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 何度目かわからないこの世界での朝を迎え、開いた目を再び閉じてみる。脳裏によぎるのは、召喚されてから起こったことの数々である。

 一つ、イースガルズ動物公園での魔物事件。

 一つ、ソンブルたちによるヴィリーノの村襲撃事件。

 まだ一ヶ月も経っていないというのになんと濃密な時間を過ごしてきたのだろうか。考えてみればみるほど、不思議で、どこか自分の常識からは逸脱している。

 と、そんな事を考えているうちに廊下から足音が聞こえて、リビングの方へと向かっていく。それに続くように隣から扉の開く音が聞こえてきた。

「…みんな、起きたのかな」

 いままで朝食は基本的に舞がつくっていたのだが、此度の人員増加に伴って家事制度を作った。いわゆる一般家庭の家事当番のようなものだ。

「…んんー、今日は僕は当番じゃないからもう少し寝てようかな……」

 誰もいない部屋の壁に向かってそう言うと、舞はもう一度床についた。枕に頭を乗せて布団を被るが、いまいち眠気は襲ってこない。

 数度、寝返りをうつがベストポジションはどこにもなくただ時間が無駄に浪費されていく。しかし、起きたとしても何もないのでこんな無駄な時間もいいかと思ってしまう。

 そのうち、寝返りをうつのをやめて天井の一点をずっと見つめ続ける。徐々に瞼が重くなるのを感じ取り、意識は深い闇の中へと落ちていくことになった。

 一方、キッチンでは軽快な音とともに沢山の湯気が立ち上り、朝ごはんにしては豪華な品々が完成間近となっていた。

 今日の当番は涼華と、千明。もちろん二人も舞と同じく和食が大好きな生粋の日本人で、朝食も洋食ではなく、和食がほとんどだった。

 味噌汁を筆頭に、焼き魚、漬け物、煮物などが主な品揃えだ。朝食に持ってくるにはだいぶ豪勢だが、当番制故の産物なのだろう。

「さて、そろそろいいかな?」

「うん、そうだね。時間的にもそろそろ炊きあがる頃だと思うよ?」

 金属で出来た蓋を火傷しないように慎重に持ち上げる。すると中から視界を覆うほどの真っ白な湯気が立ち、食材の香りが広がる。

「う~ん…! これでこそ、お米だよね!」

「どれどれ……ん、すっごいいい香り。こんなの日本でもなかなか食べられないねー!」

 湯気が宙に溶け込み、その発生源の鍋の中を除くと、ひと粒ひと粒が光沢を放つ鮮やかな白色の米が炊きあがっていた。

「よし、そろそろお姉ちゃんたち起こそっか!」

「そーだね! じゃあ俺、これ並べとくからよろしく」

「わかった」

 涼華は、千明に舞たちを起こすように頼まれてそれぞれの部屋へと向かう。部屋の関係上、一番近い舞をまず先に起こす。

 扉を四回ノックして返事がないのを確認してから部屋に入る。その先には風の吹き込むカーテンのしまった窓と、その近くで風を受けながら小さく寝息を立てている舞がいた。

 肩を軽く揺らすが舞は起きない。強く揺らすがそれでも起きない。声をかけても起きようとせず、依然として布団を被ったままだ。

 このままでは埒が明かないので無理矢理布団を引き剥がして耳元で大声を出す。すると、突然耳元で大音量で声が聞こえて、驚愕混じりに身体をはね起こす。

「おーきーろー!」

「ふおっ!?」

「もう朝だよ、そろそろご飯できるから起きてリビングに行ってね? 私は今からルイを起こしてくるから」

「あ、うん、わかった、ありがとね…」

 嵐のように来て嵐のように去るとはまさにこの事、舞はそんな涼華に目を丸くしながら返事を返して背中を見送った。

 舞を起こし終えた涼華は部屋から出て自室へと向かう。昨日、当番を決めたのだが、部屋の割り振りまでは決めておらず、とりあえず涼華と一緒に寝ることになった。

 一応自分以外の人もいるのでノックをしてから扉を開ける。もちろん返事はない。

「……ルイ~、朝だよー」

 初めてルイを起こすので手探りで起こし始める。流石に小さく声をかけただけでは起きない。当然、それは普通のことである。

 次に、肩を揺らしながら声をかける。が、これも効果なし。千明は割とすぐにどころか、誰かの足音が聞こえただけで起きるような耳の持ち主なのだが、ルイは舞と同じかもしれない、と変な考えが頭をよぎる。

