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まほろ よろず祓い屋
接点と力珠
「ほう。…それはたしかに捨て置けませんな」
月魄と斗真は、真保呂の話を聞いて唸るように息をもらした。
数刻前に佑が報告したばかりの、夢に現れた女の話である。
それを真保呂が切り出したのだ。
会話に耳をそばだてる佑同様に、月魄の傍らに座る童も八の字眉のまま彼らを見つめている。
「都で姿をくらました妖と同一、という事はありませぬか」
「ふむ。祓屋殿は、その一件にも亜久理が関わっておるとお考えのようですな」
月魄が白い顎髭を撫ぜながら問い返す。
頷く真保呂にちらと目を向け、今度は斗真が口を開いた。
「そうですね。あり得る話かと。あれは逢花の地から力珠をくすねたと聞き及んでおります」
「…気脈が整わぬのはそのせいか。香涼」
「はい」
〝りきじゅ〟とは、なんだろうか。
そんな事を佑が考えている間に、真保呂は部屋の隅に視線を向け、控える香涼を呼びつけた。
それまで黙って耳を傾けていた彼は、部屋の隅から真保呂の方へするりと歩み寄る。
傍らへ腰を下ろすのを見届けて、真保呂は黒い賽子とひび割れた鏡を指し示し「宜しいか」と、来客達へ視線を向けた。
月魄が斗真へ目を向け、斗真は真保呂へ頷いてみせる。
「どうだい?」
しばらくして、真保呂の問いに賽子と鏡に手を翳した香涼が顔をあげた。
「悠慶様の室に漂ってていた残滓と、同様のものかと」
「やはりそうか…」
…どういう事だろう。
同席しているのに、蚊帳の外といった心持ちである。
神妙な顔になった一同を伺い見ながら、居心地悪く佑は身動いだ。
おそらくそれは、月魄の傍らに控えている童も同じなのだろう。
しきりに首を捻る小那と、はたと目が合う。
「ひゃぅ…」
「ん?どうした、小那」
途端にもじもじしだした彼に気づいて、月魄が頭にそっと手を乗せ覗き込む。
「あ…ええと。〝りきじゅ〟とは、なんです?」
皆の視線を一斉に受け、聞いても良いものか迷いつつ小那はたずねた。
ああ、と斗真が声をもらす。
「力珠とは、神の気を通す力の珠の事ですよ」
「力のたま…」
月魄達の代わりに答えた司羅貴の言葉を、小那はそのまま繰り返す。
「少し意味合いは違うけれど、文を書き記す紙のようなものだよ。神というものは、人の世と神々の住まう世の境で、人々の願いをすくい上げる。神が人の世に現れたとしても、人が神の姿を視る事は出来ないからね」
佑にはあれほど言い渋っていたのに。
耳慣れない言葉に眉を寄せていた小那へ、真保呂はかみ砕くように告げる。
それにしても、まるで己の目で見てきたかのような口ぶりだ。
何故そのような事を知っているのだろうか。
そんな事を思いつつ、佑は無駄に綺麗な真保呂の横顔を見上げる。
「自然が生み出す気脈の流れは、気まぐれなもの。人の世に利も害も与えるものだ。荒ぶる気脈を整え、人の世に及ぶ害が最小で済むように、土地神は神々の住まう世から気を配して…いや、見守っていると言った方が良いかな」
「……っ」
ふいにこちらへ向けられた真保呂の視線に驚いて、必要もないのに慌てて目を逸らす。
真保呂は小首を傾げ、同意を求めるように斗真と月魄へ視線を向けた。
二人が顔を見合わせ頷くのを待って、彼は視線を戻す。
「本来、神が直接手を差し伸べる事はない。それ故に神が人の世に干渉する為、力珠が宝物として社に祀られているのだよ」
つまりはとっても大事なものなのかと、小那はほうと息をついた。
一緒になって聞いていた佑も、胸の内でなるほどと頷く。
けれどすぐに二人は首を傾げた。
『一大事ではないですか!』
開け放たれた庵の室に二人の声が響いた。
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