もふってちーと!!

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もふって就職!

◆もふって日常!

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 久方振りの小鳥のさえずりを耳に落としながら、かぶっていた布団をゆっくりと持ち上げ上体を起こす。まだ明朝で日が出てきたばかりなのか、あまり外は明るくなく、太陽もまだ顔を出し切っていない。

 明るさが十分に満たない為、周りを見渡しても一帯が暗く、横で寝ているみんなの顔は見えない。ただ、寝息だけは聞こえてきて寝てることは確かだ。

「……ちょっと早く起きすぎたかな…?」

 布団から抜け出て腕を前に伸ばして欠伸をする。それから首を左右に曲げて鳴らすと、みんなを起こさないようにと忍び足で部屋を出る。

 外に出ると、中々気持ちのいい風が吹いていて、なんとも言えない爽快感が舞の身を包む。軽く散歩しようと家の敷地から出てふらふらし始める。

「ふぅー……たまにはこうやってのんびり歩くのもいいなぁ…馬車だと楽なんだけどどうしてもお尻が痛くなる欠点が…」

 誰もいないのを確認してから虚空に向かって話しかける。もちろん返事は返ってこない。そのまま歩き続け、道中、見かけた猫や鳥などと戯れながら歩みを進める。

 そこから少し先に、誰かが立っているのが見えた。この時間からもう起き出してるのか…と舞は感心し、その人の元へと駆け寄って行く。

 よくよく見れば一人ではなく二人立っていて、はっきりとは確認できないが、どこかで見たことのあるような立ち姿をしている気がした。

 それが誰にせよ人に会ったら挨拶を交わす。それを大事にしている舞はその人たちに近づいていく。ふと、二人がこちらを向いて、指を指してなにか言っている。

 何を話しているのかがとても気になるが、知らない人だとしたら、走って寄るのは恥ずかしいと気にしないふりをしてゆっくり、ゆっくりと近寄っていく。飽くまで自然に、だ。

 そうして、顔がはっきりと視認できる位置まで歩いて行くと、その二人が誰かはすぐにわかった。この村の門番勢のトーアとデレットだ。

「おはよう」

「あぁ、お客人か、おはようございます」

「おはようございます」

「…………えっと、昨日みたいな喋り方で、いいよ?」

 昨日会った時の対応と違ったまともな対応に戸惑い即座に反応することができない。とりあえず、このまま敬語で話されたところで違和感しかなく、話し辛いことこの上ないのでラフな喋り方に戻すように言ってみる。

「…まぁ、お客人がそういうなら、そうさせていただこう」

「私としても、丁寧な対応はあまり好きではないのでな」

「うん、そんなこと本人の前で言っていいのかって思ったけど、それでこそだね」

「ふん、我々に対して知った口を叩くな」

「ぶちのめすぞ」

「あれ? ラフってこんなことを言うんだっけ。怖いなぁ」

 今度はあまりの対応の変化に戸惑う。まさに百八十度ひっくり返ったような対応の変化だった。むしろこれだけ切り替えができるのは凄いとさえ思った。

 そんなことはさておきと二人は「これから門番の交代があるんでな」と言って門の方へと歩いて行ってしまった。

 その後も散歩を続けて、気が付けば太陽はその顔の半分を覗かせていて、もう夜は完全に開けたことを意味していた。

 流石にそろそろ村長の家に戻ろうと思い、方向転換をして来た道を戻り始める。

「んー、なんか、早起きすると気持ちよく朝を迎えられるなぁ、なんか、そんな気がする。なんか」

 帰りは寄り道は特にしないで真っ直ぐ歩いて行く。相変わらず入り組んだ道だが、一度通ってしまえば迷うことはきっと無いだろう。なんだかんだ言って標識や目印になりそうな看板などが所狭しと並んでいる。

