まほろ よろず祓い屋

春きゃべつ

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まほろ よろず祓い屋

捕縛箱の行方




ひび割れた鏡と、拳ほどの大きさの黒い賽子。

それらから顔を上げ、佑は開け放たれた戸の向こうへと視線を向けた。
さらに詳しく言うならば、縁側の藁蓋わらうだの上へちょこんと座る黒犬にである。

祓屋はらいや殿。如何か?」

低く渋みのある声で黒犬は問うた。
問われた真保呂が、目の前に置かれたそれらに手を翳し目を閉じる。
しばらくして彼は小さく息を吐き、首を振った。

「やはり追えませぬか…」

「なれど残滓は同じもの。小那殿の見た老婆のものとみて、まず間違いないかと」

白髪の老人が、真保呂の方を見てやはりそうかと目を細める。
その傍らで水干姿の童が眉を八の字に寄せ俯いた。

「後を追えぬ程に道を閉ざすとは、周到な。これで捕縛箱ほばくばこの行方は分からぬままというわけか」

黒犬の声音に、苦々しいものが混じる。
唸るような吐息をもらすと、白髪の老人は小那と呼ばれた童の頭にそっと手を乗せた。

「ふむ。こやつに鏡が手渡った時には、すでに亜久理の謀の内というわけか。そら恐ろしくなりますな」

「ですが、月魄様。そう考えるのが自然かと…」

場に重苦しい沈黙が生じる。
所在無く身動ぎし、佑は再び目の前に置かれた鏡と賽子に視線を戻した。

面合わせもそこそこに庵へと引き返した真保呂は、来客達からもたらされた情報に耳を傾けていた。
許可を得て同席させてもらっている佑だが、全容を掴めているわけではない。
とはいえ、彼らの会話から汲み取れた事もある。
ひと月ほど前から都で神隠しが起きているという事。
首謀者と思しき者が〝ほばくばこ〟とやらを奪い去ったという事。
原因をつくってしまったかもしれないと、佑の目の前に座る童が気に病んでいるという事である。
童の名は〝こた〟。
その隣にいる白髪の老人は〝げっぱく〟。
そして、縁側の藁蓋わらうだの上に座っている黒犬は〝とま〟という。
彼等の名を頭の中で繰り返し、佑は黙したままの黒犬の方へと視線を差し向けた。
いろいろ驚きすぎて、あの時は深く考える余裕などなかったけれど。
そういえば…
あの時見知らぬ顔の存在に気づいた月魄が、首を傾げるのを見て真保呂は佑の背に手を当てた。

『月魄様。この子はこのよろず祓屋で預かっておる者。私はゆうと呼んでおります。そしてこの者は香涼かりょう。ご覧のとおり桜精にございます』

真保呂は佑や香涼を紹介し終えると、同席させても良いかと続け様に願い出た。
構わないと頷いた月魄が、佑や香涼に自ら名乗り、小那や斗真を紹介してくれたのだ。
けれど…
滝壺の岩に現れた黒犬は、佑の姿をその目に捉えるなり呟いた。

『成る程…この者が…』と。

そして、真保呂の方をちらと見た。
気のせいではないと思う。
それに今思えば、なにか含みのある言い方だったような気がする。
成る程というからには、あらかじめ祐の事を何か聞き及んでいるのだろう。
だとすれば、あれはどういう意味なのだろうか…

「それはそうと…」

沈黙を破る声音に、頭の中で飛び交う疑問をいったん放り出し耳を傾ける。

「一つ、気になることがあるのですが…」

傍らに座している真保呂の顔を、佑は見上げた。

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