 昨日はあんなに騒いでいた涼華も、流石に朝から大声を出したいとは思わない。むしろ、朝は静かな方が好きなのだ。

「うーん、結構強く揺すってるんだけどなぁ……おーい、ルイ! おーい!」

 割と強めに肩を揺らしても起きないため、致し方ないと諦めて耳元に顔を近づける。一瞬で大量の息を吸ってそれを声量に変換して大声で声をかける。

「おーきーろー!!」

 その瞬間、体をビクッと痙攣させてルイの目がぱっちりと開き、こちらと目を合わせる。しかし、焦点が定まっておらず、はっきりとは見えていないようだった。

 しばらく頭をふらふらと漂わせていたが、急に動かなくなり俯いてしまった。そのまま数分が経過して、痺れを切らした涼華がルイの顔を軽く叩く。

「…はっ!」

「……今、ちょっと寝てたよね」

「ね、寝てないよ!? ぜんっぜん寝てないよ!?」

「………」

「いや、ほんと、寝てないって!」

 必死に手を前に突き出しながら弁解するが、そんなルイをジト目で睨み続ける。そのうち言い訳をやめて「ごめんなさい…」と呟く。

「ん。素直でよろしい。さて、ご飯だよ! リビングにおいで? 多分みんなもう待ってるから」

「えぇ!? 待たせちゃってたの? それを早く行ってよぉ!」

「寝てたのはルイでしょ。ほら、早く行こ?」

「うん!」

 話しているうちに目が覚めたのかはっきりと返事をしてベッドからでる。待たせていることを知っているためかスリッパを履いてすぐに、着替えもせずリビングに駆けて行った。それを追いかけるように涼華も急ぎ足でリビングへ向かう。

 リビングではすでに温かい朝食が配膳されていて、千明と舞がテーブルについて待っていた。

「遅れてごめん!」

「ほんと、遅いなぁ」

「あー、お腹減ったなー」

「ご、ごめんって!」

「ふふ、冗談だよ。さ、皆揃ったし食べようか」

「そうだね」

 舞の声に全員が着席する。一度目を閉じてから両手を合わせて「いただきます」と全員が声を揃える。目を開けて食器を手に取り口に運び始める。

「ん、そーだ、手紙着てたよ」

「読んだ?」

「うん」

「えっ、プライバシーもクソもないな…まったく。で、どんな内容だった?」

「んーと、今日のお昼ごろに騎士さんたちが来るって感じだったはず。例の叙勲の話じゃないかな?」

「あー、遂に来たかぁ。ま、でも前回同様そんなに仰々しい式典にはならないでしょ。あの王様そういうのあんまり好きそうじゃないし」

「確かに。まぁ、叙勲なんて誉れ高い事を短期間で二回もしていただくなんて、嬉しいことこの上ないね」

「棒読みが激しいよ。千明」

 いつも通りの普通の会話なのだが、それは舞たち目線での話。叙勲を短期間に二度も行うなんて話を、この世界の人基準で聞けば、頭おかしいんじゃないかと思われるのも無理はない。