 色々新しい発見を探して歩いているうちに気が付けば既に家の目の前に立っていた。やはり複雑な道が村を広く感じさせているがそんなことはないようだ。

 そして、扉をあけて中に入ると、みんなはもう起き出していて朝食の準備をしているところだった。もちろんすぐに舞も朝食作りには参加した。

 家庭的な音、家庭的な香り、全てが日常で心地よく感じる。包丁がまな板を叩く音がなんとも言えない日本的な良さを醸し出していた。

「さーて、そろそろできるよ! みんな運ぶの手伝ってー!」

『はーい!』

 大きな声で全員が返事をする。一人一人に配膳を頼みお茶碗を渡し、並べてもらう。全員の分を並べ終わってようやく朝食にありつける。

 特に豪勢というわけではないが、お呼ばれして食べるご飯はやはり美味しい。じっくりと味わって食べる舞たちに朝食を作ったイグナも大満足の笑顔を浮かべている。

「イグナさん、これ美味しいよ!」

「あら、そうかい? そう言ってもらえると主婦冥利に尽きるねぇ」

「そりゃそうだよ! うちの母さんの料理は絶品なんだから!」

 食べ物を口に含みながら興奮した様子で喋るルイだが、マナーが悪いとイグナにしかられてしゅんと席に腰を落ち着ける。

「そんな怒らなくてもいいじゃん……」

 と不貞腐れながら朝食を次から次へと口へと運んでいく。口ではぶつくさ言おうともイグナの作った食事は美味しいようだ。

 団欒しながら朝食を終え、食器を片付ける。洗いものをしている間、舞は横に並んだイグナとルイについて話していた。

「ねぇ、マイ。あんた、うちのルイを連れてってやってくれないかねぇ?」

「へっ? 僕達が連れてくって…え?」

 突然ルイを連れて行ってくれないかと言われて困惑する。

「いやねぇ、あの子はねぇ、腕っ節はいいんだけど、それだけなんだよねぇ……まるで協調性が取れていないんだよ」

「あぁ、なるほど」

 そのすぐ後にソンブルが襲来してきた時の話をされた。内容的には自分たちの知っているものと一緒だったが、ルイについての話は耳に残った。

 洗いものも終わり、再びリビングに戻って平和な団欒のひと時を過ごす。今日で舞たちも帰るので、最後くらいゆっくりと一緒にいようという話になった。

 家の中ではルイが床に横になって遊んでいて、それをみた涼華がそれに参加して遊んでいた。実に微笑ましい光景だった。

 そして、時間はそのまま過ぎていき、昼食も終わり、そろそろ帰る時間になった。

「ん……そろそろ帰ろっか」

「そうだね、帰りは馬車もないんだし」

 舞から帰ることを告げられ、涼華とルイが二人して遊び足りないという表情を見せた。しかし、兵士たちからの呼び出しもあるので帰らねばならなかった。

「えー………もうちょっと居ようよ、ね?」

「イグナさんたちの迷惑になっちゃうから、今日のところは帰ろう? また、来ればいいんだから、ね」

「えー……」

「マイっ! 帰っちゃうの?」

「うん、そろそろ帰らないと夜になっちゃうからね」

「……また、来るよね」

「あぁ……えーっと……」

 ルイに寂しそうな目を向けられてついついイグナの方をちらりと見る。視線を向けられたイグナもふいっと目線を逸らした。すると舞はため息をついてから、

「えーっと、ルイは、僕達についてきてくれるかな」

「……………へ?」

 一瞬の沈黙のうち、すぐに何言ってるのこいつ?という顔になる。それも無理はない。舞でさえそれを聞いた時には唖然としたのだ。

「えっと、えっと?」

「僕達の、仲間になってくれない?ってこと」

「……本当?」

「嘘はつかないよ?」

 嘘をつかれていないと分かったルイはその事実を呑み込んだ途端に花が咲いたような明るい笑顔を見せ、喜びを声に出しながら飛び跳ねて喜んだ。

「わかった! 私、マイについていくよ! いいんだよね、母さん!」

「…あぁ、いいよ。ただね、私からも言っておくことがある」

「なに?」

「一人で勝手に動いてたら、味方はいなくなっちまうからな」

 家に入る前に感じた威圧感のようなものを感じて思わず鳥肌が立つ。しかも、それはルイに向けた威圧の余波のようなもので、悪寒が背中を走った。

 もちろん、それを直に受けたルイはガチガチに硬直していて、ぴくりとも動かなくなってしまった。

「……わかったかい?」

「……」

 自分でやったことなので、収拾をつけようとイグナがルイに声をかける。しかし、返事は返ってこない。

「あ」

 イグナが短く声をあげて、苦笑を浮かべる。どうしたのかと問うと「気を失ってる」という返事が返ってきた。

 確認するためにルイの目の前に回り込むと、文字通りぴくりとも動かず、目は開いているが焦点どころか目線が完全に上の空だった。

 とりあえず威圧によるものなので肩を揺らして目を覚まそうと試みる。すると、すぐに目を覚まして飛び起きる。

 首を振り回し、あたりに危険が無いかを確認する。

「…そんなに警戒してもなにもないよ」

