
遠い日の記憶を辿る。
〝 私は呪われているのですか? 〟と、泣きじゃくりながら迫った事があった。
幼い私を膝の上に乗せ、父上はぽつりぽつりと話してくれた。
私が産まれた日に見たという、不気味な女の夢の話を…


のろいの花を仕掛けた女から、息子を、悠馬を救うてはくれまいか』

対面し開口一番、すがり付くように言われた。
木板に書き記されていた名の主にである。
佑が家人に差し出したあの木板は、はらい屋を呼ぶ為の占い札で、噂を聞きつけた者達の間では呼札よびふだと言われている代物しろものであったらしい。
室を後にして、家人に連れられ廊下を歩く。
歩きながらたまたま持っていた手ぬぐいの片隅に、ざっくりまとめた用件・・を書き付けていった。
戻って真保呂に悠慶の願いを伝えれば、使いは完了だ。
一度の使いで、尋ねたい事柄が山と出来てしまった。
これは急いで戻らねばと思った佑だが、前を行く家人が足を止めたのは、邸の出口ではなかった。

「連れて参りました。悠馬様、祓い屋の使いの者にございます」

「入れ」

指図を待って、家人が戸を開く。
板の間の至る所に冊子が積まれ、奥まったところに若者がいた。
年の頃は、佑よりも二つ、三つ上だろうか。
ゆうま様と呼ばれていたところをみると、この若者が悠慶の息子であるのだろう。
調べ物をしている様子だが、本の虫というわけではなさそうだ。
今まさに呪い殺されようとしている者だとも思えないけれど。
これはどういうことだろう。
香涼も後ろに付いてきているはず。
振り返って目配せしたいところだが、どうしたものか。
迷った挙句、中へと進む。

「佑と申します。何かお…」

「たすく…?たすくとは……どのような文字を書くのだ?」

「は?」

予想外の切り返しに、一瞬言葉に詰まる。

「あ……文字、ですか。…その、人偏に右と……〝ゆう〟とも読めますが…」

「ああ……成る程」

困惑しつつ説明する佑を見て頷くと、若者はこちらに向き直り辞儀をした。

「…お引止めしてすまぬ。たすく殿。お帰りになられる前に、一つ話しておきたい事があってな。私は悠馬ゆうまと申す。父、悠慶のゆうの字に馬と書いて悠馬だ」

「失礼致します」

白湯の入った椀と唐菓子を乗せた台を持った家人が、佑と悠馬の前に置き傍らに控える。

「何かあれば呼ぶ。皆、退がってよいぞ」

それまで廊下で控えていた家人を含め、言われた通り退きあげていく。
これで室の中には三人。
…いや、悠馬から見れば使いの者と二人きりという状況だろうか。
人払いをした上の話とは、いったいどんなものだろう。
用意してくれたばかりの白湯の入った椀を横に退け、まずは聞く体制をとる。
すると悠馬は、もう少し近くに来るよう片手を上げて手招いた。

「花のようであろう?」

近くに寄って間近に座した佑にそう言うと、彼は軽く握って突き出した自身の手の甲へと視線を落とす。

「…この世のものとは思えぬ不気味な女であったそうだ。父上が奇妙な夢を見た朝に私は産まれたのだが、産まれたばかりの私の手には、夢で見たのとそっくり同じ痣があったそうでな。その痣が消えたすぐ後に、私の母上は亡くなった。こたび現れたこの痣は、色といい形といい、その時とまったく同じであるらしい」

「あ。……これが悠慶様の仰っていた〝のろいの花〟なのですか?」

佑の言葉に、悠馬が頷く。

「昔、そう呼んでおった者がおってな。父上もだが…」

覗き込んだ手の甲には、悠馬が言うように花の形をした痣がある。
忘れぬようにと、しまい込んでいた手ぬぐいの余白に聞いたばかりの内容を書き付ける。
懐に収めると、佑は軽く辞儀をしていったん元いた場所へと後退った。

「…おそらく父上は不安なのだ。今度は、私が夢の女に喰われてしまうのではと思うておられるに違いない。それ故、噂の祓い屋に〝呪いの花あざ〟ののろいを解いて欲しいなどと願うたのであろう」

一旦言葉を区切ってこちらを見ると、悠馬は少し首を傾げた。

「なんだ?」

「あ、いえ。俺は、こたび初めて使いに出された身なので、こういう事には疎いのですが。なんというか…悠馬様は悠慶様ほど、それを恐れてはいないのだなと…」

「ああ、成る程」

佑の疑問を察したのか、悠馬は腕組みをして軽く首を振った。

「…父上の話や、呪いの存在を信じておらぬわけではない。しかし、私にはこれのろい故に現れたとはどうにも思えぬのだ」

「それは…どういう意味です?」

すっかりこんがらがってしまった佑の表情に、悠馬は笑みを浮かべる。

「そのままの意味だ。実は、この痣が現れた折。父上が夢を見たのと同じく、私も夢を見てな」

「悠馬様も…ですか」

「ああ。なんとも不思議な夢であった。だが、私の見た夢からは父上の仰るような禍々しさは感じられなかった。それで一つ、そなたに頼みたい事がある。祓い屋殿に伝えて欲しいのだ。もし父上の願いを引き受ける気があるならば、この痣自体が私に害なすものなのか、探ってみてはくれぬであろうかと」

「…もしや。その痣が盾となって、呪いがふりかかるのを妨げている。そう、悠馬様は考えておいでなのですか?」

然様さよう。やはりそなたに話して良かった。憶測にすぎぬが、頼めるだろうか」

「そうですね。…お二人の夢の話と悠馬様のお考え、伝えておきます」

「宜しく頼む」

言い終えてすっきりしたのか、悠馬はぬるまった白湯を一口すすり。
それからこちらを見て、面白そうに笑みを浮かべた。

「さて、話も済んだ。菓子でも如何か?腹の足しにはならぬやもしれんが、夜通し歩いてこられたならば疲れてもいるだろう。のう、おゆう殿」

「お気遣いありがとうございます。では遠慮な……は?」

菓子の乗った台に手を伸ばし、眉を寄せる。

「…今、なんと」

「菓子は如何かと言うたのだ。おゆう殿。…それとも、祓い屋の使いとしては、たすく殿とお呼びしておいた方が、都合が良かったか」

「あ…の……なかなかに、お人が悪いのですね」

「まさか。そこは根が素直と言うてもらいたいものだな」

すっかり騙された。
しれっと揶揄って面白がるところは、真保呂といい勝負かもしれない。
佑がそんな事を思っている間に、悠馬は佑の背後へと視線を移した。

「…それはそうと、貴方も如何か?」

「これは……やはり、気づいておいででしたか」

問いかけられた香涼が、口元に笑みを浮かべゆるりと辞儀をする。

「香涼と申します。こたびはゆう殿の供として参りました」

「悠馬と申します。先程は家人がおりましたので、声もかけず失礼な事を致しました」

「いえ…お気になさらず」

「あ…あの、悠馬様には見えるのですか?」

困惑する佑をみて、悠馬が再び面白そうに笑みを浮かべる。

「ああ。幼い頃より、時折な。声をかけて良いものか少し迷うたが、そなたも気にしておるようであったし。ここには私とそなた以外。もうはおらぬ故、な」

邸で唯一香涼に気づいた悠馬わかものは、そう言うと勧めた菓子を一口頬張った。

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