路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 夕食時、真理恵は小白になんて言おうか悩んでいた。
 真広の性格だ。小白がなにをしても怒ったり注意したりはしないだろう。双子なのでその辺りは誰よりもよく知っている。色んな感情より優しさが勝ってしまう。
 知らない町で迷子になった上に小白は普通じゃない。独特の危険がある。
 真理恵としては言うべきことは言いたいし、そういう性格だったが、小白は自分の子ではない。預かっているだけの子供にどれだけ言うべきか頭を悩ませていた。
 だが全くもって反省していない小白を見ていると真理恵は誰かがきちんと言った方がいいと思うと同時に、この子は少し怒られたくらいでは動じない強さを持っていると思った。
「聞きましたよ。勝手に家から出たって。ダメじゃない。危ないわよ」
「大丈夫。ねこだから」
 小白は真理恵が買ってきた見切り品のさしみをおいしそうに食べながら言った。
「大丈夫じゃないですよ。ほら。この前だって子供が攫われてひどいことをされてたじゃない。あなたがそうならないって保証はどこにもないわ」
「あぶなくなったら逃げる」
「それは正しいけど一番は危なくならないこと。知らない町を勝手に歩き回ったら迷子になるわ」
「ならん。ねこだから」
「ねこもよく迷子になってるじゃない」
「……うちはならん。ちゃんと帰ってきた。……ちょっと迷ったけど帰れた」
 小白は自信なさげに俯く。どうやら少し怖かったらしい。
 真理恵が呆れながら溜息をつくと真広が口を出した。
「まあ、いいじゃないか。戻ってきたんだし。それに明日は休みだ。もう大丈夫だよ」
「大人として言うべきことを言っているだけです。誰かの代わりにね」
 むっとする真理恵に真広は少し居心地悪そうにするが反論はせず、話題を変えた。
「明日はどこかに行こうか? 最後だし、どこか行きたいところはある?」
 真広の問いに小白は刺身を見つめながら考え、答えた。
「水族館」
 それを聞いて二人は面白がった。
 真理恵は「水族館でお魚は食べられないわよ」と呆れた。
「なにが見たいのかな?」と真広は聞いた。
「シャケ。ねこにはシャケって相場が決まってる」
「そうか。決まってるのか。いるかな?」
 真広に聞かれて真理恵は首を傾げた。
「さあ……。水族館なんて小学校で行ったきりですからね。でもいなかった気が……」
 二人は朧気な記憶を辿るがシャケが水族館にいたかどうかは思い出せなかった。
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