 イグナの声が聞こえた瞬間に肩を大きく揺らしてすぐさま声のした方に振り向く。そこにいるのは当たり前だがイグナで、それでもルイは警戒を解かなかった。

「脅しだよ。あんたはいっつも一人で突っ走る。あのヘンテコな魔術師が来た時もそうだったろう?」

「……」

 そのときのルイの顔は、睨んでいるようにも不貞腐れているようにも見えた。

「私は、昨日今日と楽しんでくれた友を悲しませくないんだよ」

「……」

「だから、あんたは、もっと周りを見て動きなさいな。本当にそのままのスタイルで戦ったりしたら、誰もいなくなるよ」

「……」

 ずっと黙ってイグナの話を聞いていたルイが最後の言葉を聞いて、それから小さく頷いた。

「……わかった。何とかしてみる。だけど、もし、何かあったら帰ってくるから」

「そうさねぇ、なにかあった時はこの私が手を貸してあげようじゃないか」

「…ありがとう」

 ぼそっとルイの口から言葉が漏れたが、それをいかにも聞こえてませんよという顔をして笑った。

「さてと、じゃあ決まりだね。ルイ、準備してきて」

「わかった!」

 元気よく返事を返して自分の部屋へと駆け込む。部屋からはガサゴソと大きな音が聞こえてくる。

「……親は大変なんだよ」

「みたいだね」

 困ったように顔に手を当ててため息をつくイグナに、舞が笑いかける。

「はぁ、これで私の最愛の娘ともお別れかぁ」

「大丈夫、また連れて来るから」

「一人で泣きながら帰ってきたりして」

「そんなこと、絶対に起こらないようにする」

「…そうだといいんだけどねぇ」

「きっと、大丈夫」

「どこからそんな自信が湧いてくるんだか……っと、ほら、準備が終わったらしいよ?」

「そうだね、じゃあ、ルイも来たし、行こうか」

「ほーい!」

「はーい!」

 大きな音と地響きをかき鳴らしながらこちらに向かって走ってくる。手には大きな荷物が抱えられていた。

「ルイ! 何をそんなに持ってくんだい!?」

 イグナは、その荷物の量に驚きを隠せず思わず怒鳴ってしまう。確かに、いくら何でも多過ぎる。

「だって折角マイたちのところに行くんだよ!? 引っ越ししなきゃ!」

「あぁ、もう! あんたって子は! 荷物を減らして来なさい!」

「ね、マイ、いいよね!?」

「う、うーん、ちょっと多すぎるかなぁ……?」

「えー! マイまでそんなこと言うの?」

 ちょっとだけ不満気に頬を膨らませる。不意にルイの上目遣いを喰らって舞の思考が少しだけ揺れる。しかし、完全に折れることはなく、荷物を減らさせることに成功した。

「そんな不貞腐れなくても…」

「はぁ、やっぱりまだ子供だねぇ。我儘が過ぎるよ、ちょっとは控えなさい」

 朝食の時とは違って軽く叱る。流石に優しい怒り方をされると反抗し辛いようで、素直に「はーい」とだけ返事をした。

「じゃあ、そろそろ出るね」

 舞が切り出す。それを聞いていたイグナは無言のうちに首を縦に振った。そしてこちらを一瞥してから見送ること無く自室へと戻っていった。

 戻るさまを見ていたルイは「いつもは礼儀礼儀怒ってる癖に!」と顔を赤くして怒っていたが、後々になってこのときのイグナの感情を知ることになった。

 その後、顔を合わせたことのある人たちに挨拶だけして村を出発した。

 舞たちの家はこの村と同じ一番街の中にあるのだが、村はほぼ最西端の場所で、舞たちの家からもとても遠い。

「何時間くらいかかるの?」

「うーん、歩いた事ないからわからないんだけど、多分六時間位?」

「そこそこ遠いんだね…」

「うん。荷物、減らして正解だったでしょ?」

「そうだね、あんなに重いものずっと持ってられないよ」

 持ってきたらって考えると…と言葉を続ける。

「……それにしても、よく来るって即決できたね」

 誘ったはいいがまさか即決、それどころか付いてきてくれるかさえ分からなかった。なにせ、舞たちはソンブルが倒されたことを報告しただけであって、実際に手は加えていない。

 それに加えて、まだ会って二日、それも初めてあった日を含めても三日なのだ。それなのになぜ即決できたのか。舞はただ不思議で頭がいっぱいになっていた。

「うーん、なんでだろう……」

 本人も分からないようで顎に手をあててしばらく考えていた。時折うなり声をあげて、悩んでいた。

「もしかしたら…」

「ん?」

「もしかしたら、母さんの言ってたことを気にしてたんじゃないかなぁって」

「自分のことなのに確信を持てないの?」

「だってわからないんだもん」

 ルイは自己分析の結果、自分の独りよがりな戦い方を気にしていたという考えに至った。それは、本人のことであって、舞たちに真相はわからないのだが、恐らく本当のことなのだろう。

 それを聞いた舞たちは微笑んだ。なんとも、可愛い理由で、それで、まともな理由で。母さんから離れたいだなんてふざけた理由を聞かされたときには送り返してやろうかとも考えたが、それは水の泡となって消えた。