 つまり、ルイがまた思考停止していた。はじめにそれに気付いたのは対面に座っていた千明だった。

「…あれ、ルイ、食が進まないの?」

「…………」

「おーい?」

「…! へっ!? えっ!?」

「ええっ」

「あっ、いや、なんでもないよ?」

「どうしたのさ、おかしいよ?」

「い、いや、叙勲が二回目って話聞いて…」

「そんなにすごいことなのかね」

「だって二回目でしょ? その若さででしょ?」

「普通って、どんくらいの頻度で叙勲されるものなの?」

「普通はされないよ!? なんで一生に一度されることが前提なの!?」

「へー……でも、俺達先週か先々週も叙勲されたばっかりだよ?」

「……へ?」

「いやだから、先週か先々週も叙勲されたって」

「はああぁぁぁああぁ!?」

 この世界での常識はずれな発言に思わず口があんぐりと開いてしまう。開いた口が塞がらないとはこの事だと言わんばかりに頭を抱える。

 食事中にも関わらず、大声を出してしまうのも自然の摂理と言えるだろう。それが、いままでの教育が一瞬頭から抜け落ちるほどの驚愕を与えたのだから。

「……頭が痛い…」

「でも、多分、これっきりだよ」

「これっきりにしてほしいよ!」

「でも、叙勲っていいことなんでしょ?」

「そりゃ、まぁ……」

「じゃあ、受け取っといてなんら問題はない訳だね! 貰えるものは貰っとくべきだよ!」

 涼華にもっともらしいことを言われてルイが押し黙る。確かにいい事なのでやめろとは言えない。ただ、ルイはその常識はずれな行動に驚いただけである。

「……でも、まぁ、そんな叙勲なんてぽんぽんされるものじゃないし…きっとマグレだよね」

 ぶつぶつと呟いて必死に自分に言い聞かせる。それを横目に三人はご飯を貪っていた。

 しばらくして、全員が食事を終わり声を揃えて「ごちそうさまでした」と食材に感謝をする。食器を片付けて家事当番の二人が分担して家事を始める。

 炊事はもちろん、洗濯、掃除などやることはごまんとある。とは言ったものの、二人で手分けをすれば訳なく終わってしまうので、割と早い時間にやるべきことはほぼ終わってしまった。残っているのは洗濯物を取り込んで畳むくらいだろうか。

