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残された里香は真理恵に謝った。
「すいません……。祖母は誰にでもああいう態度で……。わたしもしょっちゅう説教されてるんです……」
「いえ……」
真理恵は苦笑しながらも全てを見透かしたような老婆に変な信頼を抱いていることに気付いた。
大丈夫と言い繕うわけでもなく、なにかを強制するわけでもない。ただ眺め、ただ思う。
まるで町を見下ろす巨木のような存在だった。
老婆は子供に全てを任せていた。任せるということは信用するということ。
今の真理恵にそれができるかと聞かれれば、肯定はしづらかった。
離れから本館に戻る間、里香は真理恵に言った。
「でも祖母の言うことも分かるんです。わたしがそうだったんで」
「え? それはどういう?」
「親がいわゆるヘリコプターペアレントでして……」
里香は苦笑するが真理恵は聞いたことのない単語に首を傾げた。里香は説明する。
「えっと、簡単に言うと過保護だったんです。なんでも用意してくれて、習い事も進路のことも親が決める感じで。だからわたしは公務員になったんですけど、自分で決めたことじゃないんで限界が来ちゃって……。あとで知ったんですけどヘリコプターペアレントを持つ子供は鬱になりやすいそうなんです。今更自分のことを親のせいにするつもりもないですけど、まあ、教師を辞める原因の一つにはなっていたかなって。だから辞めたあとは親じゃなくて祖母の家に来たんです。祖母は母とは真逆の人間ですから」
「……みたいですね」
本館廊下に戻ると玄関が開いてそこから小学生高学年くらいの女の子が入ってきた。
「こんにちは」里香は挨拶した。「今日はどうしたの?」
「逃げてきた。お父さんとお母さんがずっと喧嘩してるから。誰かいる?」
「今日は土曜日だからまだかな。蒼真が友達連れて来てるけど、外にいるから部屋には誰もいないよ」
「そっか。じゃあ宿題してるね」
女の子はそう言うと真理恵に会釈してから奥のリビングに入っていった。
里香は腰に手を当てて閉まったドアを見つめる。
「まあ、こんな感じです」
里香のその一言にここの全てが詰まっていた。
それから真理恵は一人本館のベランダにあるベンチに座り、小白が戻ってくるのを待っていた。
ただ座って庭を眺めていると時間がゆっくり流れているような気がする。
もし子供の頃にここを知っていれば通っていたかもしれない。
口には出さないが真理恵はそう感じていた。
「すいません……。祖母は誰にでもああいう態度で……。わたしもしょっちゅう説教されてるんです……」
「いえ……」
真理恵は苦笑しながらも全てを見透かしたような老婆に変な信頼を抱いていることに気付いた。
大丈夫と言い繕うわけでもなく、なにかを強制するわけでもない。ただ眺め、ただ思う。
まるで町を見下ろす巨木のような存在だった。
老婆は子供に全てを任せていた。任せるということは信用するということ。
今の真理恵にそれができるかと聞かれれば、肯定はしづらかった。
離れから本館に戻る間、里香は真理恵に言った。
「でも祖母の言うことも分かるんです。わたしがそうだったんで」
「え? それはどういう?」
「親がいわゆるヘリコプターペアレントでして……」
里香は苦笑するが真理恵は聞いたことのない単語に首を傾げた。里香は説明する。
「えっと、簡単に言うと過保護だったんです。なんでも用意してくれて、習い事も進路のことも親が決める感じで。だからわたしは公務員になったんですけど、自分で決めたことじゃないんで限界が来ちゃって……。あとで知ったんですけどヘリコプターペアレントを持つ子供は鬱になりやすいそうなんです。今更自分のことを親のせいにするつもりもないですけど、まあ、教師を辞める原因の一つにはなっていたかなって。だから辞めたあとは親じゃなくて祖母の家に来たんです。祖母は母とは真逆の人間ですから」
「……みたいですね」
本館廊下に戻ると玄関が開いてそこから小学生高学年くらいの女の子が入ってきた。
「こんにちは」里香は挨拶した。「今日はどうしたの?」
「逃げてきた。お父さんとお母さんがずっと喧嘩してるから。誰かいる?」
「今日は土曜日だからまだかな。蒼真が友達連れて来てるけど、外にいるから部屋には誰もいないよ」
「そっか。じゃあ宿題してるね」
女の子はそう言うと真理恵に会釈してから奥のリビングに入っていった。
里香は腰に手を当てて閉まったドアを見つめる。
「まあ、こんな感じです」
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それから真理恵は一人本館のベランダにあるベンチに座り、小白が戻ってくるのを待っていた。
ただ座って庭を眺めていると時間がゆっくり流れているような気がする。
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