「そっか、ならよかった……これからは、僕達と一緒だからね」

「そうそう。でも、私達もまだパーティーとしての戦闘はしたことなかったよね」

「あ、確かに。そうなると、俺達から教えられることもないね」

「別に教える必要はないよ? ルイが二人より強い可能性だって……」

 言葉を途中で切って突然喋らなくなる。心配した三人が「どうしたの?」と声をかける。

「叙勲が終わってさ、落ち着いたらさ」

「うんうん」

「どっか広い場所に行ってさ、二対二で実戦やってみない?」

「へ?」

 舞の口から何が出てくるかと思いきや、出てきたのは突拍子も、なんの脈絡もない台詞だった。

 突然「戦ってみないか?」と言われて唖然とするのは当たり前の反応だった。しかし、そんな反応をされても舞はぐいぐいと寄ってくる。

「ね? ね? やろ?」

「お姉ちゃん、言ってることが戦闘狂だよ?」

「関係ないね! いいから戦おう!」

「待ってよ、ちょっと説明を端折り過ぎ! 話がまったくもって見えないよ」

 千明のしてきにあぁそうかと手を叩いてうんうんと頷き、息を吸ってから言葉を吐き出す。

「戦力を、強化しよう!」

「え?」

「は?」

「へ?」

「………」

 三人はシンクロ率百パーセントの返事を返してくれた。舞は苦笑いをするばかりで言葉がでてこない。

「…で、えっとね」

「あぁ、話を戻すんだね…折角腰を折ったと思ったのに……」

「折りたかったの!? 酷くない!?」

 小さく千明がぼやき、それを聞いた舞がツッコミを入れる。今度こそ話の腰を折ったと千明がガッツポーズをする。

「話は続けるからね! でね、僕は思ったの、第一に、今回の事件を受けて、戦力の強化をする必要があるって!」

「第一に…? じゃあ他にも目的があるの?」

「うん。まずはルイがどれくらい強いのかも確かめたいんだ。まだ会ったばかりだし、戦闘を見せてもらったわけでもないからね」

「そっか、ちゃんとした理由があるなら私は反対しないよ?」

「うーん、まぁ、やらないよりはやったほうがいいよなぁ…こっちで生活するんだから少しくらいは力を付けないとね」

 二人は納得したようで、もう何も言うことはないといった感じで腕を組んだりしていた。そして、未だ返答を返さないルイの方を一斉に見る。

「っへ? 私?」

 声を裏返らせて驚き、自分のことを指差して確認する。何かを考えていたのかわたわたとしていて、なんと答えたらいいのかわからない様子だった。

 そんなルイに対して三人は同時に首を何度も縦に振り、早く応えるようにルイを急かす。結局、ルイは慌てるだけだったので、急かすのをやめてもう一度聞く。

「戦闘演習、やらない?」

「あっ、うーん……まぁ、私はどっちにしろ協調性を身につけるためにも何かしらと戦わなくちゃとは思ってたし……」

「そっか、じゃあ満場一致でチーム戦、いいよね!」

「うん、私はいいよ」

「俺も涼華に同じく」

「頑張っていいところ見せるから!」

 やっぱりいい子たちだなと、感慨深く思いながら歩行を再開する。自宅までの道のりはまだ遠い。帰るまでの間でも十分絆を深めることはできる。