 全員、最近は、外に出てばっかりでゆっくりと家で過ごしていなかったので、久し振りのマイホームで少し気分が高揚している。

 徐々に日も昇り、もう少しで頂点に達しようとしていたときに、玄関の扉をノックする音が聞こえた。

「ん、騎士さんたちかな、ちょっと出てくるね」

「はーい、お気をつけてー」

 返事を返した千明がひらひらと手を振る。

 ノックされた扉を開くと、目の前には以前会った例の国軍の兵士がいた。

「お久しぶりです。お手紙でご確認済みかと思いますが、叙勲の日程と、それに関して二三お話がありまして」

「わかりました。立ち話も何ですし、中へどうぞ」

「ではお言葉に甘えて」

 前回会った時はソンブルを殺したと言って捕まる可能性があったので警戒していたが、それがないと分かっている今警戒は不必要なものだった。

 兵士を後ろに連れてリビングへ案内する。

「いや、豪華な家だ。前回の報奨金で建てられたものですかね?」

 家の中の装飾を眺めながら舞に問いかける。

「ええ、と言っても、あんな莫大な金額、持ってても宝の持ち腐れもいいところでして……家を建ててすぐに残った金額は全て寄付させていただきました」

「……! 有意義な使い方をされるお方ですね」

「もったいない、とは言わないのですか? 聞く人聞く人、みんなもったいないと仰るので…」

「いえ、何か考えがあっての事でしょう。それが、スラム街の改善か、それとも自律か。それは私にはわかりかねますがね」

 ニコニコと爽快な笑顔を浮かべる兵士。何かを察してくれたようで、舞にとってはこれ以上なく楽な相手だった。

「さて、着きました。こっちです」

「あぁ、ありがとうございます」

 と、ノブを掴んで扉を開ける。目の前の居住空間にはもちろんのこと、涼華と千明とルイが居て、寛いでいたが、舞の後ろの兵士を見るとすぐに態度を正した。

「どうぞ。お座りください」

「あぁ、これはどうも」

 椅子を引いてそこに兵士を座らせる。それを確認してから、兵士とは反対側の対面に当たる位置に舞は座った。

「さて、では、さっそく本題からお話しましょう」

「はい」

「前回説明した通り、今回で二回目の叙勲となりますので、指定推薦冒険者として、ギルドで働いてもらうことになるのですが…」

「何かあるんですか?」

「えぇ……えっと、この指定推薦冒険者制なんですが、今年から、叙勲に加えて十分な実力があるのか確かめる為に毎回試験を設けているみたいなんです」

「えと、つまり、指定推薦冒険者になるためにはクエストを達成しろってことですか…?」

「はい。その認識でなんら問題ありません」

 国軍の兵士は申し訳なさそうに視線をあちらこちらに泳がせながら説明を続ける。その途中、兵士は何度も何度も頭を下げた。その度に「顔を上げてください」と焦り、どうにかして頭を上げてもらう。

 そして、話し合いが終わり、達成するべきクエストを渡され、これを達成すれば晴れて指定推薦冒険者となれるようだ。

「…以上で説明は終了です。しかし、不思議だ、あちらのおふた方、お見受けする限りでは歳は十三、四でしょう? 魔法学園に通っていないんですか?」

「魔法学園? あぁ、あの子たちも行きたいだなんて一言も言いませんし…」

「なんでしたら学園についても何か、お話をしましょうか?」

 さっきまでのあたふたは何処へやら。座り直した兵士は先ほどとは打って変わってはきはきとしている。どうやら、情報の伝達が好きなようだ。

 しかし、今後いつ二人が学園に通いたいと言うかわからないので、説明は受けておいたほうがいいかもしれないと舞は兵士に説明を求める。

「あ、じゃあ、えっと………兵士さん」

「あぁ、大分申し遅れましたね。私の事はバージェスとお呼びください」

「はっ、はい。じゃあ、バージェスさん、説明、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんですよ!」

 そういうと、彼は自分の手元にあった鞄にすぐさま手を伸ばし、中から書類を引っ張りだす。その紙には『イースガルズ都市立プルミエ魔法学園 パンフレット』と書いてあった。

 それ関連のものを机上に並べ、まずどれから説明しようかとバージェスは思案にふける。その結果、舞の知りたい情報を優先して説明することに決めた。

「マイさん、まずどれから説明しましょうか。どうぞなんでも聞いてください」

「んー、学園の制度について、お話聞かせてください」

「わかりました。では、ご説明致しますね」

 まず、とバージェスははひと呼吸おいてから事細かに学園の制度について説明していく。

「一つ目に、学費についてからですね。基本的に学費は一月に銀貨四枚なんですが、これが成績に応じて免除されるんです」

「それは嬉しい制度ですね…特にうちみたいなところだと尚更ですし」

「まぁ、基本的には才能を埋もれさせないための制度ですので、卒業自体はお金さえ払えばできないことはないんですよ」

「落第……浪人とかってあるんですか?」

「えぇ、ありますよ。あまりに成績が酷いと進級試験に受からないので。魔法を使えなかったりすると目も当てられないですよ」

「なんか、その口ぶりからすると過去実際にいたっていう……」

「いましたね。名誉だけを欲しがった馬鹿でした。ですがまぁ、あのお二人ならまず卒業は間違いないでしょう。首席は……努力次第と言ったところでしょうか。あのお二人も中々の実力を持ってはいるのですが、国内屈指の実力者が集まる場所なので……なんとも言えないですね」

