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まほろ よろず祓い屋
神世への入り口
しおりを挟むその場所は仄かに光る白塊達に照らされた泉であった。
空洞の遥か頭上は小さく抜けて、月の光が細く差し込んでいる。
月魄が手にした杖を泉に翳すと、泉は青白く光り始めた。
「お先に」
斗真が泉に飛び込んだ。
すると黒犬の姿はふつりと消えて、わずかに赤みを帯びた後、元の泉だけが残る。
「お前は神世に渡るのは初めてであったのう」
月魄が目を丸くする小那に目を向け、その背に手を当てる。
「渡れるのは一人ずつじゃ。泉が青白く光ったなったなら〝通せ〟と念じて泉に入りなさい。渡った先には岩と扉ががあるはずじゃ。そこから降りてその場で待ちなさい。儂もすぐに渡るでの」
小那がこくりと頷くのを確認すると、月魄は再び泉に杖を翳す。
ぼうっと泉が青白く光り始めた。
〝とおせ〟と念じ、えいやっとばかりに泉に飛び込む。
不思議と水に濡れる感覚はない。
目を開けて視界にまず飛び込んで来たのは、観音開きの扉が一つ。
それから月や星を写す水面であった。
言われた通り己のいる岩から降りる。
水面に据えられた石の足場までたどり着くと、目の前の扉は触れてもいないのに自然と押し開いた。
不思議に思いながらくぐり抜ける。
すると今度は、まあるく浮いた石段が数歩、そして降りた先には一葉の舟と板床の足場が見えた。
闇に紛れるような黒い衣を纏った男の姿がある。
何と無くではあるが、小那にはその者が先程の黒犬のように思えた。
「あ…あの。貴方は、とま様ですか…?」
足場をとてとてと降りそう尋ねると、男はこちらを見下ろしこくりと頷く。
「ああ。こちらでは装わずとも済むのでな。これが私の真の姿だ」
「まことの姿…」
はっとして己の手を見れば、小狸の小さな前脚に戻っている。
「ここは神世。大神様や母神様がおわす天上の都がある処。そして、八百万の神々や我ら使神の住まう処でもある」
「かみよ…ですか?」
「ああ。現世と重なり存在している。あれが月魄様の神世の邸。これから我らが向かう処だ」
水面に浮かぶ邸に目を向け、人の姿をした斗真が言う。
月に照らされた邸は、それ自体が仄かに白く光っているようだった。
程なくして、再び扉が開き邸の主だという月魄が板床へと降りて来る。
斗真とは真逆の、白い衣だ。
それは柔らかな光を放つ月のようである。
「お待たせしましたな。では」
そう言って子狸に戻った小那を拾い上げると、月魄は斗真とともに舟へと乗り込んだ。
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