「あ、そういえばなんだけどさ」

「何?」

「ルイの村ってなんていうの? なんかそれらしき標識も無かったし、教えてもらってもなかったし」

「あれ? そうだったっけ」

 きょとんとするルイが指を顎先にあてて思い出すポーズをとる。

「うちは、ヴィリーノっていう村なんだ」

「ヴィリーノ?」

「うん」

「由来…なんでその名前になったのかわかる?」

「わかるよ? ほら、前に話したと思うけど、うちの村は代々女性しか生まれないんだ。それで女人の村ヴィリーノって呼ばれるようになったの」

「なるほどねぇ、あれ、じゃあその、前言ってた男しか生まれないっていう村の名前は?」

男人の村ヴィーロだったと思う」

「ほーむほむ」

 その名前を聞いていた舞がまた固まって立ち止まってしまった。再び起こった硬直に、念には念を入れて顔を見るために回り込む。

 手首を握って脈も確かめるが至って健康で正常な脈が流れている。そして、目を開かせ瞳孔をみるが、特に開いている様子はない。

 舞の顔の前で手を振って声をかける。だが、反応はせずにまだボーッとしている。めげずに三人で手を振っていると瞬きを始めて、喋り始めた。

「……え? ねぇ、もう一回二つの村の名前教えて?」

「ヴィリーノとヴィーロだよ?」

「おぅ……」

「お姉ちゃん!?」

「舞!」

「マイ!?」

 村の名前を繰り返し聞いた舞は目を回して倒れてしまった。

 咄嗟に倒れる舞の肩を掴んだ涼華が重さに耐えられず尻餅をつくが、舞の頭は地面にぶつかることなく、涼華の両腕にしっかりと包まれていた。

「ど、どうしたの!?」

 ルイの言葉を聞いた途端倒れたので、ルイはいの一番に舞を心配して顔を覗き込む。

「あ、ルイ、今は頭を揺らさないようにしなきゃ!」

「えっ、あっ、うん。ご、ごめん…」

「…まさか、おーい舞! マテェノだぞ。起きろ!」

 千明が突然理解不能な単語をその口から出し、舞に話しかける。すると、電気ショックでも受けたかの如く凄い勢いで体を浮かせる。

「もうそんな時間なの!?」

「おはよう。今は自宅への帰り道だよ?」

「へ? 嘘…だっていまマテェノって……」

「あ、うん、それ嘘だよ」

「なっ!」

 二人のやり取りを理解できない涼華とルイが頭上に大量のはてなを浮かべる。それもそのはず、この大陸での公用語は日本語に酷似したカラヒナ語。漢字こそ無いが平仮名と片仮名だけの言語だ。

「ねぇ、千明お姉ちゃん。その、ま、マチェ…」

「マテェノ?」

「う、うん。それってなに?」

「これは日本で開発された厨ニ病患者による厨ニ病患者のための創作言語で、エスペラント語って言うんだ」

「エスペラント語…?」

「うん」

 千明の説明を聞いた二人が納得しかけるが、そこに舞が割って入る。

「ちょっと待とうよ!」

「なに?」

「エスペラント語は、創作言語だけど、厨ニ病患者の為じゃないよ! れっきとした公用言語なんだよ!」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ! それに僕は厨ニ病なんかじゃないからね」