「まぁ、そこについてはおいおい考えるとしますね」

「そうですね。えーと、この制度なんですが、最大で銀貨一枚まで安くなりますね。それでもまぁ、一般家庭にとっては中々ぽんとは出せない金額ですけどね」

「確か平均月収ってこのあたりは銀貨ニ枚とか…」

「そうですね。ですが、この学園もうちの国の最高機関の一部のようなものですからね……貯金してどうにか通わせている家がほとんどです。後は貴族ですかね」

「ふむ……あ、そうだ。何年制なんですか?」

「初等部、中等部、高等部、院と四段階に分かれてまして、下から三年、三年、三年、二年ですね。今回は編入となりますので……失礼ですが、あのお二人の年齢は?」

「十四と十五です」

「では、中等部の二年と三年からの編入となりますね。他に何かありますか?」

 舞の頭の中には沢山の疑問が渦巻いていたが、とりあえず学校の中身を知らねばどうしようもない疑問ばかりだった。

 しばらく腕を組んで考えていると、バージェスの方から声をかけてきた。

「…とりあえず、質問は無いようなので次の説明に移らせていただきますね。学費、年制と来たので、授業内容についてお話させていただきますね」

「そうですね。折角ですしお願いします」

 バージェスの説明を聞く限りだと、実習の授業が三割、座学が残りを占めると言った感じだった。ただ、実習が魔法の実習で、中には実技に使えるような魔法が沢山あると聞いたので、これから生活していく上でこのアドバンテージは大きいものだろう。

 もちろん、一般的には使われない武器の錬成や召喚獣の召喚などもやるらしい。作ったり出したりしたものは自分のものとなり、卒業した後もパートナーとしている人は少なくないと言う。

 座学は普通の学校で学ぶようなものとは一線を画しており、魔法学や錬金学など特殊なものもあるようだ。また、学部も分かれており、戦闘特化、補助特化、援護特化などそれぞれに特化したものを選べる。

 一番時間がかかって、一番お金がかかって、一番努力を必要とするのがそれらをすべて兼ね備えた総合学科と呼ばれるものらしい。

「と、これくらい知っていれば入学には問題はないと思われます」

「ありがとうございます。うーん、お手数おかけしますが、クラス割りとかってわかりますか?」

「それは、仕様についてですか?」

「はい、後、校内設備についても聞きたいです」

「わかりました。クラスですが、これが学年ごとの数字、一年だったら一ですね、これの横に小さな数字がつきます。それがクラスの判別の仕方ですね。一の一や、一の二などですね」

 バージェスの説明を熱心に聞き入る舞。これでも地球ではそこそこの優等生で、話を聞くことに楽しさを感じる生徒だった。必死になるほどと頷く舞を見てバージェスも気持ちよく話を進められているようだった。

