路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 真理恵がテイクアウトしたサンドイッチをお土産に帰ると居間では真広と小白が借りてきたDVDを見ていた。
 真理恵は意図せずこうやって後ろから眺めているとまるで親子だと思いそうになる。
 小白はテレビを見て眉をひそめた。
「またミュウが煽っとる」
「そうだな……。まあ、どこにでもそういう人はいるよ」
 呑気な雰囲気に真理恵は自分だけ真剣に考えているのが馬鹿馬鹿しくなった。
「さあ食べて。私はもう食べてきたから」
 真理恵がサンドイッチを渡すと真広と小白はテレビを観ながらそれを食べた。
 夜になり、小白が眠りにつくと真理恵は今日良子と話したことを真広に伝えた。
 学生時代に会っただけの真広は苦笑する。
「あの人は相変わらずだね。なんと言うか、その」
「デリカシーがない。その通りですね。でもそこまで悪い人でもないんです。ただちょっと色々上に立ちたがるというか。まあ、それはさておき、大変なことは事実です」
「うん」と真広は頷いた。「それなんだけど僕も考えてみたよ」
「なにか良い案でも?」
「良い案とまではいかないけど、まあ、悪くはない。考えたのは休みのことなんだ。お前は土日が休みだろ?」
「ええ」
「僕は水曜日と土曜日だ。つまり二人の休みを合わせると三日分になる。土曜日が被ってるからね。だから社員に頼んで二日とも平日にしてもらうよ。そうすれば一週間の内に、どちらかが家にいる日が四日になる」
「なるほど。それは良い案かもしれませんね。でも残りの三日は?」
「それも考えた。時間をね。ずらしてもらうよ。つまり午後から仕事に行く。そうすれば休みじゃなくても午前中は一緒にいられるだろ? お前は七時には帰ってくるんだし」
「そうですね。それだと空いているのは午後が三日分になります」
「だろう? それだったらまあ、なんとかなるんじゃないかなって。どうかな?」
「いいとは思いますけど……」
 真理恵は小白が眠る母の部屋を見て、それから真広を見つめた。
「兄さんがそこまでする必要があるの?」
「僕?」真広は小さく驚いた。「僕はべつに気にしてないよ。午前でも午後でもやることは変わらないし、夜は時給が上がるからね」
「そうじゃなくて……、その……、また、犠牲になると言うか……」
 言いづらそうにする真理恵を見て真広はなにが言いたいか理解すると優しく微笑んだ。
「そんなことを考えてたのか」
「そんなことって……。だって二十年間ですよ? 高校生から今まで。それがやっと解放されたのにまた兄さんが譲歩しないといけないなんて……。私はそれが……」
 真理恵は額に手を当てて深く息を吐いた。
 真広はなんとも言えない微笑で古く傷だらけのテーブルを眺めた。そして顔を上げる。
「たしかに大変だった。やりたいこともできなかったし、行きたいところにも行けなかった。後悔はたくさんある。間違いなく普通の生活じゃなかったよ」
 真広は昔を懐かしむように笑うと続けた。
「ただね、不自由ではあったけど不幸ではなかった。またあれをやれと言われたら正直イヤだけど、思い出としてならそれほど悪くもない。逃げ出したいと思ったことはあったけど、実際は逃げ出さずにやれたんだ。ならそれは僕が選んだことなんだよ。僕は僕が選んだことをやり遂げた。だから、不幸じゃない」
 真理恵は優しい兄に呆れて溜息をついた。
「……でも幸せだったわけでもないでしょう? もっとやりたいことを全力でやれたらと思ってたはずです」
「それはあるけど、どの人生だってそうだよ。みんなだって理想の人生があって、だけど誰もそれを歩めないでいる。計画通りいかないのが人生だ。もちろん夢を叶えた人もいるだろうけど、だからといって幸せだとは限らない。問題はいくら解決してもまた出てくる。それこそ生きている間はね」
「それで、今度の問題はあの子ですか……」
 真理恵は額に手を当てて天井を見上げた。
「少し、世の中に流されていたかのしれませんね。ほら、やりたいことをやろうとか、自分らしく生きようとかあるじゃないですか?」
「あるね」
「ああいうのを見聞きするたびに考えてたんですよ。兄さんは幸せなんだろうかって。でも思い詰めていたのは私の方だったみたいです。私の想像以上に兄さんは誰かの世話をするのが好きみたいですから。それならあの時間も不幸ではなかったんでしょう。……私は正直イヤでしたけど」
「だろうな。だからきっと母さんは僕を選んだんだ。あの人はあれでも母親だから」
「……残酷ですね」
「もちろん母さんも選びたくて選んだわけじゃない。ただどっちの方が向いているかの話だよ。それが僕だった。それにお前は、うん。料理があまり得意じゃなかったし」
 真理恵は苦笑しながら「得意じゃなくてよかった」と言った。真広も面白そうに笑う。
「それで、その、次の問題の件なんだが」
「ええ。なにか妙案でも?」
「妙案というわけじゃないけど、もう一つ考えてることがある」
 真広は少し躊躇いながらもそれでも強い意志を持ってこう続けた。
「あの子を養子にもらおうと思う」
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