路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 食事が終わると小白はお風呂に入って歯を磨いて布団に入った。
 寝付きがよく、気付いたら眠っている。
 真広と真理恵はそれを確認してから居間でお茶を飲んでいた。
「伯父さんから連絡はあったんですか?」
「いや、なかったよ。でもきっと連絡してくるさ。その時にどうやってあの子を帰せばいいか聞くよ。僕が車で送ってもいい」
 真広が寂しそうにするので真理恵はやれやれといった感じになる。
「まあでも強い子でしたね。普通ならあれくらいの子供が知らない人の家に泊まれば泣き出してもおかしくないですし」
「そうだな。うん。多分、慣れてるんだろうな」
「慣れてる?」
「大変だったってことだよ」
 真広は溜息をついた。真理恵は微かに眉をひそめた。
「なにか聞いたんですか?」
「いや。ただ、その、分かったそうだ」
「なにが?」
「ねこになる方法が」
 真理恵は益々眉をひそめた。真広は肩をすくめる。
「ねこに聞いたらしい。赤いねこに」
「そんなのただの妄想ですよ」
「かもしれない。だけど、そうじゃないかもしれない」
「ねこの言葉が分かるって? そう言ったんですか?」
「いや」真広はかぶりを振った。「なにも言わなかった。でも分からないとも言ってない。それにそれはどうでもいい。あの子は大変だった。そしてこれからも」
 しんみりする真広に真理恵は姿勢を正して苦笑した。
「なにが言いたいの?」
 真広は問いに答えなかった。ただ黙って自分の意思を示す。そういう男だった。
 真理恵はうんざりしそうになったが、それでもこの兄を責める気にはなれなかった。
 真理恵は真広の言いたいことをなんとなくは分かるが、現実的ではないとも思っていた。現実的な問題も、気持ちの面も、頭の片隅にある選択肢を取るにはあまりにも壁となる。なによりようやく訪れた平穏が崩れ去るのが恐ろしかった。
「なんにせよ。明日が最後です」
 真理恵はそう言うが、真広はやはりなにも言わなかった。
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