『えっ?』

「声を揃えるなぁ!!」

 謂れもないことを言われて声を荒げる舞を見て三人は抱腹絶倒する。笑われて更に舞の顔は赤く、大きく膨らんでいった。

ーーーー

 怒ってしまった舞を三人がどうにかしてなだめて機嫌が落ち着いてから自宅への帰省を再開した。未だに舞の足取りには怒りが含まれているのか地面を踏む音がこころなしか大きい気がする。

「ねぇー、舞ってばー! そんな怒らないでってー!」

「誰が主犯かよく理解してから言ってね!」

「お姉ちゃん、ごめんなさい……」

「マ、マイ…ごめんね………?」

「うん、二人はもういいよ? 怒ってないから安心して?」

「舞、ごめんね?」

「……だけど、千明はダメだよ?」

「なんで!?」

「自分の胸に聞いてみたら?」

「うぇー……ごめんなさいー…許してぇ……」

 千明が涙を目尻にためてに謝るが、舞は依然腕を組んだまま怒りを顕わに千明の方を流し目で見る。口はムスッとしていて、鼻息荒く責め立てる様に組んだ腕の指先はリズムよく動いている。

「うぅ、ごめんってばぁ……お願いぃ……もう厨ニ病患者のための創作言語とか言わないからぁ……」

「……本当に?」

「うん、本当に」

「二度と言わない?」

「絶対に二度と言いません」

「いいでしょう、なら許します」

「やったー! ありがとう舞!」

 幾度もの謝罪によってようやく許しを得た千明は、まるで草食獣が肉食獣を倒したかのような喜び方を見せた。

 くっつく千明を鬱陶しそうに拒む舞。行動でこそ嫌がってはいるが、その顔は向日葵よろしく眩しいほどの笑顔だった。

「……姉妹って、いいなぁ……」

 涼華の横で二人のやり取りを見ていたルイが小さく呟いた。それを聞いていた涼華は、そっと、優しくルイを抱きしめた。

「!」

「……いいでしょ、今日から私達も姉妹だよ?」

「年齢的には私の方がお姉ちゃんなんじゃ?」

「そんな羨ましそうに呟かれたら抱きしめたくなるでしょ? それに、ルイは妹の方が似合うよ」

「そっかなぁ? ………でも、なんかいいね、これ」

「ふふふ…」

 涼華に背後から抱きしめられたルイは前に回ってきた腕をそっと掴んで目を瞑った。それを確認した涼華は頭を撫でる。

 無抵抗のまま撫でられ続けていると、突然目の前から衝撃が飛んできて、そのまま後ろにのけぞる。

「楽しそうなことしてるね! 君たち!」

「千明、邪魔しないであげなよ。折角姉妹の儀を執り行ってたっていうのに」

「なにそれ!? 俺そんなのやったことないよ!?」

「え、だって姉妹じゃないじゃん」

「酷くない!? 確にさっきは俺が悪かったけど、けど、毒持ちすぎじゃないかな!」

「あー、うるさいうるさい。ほら、涼華も迷惑そうな顔してるよ?」

「え、あ、ごめん」

 舞に言われて涼華の表情を覗くと、確に少し目を細めていたが、すぐにぱっとした笑顔になった。

「さて、いい加減歩かないと…本当にまっくらになっちゃうよ?」

「あぁ! そうだった! 急いでたのに!!」

「まぁ、ゆっくり歩いてこうよ。急がば回れ、ってね」

「また千明はもっともらしい事を…って、ここ殆ど一本道だからね!」

「あ、ここ横に抜ければ早くつくよ?」

「お、ルイちゃん気が利くねぇ!」

「こら、千明、調子に乗らないの。ぶっ叩きますわよ?」

「ごめんなさい」

「はははっ、やっぱり、付いて来てよかった!」

 ルイの笑顔が舞たちを照らし、光を受けた舞たちもまた、笑顔になった。

 結局、一番街の東端にある自宅に到着したのは、そのやり取りから数時間後、空が真っ黒に染まり、月と星が地表を明るく照らす頃になってしまった。

 しかし、その暗さが四人の気分を更に高揚させ、家に着いた時にはすっかりルイも馴染んでいた。
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