彼女はただ満たされたい

皐月 ゆり

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彼と彼と私

第2話

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 二人と付き合うようになってから、どっちの子供かわからない、なんて状況にはさすがになりたくはなかったのでピルを飲みだした。私も生でするのが好きだからいいんだけど、その話しをして以来一切ゴムをつけなくなった充に、傷つく立場でもないのに心がざわついた。
 充は多分私に対しての好意の分だけ、二番目の彼氏という立場に傷ついているんだと思う。
 私の中では二人ともとっても大事で、同じくらい愛している。でも、充の中では一度健司の為に別れた経緯がある。
 充の為に別れた方がいい。頭ではわかっているけど、私はこの求められて体を存分に満たしてくれるセックスから離れられない。
 舌を絡ませながら私はそんなことを考えていた。
 胸に充の手が伸びる。服の上から揉まれる。その下で乳首が硬く勃起しているのがわかった。体が痺れる。
 ガチャ……。
 ドアが開いて私たちは慌てて離れた。確実に見られた。それでも、健司は特に気にした風でもなく、席について次に歌う曲を探していた。

 今度は充がトイレに立った。
 歌うのに疲れてきた私と健司は充が歌っているのを聞いているだけになっていたので、今は新曲情報が画面を流れている。
 健司は充のように私にがっついてはこない。キスもしようとしない。
 私が近づくと優しく頭を撫でて、にこっと笑う。
 そういうところが大好きだ。健司との時間はとっても心地がいい。
 この前のデートだって素敵な癒しの時間だった。

 健司とはよく外に出かける。
 家の前まで健司が車で迎えにきてくれて、そこからドライブをしたり、美味しいランチを食べたりして、買い物をして健司の住んでいるマンションに向かう。そのまま、お出かけデートをする日も多い。
 家についてからは映画を見たり、一緒にゲームをしたり、のんびりと過ごして夕食を一緒に作ったりする。
 そしてたまに、セックスをする。
 健司とのセックスはザ・ノーマル。
 なんのひねりも熱さもない。
 したいといわれたことはない。なんとなく始まるセックスは、初めてでもないのに二人とも手探りになってしまう。
 健司は私に優しくキスをする。私が口を開けば舌が入ってくる。
 これ以上のことをしていいのか確かめるように進めていく健司。
 その様子に私は考えなくてもいいことを考えてしまう。
 健司の進め方はこれ以上のことを特にする気はないんだけど、ゆりがしたいならしようかと思っているようにもとれるし、その迷っているような手つきに拒否されるのが怖くてと思わなくもない。けれど、私は健司のことを拒否したことは一度もない。
 胸を触り、下の方を遠慮がちに触り、大きくなってきたモノに私も少し触れてみる。
 私がピルを飲んでいてもきちんとゴムをつけ、挿入してくれる。
 正常位と座位くらいのレパートリーしかなく、いや一度バックもされたことがあるか。モノの大きさは平均ぐらい。
 求められていると思ったことはないけれど、大事にされている実感はある。
 でも、性にもっと探求心というか情熱とかあってもいいんじゃないかなって思う。
 大事にされたい。女としてもっと求められたい。激しく抱かれたい。それを口に出すことはできなかった。
 性に淡白な健司にそのことをいって、どんな目で見られてしまうのか考えると怖くて、ただ我慢していればいいと思ってた。
 なのに、健司に提案されて、満たされない部分を充に求めてしまった。本当は健司に満たして欲しいのに。

 カラオケボックスから出て充は駅へ、健司は駐車場へ向かう。
「今日はどっちと帰るの?」
 そう聞いたのは健司だった。
 健司が席を立つたびに充が激しく舌を絡めながら体に触れるから、体は火照ってセックスを求めていた。もちろん、健司と残りの時間をゆっくり過ごすのも魅力的で悩んだ。ここ最近健司とゆっくり会う時間がとれず寂しい思いをしてきた。
 それでも体の疼きが充を求める。健司は久々に会った今日でもしてくれないかもしれない。したとしても、淡白で味気ない求められているのかわからないようなセックスだ。
「今日は充と帰ろうかな」
 嬉しいことを隠しもしないで充が笑う。健司はいつものようににこにことしたまま近づいてきて耳元で囁いた。
「残念だな。今日はゆりとしたかったのに」
 そんな風にいわれたのは初めてだった。健司に求められている。充をまた傷つけると思う前に私は口を開いていた。
「やっぱり健司と帰ろうかな」
「なんでだよ」
 そういって肩を落とす健司。
「どうかな? 三人でホテルに行くっていうのは」
 突拍子もない提案をした健司を、私も充も目を丸くして見つめた。冗談ではなさそうだった。
「はぁ? やだよ。ゆり、二人でホテルに行こ」
 暗黙の了解のように彼らは互いに性行為があるのをわかりつつも、どんなことをしている、いつしているなど探ってくることはなかった。どちらかの前で私にホテルに行こうなんていってこなかった。
 健司の言葉で変わってしまった。
 ここで選ばなければいけないのかもしれない。
「冗談だよ。でも、ゆりは僕と一緒に行くから」
 そういいながら私の手を取って、健司が歩き出す。
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