「それでですね、横の数字が大きくなればなるほど実力が下がっていきます。いわゆる実力主義というやつですね」

「ふむ…あの、こう、特別な補助が得られるクラスとかってあるんですか?」

「はい、ありますよ。特進クラスって呼ばれてますね。その特進クラスもBクラス、Aクラス、Sクラスと分かれていて、言った順に実力が高くなっていきます」

「どんな補助が受けられるんですか?」

「先程の学費免除がこのクラスに分類されますね。他にもSクラスですと、学食費完全免除や、学園図書館を好きなときに利用できるだとか、ですね」

「…クラス替えってあります?」

「いえ、クラス替えと言いますか……クラスで成績トップになると、クラス昇格があって、上のクラスに上がることができるんです。ただ……」

「なんですか?」

「ただ、上がった子はほとんど上のクラスについて行けなくて折れちゃうんですよ……」

「…クラスがひとつ違うとやっぱりかなり授業にも差がでるものなんですか?」

「えぇ。まったくと言っていいほど。次元が違うって人もいましたね。そんな人のために任意降格っていう方法を取り入れたらしいです」

「自分から下のクラスに格下げしてもらうんですか…?」

「そう。でも、そうしてでも卒業したいのがあの学園ってことなんですよね」

 卒業すればそれだけで自分の経歴に泊がつく、そのために必死にしがみついて格下げされてもその学園に通い続けるらしい。

 みっともない行為にしか見えないが、それがこの国に住む人たちの常識らしい。もっとも、バージェスは、彼はその行為を心から嫌っているらしい。

「……他に質問や、これは聞いておきたいってことは?」

「そうですね…特に無いですね。大体聞けましたし、満足です」

「そうですか、では、私はこれでお暇させていただきますね。後日、クエスト達成後に叙勲の日程をお知らせいたします」

「わかりました。あ、お見送りいたしますので!」

 荷物をさっとまとめ、一瞬で帰る準備を済ませるバージェス。そのバージェスを見送るために玄関までついていく。

「あぁ、これ、渡し忘れてました。どうぞ」

 そう言って手渡されたのは『入学願』と書かれた紙だった。

「あの、これ…」

「いえ、私もあそこの卒業生でしてね。今でこそこうして兵士なんてやってますが、若者の成長は見ていて面白い。是非、入りたいと言うのであれば、それを使ってくださいね」

「…ありがとうございます!」

 話し合いの間、ずっと黙って聞いていた涼華とルイが、学園の話が出た途端にそわそわし始めたのを見逃さなかったのだろう。

 行きたいかどうかは別として学園に何らかの反応を示したのを見て、いつでも対応できるようにとバージェスは入学願を舞に渡した。

 それに大きく頭を振りかぶって下げると、バージェスは白い歯をおおっぴらに見せびらかしながら笑って、気にしないでくれと言った。

「お見送り、ありがとうございます。では、次は叙勲のときにお会いしましょう」

「はい、では、また」

「お邪魔しました」

 見送りを終えて玄関が閉まるのを確認したあと、走って部屋に戻ると、全員をテーブルに集めてクエストに関しての作戦会議を始めた。

「これ見て!」

「ん? なになに? 例のクエスト?」

「そうなんだけど、これってさ……」

ーーーーーーーー

ー指定推薦冒険者認定クエスト

・対象の討伐を成功せよ
  Aランク、ランクーレ一体

・成功確認素材を提示せよ
  ランクーレの頭、もしくは腕、もしくは脚

以上の二つを満たしたときこのクエストは完遂される。また、このクエストは分類上討伐クエストとして扱う。

ーーーーーーーー

「すっごいシンプルに短いけどさ、中々に厳しい内容だよね」

「確かに…繰り上げBランクからだっていうのにAランクの魔物狩らせるだなんて…」

「まぁ、クエスト達成は厳しいよね…」

「えっ? マイたちでも難しいの!?」

『いや、普通の人だったら』

「えぇっ!?」

 三人が見事なまでに声を合わせる。もちろん、Aランクの討伐クエストはAランク上がりたてでも厳しいクエストだ。それが普通の冒険者であれば。

 ただ、普通の冒険者ではないのが、舞たちなのだ。今までであれば強いと言えるのは涼華と千明だけであったが、それもアリルとの戦いを経て舞にも戦闘能力があると分かった。

 ただ、あくまでカウンターの中であんな事が起こっただけで、マグレといえばそれで終わりなのだが、舞は奇しくも地球では、雑学マニア・・・・・と呼ばれるものだった。

 つまりどういうことかというと、実はアリル戦で起こった水素爆発的なものは、出来るんじゃないかという確信八割、疑心二割で実行されたのだ。

 それはもう、実験済みなので自分一人でも行うことができる。なので、舞も一般にはない圧倒的な攻撃力を得た。

「まぁ、相手にならないとは思うんだけど、みんな、これがなんだかわかる? 討伐対象」

「いや、まったく」

「私もちょっとピンとこないかな」

 初めて聞いたランクーレという魔物の名前。その名前からは仄かにサイエンティックな香りが漂う。その魔物の正体の推測を立てている途中に、ルイが、

「ランクーレは、ゴースト系の魔物。物理攻撃はもちろんのこと、光魔法しか効かない厄介な奴だよ?」

 自分の持つ情報を舞たちに伝える。それを聞いた舞は早速頭を捻り、唸りはじめた。しばらくして、何かを閃いたのか、パっと顔を上げて手を叩く。

「わかった! 今回の主役は、涼華だよ!」

「へ? 私?」

「そうそう。涼華が光魔法を乱発してダメージを与える。んでもって僕達三人で涼華を守る。完璧!」

「がばがばだね」

「そんな作戦でどうにかなるの…?」

「いやだって、雑に説明したけどさ、ゴースト系とアンデット系って二人三脚でしょ? だったら光魔法を棒立ちで撃つわけにもいかないし…それに」

「連携も試してみたいのかぁ……」

「そーいうこと!」

 なるほど、と全員が納得して首を縦に振ると、満足したように胸を張って鼻から息を吐く。その後、帰り道で話していた二対二の演習で、連携の練習をすることを取り決め今日という日はまったりと過ごした。
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