まほろ よろず祓い屋

春きゃべつ

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まほろ よろず祓い屋

聞きたい事は山ほど



夜道は物騒だというけれど、昼の山道は蒸し暑さが伴ってそれはそれで厄介である。
傍らを涼やかに歩く同行者をちらりと見て、佑は吹き出す汗を手の甲で拭いつつ歩を進めた。
佑と香涼が庵へと辿り着く頃には、西の空は茜に染まりかけていた。
それから先に戻っていた真保呂に見聞きした事を報告し、さらに半刻ほど経っただろうか。
すっかり薄暗くなった室の中で、佑は取り出した手拭いを目の前に座っている真保呂へと差し出した。

「異なる夢と花の痣…か…」

「話を聞く限りでは、お二人とも捉え方はまったく違うようですよ」

そう付け加えた佑から手拭いを受け取って。身を捩らせた真保呂は、背後へと手を伸ばした。
引き寄せた燭台に火を灯すと、薄暗い室がほんのり明るくなる。
再び手元へ視線を落とすと、真保呂は手ぬぐいを広げ描かれた花の図柄を手で撫ぜた。

「それで…おまえの見立てはどうだい?」

おもむろに顔を上げると、彼は佑の背後に控えていた香涼へと視線を向ける。

「…そうですね。ご子息の見解が正しいのではないかと。痣からは、特に害意などは感じられず」

痣の事を調べて欲しいと頼まれた。
悠馬には人には見えないものが見えるらしい。
存在を見抜かれた後。
悠馬の室からの去り際、香涼が痣からは今のところ禍々しい気配は感じられないと告げていたのを思い出す。
真保呂の反応を伺っていると、彼は「そうか…」と呟き口元へ手をあてた。
手拭いに書かれた図柄からでは、流石に真保呂でも判じられる事は少ないのだろう。
しばらく考えを巡らせた後、彼は香涼の方へ視線を向けなおした。

「あちらへ迷い込んだという事か。気脈の乱れあれとなにか関わりがあるのかもしれないな。…悠馬殿が見たという夢はさく姫とうれい殿であろう」

「おそらくは。真保呂様の予想通り、逢花の地あちら気脈が断たれてたたれておりました」

「そうか。もう一人の女には、私も少し思うところがあってね…」

「それは?」

「得たばかりの情報だが、少し前から都で神隠しが頻発しているらしい」

突然切り替わった話に、どういう事かという表情かおで香涼が続きを待つ。

「少し前に元凶らしき者が解き放たれたようでね。その場に居合わせた者がいたのだけれど。そのすぐ後らしいんだよ。神隠しが起こり始めたのは…。こたびの件、私は繋がっているのではないかと踏んでいる」

「繋がっている?…話を聞きに向かわれたのは、それ故ですか」

「ああ。司羅貴が今、確かめに同行している」

「あ、あの…」

ちんぷんかんぷんな内容を話し始めた二人に、思わず佑は口を挟んだ。

「……どういう事です?俺にもわかるように話して欲しいのですが…。これでは除け者にされている気分です。香涼の事だって…」

こたびの使いの事だってと少しむくれた佑に、真保呂が少し困ったような笑みを浮かべる。

「あぁ、すまない…」

首を傾げて、こちらに視線を向ける。

「除け者にするつもりなどないのだよ。ただこたびは少し込み入った依頼だったんだ。許しておくれ。…それはそうと、香涼と名付けたのだね。良い名前じゃないか…」

いかにもすまなそうな表情かおでこちらを伺い見る真保呂に、情にほだされかけた佑がぶんぶんと首を振る。

「だ、駄目ですよ。今度ばかりは聞きたいことが山ほどあるんです」

丸め込めなかったかと息吐く真保呂に、うやむやにしようったって無駄ですよとばかりに精一杯目を眇める。
これは困ったなという表情かおに切り替わった真保呂は、小さく唸り声をもらした。

「…けれど何から話せば良いものかな」

祓屋・・の事。こたびの依頼の事。呼札の事。香涼の事。聞きたい事は山ほどです。依頼主に会ったからには、何が何でも最後まで手伝わせてもらいます!」

そう付け加えて、ぷいと横を向く。
いつになく強い調子だ。
譲る気は無いと口を引きむすんだ佑に、これは本格的にに参ったと真保呂は弱々しい笑みを浮かべた。
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